ZIP (記憶媒体)

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ZIPドライブ
Zip100ディスク(左が表、右が裏) Zip100ディスク(左が表、右が裏)
Zip100ディスク(左が表、右が裏)

ZIP(ジップ)は1994年後半にアメリカアイオメガによって開発されたリムーバブル磁気ディスクメディア。ディスク容量(および対応ドライブ)は、最初は100MBのものが、後に250MB、750MBの製品が登場した。主にパソコンで使用される。大容量フロッピーディスクの一種として知られているが、サイズは3.7インチで互換性は全くない。ドライブは既に製造終了している。

概要[編集]

ZIPドライブが標準搭載されていた1997〜99年代のPower Macintosh(写真はMacintosh G3 MT)

光磁気ディスク(MO)とは比較にならないほど高速なアクセスが可能である。ディスクには1992年に富士フイルムが開発した[1]、薄膜の磁性層を形成して記録密度を高めるATOMM(Advanced super Thin layer & high Output Metal Media)を採用することで大容量を実現している。発売当時、同社のBernoulliディスクと同様にディスクを湾曲させヘッドとの距離を保っているとメディア等で誤解されたが、実際にはハードディスクと同じくヘッドを浮上させてディスクとの距離を一定にしており、同社はそのBernoulliディスクの機構は使っていないと公表している。

日本国内においては富士フイルムがメディアを生産していた[2]。また、セイコーエプソンなどがライセンスを持っていた。

米国においては、他の大容量メディアと比較するとメディア、ドライブ共に安価だったため、発売前から話題を呼んだ。拡張カードがなくてもパラレルポートに接続でき、SCSI接続も可能という利便性の高さもあって、登場からしばらくは主要なメディアの一派を形成した。一時はポストフロッピー(フロッピーの代替)メディアの最有力候補と言われ、「フロッピーはそのうちZipドライブに置き換わる」とまで言われていた。海外のパソコンメーカー製品でZipドライブ搭載機種が一時期多く見られたのもそのためである。

一方で日本ではすでにMOが普及していたためあまり浸透しなかった。MOと比べるとドライブは安価だがメディアの値段が高く、ある程度普及が進んでも単価はあまり下がらなかった。これはメディア売り上げで利益を確保する開発元の狙いがあったと言われる。結果、相対的に見ると割高になってしまった。その後、より大容量で低価格のCD-R/CD-RW/記録型DVD媒体の普及もあって市場は縮小を続けた。 メディアのフォーマットはMOと同じスーパーフロッピー形式であったため、当時まだ普及率の高かったPC-9800シリーズと、急速に普及しつつあったPC/AT互換機間での大容量データ交換にも利用可能であった。

デザイン[編集]

Zipシステムは大雑把に言えば、アイオメガのものより以前のベルヌーイボックスシステムに基づいている。Zipのシステムでは、リニアアクチュエータに固定された読み書きヘッドのセットが頑丈なカートリッジの中で高速回転するフロッピーディスクの上に浮かんでいる。Zipディスクは、コンパクトディスクサイズのBernoulliメディアより小さい、3.5インチフロッピーほどの大きさのメディアと、その全体的なコストを減らした単純化されたドライブデザインを使用する。

Zipは、ドライブ自体にフロッピーディスクドライブとの上位互換性を確保していないものの、標準的なフロッピードライブやその上位互換ドライブ(スーパーディスク等)よりデータ転送速度が高速なのが特徴である。標準的な1.44MBフロッピーは転送レートが500kbps(62.5kバイト/s)、平均シーク時間が数百ミリ秒なのに対し、オリジナルのZipドライブのデータ転送レートはおよそ1Mバイト/s、平均シーク時間が28ミリ秒である。なお、今日の平均的な7200rpmのデスクトップハードディスクドライブの平均シーク時間は約8.5-9ミリ秒である。

インタフェース[編集]

