JR東日本E655系電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。113.40.237.209 (会話) による 2021年1月11日 (月) 09:00個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎概要: 内容変更)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

JR東日本E655系電車
E655系電車 手前から3両目が特別車両
(2007年7月24日 赤羽 - 尾久)
基本情報
運用者 東日本旅客鉄道
製造所 日立製作所笠戸事業所
東急車輛製造
製造年 2007年
製造数 1編成6両
主要諸元
編成 6両(4M2T)または5両(4M1T)
軌間 1,067 mm(狭軌
電気方式 直流 1,500 V・
交流 20,000 V (50 / 60 Hz)
最高運転速度 130 km/h
起動加速度 2.0 km/h/s[1]
減速度(常用) 5.2 km/h/s[1]
減速度(非常) 5.2 km/h/s[1]
編成定員 107名(ハイグレード車両5両)
特別車両に定員はなし
自重 クロE654-101:50.0 t
モロE655-101:46.6 t
モロE654-101:44.5 t
モロE655-201:46.8 t
クモロE654-101:46.7 t
特別車両:40.5 t
全長 先頭車:21,365 mm(先頭連結器格納時)
中間車:20,500 mm
全幅 2,946 mm
全高 先頭車前頭部:3,940 mm
側屋根カバー高さ:3,695 mm
パンタグラフ折りたたみ時:3,960 mm
クーラーキセ高さ:4,045 mm
車体 アルミニウム合金
台車 軸梁式ボルスタレス台車
DT76形(電動車)・TR261形(付随車)・TR261A形(特別車)
主電動機 かご形三相誘導電動機
MT75A(140 kW / 基)
編成出力 2,240 kW(4M2T)
制御方式 IGBT素子VVVFインバータ制御
制御装置 日立製作所製[1]・CI 15形
制動装置 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ抑速ブレーキ(自走時)
自動空気ブレーキ(被牽引時)
保安装置 ATS-Ps, ATS-P
備考 Tsc'車にディーゼル発電機を搭載
テンプレートを表示

E655系電車(E655けいでんしゃ)は、2007年(平成19年)に登場した東日本旅客鉄道(JR東日本)の交直流特急形電車。6両編成1本が在籍し、「なごみ(和)」の愛称を持つ。

概要

これまで天皇皇族の乗用車両として昭和初期から中期に製造されたお召し列車用の皇室用客車「1号編成」が製造から40年 - 70年を経過し、老朽化も進行していたことから、これらの置き換え用として製造された[2]

1号編成は天皇・皇族と随伴員のみ乗車可能だったが、本系列では天皇や要人国賓など)が利用する「特別車両」を外し、「ハイグレード車両」と呼ばれる5両編成とすることで一般客の利用にも対応しており[2]、お召し列車だけでなく団体専用列車(いわゆるジョイフルトレイン)としての役割も兼ね備えている。

本系列は、お召し列車専用ではない。そのため、特別車両以外の車両には一般客も乗車できるが、団体専用列車での運行となるため、JR東日本の会員制クラブ「大人の休日倶楽部」のジパング・クラスとミドル・クラスの会員になりツアーを申し込むか、近畿日本ツーリストなどの旅行代理店のツアーを申し込まなくてはならない。なお、乗車料金には特別な設定はされておらず、運賃特急料金グリーン料金の合計金額である。本系列に一般の人が乗れる機会は年に数回で、乗車希望者は多い[3]

E655系は一般の臨時列車として使用されたことはないが、専用のグリーン料金が旅客営業規則第130条第1項において「別に定める特別急行列車の特別車両に対して適用する特別車両料金 (A)」として定められている[4]

営業キロ地帯 200 kmまで 400 kmまで 600 kmまで 800 kmまで 801 km以上
料金 2,800円 4,190円 5,400円 6,600円 7,790円

なお、3号車にある定員9人のグリーンVIPシートを利用する場合には、上記の料金に5,000円の追加料金が加算される。

愛称の由来

JR東日本によると、「なごみ(和)」の愛称は「ご乗車になるすべてのお客様になごんでいただきたい思いを込めて命名した」とされている[5]

特徴

特徴として、まず「ハイグレード車両」は全車両グリーン車となっている点が挙げられる[2]

もう一つは機関車の牽引によって非電化区間への入線が可能な仕様になっている点である[2]

客車として機関車に牽引される場合の、空調装置などサービス機器への電源供給用としてディーゼル発電機が搭載されている[2]

