馬場状態

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馬場状態(ばばじょうたい)とは競馬の競走を行うコース(本馬場)の状態を示す言葉である。

日本の馬場状態[編集]

日本における競馬ではダートともに(りょう)、稍重(ややおも)、(おも)、不良(ふりょう)の4段階で馬場状態を示している[1][2]。 「良」を基本状態として含水率の上昇に伴い「稍重」「重」「不良」と変化してゆく。中央競馬地方競馬ともに同様の表記で示される。なお、ばんえい競馬は馬場状態を含水率の数値そのもので発表している(後述)。

現行の4段階による表記となったのは1937年(昭和12年)からである[3]。 1919年(大正8年)からの記録では「良」「稍重」「不良」の他に「良好」・「佳良」・「稍可」・「稍湿」・「湿」・「湿潤」・「泥寧」という表現がなされていた[3]

2003年から2005年までの中央競馬の馬場別の出現率は以下表の通りである[4]

中央競馬の馬場出現率(単位%)(2003年~2005年)
稍重 不良
芝コース 83.8 10.4 3.7 2.1
ダートコース 69.2 13.9 9.0 7.9

芝コース[編集]

「良」「稍重」の範囲では大きな負担もなく走りやすい状態である[1]。 「重」「不良」と変化してゆくと、芝がぬかるんで滑るようになり、レースタイムが掛かるようになる[1]。 馬場状態で表すと「良」「稍重」「重」「不良」と変化してゆくにつれてレースタイムが掛かるようになる[5][6]

現在の芝コースは路盤が砂地で構成され排水性が良好であるため、多少の雨ではコース上へ水が溜まってしまうことはない[6]。そのため、相当な量の水を吸って重くならないと「重」発表には至らない[7]

ダートコース[編集]

散水車によるダートコースの散水

含水率の状態によりレースタイムが大きく左右される。一般的には含水率がある程度高まった方が(馬場状態で言えば「稍重」から「重」)レースタイムは速くなる傾向にある。

「良」の場合、クッション砂の粒子がバラバラの状態なので、肢を踏み込んだ際に蹄の下でクッション砂がパッと散る形となる[8]。 そのため、クッション砂が蹄と路盤の間へ残った状態となり、踏み抜けない場合はコロの作用が発生して推進力が逃げてしまう[8]。 その現象により、他の馬場状態に比べレースタイムが掛かってしまう。 逆に、力のある馬であればクッション砂を下層まで踏み抜くことが出来る[8]。 ダートではパワー型が有利と言われるのはこの現象によるものである。

「稍重」から「重」の状態であれば、クッション砂同士がくっつき蹄と路盤の間の砂が引き締まった状態となり動きにくくなる[8]。 その結果推進力が逃げなくなりレースタイムが速くなる。

「不良」まで達した場合、水によって少し砂が浮いてしまう状態となる[9]。 それにより砂が動きやすい状態となって路盤の上で蹄が滑りやすくなりレースタイムが遅くなる現象が起こる[9]。 ただし、近年では「不良」といえどもレースタイムは掛からない傾向にある[9]

外観による変化の参考点として、「良」ではサラサラの砂状態であるのに対し、手に取って握ると砂が固まる程度になると「稍重」、足で数回踏み固めて水が浮き出す位になれば「重」である[2]

ダートコースが乾いてきた場合、粉塵が舞うのを防止するため、散水車によってダートコースへ水が散布される(写真参照)。 なお、散水車で散布した程度では含水率は0.5%程度しか上がらないという[10]

不良馬場[編集]

不良馬場の例(2003年6月18日名古屋競馬場

「重」よりもさらに含水率が上昇した状態。段階としては「不良」が最終段階となる。外観的には芝・ダートが泥まみれになりコース表面へ水たまりができている状態である(写真参照)。あまりに酷い場合は「田んぼ」などと揶揄されることもある(とくにダートでは用いられやすい)[11]

不良馬場を巡るレース形態と格付の変更[編集]

