養育費

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養育費(よういくひ)とは、未成熟子が社会自立をするまでに必要とされる費用のこと。

概要[編集]

養育費の根拠は,婚姻費用分担(民法760条),夫婦間の扶助義務(民法752条),子の監護費用(民法766条1項)と三つがある。養育費は基本的に、子供が成人して大人として自立できるという年齢までに必要な費用などを子供を養育しない他方の親が支払うものである。ただし、単独親権制度においでは、親権のない人間は親ではなく、ただの他人になってしまうため、親でもなんでもない他人がお金を払うこと、これは憲法違反ではないかという説もある。養育費は親が子供を育てる費用とみなされるので、受け取った養育費の所有権は子を養育する親にはなく、あくまでも子供のものである。また父親が子供を養育している場合は母親に請求することができる。

以降は、特に指定が無い限り家庭裁判所での解説をする。

平成18年に行われた全国母子世帯等調査によれば、調査時点で養育費を受け取っていると答えたものは全体の19.0%に過ぎない。特に父子家庭は離婚した母親が養育費を払わないことが多く、[1]平成23年度の母子世帯調査では、父子家庭がもらっている率は4.2パーセントである。この数字は諸外国に比べて極めて低いレベルに位置づけられる[2]

支給期間[編集]

養育費の支給期間は法律で決められている訳ではないので、当事者との話し合いによって決められるが、話が纏まらない場合は、家庭裁判所に判断をゆだねる。

基本的に日本国憲法で定めている成人とみなされる年齢20歳まで養育費を支払う例が多い(外国の場合は外国の法律で成人とみなされる年齢まで)。当事者との約束で22歳まで支払われる例もある[3]。子供が自立する前に死亡した場合は年齢以上の養育費を支払う必要はない。

金額[編集]

養育費の金額は 親の生活水準によって異なり、民法752条生活保持義務により子どもは、従来の生活水準を維持するのにかかる費用を求めることができる。家庭裁判所の調停によって決められた養育費の額は、子供一人につき月額2~4万円のケースが多い。これは、正確な養育費を事前に算出できない為である[4][5]

養育費の金額は生活保護基準方式に基づき算出される。これは養育費は生活保護義務に当たるためである。金額は生活保護基準により左右されるが、ほぼ毎年基準がかわる。

養育費の取り決め時に予想し得なかった事情がある場合には、事情変更を理由として養育費の増額又は減額が認められることがある。

養育費の未払い[編集]

養育費は途中で支払われなくなる例が多い。そういった場合、養育費の約束を文書にしていると、裁判所に訴え出た時に有利に働く。調停調書、審判書、公正証書があればよい。裁判所が命令すれば給料差押え(差押申立書)など強制執行ができる。

養育費の徴収については、2007年養育費相談支援センターが設立され、諸外国のような強制力は伴っていない[6]が、書面を作成する場合には公証人役場で作成された公正証書は、約束を守らなかった場合には強制執行ができるという認諾条項の付いたものであれば強制執行を、また 一定の期間内に履行しなければ本来の養育費とは別に一定の金銭を支払うように命じる間接強制にも利用できるなどアドバイスを行っている[7]

法改正により、平成16年4月から、養育費等の特則として将来の分の差押えが可能となった。裁判所の調停や判決などで定めた養育費や婚姻費用の分担金など,夫婦・親子その他の親族関係から生ずる扶養に関する権利で,定期的に支払時期が来るものについては,未払分に限らず,将来支払われる予定の,まだ支払日が来ていない分(将来分)についても差押えをすることができる。また,将来分について差し押さえることができる財産は,義務者の給料や家賃収入などの継続的に支払われる金銭で,その支払時期が養育費などの支払日よりも後に来るものが該当し(民事執行法151条の2第1項),原則として給料などの2分の1に相当する部分までを差し押さえることができる。また、平成17年4月からは金銭債権の中でも,養育費や婚姻費用の分担金など,夫婦・親子その他の親族関係から生ずる扶養に関する権利については,間接強制の方法による強制執行をすることができることになった。これは強制執行とは異なり,定期的に支払時期が来るものに限られない[8]


