アルパカ

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アルパカ
アルパカ Vicugna pacos
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 鯨偶蹄目 Artiodactyla
亜目 : 核脚亜目 Tylopoda
: ラクダ科 Camelidae
: ビクーニャ属 Vicugna
: アルパカ V. pacos
学名
Vicugna pacos (Linnaeus, 1758)
シノニム

Lama pacos Linnaeus, 1758
Lama guanicoe pacos

英名
Alpaca
アルパカの主要な棲息地域

アルパカ(羊駄[1]、羊駱駝[2]、羊駝[3][注 1]西: alpaca学名: Vicugna pacos)は、南アメリカ大陸原産の家畜の1である。ラクダ科ビクーニャ属 またはラマ属に属する。

極めて良質な体毛を具えており、古来、衣類を始めとする生活用品への体毛の加工利用が品種改良の目的であった。

生物的特徴[編集]

分布[編集]

南アメリカ大陸の、特にペルー南部、また、それに接するボリビアアルゼンチン北部の、海抜およそ3500–5000mのアンデス湿潤高原地帯で放牧されている。アンデス地方では、アルパカはインカ帝国時代より、家畜として飼育されていた。現在はアメリカやヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドでも飼育されている。アルゼンチン南部など南アメリカ南部にはほとんどいない。

形態[編集]

体長(頭胴長)約2m、体高(肩高)約0.9–1.0m。体重は約50–55kg。ビクーニャよりやや大きく、グアナコより少し小さい。40km/h前後の速力で走る。妊娠期間は約11ヶ月で、一産一子。

ほかの反芻動物と同じように、上の門歯が無く、の代わりに硬質化した皮膚がある。下には牙のような目立つ歯が生えていて、短い草を挟んで千切って食べている。唇がとても器用に動く。

毛を利用するために品種改良された家畜であり、その毛は今日でも広く利用されている。毛の太さは12 - 28μm。アルパカの毛は刈り取るまで伸び続けるため、約2年間くらい切らずに放置しておくと地面に届くほどに伸長する。

毛色[編集]

エクアドルで飼育されるアルパカ。4種類の毛色が揃う。
白・黒・茶が混じり合った体色の、アルパカの個体

毛色はネズミ色の4種類(右列の画像を参照)に大分されるが、さらに細かく分けると25種類ほどにもなる。[4]アメリカ合衆国などの国では認められていない毛の色もある[疑問点]

黒系
(Black) 漆黒(Jet black)
茶系
茶色(Brown) 赤褐色(Red brown) チョコレート(Chocolate) 薄茶色(Light brown) 焦げ茶色(Dark brown)
ベージュ系
淡黄褐色(Fawn) 明るい淡黄褐色(Light fawn) こげ淡黄褐色(Dark fawn) 淡褐色(Caramel) シャンパンのような黄金色(Champagne)
グレー系
灰色(Gray) 薄い灰色(Light gray) ねずみ色(Dark gray) 銀白色(Silver) バラ色の灰色(Rose gray) 明るいバラ色の灰色(Light rose gray)
青灰色(Blue gray) 明るい青灰色(Light blue gray) 砲金灰色(Gunmetal gray) ピンクの灰色(Roan gray)
白系
青白色(Ice white) バニラホワイト(Vanilla white) クリーム色(Cream)

また、白色以外のアルパカの毛は染色しづらく、そのため色のあるアルパカは飼育を敬遠される傾向にあり、絶滅のおそれが指摘されている。

アルパカの毛の種類は「ワカイヤ(Huacaya)英語版スペイン語版」と「スリ(Suri)英語版スペイン語版」の2種類がある。「ワカイヤ」はふわふわでもこもこしている毛で、「スリ」はさらさら、少しドレッドヘアのようにツイストしている。

生態[編集]

比較的近縁のリャマ(ラマ)と共通するが、威嚇・防衛のために唾液を吐きかける習性を持つ。この唾には反芻胃(はんすう い)の中にある未消化状態の摂食物も含まれており、強烈な臭いを放つ。この行動によって危害を加える可能性を持った相手を遠ざける。

常に群れをなして暮らし、現地では1年中放牧されていて、を好んで食べる。通常時は「フェ〜」「フーンフーン」などといった鳴き方をするが、危険を感じると警戒の声を発する。

分類[編集]

原種と学名[編集]

南米にはラクダ科リャマ族の4種、すなわち、2つの家畜種アルパカとリャマ、2つの野生種ビクーニャグアナコが棲息する。しかし、それらの間の類縁関係には諸説ある。

伝統的に、アルパカもリャマも原種はグアナコであり、ビクーニャは家畜化されたことがないと考えられていた[5]。アルパカの学名も、リャマ属Lama pacos だった。ITIS(統合分類学情報システム)データベースもその学名を採っている。

しかし分子系統では、Kadwell et al. (2001)[6]などにより、アルパカは混血が激しいもののビクーニャが原種とされた。この立場では、学名もビクーニャ属の Vicugna pacos となる。しかしのちの Capo et al. (2009)[7]などでは、アルパカの原種はやはりグアナコだという結果になった。

ただし、アルパカとリャマの間には雑種が生まれやすいにも関わらず、中間型がいないため[疑問点]、絶滅した野生種から生じたという説もある[要出典]

なお、2000年代ごろからは、アルパカに限らず家畜全体の扱いとして、家畜は野生種と同種とする趨勢になってきている。その立場では、アルパカはグアナコまたはビクーニャと同種になるわけだが、その種の学名は、ジュニアシノニム(後に記載された学名)のため本来は無効となるグアナコの学名 Lama guanicoe またはビクーニャの学名 Vicugna vicugna が、ICZNの裁定(Opinion 2027)により有効名となる[8][5]。ただし実際には、アルパカをグアナコと同種の Lama guanicoe とする資料は若干あるが、ビクーニャと同種の Vicugna vicugna とする資料は(この学名に関する議論以外では)ほとんどない。