1998年2月15日東京競馬場では前日からの激しい積雪により芝コースが閉鎖され、その当日すべての芝レースはダートに変更された[12]。変更に伴い距離は芝1800メートルからダート1600メートルに変更され、レース形態の変更により第32回共同通信杯4歳ステークスのGIII格付けが取り消された[13][注 1][注 2]

中央競馬における馬場状態の確認手法[編集]

開催当日の早朝に本馬場からサンプル採取が行われる[2][3][14]。 芝コースの含水率測定サンプルは4箇所(直線のゴール前100m地点、2コーナー、3コーナー、4コーナー)から採取[3]、 ダートは3箇所採取している[2]

芝コースのサンプルは表面の芝やマット層(根や茎が存在している層)ではなく、更に下層の路盤の層から採取する[3]。 馬場状態に影響しているのは路盤の土の層であり、芝やマット層では植物自体の水分も多く含まれる事により、正確な含水率を採取出来ないためである[3]。 一方、ダートコースの場合は、砂なので保有水分のばらつきは芝に比べ少ない[3]。 そのため、路盤の土までは採取せず、表層のクッション砂よりサンプルを採取している[3]

サンプル採取後はサンプルを測定器へ掛けて含水率を算出する。 測定器は赤外線水分計を用いており[2][14]赤外線の熱によって水分を蒸発させることにより、測定前と測定後のサンプルの重量を比較することで含水率を算出する[2]。 芝コースは最低値と最高値の2箇所を除いた残り2箇所の算出平均値、ダートコースは3箇所の算出平均値が用いられる[2]

含水率の基準として東京競馬場の例(2011年時点)を挙げると、芝コースの場合は「良」で17%以下、「稍重」で17〜20%、「重」で20%〜23%、「不良」で22%以上となっている[3]。 一方、ダートコースの場合は、「良」で10%未満、「稍重」で10〜13%、「重」で13%〜16%、「不良」で16%以上となっている[3]。 なお、芝コースは各競馬場において路盤の土や産地が違うため、含水率の基準値は中央競馬の各競馬場ごとに差がある[3]。 それに対しダートコースの場合は、中央競馬の全競馬場において青森県六ヶ所村付近の海砂を採用しており[15][16]、 各競馬場ごとの基準値に大きな差はない[3]

含水率を算出した後は、朝にもう一回馬場取締委員を交えて馬場の踏査が行われる[2]。 踏査の後に含水率をベースに踏査結果や当日の天候が勘案され、馬場状態の判断・発表となる[2][3][14]。馬場状態を発表後、レースが始まった後は馬場職員をコースへ配置して馬場状態の変化を見極め、変化があった時点ですぐに馬場状態の変更発表を行っている[3][14]

なお、含水率の調査タイミングは基本的に早朝に一度行われるのみである[3]。 その理由として、含水率の調査には1時間程度を要するため、降雨が続いている様な状況では馬場の含水率が判明するまでの間に含水率のデータが変わってしまうためである[3]。 JRA施設部馬場土木課の新屋勇人課長によると、その様な状況であれば経験を積んだ馬場職員に馬場の状態を見てもらった方が正確で早いという[3]。 また、馬場に携わっている人であればプラスマイナス1%の範囲で含水率が分かるという[3]

競馬新聞への表記[編集]

競馬新聞への馬場表記方法として、着順へ「良」は白丸、「稍重」は白四角、「重」は黒丸、「不良」は黒四角で表記されている[1][17][18]。また、過去の戦績とは別枠で「重」「不良」時の戦績を掲載している[19][20][21]

開催側の公式発表に依らない競馬新聞などでの表現として、 馬場の含水率が少ない乾いた状態を「パンパン[1]」、 馬場の含水率が多い湿った状態を「道悪[1][20][22]」(みちわる)と表現する場面もある。

ばんえい競馬[編集]

ばんえい競馬では、馬場状態をパーセンテージによる数値(含水率)で「馬場水分」として発表[23][24]しており、帯広競馬場内の着順掲示板や場内モニターによって周知している[25]