Zipドライブはコンピュータとの多様なインタフェースで製造されてきた。内蔵用ドライブはIDEインタフェースとSCSIインタフェースの双方が、外部接続用ドライブはパラレルインタフェース、SCSIインタフェースと(数年後に)USBインターフェイスなどがある。USB接続のものには、後にバスパワー動作の製品も登場している。一時期、パラレルインタフェースとSCSIインタフェースとを自動検出するというZip Plusと呼ばれるドライブがあったが[3]、多くの互換性の問題が報告され、後に消えた。

容量[編集]

当初、Zipは100MBの容量が採用された。ディスクの価格を通常のフロッピーディスクの価格に近づけることを考え、100MBドライブに挿入できるより低コストな25MBのバージョンが計画されたものの、このサイズのディスクは発売されなかった。

安価な値段の割りにそこそこの容量を確保した100MBという容量は、1995年当時では個人データを収納するのに十分で、競合する同サイズのメディアより早くリリースされたこともあって、ZipはMOが一般的でなかったアメリカでは大いに普及し、日本でもまずまずの普及を見せた。後に、データ転送レートとシーク時間を改善しつつ容量を250MBに増やしたZip250を発売したが、日本では既にMOが普及していたことと、CD-RやCD-RWが広がりかけていたこともあり殆ど普及しなかった。その後、容量を更に750MBに増やしたZip750を発売したものの、その頃にはCD-RやCD-RWが市場を席巻していたため、こちらも日本では殆ど普及しなかった。

メディア[編集]

Zipのディスクは3.5インチフロッピーディスクと比較してより厚いが、それ以外は3.5インチフロッピーディスクとほぼ同じ大きさである。ドライブとディスクへの損傷を防ぐため、100MB Zipディスクのジャケット部分裏側の角(裏面の写真左上)に再帰反射スポットがあり、このディスクの再帰反射スポットを検出しないとドライブが動作しないようになっている。250MB Zipディスクでは黄色いシールが貼られており、区別が可能である。

互換性[編集]

上述の通り、Zipには3種類の容量のメディアがあるが、ドライブは基本的に上位互換となっている。ただし制限があり、250MBドライブは、100MBディスクへの書き込み速度が遅い。また、750MBドライブは100MBディスクの読み出しは可能だが書き込みは出来ない。この「100MBディスクに書き込めない」という仕様は、最も普及している100MBドライブのユーザーとのデータ交換に支障を来すこととなり、尽きかけていたZipの命運に、こと日本ではとどめを刺すこととなった。

非対応のディスクをドライブに挿入(100MBドライブへ250MBディスクを入れるなど)された際に、そのディスクにアクセスされることなく直ちにディスクが排出されるよう、再帰反射スポットの位置が3つのメディア容量で異なる。

特徴とインプリメンテーション[編集]

他のディスクフォーマットと違い、Zipのライトプロテクトは、ディスクコントローラそれ自身で実現されている代わりに、ソフトウェアハードウェアの双方で実現されている。ディスク上のメタデータは、ドライブがホストコンピュータに従わせるライトプロテクトの状態を示す。プロテクトの設定を変えるために、コンピュータはZipディスク上のメタデータを変更するようZipドライブにコマンドを発行する。これはディスクがドライブにロードされ、ライトプロテクトをオン/オフするための適切なソフトウェアのあるコンピュータからアクセスされなければならないことを意味する。また理論的には、ライトプロテクトフラグを無視する野良ドライバや改良型Zipドライブが作成される可能性がある。

Zipシステムはパスワードを介したメディアアクセス保護も導入している。ライトプロテクトのように、これはソフトウェアレベルで実装されている。ディスクが挿入された際に、Zipドライブはメタデータを読み出す。そのデータがディスクに読み出しロックが掛かっていることを示していれば、ドライブはコンピュータからパスワードを待つ。パスワードを受け取るまで、ドライブは(基本のディスクI/Oコマンドに対し)空である振りをする。パスワードを受け取り検証すれば、ドライブはドライブ内のディスクを「活性化」させアクセスを許可する。あるドライブモデルにおいて、ソフトウェアを騙してドライブの中にあることを信じ込ませたのとは違うディスクにアクセスできるようにすることを可能にすることがこの実装の1つの副作用である。プロテクトはどのような暗号化も使用していない。プロテクトはただディスク上のメタデータとZipドライブのファームウェアからの協同の結合物である。

