WAR (野球)

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WARWins Above Replacement)とは、セイバーメトリクスによる野球選手の総合評価指標である。

目次

概要[編集]

WARは、Wins Above Replacementという正式名称が示す通り、「そのポジションの代替可能選手(Replacement)に比べてどれだけ勝利数を上積みしたか」を表す指標である[1]。代替可能選手とは、「平均以下(below average)の実力で、容易に獲得できる(easily obtainable)選手」、すなわち3Aから昇格させたり、ウェーバー経由や後日指名選手(PTBNL)で獲得できる控えレベルの選手を指す。トム・タンゴは「FA市場において最低年俸水準で獲得できる選手、またはトレードにおいて最小限の損失で獲得できる選手」と定義している[2]

平均的なレギュラー野手、先発投手のWARは2.0とされている。一方、平均的なリリーフ投手のWARは0.3とされている。仮にWARが0ならば、その選手は「代替可能」なレベルということになる[1]。「Fangprahs」[1]によると、2011年MLBでは、ジャコビー・エルズベリーが9.4で全体1位、ラウル・イバニェスブロンソン・アローヨが-1.3で最下位だった[3]

WARは算出方法が複数存在し、それによって値も異なってくる。現在、前述のFangraphsの他に、「Baseball Reference」[2]、「Baseball Prospectus」[3]が独自のWARを算出している。特に「Fangraphs」版と「Baseball reference」版が有名で、区別するために前者をfWAR、後者をrWARと表記することもある[4]。大手スポーツ専門局であるESPNは「Baseball Reference」版(rWAR)を公式記録として採用している[5]

WARの有効性[編集]

従来の指標では各選手の能力の一部分しか推し測ることができず、選手の価値を判断するには複数の指標を吟味する必要があった。野手においては、打撃、走塁、守備という性質の全く異なる要素が存在し、それらをまとめて評価することはしばしば困難を伴った。特に、打撃に比べて守備での貢献度は見過ごされがちであった。[2]

WARの登場により、その選手の総合的な実力を単一の指標で評価できるようになった。また、投手・野手を問わず、全ての選手を同一の土俵で比較することが可能になった。チームへの貢献度を上積みした勝利数というわかりやすい基準で評価できるため、WARを用いた適正年俸の算出も容易に行えるようになった[2]。その場合、WAR1あたり約400万ドルとして計算される。例えば、2007年~2011年の通算WARが10.4である松坂大輔に支払われるべき5年間の年俸総額は4400万ドルとなる[6]

算出方法[編集]

野手[編集]

Fangraphs版[編集]

Beyond the Boxscoreのジェフ・アベールの解説に沿って[7]2008年マット・ホリデーを例に大まかな算出の流れを記す。各指標の詳細は、FanGraphs Sabermetrics Libraryを参照。

  1. wRAA(Weighted Runs Above Average)を算出する。
    wRAAは、「同じ打席数をリーグの平均的な打者が打つ場合に比べてどれだけチームの得点を増やしたか、または減らしたか」を示す指標[8]
    算出方法は「wOBA[9] - リーグのwOBA) / 1.15 × 打席数」。
    2008年のマット・ホリデーは、(.418 - .333) / 1.15 × 623 = .085 / 1.15 × 623 = .0739 x 623 = 46.05(チームの得点を46点増やした) となる。
  2. wRAAにパークファクター補正を加える。
    2008年のクアーズ・フィールドは1.126なので、ホリデーの補正wRAAは39となる。
  3. UZR(Ultimate Zone Rating)を算出する。
    UZRは、「同一ポジションの平均的な野手に比べて、守備でチームの失点をどれだけ増やしたか、または減らしたか」を示す指標。
    算出方法はアルティメット・ゾーン・レーティング#算出方法を参照。
    2008年のホリデーは9.1(チームの失点を9.1点減らした)。
  4. UZRにポジション補正を加える。
    守備位置ごとに要求される守備力の水準や貢献度が変わってくるため、以下の補正値を加える。
    *捕手: +12.5 得点
    *遊撃手: +7.5 得点
    *二塁手: +2.5 得点
    *三塁手: +2.5 得点
    *中堅手: +2.5 得点
    *左翼手: -7.5 得点
    *右翼手: -7.5 得点
    *一塁手: -12.5 得点
    *指名打者: -17.5 得点
    2008年のホリデーは全162試合中139試合(86%)で左翼手として出場したので、9.1 + -7.5 × 0.86 = 約2.7が補正UZRとなる。
  5. 打席数による補正を加える。
    打席数が多いほど、代替可能選手の打席数を減らしたとして評価される。
    代替可能選手は600打席につき20得点の損失になると定義し、「打席数 ÷ 600 × 20」で補正を加える[7]
    2008年のホリデーは623打席なので、補正値は約20.8となる。
  6. RAR(runs above replacement)を算出する。
    補正wRRA(→2)、補正UZR(→4)、打席数補正(→5)を足し合わせ、代替可能選手に比べて何得点分の価値があるのかを算出する。
    2008年のホリデーは、39 + 2.7 + 20.8 = 62.5 となる。
  7. RARをWARに変換する。
    ピタゴラス勝率(Pythagorean expectation)により、10RARは1勝分(= 1WAR)に相当する。
    2008年のホリデーは、62.5 ÷ 10 = 6.25 となり、代替可能選手と比べて6.25勝の上積みをチームにもたらしたことになる。

