ポンス・ブルックス彗星

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ポンス・ブルックス彗星
12P/Pons-Brooks
仮符号・別名 P/1812 O1, 1812
P/1883 R1, 1884 I, 1883b
P/1953 M1, 1954 VII, 1953c[1]
分類 周期彗星
発見
発見日 1812年7月21日[2]
発見者 ジャン=ルイ・ポン
ウィリアム・ロバート・ブルックス[2]
軌道要素と性質
元期:1966年10月7.0日 (TDB 2439405.5)
軌道長半径 (a) 16.9948 au[1]
近日点距離 (q) 00.7780 au[1]
遠日点距離 (Q) 33.2116 au[1]
離心率 (e) 0.9542[1]
公転周期 (P) 70.06[1]
軌道傾斜角 (i) 074.704 °[1]
近日点引数 (ω) 199.094 °[1]
昇交点黄経 (Ω) 255.960 °[1]
平均近点角 (M) 063.584 °[1]
前回近日点通過 1954年5月22日[3][4]
次回近日点通過 2024年4月20日[3](21日[4])
最小交差距離 0.184 au(地球)[1]
2.00 au(木星)[1]
ティスラン・パラメータ (T jup) 0.591[1]
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ポンス・ブルックス彗星(12P/Pons-Brooks)は、周期70年の周期彗星である。短周期彗星の中でも公転周期が20年~200年の範囲にある彗星であるため、ハレー型彗星に分類される[1]。次の近日点通過は2024年4月20日(21日)で[3][4]、同年の6月2日から3日には地球に1.546 auまで接近すると予測されている[5]

ポンス・ブルックス彗星は12月に起こるりゅう座κ流星群の母天体であると考えられている[6]

2020年6月10日には1954年以来観測されていなかったポンス・ブルックス彗星がローウェル天文台ディスカバリーチャンネル望遠鏡により見かけの等級23で太陽から11.89 au離れていたときに観測された[7][8]

発見[編集]

1884年1月20日のE.E.バーナードによるスケッチ

ポンス・ブルックス彗星は、1812年7月21日にジャン=ルイ・ポンによって発見され、同年の8月1日にVincent Wisniewski、8月2日にアレクシス・ブヴァールによっても独立に発見された[2]。1883年にも、この彗星は偶然にウィリアム・ロバート・ブルックスによって発見され、後に同一の天体であると確認された。最初の発見のすぐ後には、周期は誤差5年程度を含む約70年と推定された。ヨハン・フランツ・エンケは、70.68年の周期を持つ軌道を計算で求めた。この軌道によって、1883年に再び戻ってくるという天体暦が作られたが、ブルックスに再発見されるまで、探索はうまくいかなかった[2]

ポンス・ブルックス彗星はDaniel Kirkwoodにより1846年にフランチェスコ・デ・ヴィコによって発見された彗星1846 D1(現在のデビコ彗星英語版)に関係のあるものではないかと考えられていた。実際、この彗星とポンス・ブルックス彗星は非常に軌道要素が似ていた[9]。彼はこれら2つの彗星は991年にともに海王星に接近し、かつ遠日点にあったと考えた[10]

軌道[編集]

ポンス・ブルックス彗星は木星と6:1で軌道共鳴している[11]ティスラン・パラメータは0.6程度で[1][11]、ハレー型彗星であるためほとんどの木星族彗星が2~3の値である[12]のとは違う結果となっている。ティスラン・パラメータがポンス・ブルックス彗星に近い彗星としては周期155年で1940年以来観測されていないハーシェル・リゴレー彗星がある[13]近日点は0.78 auで地球よりも太陽に接近し、遠日点は33.2 auで海王星よりも太陽から遠ざかることがある[1]。このため、軌道離心率は0.9542であり、2021年9月現在400個以上知られている周期彗星の中では14番目に大きい値である[14]

軌道傾斜角は74.2°と急で、他の天体と相互作用をしうる黄道面にはほとんど留まらない。また2021年9月現在、直近で惑星から摂動の影響を受けたのは1957年7月29日に土星に1.616 auまで接近したときである[15]。1740年から2167年までは、他の惑星からの摂動の影響をほとんど受けず、軌道は安定であると考えられている[2]