ブレーキシステムについても自力走行する場合は回生ブレーキ併用の電気指令式空気ブレーキ抑速ブレーキ直通予備ブレーキが動作するが、機関車に牽引される場合は自動空気ブレーキと直通予備ブレーキが動作する[6]。このため、各車両間にはブレーキ管を引き通している[6]。自動空気ブレーキはディーゼル発電機が稼動している際は機関車からのブレーキ管空気圧を電気指令に読み替えるが、発電機が停止している際は読み替えずにそのまま動作する[6]

機関車との連結を考慮して、先頭車前面の連結器は密着自動連結器とされ、通常の団体列車では連結器を露出した状態で運用されるが、お召列車として運転される場合は車両前部のカバーを開けて内部に連結器を収納し、更に車体とスカートの間を埋める追加カバーを被せることができる。

車体はアルミニウム合金ダブルスキン構造で、基本的にE653系E257系などと共通である[7]。先頭車の前面は651系などに似た高運転台構造で、台車を除く床下機器類をすべてカバーで覆うとともに、屋根部分の側面にも搭載機器を極力隠すカバーが設置されているのが特徴である[7]

本系列はお召し列車に使われることから塗色は「漆色」と呼ばれ、光線の当たり具合で褐色から紫色に色合いが変化するマジョーラ塗装が用いられており[7]、腰部には3本の細い金帯が配されている。また、「ハイグレード車両」の側面にはフルカラーLED式の行先表示器が設置されている。

先頭車前部にはお召列車運用時に国旗及び菊花紋章と、手すりを取り付ける取り付け座(ボルト締結座)が設けられている。手すりは通常運用時には取り付けることは無い。

車内など

車内は木目調を基調としたものとなっており、荷棚航空機のようなハットラック式(カバー付き)である[2]。床敷物は全面カーペット敷きである[7]。空気だめ(空気タンク)や直通予備ユニットなど、床下に収納できない機器は車内デッキ部(出入口から客室への通路左右)に機器室を設けて搭載している[8]。また、各出入口付近には折りたたみ式の簡易腰掛が設置されている[7]

座席は横1+2列配置の電動式リクライニングシートで、各座席にはスポット空調の吹き出し口や読書灯のほか、各種デジタル放送車内販売システム、運転席からの展望映像などに対応したタッチパネル式の8インチモニタ装置が設置されている。各車両ともデッキを含めてすべて禁煙となっている。1号車のみ、各座席に電源用コンセントを備えている[8]

「ハイグレード車両」の空調装置は屋根上集約分散式のAU733形(能力15,000 kcal/h・17.44 kW)を各車2台搭載する(1両あたりの能力は 30,000 kcal/h・34.88 kW)。

運転台は高運転台構造を採用しており、主幹制御器が左手操作のワンハンドル方式であることなど、近年の新系列車両と同様のレイアウトだが、速度計などのメーター類はアナログ式が採用され、制御伝送システムであるTIMSモニター画面は2台設置されている[6]

走行機器など

JR東日本のE653系同様、直流1500 V交流20000 V(50 Hz・60 Hz両対応)の3電源に対応しており、中央本線などの狭小トンネルも通過できる構造(第一縮小車両限界を適用)になっているため、JR東日本管内のほとんどのエリアで運用可能なほか、JR他社への乗り入れも考慮された構造となっている。

主変換装置日立製作所[1]IGBT素子による2レベル方式VVVFインバータ制御で、回生ブレーキのほか全電気停止ブレーキも可能としている[6]かご形三相誘導電動機は、E531系で採用したMT75形の仕様をマイナーチェンジしたMT75A形が搭載され、定格出力は140 kWであるが、歯車比は異なる。

台車はE653系やE257系などで実績のあるヨーダンパ付きの軸梁支持式ボルスタレス台車を装着している。台車形式は動力台車はDT76形、付随台車はTR261形、特別車両はTR261A形である[6]

補助電源装置はE531系で採用したSC81形のマイナーチェンジ仕様となるSC87形静止形インバータ(SIV)を採用している[6]。装置は東洋電機製造製のIGBT素子を使用したもので、140 kVA×2群構成の280 kVA容量を備えているほか[6]、編成で2台搭載するSIVは出力する交流波型を同期させた「並列同期運転」を行っている[6]

