JR貨物EH800形電気機関車

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JR貨物EH800形電気機関車
東芝府中工場で製造後、DE10ディーゼル機関車により甲種車両輸送される量産車の1号機(北府中駅)
東芝府中工場で製造後、DE10ディーゼル機関車により甲種車両輸送される量産車の1号機(北府中駅
設計最高速度 120 km/h
全長 25,000 mm
全幅 2,808 mm(最大2,972 mm)
全高 4,280 mm
車両質量 134.4 t(運転整備重量)(軸重 16 t)
軸配置 (Bo - Bo)+(Bo - Bo)
軌間 1,067 mm
電気方式 交流20kV/25kV (50Hz)
架空電車線方式
総出力 4,000 kW(25kV)
3,040 kW(20kV)
主電動機 かご形三相誘導電動機(FMT4A)
主電動機出力 565 kW
定格引張力 240.5 kN(25kV)
187.0 kN(20kV)
歯車比 5.13
駆動装置 1段歯車減速吊り掛け式
制御装置 VVVFインバータ制御 (IGBT)
台車 軸梁式ボルスタレス台車
(FD7O,P,Q,R)
制動方式 回生ブレーキ併用電気指令式自動空気ブレーキ
ただし、901号機は発電ブレーキに切替えが可能。
保安装置 ATS-SF
ATS-PF(量産機)
ATS-Ps(量産機)
ATC-L
DS-ATC準備工事)
製造メーカー 東芝
出典:『鉄道ファン』2014年4月号、p.74

EH800形電気機関車(イーエイチ800かたでんききかんしゃ)とは、日本貨物鉄道(JR貨物)が2012年(平成24年)から製造する複電圧式交流用電気機関車である。

概要[編集]

2015年度に予定されている北海道新幹線開通によって青函トンネルでの新幹線在来線共用区間が発生することとなった。共用区間の架線電圧は交流20kVから同25kVに[1]、保安装置はATC-LからDS-ATCと、新幹線と同様の設備への変更が必要になることから、従来使用されているEH500形およびED79形は複電圧仕様(交流20kV・25kV双方)に改造しない限り同区間を走行できなくなる[1]。そのため、同区間を牽引する機関車として新たに開発されたのが本形式である[1]

EH500形をベースに開発されており、新幹線区間での走行に対応した走行機器を搭載した2車体連結・主電動機軸8軸使用のH級機である。

構造[編集]

車体[編集]

2車体永久固定方式のH型機関車となった。車体寸法などはEH500形に準じて車体長が12,137mm、車体幅が2,808mm、車体高が3,711mm、2車体連結時の全長が25,000mmの箱型であり[2][3]、前照灯の位置はEH500形901・1・2号機と同じ位置である。車体には、青函トンネル内での高い湿度により[* 1]発生する結露を考慮した構造と冷却システムを採用しており、主電動機と主変換装置の冷却は、個別の冷却用送風機で冷却する方式を使用している。また、床下機器の着雪を防止するため、床下機器間を防雪カバーで覆う構造としている[2]。運転室の運転台の正面には、液晶式の表示装置が1面設置されており、速度計は、最近の新幹線で使用されている、液晶画面に速度計を表示する電子式速度計に変更されている。

車体塗装は、EF510形0番台と同じ赤色を基調としつつ、側面に新幹線を意識したスピード感をシルバーで、本州と北海道を結ぶイメージを白で表し、ラインを配している[3]

電源・制御機器[編集]

基本性能はEH500形に準じており、交流20kVまたは25kVを主変圧器を経由して主変換装置に導き、交流誘導電動機を駆動する。

交流20kVおよび25kVに対応する複電圧車[4]であり、主変圧器は、外鉄形送油風冷式を採用した FTM5 を各車に1基ずつ、計2基搭載する[2]。交流20kVと25kVに対応するために新規開発がなされ、定格容量は2,598kVAを備える[2]。三次巻線には、山形新幹線秋田新幹線新在直通新幹線で使用されている三次電源タップ切替方式を採用し、架線電圧が切替わった際、地上側に設置された地上子を受信して切替用タップを作動させて三次巻線の電圧変動を抑える[2]。青函トンネル内の12‰の連続勾配において1,000tの貨物[* 2]の牽引を行うため、起動時の引張力はEH500形と同じ 240.5 kN(42t)とし1時間あたりの定格も4,000kWとしているが、これは共用区間での25kVにおいての性能であり、在来線区間の20kVにおいては性能が共用区間の約80%の出力となる[* 3]