Baeball Reference版[編集]

詳細は:Position Player WAR Calculations and Details - Baseball-Reference.com(英語)を参照。

打撃得点(Batting Runs)」、「走塁得点(Baserunning Runs)」、「併殺打得点(Grounded into Double Play Runs」、「守備得点(Fielding Runs)」、「守備位置補正得点(Positional Adjustment Runs)」、「代替レベル得点(Replacement level Runs (based on playing time)」の6つの指標によって計算される。

  1. 打撃得点を算出する
    打撃得点はfWARと同じく、wOBAを基に算出される。ただし、wRAAに変換する際に、内野安打と外野への安打、三振とその他のアウトを区別する。過去3年分のパークファクターで補正を加える。
    より詳細な説明はHow We Compute wRAA for WARを参照
  2. 走塁得点を算出する
    走塁得点は盗塁盗塁死からなるポイントと、盗塁以外の進塁からなるポイントによって構成される。
    進塁は、走者の状況や放たれた打球、暴投、牽制死などによって合計33パターンに区別される。
  3. 併殺打得点を算出する
  4. 守備得点を算出する
    算出にはUZRではなくDRSを用いる。
    DRSが開発された2003年より前の年は、TZRで代用する。
  5. 守備位置補正得点を加える
    数値はfWARとやや異なり、現在は以下の通りである。
    *捕手: +10.0 得点
    *遊撃手: +7.5 得点
    *二塁手: +3.0 得点
    *三塁手: +2.5 得点
    *中堅手: +2.5 得点
    *左翼手: -7.5 得点
    *右翼手: -7.5 得点
    *一塁手: -10.0 得点
    *指名打者: -15.0 得点
  6. 代替レベル得点を算出する
  7. 6つの得点を合計し、WARに変換する
    この変換方法については、何度か大きな改訂が行われている。詳細はBaseball-Reference.com WAR Explained, Converting Runs to Winsを参照。

投手[編集]

Baseball Referenceでは防御率を、FangraphsではFIPを基にして計算される。

WARの問題点[編集]

いくつもの指標を組み合わせているため、算出方法は極めて煩雑である[2]

守備評価に用いられているUZRは、守備防御点(DRS)などの他の主要な守備指標と大きく乖離した結果になることが珍しくない。セイバーメトリクスにおける守備評価はまだ発展途上の段階にあるため、その原因ははっきりとはわかっていない。故に、現時点ではWARも完璧な指標とは言えず、まだ改良の余地はあると見られている[2]。仮にUZRの代わりに守備防御点を用いた場合、数値に大きな差がある選手はWARにもその影響を受ける[10]。また、守備指標は打撃指標に比べて年度ごとのバラツキが大きく、選手によっては1年で±20程度の変動をすることもある。この変動の原因についても諸説はあるもののはっきりと特定はされておらず、ある1シーズンのWARだけで選手の能力を判断するのは危険が伴う[2]

脚注[編集]

  1. ^ a b Slowinski, Steve(2010-02-15). WAR. Fangraphs Baseball(英語). 2011年10月25日閲覧
  2. ^ a b c d e f Remington, Alex(2009-12-30). Everything you always wanted to know about: WAR. Yahoo!Sports(英語). 2011年10月25日閲覧
  3. ^ Major League Leaderboards » 2011 » Batters » Dashboard. FanGraphs Baseball(英語). 2011年10月25日閲覧
  4. ^ What is WAR? FanGraphs Sabermetrics Library
  5. ^ What we talk about when we talk about WAR ESPN
  6. ^ 啓充, 李(2011-06-09). 松坂大輔 レッドソックス1億ドル投資の収支決算. 李啓充 MLBコラム(Baseball Numbers改め). 2011年10月26日閲覧
  7. ^ a b Aberle, Jeff(2009-06-12). WAR Lords of the Diamond (Position Players). Beyond The Box Score(英語). 2011年10月25日閲覧
  8. ^ 用語集 - セイバーメトリクス 野球データ分析コラム. SMRベースボールLab. 2011年10月25日閲覧
  9. ^ wOBA(Weighted On Base Average)の算出方法は「(0.72*敬遠を除いた四球 + 0.75×死球 + 0.90×単打 + 0.92×失策出塁 + 1.24×二塁打 + 1.56×三塁打+1.95×本塁打 / 打席数」
  10. ^ Pawlikowsk, Joe(2010-02-15). Substituting DRS for UZR in WAR. Fangraphs Baseball(英語). 2011年10月25日閲覧

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

選手個人のPlayer ValueでWARによる評価が記載されている。
Valueの欄でWARによる評価が記載されている。また、Leadersの欄で、各年の順位が分かる。