高度

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高度(AltitudeまたはHeight)は、航空、地理学、スポーツなどで、「高さ」をいうときに用いられる用語である。高度は測地系で採用する高さゼロの面又は点から、鉛直線上で「上」への距離(長さ)を表すが、通常は、その地点の海面からの高さ、すなわち「海抜」を意味する。海面からの鉛直線上での「下」への距離(長さ)を「水深」、「深度」又は「深さ」(Depth)という。

「高度」よりも広い概念の「高さ」も参照のこと。

航空における高度の単位[編集]

航空分野における高度の単位は、国際単位系(SI)に定められているメートルではなく、多くの国でフィートが用いられている。これは航空分野におけるアメリカ合衆国の影響力の大きさの反映とも言えるが、1000フィートや500フィート等が上下の間隔としてより実用的で便利だからである。
フィートであれば高度の指定は例えば30000フィートや33000フィートといったキリのいい数字を使える。巡航高度(計器飛行方式の場合)は東行1000フィート単位の奇数高度、西行は1000フィート単位の偶数高度といった覚えやすいものになる。

ただし、中国・北朝鮮・モンゴルでは航空交通管制の全般で、ロシアおよびCIS各国においては主に低高度でメートルが使用されている。
メートルを用いる中国では巡航高度は東行が8900m、9500m、10100m等、西行が9200m、9800m、10400m等といった半端な数字になってしまう[1]

なお、フィートを用いる場合に、水平距離においてなら使用されるマイル等は高度の単位として用いられることはなく、フィートと同じヤード・ポンド法ヤードを航空分野において用いることは全くない。メートルを用いる場合も高度ではキロメートルを使用しない。

航空や宇宙飛行における高度[編集]

鉛直距離の比較

航空においては、高度という用語はいくつかの意味を持ち、その意味を明確にする修飾語を付けて用いられる(例えば、「真高度」("true altitude")等)か、文脈から意味が暗示される。高度情報を交換する集団は、どの定義の意味で用いられているかを明確にしなければならない[2]

航空における高度は、基準面として平均海面を用いる海抜高度(Mean Sea Level, MSL)か、地面を用いる対地高度(Above Ground Level, AGL)のどちらかで測定する。

なお、一部の例外を除き、日本では“Altitude”を「高度」、“Height”を「高さ」と表現する。例えば、ILS(計器着陸装置)カテゴリー運航における“Decision Altitude”は「決心高度」、“Decision Height”は「決心高」と日本語表記される。

気圧高度(フィート)を100で割ったものをフライト・レベルと呼ぶが、転移高度(米国では18,000フィート、日本では14,000フィート、管制の管轄によっては3,000フィート等のところもある)を超えた空域で用いられる。例えば高度計が18,000フィートのときは「フライトレベル180(ふらいとれべる わんえいとぜろ)」と言う。フライト・レベルで飛行する間、高度計は常に国際標準大気の気圧(1013.25hPa, 29.92InHg)で規正される。

操縦室で測定した高度を最終的に示す機械は、アネロイド気圧計から測定された気圧を長さ(フィート又はメートル)に換算して計器上に表示する気圧高度計である。

気圧高度計以外にも電波高度計を用いて絶対高度を表示できる航空機も多い。電波高度計は主に低高度における運航の精度向上やGPWS(対地接近警報装置)に用いられる。

航空高度には、以下のようにいくつかの種類がある。

  • 指示高度(Indicated altitude)は、高度計規正値によって規正された高度計の読み値である。
  • 絶対高度(Absolute altitude)は、直下の地表からの距離(AGL)を高度として用いるものである。
  • 真高度(True altitude)は、海抜からの上昇距離、本当の高度である。
  • 高さ(Height)は、ある特定の地点から上への距離である。
  • 気圧高度(Pressure altitude)は、国際標準大気の気圧に対応した高度である。
  • 密度高度(Density altitude)は、国際標準大気の密度に対応した高度である。

高度の範囲[編集]

地球の大気は、高度によっていくつかの領域に分かれる[3]