主変圧器二次巻線以降の主回路機器に関してはEH500形と同等であることから、主変換装置はEH500形のものをベースに25kVに対応し、電圧形PWMコンバータ1基+電圧形PWMインバータ1基で構成された FMPU17 を搭載する[2]。主変換装置1基で2基の電動機を制御する、いわゆる1C2M構成(台車単位での制御)とし、異常時には隣接する車両からの延長給電が可能な設計である[5]。主変圧器三次巻線とは異なり架線電圧が変っても主回路の切替えを行わず、架線電圧が低下した場合には、それに応じた出力制限を行い、前述した20kVでの約80%の出力を出すことができる。

補機用の電源となる補助電源装置は、電圧形PWM制御インバータ FAPU8 を2基搭載する[2][6]。主変圧器の三次巻線(単相交流1,366V 50Hz[* 4]/単相交流1,389V 50Hz[* 5])を電源として三相交流440V 50Hz(定格容量150kVA)を出力する[5]。機器配置を変更して防水性と防塵性を向上させている[2][6]

主電動機はEF210系以降のJR貨物電気機関車で標準的に採用されているかご形三相誘導電動機のFMT4A(定格電圧1,100V、定格電流370A、1時間定格出力565kW)を8基吊り掛け式で搭載する[2][6]。冷却方式は強制風冷方式である[2]

集電装置はシングルアーム型パンタグラフ FPS6 が採用され、1車体に1基搭載する[2]。共用区間での架線の位置が在来線軌道中心と新幹線軌道中心から92mm偏倚した中心に位置が変更されることと、架線電圧25kVに対応するため、新規に開発された[2]。上昇方式はバネ上昇式である[2]

制動方式は回生ブレーキ併用電気指令式自動空気ブレーキを採用しており、回生ブレーキを停止と抑速の際に使用する。今までのJRの新形式機関車では、直流区間での走行において回生ブレーキを使用すると回生失効の恐れがあり、電気ブレーキに発電ブレーキを採用していたが、本機は交流区間での運用になるため、回生ブレーキを採用している。また、試作機である901号機は、主変換装置のソフト切替えにより発電ブレーキに変更することができる仕様となっているが、2013年の走行試験結果と環境負荷低減の観点から、発電ブレーキの関連機器を撤去して回生ブレーキのみとする予定である[6]

屋上機器は25kVでの絶縁隔離を考慮した配置となっている。真空遮断器と避雷器を1エンド側車体に搭載しているが、これには新幹線で実績がある機器を使用している。また、運転室屋根上には、新幹線で使用されている形状の静電アンテナが取付けられている。

台車[編集]

台車は、EH500形で使用されているFD7をベースにした軸梁式ボルスタレス台車を装着する。基礎ブレーキは片押し式踏面ユニットブレーキとし、バネ式留置ブレーキも備える[2]。動力伝達方式は一段歯車減速吊りかけ式とし、歯車比は5.13 (82/16) である[2]。車輪は直径1,120mmの一体圧延型を採用し、軸距は2,500mmである[3]

速度発電機は、新幹線方式の非接触型に変更され、各台車の輪軸の軸端には、軸箱温度・振動センサーを新たに搭載しており、車輪の異常摩耗時での振動検知や軸温の異常上昇を検知し、電子制御装置を介して運転台に設置されたモニタや表示灯で警告を表示する。また、軸箱下方には脱線時の逸脱防止用のL型ガイドが追加された[6]

無線・保安装置[編集]

保安装置は在来線用のATS-SF形と新幹線用のDS-ATCの車上装置が搭載されており、車間の中間引張装置下部にDS-ATC用のトランスポンダ車上子を新たに取付けて、共用区間でのDS-ATCを利用した進路制御に対応している、そのため、運転台のモニタ装置に列車番号入力機能が追加されている他に、運転台には、EB装置と共用区間用と在来線用の2つのTE装置の押しボタンが設置されている。これは、共用区間では列車防護が新幹線と同じ保護接地スイッチによる架線停電による方式であるためで、そのほかにも、共用区間でDS-ATCが使用できない場合に架線停電を検知する無電圧継電器(NVR)を準備工事としている。無線装置は在来線用のCタイプ無線と津軽海峡線用の青函Bタイプ無線を搭載している。量産型の1号機からはこれに加えてATS-PFとATS-Psを搭載する。