子供と離れた親の面会を嫌がる同居親が養育費を拒否するケースも多数ある。

相談支援センターの電話調査結果によると、養育費の取決めがあるのに一部でも支払われないものの割合は70.3%となっており、全部履行の割合は29.7%ということになる。また、一部不履行のうち、支払われなくなるまでの期間は1 年未満が34.6%と最も多く、3 年未満を合わせると66.7%が3 年以内に支払いがなくなる[9]

年収の高い父親ほど、養育費を払っている割合は高いが、年収500万円以上の離別父親ですら、その74.1%は養育費を支払っていない。貧困層の父親は「支払い能力の欠如」、非貧困層の父親は「新しい家族の生活優先」が理由となり、どの所得層の父親においても、養育費を支払わないという状況が生み出されているとの分析もある[10]。 政治家でも養育費不足の問題はあり、東京都知事となる舛添要一については、2014年1月現在、元妻片山さつきがその選挙応援を要請されたがその支障になるものとして「舛添さんは障害をお持ちのお子さんに対する慰謝料や扶養が不十分」[11]とインタビューで、公式ブログでは「現時点では舛添氏は、障害をお持ちのご自身の婚外子の扶養について係争になっており、これをきちんと解決していただくこと」[12]が必要と語っている。

日本では一人親家庭の就業率は母子家庭8割・父子家庭9割と諸外国に比較して高い[13]ことに反して、有業の一人親家庭の相対的貧困率がOECD加盟国中最も高くなっている[14]が、「夫が全児の親権を行う場合」を1966年に妻側が逆転して以降、妻が全児の親権者となる割合は現在では8割を超えている[15]ため、実際に主に困窮しているのは母子家庭である。

2006 年現在では離婚や未婚の母に対して子どもと離れて暮らしている父親の実際に支払いがある養育費は2割しかない状況である[16]が、養育費を取り決めていない理由には、「相手に支払う意思や能力がないと思った」が半数を占めているが、次いで2割が「相手と関わりたくない」という理由をあげている。養育費の文書での取り決め状況・養育費の受給状況共に母親の学歴が上昇するにつれ、割合が上がっている傾向があった[17]。このように養育費は母の状況に左右されている。養育費の受給分析を通じて、養育費が子どもの権利であるという認識が母に、ひいては社会に不足しているとの指摘もある[18]

養育費徴収強化については、「児童扶養手当の母親の収入申告に養育費を8割算入したことには無理があります。現状では自己申告はほとんどされていないし、養育費を受け取ることを逆に妨げる効果になっています」[19]というシングルマザー支援団体自身が認めている、養育費未申告による児童扶養手当の不正受給問題も解決しなくてはならない。

さらに、生活保護母子世帯においては、別れた相手の学歴も低学歴が多く、生活保護母子世帯の世帯主とのマッチングが高い、また相手は非正規就労など不安定就労のため扶養援助が期待できないとの指摘がある[20]

国の政策としては、平成14(2002)年に母子及び寡婦福祉法、児童扶養手当法等を改正し、「児童扶養手当中心の支援」から「就業・自立に向けた総合的な支援」へ転換した[21]ところだが、母子家庭の8割が既に就労している[22]現在、就労による増収はパートタイム等で雇用されている母子家庭の母が常用雇用に転換することが有効だが、経済状況が厳しい上に、通常学歴内婚の比率が高いことに加え男女共に学歴が低いほど離婚率は高く[23] 、「離婚は低学歴層に集中して生起している」[24]という離婚女性分析もあるため、正規雇用化は現実的に困難である。国の常用雇用転換奨励金事業において、母子家庭の母と有期雇用契約を結んだ事業主によるOJT計画書の提出件数が平成15(2003)年4月から平成19(2007)年12月までの合計で156件、そのうち、常用雇用に転換された者の人数は、128人となっている[25]

なお、民法においては、2011年に第766条1項が改正され「子の監護に要する費用の分担」についても離婚の協議事項と初めて明記された[26]。 この後、法務省は改正民法が施行された2012年4月からの1年間の結果をまとめた。この法務省の調査によると、2012年4月からの1年間で、未成年の子がいる夫婦の離婚届の提出は13万1254件あったが、面会や交流の方法を決めたのは7万2770件(55%)、養育費の分担を取り決め済みだったのは7万3002件(56%)だった[27]

