モリブデン

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ニオブ モリブデン テクネチウム
Cr

Mo

W
Element 1: 水素 (H),
Element 2: ヘリウム (He),
Element 3: リチウム (Li),
Element 4: ベリリウム (Be),
Element 5: ホウ素 (B),
Element 6: 炭素 (C),
Element 7: 窒素 (N),
Element 8: 酸素 (O),
Element 9: フッ素 (F),
Element 10: ネオン (Ne),
Element 11: ナトリウム (Na),
Element 12: マグネシウム (Mg),
Element 13: アルミニウム (Al),
Element 14: ケイ素 (Si),
Element 15: リン (P),
Element 16: 硫黄 (S),
Element 17: 塩素 (Cl),
Element 18: アルゴン (Ar),
Element 19: カリウム (K),
Element 20: カルシウム (Ca),
Element 21: スカンジウム (Sc),
Element 22: チタン (Ti),
Element 23: バナジウム (V),
Element 24: クロム (Cr),
Element 25: マンガン (Mn),
Element 26: 鉄 (Fe),
Element 27: コバルト (Co),
Element 28: ニッケル (Ni),
Element 29: 銅 (Cu),
Element 30: 亜鉛 (Zn),
Element 31: ガリウム (Ga),
Element 32: ゲルマニウム (Ge),
Element 33: ヒ素 (As),
Element 34: セレン (Se),
Element 35: 臭素 (Br),
Element 36: クリプトン (Kr),
Element 37: ルビジウム (Rb),
Element 38: ストロンチウム (Sr),
Element 39: イットリウム (Y),
Element 40: ジルコニウム (Zr),
Element 41: ニオブ (Nb),
Element 42: モリブデン (Mo),
Element 43: テクネチウム (Tc),
Element 44: ルテニウム (Ru),
Element 45: ロジウム (Rh),
Element 46: パラジウム (Pd),
Element 47: 銀 (Ag),
Element 48: カドミウム (Cd),
Element 49: インジウム (In),
Element 50: スズ (Sn),
Element 51: アンチモン (Sb),
Element 52: テルル (Te),
Element 53: ヨウ素 (I),
Element 54: キセノン (Xe),
Element 55: セシウム (Cs),
Element 56: バリウム (Ba),
Element 57: ランタン (La),
Element 58: セリウム (Ce),
Element 59: プラセオジム (Pr),
Element 60: ネオジム (Nd),
Element 61: プロメチウム (Pm),
Element 62: サマリウム (Sm),
Element 63: ユウロピウム (Eu),
Element 64: ガドリニウム (Gd),
Element 65: テルビウム (Tb),
Element 66: ジスプロシウム (Dy),
Element 67: ホルミウム (Ho),
Element 68: エルビウム (Er),
Element 69: ツリウム (Tm),
Element 70: イッテルビウム (Yb),
Element 71: ルテチウム (Lu),
Element 72: ハフニウム (Hf),
Element 73: タンタル (Ta),
Element 74: タングステン (W),
Element 75: レニウム (Re),
Element 76: オスミウム (Os),
Element 77: イリジウム (Ir),
Element 78: 白金 (Pt),
Element 79: 金 (Au),
Element 80: 水銀 (Hg),
Element 81: タリウム (Tl),
Element 82: 鉛 (Pb),
Element 83: ビスマス (Bi),
Element 84: ポロニウム (Po),
Element 85: アスタチン (At),