馬場水分を調査する為の砂は走路監視員によって第2障害からゴール前30m地点の砂を2コース・5コース・8コースからそれぞれ採取し[23][26]、赤外線水分計によって計測した3コース分の含水率[24]から平均値を発表している[26]。 ばんえい競馬では赤外線水分計を1974年から導入している[27]。赤外線水分計の導入以前は、肉眼で馬場状態の判定を行い「重」「稍重」「稍軽」「軽」の4段階で馬場状態を表記していたが、1973年に赤外線水分計を導入して試験的に測定を行った結果、良好であったので、赤外線水分計の本格的運用と馬場水分の数値化が決定され[27]、現在に至る。

馬場水分の計測は、レース当日に計7回行われる[23][24][26]

馬場含水率は2.0%から3.0%の範囲が標準となる[25]。これより含水率が減少すると「重馬場」となり、逆に含水率が増加すると「軽馬場」となる[23][24][25][26]。「重馬場」の状態では砂が乾いているため、ソリと砂の摩擦量が大きくなる。よってパワーのある馬が有利となる[24]。反対に「軽馬場」の状態では砂が湿っているため、ソリが滑りやすく、スピードが出やすくなって先行馬に有利となる[24]

競馬ブックトラックマンの木本利元によると、「重馬場」では競走中にミスを発生させてもレースタイムが比較的ゆっくりであるため流れを取戻しやすく、パワーのない馬はそもそもソリを引っ張る力量がないため、「重馬場」のレースでは実力差のハッキリ出た堅いレースに落ち着くことが多いという[24]

ただ、含水率1%以下の「重馬場」状態であっても、それほどタイムが掛からない時もある[24]。北海道新聞の記事によるばんえい競馬関係者の話では「砂がサラサラしているので馬の足にまとわりつかなくなり走りやすいのでは」「砂が滑車の役割となりソリが動きやすいのでは」といった声があり、馬場が極端に乾いた場面では馬場が軽くなっているのでは、という見方がばんえい競馬関係者にはある[24]

海外の馬場状態[編集]

馬場状態の基準は国や競馬場ごとに異なる。

日本以外の主要国では4段階から9段階で発表されており、日本より細分化されているところも目立つ。

以下は主要国での馬場状態を示す区分一覧。上から順に馬場が硬い状態となる。

イギリス アメリカ フランス ドイツ 香港・シンガポール 日本
硬↑

↓軟
Hard Fast sec hart Firm
Firm Firm tres leger fest Good to firm やや重
Good to firm Wet Fast leger gut Good
Good Good assez souple weich Yielding to good 不良
Good to soft Muddy souple schwer Yielding  
Soft Yielding tres souple tief Soft to yielding
Heavy Sloppy collant   Soft
  Soft lound Heavy to Soft
profond Heavy

散水による馬場状態の保持[編集]

日本以外では馬場の性質によって異なるが故障率が通常の馬場より高くなる傾向があり、硬い馬場になると直前回避を行うことが増える。このため、欧州の競馬場では馬場が乾いて含水率が減少しすぎたとみなされた場合に、散水を行い馬場状態を保持している。結果、イギリスの競馬では平地競走においてはFirm以上、障害競走においてはGood to firm以上の硬い馬場で競走を行うことはほとんどない。

なお、日本国内ではばんえい競馬が晴天による乾燥で砂塵が舞い上がるのを防ぐことを主な目的として、走路への散水を実施することがある。

関連項目[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 重賞としては扱われた
  2. ^ このレースの勝ち馬はデビュー3戦目のエルコンドルパサーであった。同馬は本来であればこのレースが初めての芝でのレースとなる予定であったが、皮肉にも3度目のダート戦となった。これによってデビュー2戦をともにダートで圧勝した実績から、単勝120円という圧倒的支持を得た。なお、エルコンドルパサーは共同通信杯以後ダートレースへの出走はなく、のちに日本、日本国外含めGIを3勝した

出典[編集]

参考文献及び新聞出典[編集]

WEBページ及びWEB動画出典[編集]