高木流

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高木流には三つの系統がある。

  1. 高木馬之輔重貞の子である高木源之進英重が継承し、九鬼神流棒術を採り入れた系統。高木流柔術と九鬼神流棒術・半棒術を中心に高木流剣術も含む(小薙刀術を伝える系統もあるが、これは分派の心月無想柳流の影響である)。本體楊心高木流、高木楊心流ともいう。以下に記す。
  2. 九鬼神流と合流する以前の高木流の長柄武器術の系譜を引く高木流槍術
  3. 初期の高木流の内容を受け継ぐ高木流体術

このうち現存しているのは1のみである。


本體楊心高木流
ほんたいようしんたかぎりゅう
膝車
膝車
別名 高木流体術
高木流
発生国 日本の旗 日本
発生年 江戸時代
創始者 高木折右衛門重俊
高木馬之輔重貞
派生種目 心月無想柳流本體楊心流
主要技術 柔術剣術、殺活法
伝承地 兵庫県神戸市赤穂市東京都
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高木流(たかぎりゅう)とは、日本の伝統武術の流派の一つ。正式名称は、本體楊心高木流である。高木折右衛門重俊を始祖とするが、実際にはその弟子である高木馬之輔重貞が開いたとされる。高木流の特徴は、当身の一撃により敵の戦意を殺ぐことにある[1]本體楊心高木流高木楊心流ともいう。

歴史[編集]

流祖は高木馬之輔重貞とされ、高木折右衛門重俊に師事し、高木流体術、小太刀砲術槍術等の武芸を学んだという。また、高木馬之輔は角力の基である角觝に優れていた。後に、竹内流三代目の竹内久吉と御前試合をして敗北、自らの慢心を悟って竹内久吉に入門し、竹内流を学んだ。やがて高木折右衛門から学んだ体術に自身の経験や竹内流を加味し、本體楊心高木流を編み出した。

九鬼神流創始者とされる大国鬼平が、高木源之進の跡を継ぎ第2代となったため、棒術・半棒術部分は九鬼神流であるが、実質的には高木流と一体の内容になっていった[2]。大国鬼平は赤穂藩(森家)に仕えたため、江戸時代後期まで赤穂藩で伝承された。その間、岩永正光が高木流を修行して佐賀藩で心月無想柳流を開き、土佐藩の高木流槍術家である清水善平が赤穂で高木流柔術を修行して土佐藩に伝えた。

幕末に至り、第13代の八木幾五郎が蛮社の獄に連座して赤穂藩を追放され明石城下に住んだため明石藩でも広まり、八木幾五郎の弟子のうち藤田藤五郎の系統は藤田伝、石谷武甥の系統は石谷伝として伝えられた。また、赤穂では黒田力松元幸が13代となり後述する黒田道場に伝わっている[3]

明治時代に石谷武甥は神戸姫路だけでなく岡山県まで道場を開き流儀を広めた。石谷武甥より流儀を継承し、第16代宗家となった角野八平太兵庫県神戸市に道場「楊武館」を開き、順次第一~第三楊武館を設けた。第16代の角野八平太が専当一心流の第11代宗家も継承し、第17代を継承した筒井友太郎は神変自源流居合皆伝も得たため、以降の高木流宗家は専当一心流と神変自源流も伝承している。角野八平太の高弟で筒井友太郎の兄弟子にあたる皆木三郎は、普門楊心流(現:本體楊心流)を開いた。

神戸に伝わった系統である石谷伝は、2012年に第19代宗家を継承した楠原康正重平が神戸市長田区で指導しており、公式サイトでは上記以外にも小太刀術、槍術、薙刀術、手裏剣術も含む総合武術と称している。また、赤穂市には17代目となる黒田久雄の黒田道場に高木流柔術保存会があり、稽古を行っている[3]

技法[編集]

