高岡英夫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

高岡 英夫(たかおか ひでお、1948年 - )は、日本運動科学者千葉県生まれ。東京大学卒業、同大学院教育学研究科修了。2009年現在、運動科学総合研究所・日本ゆる協会を主催。

幼少期からヨガ気功武道の修行を通し人間の身体および意識の可能性を追求してきた。西洋科学東洋哲学スポーツ理論等の幅広い知識を駆使して運動科学を体系化。体の拘束を徹底的に取り除いた体に本当の身体運動が宿るという究極の身体理論や、DSと呼ばれる独特の身体意識理論を展開。トレーニングメソッドとしてゆる体操を提唱。

目次

[編集] 年譜

  • 1948年千葉県市川市に高岡正の三男として生まれる。父は新聞記者、兼関川流の武術家。生年には異説があり、1999年2月6日に生誕五十周年記念会が開かれたことから、1948年は出生年「度」のことであるとも推論されうるが、いずれにせよ真相は定かではない。
  • 1961年、列車事故に遭うも無傷で助かる。取調べを担当した警察関係者との間で、難を逃れた運動性に関して会話が弾み、初めて合気合気道)という文化現象の存在を知る。
  • 1964年東京都立日比谷高等学校入学。
  • 196?年、高校入学後も、受験戦争による身心拘束化の波に抗う傍ら、肉体運動の面における他者との交流を求めて空手道場等を転々としたようだ。が、自然裡に生成されつつあった動物的、極意的身体運用と整合せず、孤高の探究へと回帰してゆく。
  • 196?年、同じく高校時代の2年生以降、壮烈な鍛練の過程で、丹田が出来上がる体験等を含め、原体験の大半を取り戻す。
  • 1967年、高校3年、空手道転会(まろばしかい)を発足。
  • 1967年東京大学教育学部に現役合格。
  • 196?年、18歳の冬、杖を用いた合気の示演写真を残す。後年、高岡の合気技法を武術雑誌が掲載。撮り直しの利かないこの時代に撮ったという意味で画期的な一葉となった。
  • 196?年~198?年、大学、大学院時代は専門の他に独学で数学や各種科学の研究にのめり込む。それは自身の運動科学に資する為というよりむしろ、純粋に学究的な目的によったようだ。結果、観測的、論理的な精神を涵養する。
  • 198?年、坐骨神経痛に苦しみ、寝ゆるを発案して克服する。身心を整えるすべを知り、研究と生活両面にわたり答えの見付からないような長いトンネルを抜け出た。
  • 1986年、父、高岡正死去。同年に体育学記号学の研究成果をまとめた記念碑的大著「スポーツと記号」を世に問い、父の霊前に捧ぐ。
  • 198?年、30代末、運動科学の威力に確証を得るべく、スキーに挑戦。極めて短期間(雪上練習の通算期間であり、合計1週間~17日)で金子裕之デモンストレーターを遠くよせつけない速さを実現。この時の転倒で片膝前後の十字靱帯を失った。

[編集] 人物像

著作から少年時代、青年時代はかなり破天荒であったらしい。武道・武術の修行に明け暮れ、危険な実戦を繰り返したことが伺える。また、東京大学に入学したものの授業には全く出ないため留年を繰り返し、30代半ばまで東大の大学院に在籍していたとある。パーソナリティも厳格さと温厚さと我侭さが極端に同居し、そうした多面性が周囲の評価を分けているようだ。

高岡の活動範囲は多岐にわたっているが、主要なものとしては

  1. 求道者としての一面(武道、気功、治療など)
  2. 研究者としての一面(一般運動学、運動記号学など)
  3. 啓蒙家としての一面(教師・トレーナー・著述など)
  4. 経営者としての一面

などを挙げることができる。もちろん、他にも様々な横顔を持っていることが想像されるし、これらの「一面」も要約しきれない膨大な内容を含んでいる。

[編集] 研究者として

現在の高岡の公の活動は、ゆる体操の普及や各種公開講座・啓蒙書の執筆が主で、専門書・学術書の執筆や学会発表等はめったに行われていない。ただ、「究極の身体」「センター・軸・正中線」などの著書は「学術的専門書としても通用する確かな内容と論理で記述した」と高岡は主張している。それらから研究の成果を垣間見ることはできると言えるだろう。