販売、問題とライセンシー[編集]

最初、Zipドライブは(その当時において)安い標準小売価格と大容量のために、1994年の販売開始後はよく売れた。アメリカでは当初、ドライブはカートリッジ1個付きで199USドルで、追加の100MBのカートリッジが20ドルで販売されていた。より多くの会社がカートリッジを供給するにつれて、追加カートリッジの価格はすぐに次の数年間で下落した。結局、富士フイルム、バーベイタムマクセルがサプライヤーとなる。セイコーエプソンもライセンスされた100MBドライブモデルを自社ブランドで製造していた。

日本でも1995年当時、MOドライブは当時最も普及していた230MBタイプが約4~5万円、登場して間もない640MBタイプが約6万円だったのに対し、Zip100MBドライブは約2万円と破格であった。また、メディアは230MB MOが約2,000円、640MB MOが約3,000円に対して、100MB Zipディスクは約1,800~2,000円で購入でき、「保存するデータが数百MB程度」というエントリーユーザーに大きく訴求した。しかし、MOドライブやMOディスクが数年間で約半分~1/3の価格まで下がっていったのに対して、Zipはドライブ・メディアとも値段があまり下がらず、ユーザーはやがてMOCD-RCD-RWへ移っていった。

ZipドライブとZipディスクの売り上げは1999年から徐々に下降していった。1998年9月、死のクリック(後述)と呼ばれるZipディスクの不具合に関する集団訴訟が起こされた。この訴訟はアイオメガの敗訴に終わっただけでなく、Zipへの信頼性を低下させるものであり、売上低下に拍車をかけた。

その後、安価なCD・DVDドライブや手軽なUSBメモリの出現・普及によりZipドライブの需要は大幅に減った。日本国内では富士フイルムが2002年にドライブの販売が終了し2005年9月にはディスクの販売を終了している。アイオメガでは現在オンラインショップでドライブの販売が終了しディスクの取り扱いのみになっている。

なお、セガ家庭用ゲーム機ドリームキャスト」用の外付けZipドライブ発売が予定されていたが[1]、実現することなく終わっている。

死のクリック現象[編集]

1998年9月に報告されたZipの致命的な欠陥[4]

販売初期の普及規格である100MBドライブにおいてディスクをセットした後に「カン、カン」と小型ハンマーが何かを叩くような金属音とともにZipドライブへのアクセスおよびディスクの読み取りができなくなってしまう現象。故障前に『カチカチ』という音を出し続けていたことから、このような名前が付いたと言われる。この現象が発生した場合、ドライブが使用不能になるだけでなく、その際にセットしていたディスクも使用不能になる可能性が高い。 原因はディスクメディア上に塗布された金属粉と、読み出し装置に蓄積された潤滑油で、1995年1月以降に生産されたドライブに集中した。 頻度が低いとされているが、現在でも当時のドライブが稼動している場合は、同様の問題が起こる可能性がある[5]

商品名にZipを含む製品[編集]

ZipCD[編集]

アイオメガは1990年代後半にZipブランドの下でZipCD 650と呼ばれる内蔵および外付けのCD-RWドライブを発売した。しかし、これは普通のCD-RWドライブで、磁気Zipドライブとのフォーマットの関連性はない。同じZipCD名義のCD-RメディアとCD-RWメディアもリリースしたが、これも一般的なCD-R・CD-RWメディアである。

PocketZip[編集]

PocketZipは、アイオメガが1999年に発売したリムーバブルディスク製品のClik!を名称変更したもの。ディスク容量40MBの独自の小型ディスクと専用ドライブで使用するもので、Zipとの互換性は無い。当時主流であったコンパクトフラッシュスマートメディアと比べて、バイト単価が安くて保存容量も適度であったが、約1万円程度で専用ドライブを買う必要があったことと、程なくしてコンパクトフラッシュやスマートメディアに容量を追い越されたことから普及しなかった。

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]