Element 86: ラドン (Rn),
Element 87: フランシウム (Fr),
Element 88: ラジウム (Ra),
Element 89: アクチニウム (Ac),
Element 90: トリウム (Th),
Element 91: プロトアクチニウム (Pa),
Element 92: ウラン (U),
Element 93: ネプツニウム (Np),
Element 94: プルトニウム (Pu),
Element 95: アメリシウム (Am),
Element 96: キュリウム (Cm),
Element 97: バークリウム (Bk),
Element 98: カリホルニウム (Cf),
Element 99: アインスタイニウム (Es),
Element 100: フェルミウム (Fm),
Element 101: メンデレビウム (Md),
Element 102: ノーベリウム (No),
Element 103: ローレンシウム (Lr),
Element 104: ラザホージウム (Rf),
Element 105: ドブニウム (Db),
Element 106: シーボーギウム (Sg),
Element 107: ボーリウム (Bh),
Element 108: ハッシウム (Hs),
Element 109: マイトネリウム (Mt),
Element 110: ダームスタチウム (Ds),
Element 111: レントゲニウム (Rg),
Element 112: コペルニシウム (Cn),
Element 113: ニホニウム (Nh),
Element 114: フレロビウム (Fl),
Element 115: モスコビウム (Mc),
Element 116: リバモリウム (Lv),
Element 117: テネシン (Ts),
Element 118: オガネソン (Og),
Molybdenum has a body-centered cubic crystal structure
42Mo
外見
銀白色
一般特性
名称, 記号, 番号 モリブデン, Mo, 42
分類 遷移金属
, 周期, ブロック 6, 5, d
原子量 95.96(1)
電子配置 [Kr] 5s1 4d5
電子殻 2, 8, 18, 13, 1(画像
物理特性
固体
密度室温付近) 10.28 g/cm3
融点での液体密度 9.33 g/cm3
融点 2896 K, 2623 °C, 4753 °F
沸点 4912 K, 4639 °C, 8382 °F
融解熱 37.48 kJ/mol
蒸発熱 598 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 24.06 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 2742 2994 3312 3707 4212 4879
原子特性
酸化数 6, 5, 4, 3, 2, 1[1], -1, -2(強酸性酸化物
電気陰性度 2.16(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 684.3 kJ/mol
第2: 1560 kJ/mol
第3: 2618 kJ/mol
原子半径 139 pm
共有結合半径 154±5 pm
その他
結晶構造 体心立方
磁性 常磁性[2]
電気抵抗率 (20 °C) 53.4 nΩ⋅m
熱伝導率 (300 K) 138 W/(m⋅K)
熱膨張率 (25 °C) 4.8 μm/(m⋅K)
ヤング率 329 GPa
剛性率 126 GPa
体積弾性率 230 GPa
ポアソン比 0.31
モース硬度 5.5
ビッカース硬度 1530 MPa
ブリネル硬度 1500 MPa
CAS登録番号 7439-98-7
主な同位体
詳細はモリブデンの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
92Mo 14.84% >1.9×1020 y β+β+ 1.6491 92Zr
93Mo syn 4,000 y ε - 93Nb
94Mo 9.25% 中性子52個で安定
95Mo 15.92% 中性子53個で安定
96Mo 16.68% 中性子54個で安定
97Mo 9.55% 中性子55個で安定
98Mo 24.13% >1×1014 y β-β- 0.1125 98Ru
99Mo syn 65.94 h β- 0.436, 1.214 99mTc
γ 0.74, 0.36, 0.14 -
100Mo 9.63% 7.8×1018 y β-β- 3.04 100Ru