前回近日点を通過したのは1954年5月22日のことである。前回まで、及び次回以降の近日点通過は以下の通りである[4]

  • 1812年9月15日
  • 1884年1月26日
  • 1954年5月22日
  • 2024年4月21日(20日[3])
  • 2095年8月10日
  • 2167年8月24日

Bonillaの彗星[編集]

1883年8月12から13日ごろ、メキシコの天文学者José Bonillaは太陽面を通過する447に及ぶ天体をサカテカスで発見した。2011年にはメキシコの天文学者、Hector Javier Durand Manterolaらは大きさが46~1022mで地球へ538~8062kmまで接近した彗星が分裂したものではないかと考えた。その候補としてポンス・ブルックス彗星が挙げられ、もし衝突していた場合はツングースカ大爆発大量絶滅でさえ起こるような規模であった[16]。このことは同年10月にはメディアで報じられた[17]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 12P/Pons-Brooks”. JPL Small-Body Database Browser. Jet Propulsion Laboratory. 2021年9月17日閲覧。
  2. ^ a b c d e Kronk, Gary W.. “12P/Pons-Brooks”. cometography.com. 2021年9月17日閲覧。
  3. ^ a b c d 12P/Pons-Brooks”. Minor Planet Center. 2021年9月17日閲覧。
  4. ^ a b c d 木下一男 (2003年2月22日). “12P/Pons-Brooks”. 2021年9月17日閲覧。
  5. ^ [ HORIZONS Web-Interface]”. Jet Propulsion Laboratory. 2021年9月17日閲覧。
  6. ^ Tomko, D.; Neslušan, L. (2016). “Meteoroid stream of 12P/Pons-Brooks, December κ-Draconids, and Northern June Aquilids”. Astronomy & Astrophysics 592: 1-12. Bibcode2016A&A...592A.107T. doi:10.1051/0004-6361/201628404. A107. 
  7. ^ MPEC 2020-M114 : OBSERVATIONS AND ORBITS OF COMETS AND A/ OBJECTS”. Minor Planet Center (2020年6月26日). 2021年9月17日閲覧。
  8. ^ Ye, Quanzhi; Farnham, Tony L.; Knight, Matthew M.; Holt, Carrie E.; Feaga, Lori M. (2020). “Recovery of Returning Halley-type Comet 12P/Pons-Brooks with the Lowell Discovery Telescope”. Research Notes of the AAS 4 (7). arXiv:2007.01368. Bibcode2020RNAAS...4..101Y. doi:10.3847/2515-5172/aba2d1. 101. 
  9. ^ The Popular Science Monthly volume.24. pp. 488-491. ISBN 9781343727274  - ウィキソース (英語版)
  10. ^ Kirkwood (1886). “The Comets 1812 I, and 1846 IV”. Sidereal Messenger 5: 13-14. Bibcode1886SidM....5...13K. 
  11. ^ a b Carusi, A.; Kresak, L.; Perozzi, E.; Valsecchi, G. B. (1987). “High-Order Librations of Halley-Type Comets”. Astronomy and Astrophysics 187: 899-905. Bibcode1987A&A...187..899C. 
  12. ^ Jewitt, David. “The Tisserand Parameter”. 2021年9月17日閲覧。
  13. ^ 35P/Herschel-Rigollet”. JPL Small-Body Database Browser. Jet Propulsion Laboratory. 2021年9月17日閲覧。
  14. ^ JPL Small-Body Database Search Engine”. Jet Propulsion Laboratory. 2021年9月17日閲覧。
  15. ^ JPL Close-Approach Data: 12P/Pons-Brooks” (2020-06-10 last obs.used). 2021年9月17日閲覧。
  16. ^ Durand Manterola, Hector Javier; de la Paz Ramos Lara, Maria; Cordero, Guadalupe. “Interpretation of the observations made in 1883 in Zacatecas (Mexico): A fragmented Comet that nearly hits the Earth”. arXiv. arXiv:1110.2798. Bibcode2011arXiv1110.2798D. 
  17. ^ Billion-Ton Comet May Have Missed Earth by a Few Hundred Kilometers in 1883” (2011年10月17日). 2021年9月17日閲覧。

外部リンク[編集]

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