  • 対流圏 (Troposphere) - 地表から、極では8kmまで、赤道では18kmまで
  • 成層圏 (Stratosphere) - 対流圏から50kmまで
  • 中間圏 (Mesosphere) - 対流圏から85kmまで
  • 熱圏 (Thermosphere) - 中間圏から675kmまで
  • 外気圏 (Exosphere) - 熱圏から1万kmまで

高高度と低気圧[編集]

地球の表面で平均海抜から高い領域は、高高度と呼ばれる。高高度は、海抜2,400mから始まると定義することもある[4][5][6]

高高度では、気圧は海抜よりも低くなる。これは、空気をできるだけ地表に近づけようとする重力と分子をできるだけ拡散させようとするという2つの対立する物理効果の拮抗の結果である[7]

低い気圧のため、高度が高くなるほど空気は拡散し、冷たくなってくる[8][9]。そのため、高高度の空気は冷たく、特徴的な高山気候となる。この気候は、高高度での生態系に大きく影響している。

地球の大気における温度と高度の関係[編集]

気温減率とは、特定の時間と場所において、静的な大気の下で高度に応じて気温が低下する割合のことである。国際民間航空機関は、国際標準大気のモデルで、気温減率として、地表から11kmまでは1,000mあたり6.49℃、11㎞から20㎞までは一定温度の-56.5℃としている。これは、予想される最も低い値を取ったものである。標準大気は、湿度を含んでいない。国際民間航空機関による理想的な大気とは異なり、現実の大気の温度は、常に一定の割合で低下するのではない。例えば、高度によっては高くなるほど温度が上昇するような関係が逆転する層も存在し得る。

高度が人に与える影響[編集]

医学的知見によると、1,500mを超える高度で人体に影響が出始め[10]、5,500mから6,000mを超えると恒常的に耐えることはできない[11]。高度が増加するにつれて、気圧は低下し、酸素分圧も下がって人体に影響が生じる[12]。2,400mを超えて酸素が欠乏すると、高山病肺水腫脳水腫等、深刻な病気の原因となる[6]。高度が高くなるほど、重篤な影響が生じやすくなる[6]

人体は、呼吸心拍数を速め、血液組成を変化させて高度に順応することができる[13][14]。高度への順応には、数日から数週間を要する。しかし、8,000mを超えると、人体は適応できず、死に至ることもある[15]

高度地域にもともと居住している人々は、高度の影響で死に至ることは極めて稀である[16]。しかし、高度地域に居住している人々は、統計的に自殺の割合がかなり高い[17]。この原因については、今のところ明らかになっていない[17]

運動選手にとっては、競技場の高度(標高)によりパフォーマンスにとって相反する2つの効果が表れる。瞬発力が必要な競技(400mまでの競走や幅跳び、三段跳び等)の選手にとっては、気圧の低下によって空気の抵抗が少なくなり、通常パフォーマンスは向上する[18]持久力が必要な競技(5,000m以上の競走)の選手にとっては、酸素の低下によって通常パフォーマンスは低下する。スポーツに関する機関も高度がパフォーマンスに与える影響については認識しており、例えば国際陸上競技連盟は、1,000mを超える高地での成績は、公式記録としては記録されないとルール化している。

また、運動選手は、高度への順応を利用してパフォーマンスを向上させることもできる。高度への順応に関する体の変化は、パフォーマンスを向上させる[19][20]。これらの変化は、長距離走、トライアスロン、競輪、競泳等の持久力が必要な競技の選手が高地トレーニングを行う基礎となっている。

出典[編集]