モリブデン: molybdenum [ˌmɒlɪbˈdiːnəm, məˈlɪbdɨnəm]: Molybdän [molʏpˈdɛːn])は、原子番号42の元素元素記号Moクロム族元素の1つ。

名称[編集]

名称は輝水鉛鉱(molybdenite)に由来するが、この名称はギリシャ語を意味する molybdos に由来する。モリブデン鉱物である輝水鉛鉱が鉛鉱物である方鉛鉱に似ていることから名づけられた。日本での「モリブデン」という名称は、元はドイツ語Molybdän で、これが日本語になっている。

概要[編集]

銀白色の硬い金属遷移金属)。常温、常圧で安定な結晶構造は体心立方構造(BCC)で、比重は10.28、融点は2620 °C沸点は4650 °C(融点、沸点とも異なる実験値あり)。空気中では酸化被膜を作り内部が保護される。高温で酸素ハロゲンと反応する。アンモニア水には可溶。熱濃硫酸硝酸王水にも溶ける。原子価は2価から6価をとる。輝水鉛鉱(MoS2 など)に含まれる。資源としては、アメリカ合衆国で約30%、チリで約30%など、北南米で世界の過半を産出している。

モリブデンは、人体(生体)にとって必須元素で、尿酸の生成、造血作用、体内の排泄などに関わる。微生物による窒素固定で働く酵素ニトロゲナーゼ)にも深く関わっており、地球上の窒素固定量の70%以上は、モリブデンが関与していることになる。

また、植物にとっても必須元素であるため、モリブデン酸のナトリウム塩アンモニウム塩の形で、肥料として販売されている。

宮沢賢治風の又三郎にも登場する。作中に高田三郎が転校してきた理由は父親が仕事で近隣のモリブデンを発掘するためとなっている。風の又三郎 その他節 モリブデンという鉱石についても参照。

用途[編集]

  • 硫化モリブデン(IV)摩擦係数が低いことから、工業用の潤滑油エンジンオイルの添加剤に用いられる。二硫化モリブデンの配合された油脂類は深緑色を示しているため、それ以外の製品と区別するのが容易である。機器や工程のマニュアルにモリブデン配合油脂の指定がされているところでは、これを用いなければ不本意な結果になることがある。モリブデン配合油脂は特別に高価ではなく簡単に入手できるため需要も高い。少ない添加量で同様の効果を発揮する有機モリブデン(ジチオリン酸モリブデン[注釈 1]やジチオカルバミン酸モリブデン[注釈 2])も使用される[注釈 3]
  • モリブデンと銅の合金は、優れた温度特性と適度な導電性を兼ね備えているため、ハイブリッドカーロケットの電子基板などに用いられる。
  • 金属モリブデンが産業用に用いられることはそれほど多くなかったが、高温域での機械的性質を期待できる場面においては、タングステンよりも安価であることからしばしば用いられる(電子管の陽極など)。最近では液晶パネル製造ラインなどでも薄板の使用が増加している。また太陽電池の下部電極としても広く使用されている
  • 医療分野でも、放射性同位体モリブテン99はの診断などにも利用されている(「核医学」参照)。日本では海外の原子炉で生成されたモリブデン99を輸入し、放射性崩壊で得られるテクネチウムを製剤しているが、加速器による国産化も試みられている[3]

モリブデンは、日本国内において産業上重要性が高いものの地殻存在度が低く供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60分を国家備蓄すると定められている。

クロムモリブデン鋼などとして、ステンレス鋼食器に使われる事も多い。 キャンプ用品として、広く流通している。

歴史[編集]

カール・ヴィルヘルム・シェーレ1778年輝水鉛鉱硝酸と反応させて分離した酸化物として発見し、「水鉛土 (wasserbleierde)」と命名。シェーレの友人ペーター・ヤコブ・イェルム (Peter Jacob Hjelm) が1781年に三酸化モリブデンを石炭還元することにより単体分離し、現在の名称が付けられた。

中国は1999年以降、重要戦略的資源であるレアアース、タングステン、モリブデンにつき順次輸出数量制限を導入するとともに、2006年以降輸出税を賦課した。中国は、2006年以降輸出割当数量を年々削減し、特に、2010年下半期の輸出割当を大幅に削減したことなどを機にレアアース価格が高騰し、市場に混乱をもたらした。

こうした事態を受け、日本は、米国及びEUとともに、2012年3月、中国による輸出数量制限、輸出税の賦課等の輸出規制は、WTO協定に違反するとして、WTO協議要請を行い、同年6月にパネル設置要請を行った。日米欧からの提訴を受けて世界貿易機関(WTO)が協定違反と断じたことにより、2015年に生産をほぼ独占していた中国はモリブデンとタングステンとレアアースに賦課している「輸出税」と「輸出数量制限」を廃止した[4]

モリブデンの化合物[編集]

同位体[編集]

入手について[編集]

モリブデンは融点が高いことから、工業的に溶融凝固というプロセスで製造することが困難であるため、大きな素材を作ることが難しく、多くは粉末冶金的製法で製造される。また、加工性に乏しく、常温での圧延は事実上不可能である。切削研磨も高度な技術を必要とするため、複雑な形状に加工することは困難である。粉末ではない金属モリブデンは主に小インゴットや板、線材の形で取引されるが、個人が入手することは難しく、専門の販売業者に限られる。