ここで紹介できるのも彼の研究対象・問題意識の一部のみとなるが、以下、可能な範囲で説明を試みたい。

[編集] 一般運動学

構造主義言語学の祖であるフェルディナン・ド・ソシュールが言語学において成したような現象に対する記号論的解明を、運動一般について試みていると思われる。ここで、「運動」とは「人類の全活動」と考えられる。思想や政治・経済・芸術・身体運動など、あらゆるものを一貫した視点で記述・分析できないか、という壮大で野心的な試みである。「スポーツと記号」で一部知られているスポーツ記号学の上位にある運動記号学は、この試みの主要ツールであろう。また、次の身体意識学もこの中に含まれるのかもしれない。

[編集] 身体意識学

これまで科学的批判の対象とはなりづらかった「意識」について、視聴覚的意識と体性感覚的意識(身体意識)を区別し、人間の諸活動における後者の重要性を様々な角度から分析している。

なお、身体意識の中でも明確な形・質感・動きを持ったものを、特に「ディレクター」、それら全体を「ディレクト・システム(DS)」と呼んでいる。DSは人間の根本的な能力を決定づけるが、その存在と働きが明らかになったため、これを意識的・能動的に鍛錬することで、いままで「才能」などとしてその差違が決定的なものとされてきた、各人の根本的な能力そのものを変化・向上させる道が開けた、としている。(詳細は別項を参照。)

[編集] 総合呼吸法

現在は主にトレーニング法として理解されているが、呼吸法全般についても、高岡は様々なアプローチを試みている。古今の呼吸法を整理し、自身の工夫も付け加え、驚くべき呼吸法の体系を作り上げた。例えば、「細胞呼吸法」と名のつくものは世の中にいくつかあるようだが、細胞と自分との関係の捉え方やその具体的アプローチは、精緻かつユニークである。

[編集] 鍛錬理論

地味な分野であるが、高岡の研究者としてのキャリアの初期にはこういった内容の論文が多く提出されている。個人のトレーニング法に関するものも多いが、トレーニング環境全体についての指摘も興味深い。有名なものに「擁護システム論」がある。これは、指導者の思惑や指導方法などにより、門下生がなかなかうまくなれないようなシステムがいつの間にか(しかし一般的に)できてしまう、というもの。

[編集] 経営者として

1990年代にDS社(現:運動科学総合研究所)を株式会社として立ち上げ、法人運営をはじめた。なお、それ以前の運動科学研究所は個人事業的なものであったようだ。後に運動科学研究所はDS社の下部組織として定義され、極意武術協会、全国ゆるの会、極意協会、極意スキー協会、極意ピアノ協会と膨張してゆく組織図に高岡の広大無辺の壮大な企図が窺われる。同時にボランティアワークとして、高岡塾と呼称するトップアスリート支援も行う。

[編集] DS(Direct System:ディレクトシステム)理論

高岡はDS理論により古今東西の偉人、一流スポーツ選手、武道の達人の身体意識を分析することが可能としている。DS理論を学び高岡の提唱するトレーニングメソッドを実践することにより、凡人でも彼らの能力に近づくことができるという。

DSとは身体意識の構造と機能であり、そのシステムを構成する要素である身体意識をディレクターと呼ぶ。高岡は有名スポーツ選手や武道家のディレクターがどのように発達しているかを分析し、発表している。

DSを構成する要素としては、意識の構造(ストラクチャー)、意識の質(クオリティ)、意識の運動性(モビリティ)があり、これら意識の強度と組み合わせによって、システム全体の機能が決定される。また、DSは時間と共に変化するため、こらら3要素+時間軸がより正確な理解と言えるようだ。また2大分類として「フリー(フリーフルクラム)」と「スティフ(スティフルクラム)」がある。基本的にはフリー=良性、スティフ=悪性と考えてよい。