それぞれの車両の特徴については次節で述べる。

製造メーカーは特別車両と4・5号車が日立製作所笠戸事業所、1 - 3号車が東急車輛製造である。

編成

東北本線において上野寄りが1号車、仙台盛岡寄りが5号車となる。ただし、特別車両のE655形には号車番号が振られていない。

所属車両基地は特別車両が東京総合車両センター(東トウ)、その他は尾久車両センター(東オク)である。

車両別概要

1号車:クロE654-101 (Tsc'-100)
定員22名の制御車。床下にディーゼル発電機を2基搭載し、電源車としての機能を有する[2]。この車両のみ客用出入口がない[2]。運転台のほか、洋式トイレと男子小用トイレ、洗面所が各1か所設置されている。
2号車:モロE655-101 (M1s-100)
定員32名の電動車。床下に主変圧器と主変換装置を搭載する。屋根上にシングルアーム式の主パンタグラフ(前位(ユニット外側)設置)と予備パンタグラフ(後位(ユニット内側)設置)を各1基搭載し、中央本線身延線などにある狭小トンネル区間への入線にも考慮し、屋根の高さはパンタグラフ非搭載車よりも低くされている。後位寄りに洋式トイレと男子小用トイレ、洗面所が各1か所設置されている[2]
3号車:モロE654-101 (M2s-100)
定員9名の電動車。床下に主変換装置、電車として自力走行する際のサービス機器類の電源である静止形インバータ(SIV)、電動空気圧縮機(CP)を搭載する[2]。他の「ハイグレード車両」の座席が布張りであるのに対し、本車両のみ本革張りとなっている。後位寄りに個室型のVIP室となっているほか、VIP専用の身体障害者対応トイレと専用パウダールームを、車両中央部にはギャレー(給仕室)、多目的スペースが設置されている[2]。VIP室にはソファ(4人分)とテーブル、テレビなどが配置されている[8]
特別車両:E655-1 (TR)
特別車両として天皇や皇族、国賓が利用する際のみ、3号車と4号車の間に連結される定員18名の付随車。「サイ」「サロ」などの記号は付されていない。3号車寄り車端に出入台があり、次室、特別室<御座所>、休憩室<御休憩室>、トイレ<御厠>と続く(<>内は1号御料車の名称)。特別室は、壁・天井とテーブルに大分県産の高級杉材を用いた内装に菊柄の絹織物を張ったソファを設け、床には9種類の伝統文様を配した手織りの絨毯を敷いている。特別室の窓の天地寸法は950 mmと他の箇所より大きく、中央部の窓は幅2,200 mmの電動昇降式となっている。1号御料車に設けられていた御化粧室の機能は休憩室に統合され、ベッドにもなるソファと三面鏡付き化粧台を設置している。外装は特別室の窓下に金帯がなく、広幅窓下中央に菊の御紋を取り付けるための窪みがある。空調装置は床下集中式[9]のAU303形で、屋根上には休憩室付近のアンテナ2本(用途非公表)以外に何もない。車両番号は妻面に標記されている。付随車ながら空車重量は40.5 tある。
E257系E653系E657系に組み込んで走行することも可能な構造になっており、各車両を使用した試運転も行なわれている。
4号車:モロE655-201 (M1s-200)
定員27名の電動車。2号車と同じく床下に主変圧器と主変換装置を、屋根上に主パンタグラフと予備パンタグラフを1基ずつ搭載しており、屋根高さも低くされている[7]。車内後位寄りにギャレー(給仕室)と多目的スペースが設置されている[7]
5号車:クモロE654-101 (M2sc-100)
定員17名の制御電動車。床下に主変換装置・SIV・CPを搭載する[7]。運転台のほか、身体障害者対応トイレや男子小用トイレ、多目的室と車椅子対応座席が設置されている[7]

沿革

運用範囲

お召し列車・御乗用列車のほか団体臨時列車としてATC区間、標準軌区間を除き、JRと直通している中小私鉄も含めてほぼ全ての線区で使用可能となっている。低断面パンタグラフを搭載しているため、中央本線、御殿場線、予讃線でも自力で走行できるようになっている。電化区間では自力で走行し、非電化区間ではディーゼル機関車に牽引されて走行する。例外として、青函トンネルに関してはJR貨物EH800形電気機関車牽引で走行可能になっているが、北海道での走行記録は無い。基本的に5両は特別車両なし、6両は特別車両組込で運行。