楊武館では戦前から防具を着けて肘打ち、手刀打ち、蹴りを直接當てる稽古をしている。

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表之型 表十三手、裏三十九手 (初段之型、重之型ともいう)
霞捕、洞返、搦捕、虚倒、片胸捕、両胸捕
追掛捕、戒後砕、行違、唯逆、乱勝、拳流、膝車
體之型 十五手
腰車、四ツ手、四ツ手崩、雲井返、腕流、鵲、引違、刑頭、腰折、両手止
水流、柳雪、瓢墜、鞆捕、水入
調之型 三十手
梅吐、車返、天返、流捕、山落、鞆嵐、袖車、両手懸、膽砕、來落、體砕、霜楓、逆捕、亂風、風折

無刀捕之型 十四手
奏者捕、一文字、柄落、向捕、廻捕、後捕、沈捕
大小捌之型 三十手
柄砕、引捕、入捕、亂獄、抑骨、潮返、掛落、小手止、車投、四ツ手刀
刄結、透捕、掬捕、横刀(裏四手)

口傳[編集]

目録
翼攻嵐、手拭〆、下駄之使方、面部之中、両手懸
五寸縄掛方、三寸縄、出血止、大小手型、妖怪見
鐡條扱、活之入方、真ノ衿〆、誘之活
中極意之巻
方角、位捕、勝身術、四方詰、四方搦、五人捕附
大海之活、風呂屋詰、小太刀入見、白刃止、無明之活、水死之活、秘法口傳
極意之巻
八方詰、八方抜、高山崩、紅葉之亂、日刀、月刀、四方詰附袖筒、武者組、
武者捕附、強勇捕附、右濶左濶、無明之活、生死見、扇霞、含薬、土水活、水毒、水生、石鐡砕
免許之巻
死穴中穴次第之圖、紙筒張干筒、活前文、活祕文、無明剣
袖筒、祕薬仕方、無明文、蘇生法、陸沈法、霞策
龍虎之巻

系譜[編集]

  • 流 祖 高木馬之輔重貞
  • 二代目 高木源之進英重
  • 三代目 大国鬼平重信
  • 四代目 大国八九郎信俊
  • 五代目 大国多郎大夫忠信
  • 六代目 大国鬼兵衛良信
  • 七代目 大国与左衛門良貞
  • 八代目 中山甚内定秀
    • 大国武右衛門英信
      • 中山嘉右衛門定賢
        • 大国鎌治英俊
          • 八木幾五郎久喜
            • 藤田藤五郎久吉(藤田伝)
            • 井上熊太郎清長
            • 石谷武甥正次(石谷伝)
              • 石谷松太郎正治/石谷松太郎隆景~高松壽嗣翊翁~佐藤金兵衛清明[4]~種村恒久匠刀(本體楊心高木流柔術
              • 角野八平太正義(角野伝)
              • 高松由吉
      • 疋田音次幸成
        • 吉岡元三郎元成
          • 黒田力松元幸
            • 黒田斧治
              • 黒田熊治
                • 黒田元一
                  • 黒田久雄
                    • 河部元一
                • 奥沢稔夫
                • 木元嘉助
            • 奥沢藤吉
            • 竹内
            • 朝日万四郎
    • 八家一兵衛 (木生谷派)
      • 山根正之介
        • 大崎甚治郎
        • 西側格治

注釈[編集]

  1. ^ 『日本の武道 柔術 柔能制剛の道』講談社、昭和58年
  2. ^ 山本義泰「高木流体術について」『天理大学学報』第35巻第3号、天理大学学術研究会、2019年3月、108-123頁。 
  3. ^ a b 『赤穂の民俗. その6 (塩屋編)』
  4. ^ 『柔と拳と道』創栄出版、平成3年

参考文献[編集]

  • 『歴史読本 第10巻4号』 古武道 高木流・九鬼神流
  • 『月刊武道 2006年8月号』
  • 『月刊武道 2006年12月号』
  • 『日本武道流祖伝』
  • 『日本の武道 柔術 柔能制剛の道』講談社、昭和58年
  • 『赤穂の民俗. その6 (塩屋編)』
  • 山本義泰「高木流体術について」『天理大学学報』第142号、天理大学学術研究会、1984年3月、108-123頁、ISSN 03874311NAID 120006214617 
  • 『柔と拳と道』創栄出版、平成3年

関連項目[編集]