近縁種[編集]

ラクダ科の下位分類を示す。 は「絶滅」の意。

人間との関わり[編集]

文化的利用[編集]

インカ帝国では、医薬用、宗教儀式用としても使われていた。

現代では、アンデスの繁殖儀礼の儀式でアルパカの幼獣が使用されることがある。

現在は多くの場所でアルパカ牧場やペットとして飼育されている。アメリカではペットとして飼っている人も多くいる。

コロンブス交換で南米以外にも持ち込まれた。

経済的利用[編集]

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インカ帝国では、高地の物資が不足しやすいと言う特性から、糞も燃料として使用し余すところ無く利用されていた。

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アルパカの(ひづめ)は、擬音楽器として利用されることもある。

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アルパカと飼育者(ポンチョをまとったボリビア人男性)
アルパカの毛で作られたニットスカーフ
アルパカの毛で作られたぬいぐるみ

同じアンデス地方で飼われている家畜であるラマ(リャマ)が主に荷役に用いられるのに対して、アルパカはもっぱら体毛を利用する(cf. 動物繊維)。その毛で、インディオ伝統のマントポンチョ、そのほかのさまざまな衣類を作り、自分達で着たり輸出したりしている。

服飾業界において「アルパカ」の名は複数の意味で用いられる。毛について言う場合、たいていはペルー産のアルパカのものを指す。しかし、生地としてはより広く、アルパカの毛でペルーにて作られたものだけでなく、イタリアイギリスのブリランテ(brillante. cf.)などを混ぜて作ったものも「アルパカ」と呼ばれる。

生地としての最高級品質は、生まれて初めて刈り取ったアルパカの毛で作ったもので、「ベビー・アルパカ」と称される。1回の採毛量は3kgほどで、隔年に刈り取る。1頭のアルパカからの刈り取りは生涯で3–4回ほどに過ぎない[9]。部位別に見ると背中の毛が価値が高く、腹、脚と地面に近くなるにつれ価値が下がっていく。

南米古来の動物で毛を用いるのは、ビクーニャおよびアルパカ、ラマおよびグアナコの4種である。ビクーニャとアルパカはいずれも毛が重要視されるが、アルパカの場合、毛の品質と量の点で優れており、ビクーニャは柔らかさ、きめ細かさ、希少さと高品質の点で珍重されている。グアナコの毛はビクーニャより若干劣るが、量はやや多い。

荷役[編集]

アルパカは体毛の利用が主ではあるが、荷役に用いる場合もある。しかしラマより体形が小型で、1回に運べる荷は50kg程度でしかない[9]

食用[編集]

体格では劣るがラマより味が良いため、ペルーなどでは食肉としても利用される。

アルパカの文化[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 「羊駝」は日本では普通リャマ(ラマ)に当てられる。

出典[編集]

  1. ^ 落合直文「あるぱか」『言泉 : 日本大辞典』 第一、芳賀矢一改修、大倉書店、1921年、162頁。 
  2. ^ 「羊駱駝」の解説”. デジタル大辞泉コトバンク). 2021年8月18日閲覧。
  3. ^ 郁文舎編輯所 編「アルパカ」『新百科大辞典』郁文舎、1925年、98頁。 
  4. ^ アルパカ毛について|那須アルパカ牧場”. nasubigfarm.com. 2020年11月8日閲覧。
  5. ^ a b Gentry, Anthea; Clutton‐Brock, Juliet; Groves, Colin P. (2004), “The naming of wild animal species and their domestic derivatives”, Journal of Archaeological Science 31: 645–651 
  6. ^ Kadwell, Miranda; Fernandez, Matilde; Stanley; Baldi, Ricardo; Wheeler, Jane C.; Rosadio, Raul; Bruford, Michael W. (2001). “Genetic analysis reveals the wild ancestors of the llama and the alpaca”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 268 (1485): 2575–2584. doi:10.1098/rspb.2001.1774. PMC 1088918. PMID 11749713. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1088918/pdf/PB012575.pdf. 
  7. ^ Campo, Daniel; Alvarado, Andres; Machado-Schiaffino, Gonzalo; Naji, Ialah; Pelaez, Rafael; Quiroz, Francisco; Rodriguez, Olga; Castillo, Ana G. F. et al. (2009). “Inquiry-based learning of molecular phylogenetics II: the phylogeny of Camelidae”. Journal of Biological Education 43 (2): 78–80. doi:10.1080/00219266.2009.9656155. http://www.evolutionsbiologie.uni-konstanz.de/gonpdf/6.pdf. 
  8. ^ International Commission on Zoological Nomenclature (2003), “Opinion 2027 (Case 3010). Usage of 17 specific names based on wild species which are pre-dated by or contemporary with those based on domestic animals (Lepidoptera, Osteichthyes, Mammalia): conserved”, Bulletin of Zoological Nomenclature 60: 81–84. 
  9. ^ a b J・クラットン=ブロック 著、増井久代 訳『図説・動物文化史事典』(初版)原書房、1989年8月15日、204–205頁。ISBN 4-562-02066-0 
  10. ^ アルパカとは”. 那須アルパカ牧場. 2020年3月22日閲覧。
  11. ^ 八ヶ岳アルパカ牧場ホームページ

外部リンク[編集]

  • アルパカとは - 那須アルパカ牧場:日本で初めてアルパカの牧場飼育を開始した施設。輸入の経緯やアルパカの特徴など。