[編集] ディレクター一覧

  • センター
武道で正中線、スポーツで体軸などと呼ばれてきたもの。バランスのとれた身体を生み出す。
  • 上丹田
頭部のディレクター。観察力や思考力を司り、論理力、意志、行動力を生み出す。
  • 中丹田
胸部のディレクター。熱い情熱、人を惹きつける魅力、爆発力を生み出す。
  • 下丹田
下腹部のディレクター。どっしり安定したパフォーマンス、冷静沈着な意識を生み出す。
  • ベスト
肩甲部のディレクター。上半身の運動性を生み出す。
  • レーザー
ブレのない一直線の軌道を生み出す。
  • リバース
相手との関係を強化するディレクター。ターゲットとの距離感を的確に捉え、タイミングを計る。
  • 裏転子
ももの裏側のディレクター。素早い初動と流れるような動きを生み出す。
  • パーム
手の柔軟で繊細な動きを生み出すディレクター。
  • 側軸
左右の半身を通るディレクター。一貫した体勢での体捌きを生み出す。
  • 心田流
脇から気を導入するディレクター。上半身の浮身、飛躍感のある動きを生み出す。
  • アーダー
肩甲部と腕を一体化してコントロールするディレクター。
  • スライサー
身体を意識で切断するディレクター。脱力した融通無碍な運動を生み出す。
  • 開側芯
股関節のディレクター。下半身の運動性を生み出す。
  • ジンブレイド
下半身の脱力により高速な移動を可能とするディレクター。
脇や股に発達するディレクター。浮き身を成立させ柔軟で多様な運動を生み出す。
  • 流舟
強力な前進力・上昇力を生み出す。

[編集] 評価と批判

高岡の活動は多くの分野にわたり、主に武道・武術家、治療家、科学者としての側面を持つ。ただし、いずれも専門家としての活動に専念しないことが、魅力と批判を同時に生み出している。武道・武術家としては、ビデオなどで演武による合気道や剣術の技を見せることはあるものの、試合の実績は全くない。また、科学者としても正式な学術論文を発表していくスタイルではない。いわゆる在野の研究者として著述、指導などを行っている。

DS理論では、超越揮観と呼ばれる瞑想によって、データを取得すると主張しており、それが大きく批判される点となっていた。近年ではそういう主張はなくなったが、やはりデータの取得に関しては批判の集まる最たる部分である。

もっとも、人DS図と呼ばれるものを使った人物批評は人気があり、ある程度の説得力を持っている。一例を挙げれば、引退したサッカー日本代表中田英寿の批評などは的確であった(中田のDSについては書物に残る情報では2回解説している。1回目はある程度の才能はあるもの「心もとない」と評価し、2回目は「スティフ(劣悪な動きの意)」と評価している。なおDS図は別人のように変化している。)。特筆すべきなのは、1回目の分析の時点で中田のキャリアの軌跡をほぼ的中させていたことだろう。

現役スポーツ選手のDS分析解説は、結果(パフォーマンス)とDSの関係を解説しているため、現役選手の場合、結果を予想するものではないと高岡は位置付けている。 しかし、高岡はDSの分析の結果をもとに、将来の予測を行わないわけではない。前述の中田英寿をはじめとして高橋尚子やオバマ大統領など分析時のデータをもとにして推察を行っていることは事実である。確かに取得データに対して推測を行うことは当然であるが、結果論の批判は免れない。こうしたことから「後づけで解説しているだけではないのか?」、「能力的に優れていることが多い有名人を取り上げて適当に解説しているだけでは?」という誤解または疑問の声も多い。

そういった批判の中にベン・ジョンソンやマリオン・ジョーンズなど薬物使用が公となる前の人物に対して高い評価を与えていた事例がよく挙げられる。高岡に対しては薬物使用を見抜けずマヌケな評論をのせたエセ研究家という批判が頻出したが、ベン・ジョンソンに関しては薬物使用発覚後にも、競技精神としての是非を裁かれるのは当然あるが身体運動家としてはウェイトトレーニングと身体のゆるみを統合させた希有なタイプであると、高い評価を残している。高岡は、身体運動で発揮されるパフォーマンスは物理的な身体の強化効率を薬物によって向上させ、ウェイトトレーニングによって筋力を増強したとしても、身体がゆるんで身体意識が形成されていないのであれば世界的なスポーツ競技で大きな活躍をする事は不可能であるいうスタンスをとっており、高岡理論としては一貫している。