脚注

注釈

  1. ^ a b c d e 公務ではなく、天皇・皇后らの静養や私的な旅行のために運転された非公式のお召し列車のため。

出典

  1. ^ a b c d e 日本鉄道車両工業会「車両技術」235号「JR東日本 E655系特急形交直流電車」記事。
  2. ^ a b c d e f g h i j k 交友社『鉄道ファン』2007年11月号新車ガイド1「JR東日本E655系特急形交直流電車」p.10 - 12。
  3. ^ 封印された鉄道史』(p96, p97)
  4. ^ 第2編 旅客営業 -第3章 旅客運賃・料金 -第8節 特別車両料金第8節 特別車両料金ー「旅客営業規則」JR東日本(2016年9月4日閲覧)
  5. ^ E655系ハイグレード車両の列車愛称決定並びに商品企画について (PDF) 」 - JR東日本プレスリリース 2007年12月13日付け
  6. ^ a b c d e f g h i 交友社『鉄道ファン』2007年11月号新車ガイド1「JR東日本E655系特急形交直流電車」p.18 - 19。
  7. ^ a b c d e f g h i 交友社『鉄道ファン』2007年11月号新車ガイド1「JR東日本E655系特急形交直流電車」p.13 - 15。
  8. ^ a b c 交友社『鉄道ファン』2007年11月号新車ガイド1「JR東日本E655系特急形交直流電車」p.16 - 17。
  9. ^ 「新車カタログ2008」JR東日本 E655系 交友社『鉄道ファン』2008年8月号 No.598 付録
  10. ^ E257系M104編成,特別車両E655-1を連結して試運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2008年12月6日
  11. ^ E655-1,E653系と混結試運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2009年4月23日
  12. ^ 大人の休日倶楽部5周年特別企画 ハイグレード列車「なごみ(和)」で行く旅 『往復「なごみ(和)」利用&リゾート列車で東日本一周』発売 (PDF) - 東日本旅客鉄道プレスリリース 2010年9月30日
  13. ^ E657系+E655-1が試運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2011年9月28日
  14. ^ 中央本線で御乗用列車運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2011年11月14日
  15. ^ E655系が中央本線で試運転”. 鉄道ニュース(交友社) (2012年9月10日). 2012年10月13日閲覧。
  16. ^ 中央本線でお召列車運転”. 鉄道ニュース(交友社) (2012年10月7日). 2012年10月13日閲覧。
  17. ^ 東海道本線・伊東線・伊豆急行線でお召列車運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2013年3月26日
  18. ^ 伊豆急行線・伊東線・東海道本線でお召列車運転 - 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) 2013年3月29日
  19. ^ 両毛線でお召列車運転”. 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) (2014年5月23日). 2014年5月23日閲覧。
  20. ^ 羽越本線でお召し列車運転”. 『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース(交友社) (2016年9月12日). 2016年9月12日閲覧。
  21. ^ お召し列車に鉄道ファン興奮 天皇、皇后両陛下の茨城県ご訪問で運行”. 産経新聞 (2017年11月28日). 2017年11月30日閲覧。
  22. ^ 令和初の「お召し列車」 両陛下、国体で茨城へ”. 産経新聞 (2019年9月28日). 2019年9月29日閲覧。

参考文献

  • 新車速報「JR東日本 E655系 特別車両・ハイグレード車両」 - 交友社『鉄道ファン』2007年10月号 No.558 p50 - p57
  • 「E655系 ハイグレード車両・特別車両公開」 - 鉄道ジャーナル社『鉄道ジャーナル』2007年10月号 No.492 p54 - p59
  • 「誕生! E655系特急型交直流電車」 - ネコ・パブリッシングRail Magazine』2007年10月号 No.289 p68 - p77
  • 新車ガイド「JR東日本 E655系特急形交直流電車」 - 交友社『鉄道ファン』 2007年11月号 No.559 p10 - p19
  • 東日本旅客鉄道(株)運輸車両部(車両開発)特別車両グループ「JR東日本 E655系電車の概要」 - 鉄道ジャーナル社『鉄道ジャーナル』2007年11月号 No.493 p64 - p69
  • 「E655系交直流両用電車 御召列車にも使われるハイグレード車両」図面つき - プレス・アイゼンバーン『とれいん』2007年10月号 No.394 p20 - p31
  • 小川裕夫『封印された鉄道史』(第1刷)彩図社、2010年6月18日。ISBN 978-4883927425 

関連項目

外部リンク