生体におけるモリブデン[編集]

モリブデンは、ヒトを含む全ての生物種で必須な微量元素である。人体には体重1 kgあたり約0.1 mg含まれていると見積もられており、皮膚肝臓腎臓に多く分布している。

モリブデン含有酵素[編集]

現在、植物動物をあわせて約20種類ほどのモリブデン含有酵素が知られている。その中で最もよく知られている酵素は、ニトロゲナーゼである。これは窒素固定における窒素アンモニアに変換する反応を触媒する。この酵素はマメ科植物の根に共生する根粒菌(リゾビウム属)の菌体内に含まれ、空気から取り入れられた分子状窒素をアンモニアに変換する。藻類も窒素固定にモリブデン酵素を利用している。また、藻類の窒素固定モリブデン酵素は、過剰な硫黄を揮発性の硫化メチルに変換して排泄させるはたらきも有する。

哺乳類においては、キサンチンオキシダーゼアルデヒドデヒドロゲナーゼおよび亜硫酸酸化酵素が知られている。キサンチンオキシダーゼ尿酸合成に関わる。この酵素の働きが強くなると痛風になるおそれがある。アルデヒドデヒドロゲナーゼアルデヒドカルボン酸に変換する。この酵素はアルコール代謝に必須な酵素で、代謝産物である酢酸は体内でエネルギー源の一つとして利用される。亜硫酸酸化酵素は毒性のある亜硫酸イオンを毒性の低い硫酸イオンに変換する。

栄養[編集]

2020年版の『日本人の食事摂取基準』では、推定平均必要量:成人男性20 ~25 µg/日、推奨量:30 µg/日、上限量:600 µg/日。推定平均必要量:成人女性20 µg/日、推奨量:25 µg/日、上限量:500 µg/日(成人とは18歳以上、授乳婦は更に3 µgの付加量)である。モリブデンを多く含む食材は牛や豚の肝臓であり、植物では豆類に多く含まれる。

モリブデンが欠乏すると亜硫酸毒性がみられ、頻脈頻呼吸頭痛悪心嘔吐昏睡の症状が見られたとの記録がある。過剰摂取による中毒は「モリブデノーシス (molybdenosis)」といい、アメリカ合衆国コロラド州のモリブデンを多く含む土地の草を食べた牛が中毒した例がある。症状は、体重の低下、食欲減退、貧血、授乳不良・不妊骨粗鬆症などである。

国別の産出量[編集]

2011年における国別の産出量は以下の通りである[5]

順位 モリブデン鉱の産出量(トン) 全世界での割合(%)
1 中華人民共和国の旗 中華人民共和国 106,000 40.2
2 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 63,700 24.1
3  チリ 40,889 15.5
4 ペルーの旗 ペルー 19,141 7.3
5 メキシコの旗 メキシコ 10,881 4.1

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ モリブデンジチオフォスフェート(Molybdenum Dithiophosphate:MoDTP)とも呼ばれる。
  2. ^ モリブデンジチオカルバメートあるいはモリブデンジチオカーバメート(Molybdenum Dithiocarbamate:MoDTC)とも呼ばれる。
  3. ^ ただし、リンが触媒被毒の原因となるためエンジンオイル向けではMoDTPは使用されない。なお、同じくリンを含むジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は用途を限定したうえで使用される。

出典[編集]

  1. ^ Molybdenum: molybdenum(I) fluoride compound data”. OpenMOPAC.net. 2011年7月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月10日閲覧。
  2. ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds (PDF) (2004年3月24日時点のアーカイブ), in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  3. ^ 医薬品原料モリブデン99 めざす国産/超電導加速器を利用」『日経産業新聞』2020年9月15日(16面)2020年9月23日閲覧
  4. ^ “中国のレアアース等原材料3品目に関する輸出税が廃止されます”. 経済産業省. (2015年5月1日). https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11181294/www.meti.go.jp/press/2015/05/20150501001/20150501001.html 2023年1月29日閲覧。 
  5. ^ 『地理 統計要覧』2014年版、ISBN 978-4-8176-0382-1、P96

関連項目[編集]

外部リンク[編集]