  1. ^ 1980年代初頭までは東行が1000m単位の奇数高度、西行は1000m単位の偶数高度を使用していたが、それでは間隔が広すぎて交通量の増大に対応できなくなったため、現在のような300m、600m等の間隔を用いるようになった。
  2. ^ Air Navigation. Department of the Air Force. (1 December 1989). AFM 51-40. 
  3. ^ Layers of the Atmosphere”. JetStream, the National Weather Service Online Weather School. National Weather Service. 2005年12月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2005年12月22日閲覧。
  4. ^ Webster's New World Medical Dictionary. Wiley. (2008). ISBN 978-0-470-18928-3. http://www.medterms.com/script/main/art.asp?articlekey=8578. 
  5. ^ An Altitude Tutorial”. International Society for Mountain Medicine. 2011年7月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年6月22日閲覧。
  6. ^ a b c Cymerman, A; Rock, PB. Medical Problems in High Mountain Environments. A Handbook for Medical Officers. USARIEM-TN94-2. US Army Research Inst. of Environmental Medicine Thermal and Mountain Medicine Division Technical Report. http://archive.rubicon-foundation.org/7976 2009年3月5日閲覧。. 
  7. ^ Atmospheric pressure”. NOVA Online Everest. Public Broadcasting Service. 2009年1月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年1月23日閲覧。
  8. ^ Mark Zachary Jacobson (2005). Fundamentals of Atmospheric Modelling (2nd ed.). Cambridge University Press. ISBN 0-521-83970-X. 
  9. ^ C. Donald Ahrens (2006). Meteorology Today (8th ed.). Brooks/Cole Publishing. ISBN 0-495-01162-2. 
  10. ^ Non-Physician Altitude Tutorial”. International Society for Mountain Medicine. 2005年12月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2005年12月22日閲覧。
  11. ^ West, JB (2002). “Highest permanent human habitation”. High Altitude Medical Biology 3 (4): 401-407. doi:10.1089/15270290260512882. PMID 12631426. 
  12. ^ Peacock, Andrew J (17 October 1998). [http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=1114067 “Oxygen at high altitude”]. British Medical Journal 317 (7165): 1063-1066. doi:10.1136/bmj.317.7165.1063. PMC 1114067. PMID 9774298. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=1114067. 
  13. ^ Young, Andrew J. and Reeves, John T. (2002). “21”. Human Adaptation to High Terrestrial Altitude. In: Medical Aspects of Harsh Environments. 2. Washington, DC. オリジナルの11 January 2009時点によるアーカイブ。. http://www.bordeninstitute.army.mil/published_volumes/harshEnv2/harshEnv2.html 2009年1月5日閲覧。. 
  14. ^ Muza, SR; Fulco, CS; Cymerman, A (2004). “Altitude Acclimatization Guide”. US Army Research Inst. of Environmental Medicine Thermal and Mountain Medicine Division Technical Report (USARIEM?TN?04-05). http://archive.rubicon-foundation.org/7616 2009年3月5日閲覧。. 
  15. ^ Everest:The Death Zone”. Nova. PBS (1998年2月24日). 2012年7月13日閲覧。
  16. ^ West, John B. (January 2011). “Exciting Times in the Study of Permanent Residents of High Altitude”. High Altitude Medicine & Biology 12 (1): 1. doi:10.1089/ham.2011.12101. 
  17. ^ a b Brenner, Barry; Cheng, David; Clark, Sunday; Camargo, Carlos A., Jr (Spring 2011). [http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=3114154 “Positive Association between Altitude and Suicide in 2584 U.S. Counties”]. High Altitude Medicine & Biology 12 (1): 31-5. doi:10.1089/ham.2010.1058. PMC 3114154. PMID 21214344. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=3114154. 
  18. ^ Ward-Smith, AJ (1983). “The influence of aerodynamic and biomechanical factors on long jump performance”. Journal of Biomechanics 16 (8): 655-658. doi:10.1016/0021-9290(83)90116-1. PMID 6643537. 
  19. ^ Wehrlin JP, Zuest P, Hallen J, Marti B (June 2006). “Live high?train low for 24 days increases hemoglobin mass and red cell volume in elite endurance athletes”. J. Appl. Physiol. 100 (6): 1938-45. doi:10.1152/japplphysiol.01284.2005. PMID 16497842. http://jap.physiology.org/content/100/6/1938.long 2009年3月5日閲覧。. 
  20. ^ Gore CJ, Clark SA, Saunders PU (September 2007). “Nonhematological mechanisms of improved sea-level performance after hypoxic exposure”. Med Sci Sports Exerc 39 (9): 1600-9. doi:10.1249/mss.0b013e3180de49d3. PMID 17805094. http://meta.wkhealth.com/pt/pt-core/template-journal/lwwgateway/media/landingpage.htm?an=00005768-200709000-00023 2009年3月5日閲覧。. 

外部リンク[編集]