その他よく争点となっていた点として、高岡がDSは分析・説明に使われるのみならず、自ら他人のDSを体現することが可能であると主張していたことがあげられる。彼が近現代最高の武術家であると評する佐川幸義王向斉のDSを同時に体現して素振りをしたところ、爆発音がして空中で木刀が折れ吹き飛んだという[1]ヒクソン・グレイシー[2]宮本武蔵[3]の動きを高岡が再現しながら解説するセミナーは、ビデオとして発売されていた。また、1998年10月にアスペクトから発売された「格闘マガジンK」(vol.5)では「高岡英夫とは何か?」という特集が組まれ、同特集の一環として、高岡が故大山倍達のDSの再現実験を行い、編集員の野沢氏と自由組手を行った。互いに五分かそれ以下という申し合わせがあったようだが、結果は大山倍達の再現とは言いがたく芳しいものではなかった。そのせいか実験の終了後、高岡は体調不良のためDSの再現度を下げたと発言している。これ以降、高岡は公開のメディアで著名人のDSを用いての組手は行っていない。 こういった事もありDSを再現して自分は過去の達人や天才を体現できるという主張は最近では軟化している。なおその特集ではDS再現以外にも色々な武術の実演を行い、合気の実演などは間違いなく本物であるという評価も同時に得たので、その後格闘マガジンKにて、長期に渡り連載を持った。それらは『超人のメカニズム』(ぴいぷる社)で書籍化されている。

また、批判の中には、高岡はウサインボルトやマイケルフェルプス等の世界新を出す金メダリストのDSも発表しているのだから、再現できるのなら高岡本人が再現を行い、公式大会で結果を残せば良いとの話題も頻出する。しかしDS理論は体格や骨格などの物理的な身体の要素を無視して超えるものではない事は高岡自身も再三と定義しておりこういった批判には理論に理解のない者や、最初から批判的な者など、受け取る側の問題が抱えられている。

現在取り上げられることの多いインナーマッスルやそこから生まれる高度なパフォーマンスについてはパイオニア的存在である。腸腰筋(腸骨筋と大腰筋の総称として提示した)などその重要性を早くから指摘している。2002年に初出の著書「究極の身体」はその一つの集大成的な著書であり、高岡の出版物の中でも特に評価が高い[要出典]

突飛な言動が上に述べた事にはじまりまま多くある事などで、怪しさや信用しづらさを生んでいるが、引退寸前だったバスケットボール選手をフリースロー王にまで復帰させた事や、指導した女子アルペンスキー選手のノルウェー選手権での優勝実績。近年では高岡理論を取り入れた大学バスケットボール部や高校ボート部が高い結果を残す等、実績もある。ただ一方で相当数の人々が彼の理論とメソッドに挑戦していることを考えると、効果の是非に加えて、効果の大きさに問題点があることも確かのようだ。そのようなことから未だに是非つけがたい理論であり、人物であるといえる。

なお、高岡英夫は方針や体系がドラスティックに変化しており。運動科学研究所→DS社→運動科学総合研究所と組織名が変化し、その度に離脱者が生まれ、かつての信奉者がアンチ高岡派に変わる傾向がある。

[編集] 指導実績

ゆる体操を取り入れ、ウェイトトレーニングを廃した、鹿屋体育大学女子バスケットボール部は大学日本一になっている[4][5][6]

ゆる体操を導入した関西高校ボート部は国体五連覇 2008年には四冠に輝いた[7][8]

[編集] 高岡英夫が身体意識を分析している人物の一部


[編集] 主な著作

  • 『究極の身体』講談社
  • 『DVDブック ゆるスポーツトレーニング革命』大和書房
  • 『だれでも達人になれる!ゆる体操の極意』講談社
  • 『身体経営術入門 仕事力が倍増するゆる体操超基本9メソッド』現代書林
  • 『合気・奇跡の解読』ベースボール・マガジン社
  • 『身体意識を鍛える』青春出版社
  • 『武蔵とイチロー』小学館
  • 『DSが解く達人のメカニズム』BABジャパン
  • 『鍛練の理論』恵雅堂出版
  • 『武道の科学化と格闘技の本質』恵雅堂出版
  • 『光と闇-現代武道の言語・記号論序説』恵雅堂出版

[編集] 脚注

  1. ^ 『極意と人間』BABジャパン、254ページ
  2. ^ 『ヒクソンの極意』
  3. ^ 『秘剣宮本武蔵』、『武蔵解剖』
  4. ^ “ゆるトレ”で大学日本一監督「生の声」- 清水信行監督(1)-
  5. ^ “ゆるトレ”で大学日本一監督「生の声」- 清水信行監督(2)-
  6. ^ “ゆるトレ”で大学日本一監督「生の声」- 清水信行監督(3)-
  7. ^ “ゆるトレ”で史上初の国体5連覇&高校4冠(1)- 森川幸夫監督 -
  8. ^ “ゆるトレ”で史上初の国体5連覇&高校4冠(2)- 小野勝之指導員 -

[編集] 外部リンク