ただし、試作車である901号機に関しては、保安装置はATS-SFとDS-ATC車上装置のATC-L機能のみを使用しており、新幹線区間に対応したDS-ATCデジタル列車無線システム[4]は準備工事としている。デジタル列車無線システムのLCXアンテナは2エンド側車体側面に搭載されているため、その箇所のふくらみが目立つ形となった。

現況・動向[編集]

2011年から東芝とJR貨物による共同開発が行われており、試作車である901号機は2012年11月27日に落成し[7]、同日に報道公開された[8]。その後、東福島駅構内で試運転を行っている。

2012年12月から性能確認試験を実施し、2014(平成26)年度にかけて五稜郭機関区で走行試験を行う計画で、その成果を踏まえたうえで2014(平成26)年度から量産が開始された[9][10]。2014年10月からは深夜に海峡線で設備検査に供される[11]

EH800形電気機関車の開発は整備新幹線に起因する事柄であるため、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の特例業務勘定の利益剰余金を利用した費用支援が行われている[12]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 温度は約20度で湿度は90%以上の環境である。
  2. ^ コンテナ車20両分
  3. ^ 1時間あたり3,040kWとなり、引張力も187.0 kNに低下する。
  4. ^ 架線電圧が交流25kV 50Hzの場合
  5. ^ 架線電圧が交流20kV 50Hzの場合

出典[編集]

  1. ^ a b c 日本貨物鉄道株式会社 (PDF). 整備新幹線小委員会ヒアリング資料 (Report). 国土交通省. p. 4. http://www.mlit.go.jp/common/000193032.pdf 2012年3月18日閲覧。. 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『鉄道ジャーナル』2014年5月号、鉄道ジャーナル社、2014年、p.167
  3. ^ a b c 鉄道ジャーナル』2014年5月号、鉄道ジャーナル社、2014年、p.169
  4. ^ a b 日本貨物鉄道株式会社 (PDF). 整備新幹線小委員会ヒアリング資料 (Report). 国土交通省. p. 5. http://www.mlit.go.jp/common/000193032.pdf 2012年3月18日閲覧。. 
  5. ^ a b 日本貨物鉄道(株)EH800形式交流電気機関車 (PDF) 東芝レビュー 第69巻第9号(2014年)、東芝
  6. ^ a b c d e 『鉄道ジャーナル』2014年5月号、鉄道ジャーナル社、2014年、p.168
  7. ^ 新型電気機関車の製作について - 日本貨物鉄道株式会社 (PDF)
  8. ^ EH800形式 交流電気機関車の製作について東芝ニュースリリース、2012年11月27日
  9. ^ EH800形誕生編集長敬白、2012年11月30日、鉄道ホビダス
  10. ^ EH800-1が甲種輸送される2014年6月21日、railf.jp
  11. ^ 北海道新幹線開業に向けた設備検査等に伴う列車への影響について
  12. ^ 整備新幹線小委員会ヒアリング資料 日本貨物鉄道株式会社 (PDF) 国土交通省、2012年2月27日

参考文献[編集]

雑誌記事
  • 「EH800形900番台」『鉄道ファン』2013年2月号、交友社、2012年、pp.62 - 64
  • 杉山義一「EH800形交流電気機関車」『鉄道ファン』2014年4月号、交友社、2014年、pp.72 - 75
  • 杉山義一(JR貨物ロジスティック本部車両部技術開発室機関車Gr)「EH800形交流電気機関車」『鉄道ジャーナル』2014年5月号、鉄道ジャーナル社、2014年、pp.166 - 169
  • 山田真広(東芝社会インフラシステム社 鉄道・自動車システム事業部車両システム技術部)「日本貨物鉄道(株)EH800形式交流電気機関車」『東芝レビュー』2014年9月号、Vol.69 No.9 pp.36 - 38
書籍
  • 『鉄道のテクノロジー』Vol.15、三栄書房、2013年、pp.95 - 98、ISBN 9784779616877

関連項目[編集]

外部リンク[編集]