共同養育における養育費[編集]

養育費の支払い率を上げるために真に有効な手段は、共同養育を行うことである。Braver の調査によれば、単独親権における養育費の支払い率が80%であるのに対して、共同養育における支払い率は97%である[28]

「養育費の支払いが少ないと親子の交流は少ないが、養育費の支払いが多いと親子の交流は多い」という一般的な傾向がある。「養育費の支払い」と「交流の頻度」のうちで、どちらが原因で、どちらが結果であるかについて、Nepomnyaschy は、経時的なデータを用いて、両者の前後関係を調べた。そして「交流が養育費に与える影響の方が、養育費が交流に与える影響より強い」と結論している。交流が原因で、支払いが結果ということであり、親子関係を切られるので、お金を払わなくなるということである[29]

日本は、交流の時間が非常に短く、養育費を受け取る割合が非常に少ない国である。日本では、養育費を受け取る離婚母子家庭は、20%ほどある[30]。これは、欧米諸国に比較して、非常に少ない[31]

同居親は、共同養育になると養育費を減額されてしまうのではないかと心配することがあるが、下に示すように、ある一定程度までは減額されない場合が多い。

単独親権から共同養育になると、養育費の額は、次のようになる。父親と母親の合意があって、裁判所が容認すれば、どのような養育費にすることも可能であるが、裁判所が決める場合には、例えば米国では、次のような方法が用いられる[32][33]

共同養育における養育費の考え方の一つは、共同養育になると子供に必要な生活費が増えるという考え方である。例えば、ベッド、布団、玩具、衣類、本、ゲームなどは、両方の家に用意する必要がある。単独親権の場合に子供が必要とする金額に、適当な数(通常は1.5)をかけて、共同養育の場合に子供が必要とする金額とする。これを子供の総収入とする。これを、父親と母親が、それぞれの収入に応じて分担する。子供の総収入と総支出は同額である。子供の総支出のうち、子供と一緒にいる時間の分だけ各親が支出すると期待される。父親の「分担額」と、父親に期待される「支出額」との差額が、父親が母親に渡すお金(養育費)である。

もう一つの考えは、単独親権の時の養育費を、固定的な部分(施設費など)と、変動する部分(食費など)に分ける考え方である。固定的な部分は、父親と同じ生活水準を提供する部分でもある。そうして共同養育になれば、変動する部分だけを、子供と一緒にいる時間に比例して減らす。これは、国連の子どもの権利委員会が推奨する方法である[32]

ウィスコンシン州の例では、父親も母親も年収が3万ドルで子供が1人の場合、父親が子供に全く会わない場合の養育費は、月額約600ドルである(2004年のガイドライン)。父親が子供と会う時間が増えても、子供の時間の24%までは、養育費の額は変わらない。しかし、父親が子供と会う時間が、子供の時間の25%以上になると、養育費は減額され、子供の時間の50%になると、養育費は0になる[34]

オーストラリアの場合、非同居親が支払うべき養育費は、非同居親が子供と過ごす夜の数が1年の30%未満であれば減額されない。ただし、政府が支給する子供手当は、非同居親が子供もと過ごす夜の数が10%以上であれば分割される[35]

諸外国の状況[編集]

母子家庭の貧困対策については、アメリカでは母子世帯の増加に伴う福祉給付金の増大という財政問題に加え、母子世帯の福祉依存がアメリカ社会の基盤である「自立」精神を損なうこと、とくに子どもの成長過程で福祉依存が日常化し、福祉依存が継承されることへの危機感が強まって1996年の「福祉から就労へ」という福祉改革となった[36]。一方で、非監護者(主に父親)の養育費徴収強力に推進され、養育費は給与天引きが行われ、養育費サービス機関は、福祉、税務、司法、検察・警察等の各種の行政機関、民間機関等と情報連携・行動連携を取りながら子どもの養育費確保のために動き、滞納者には免許停止やパスポート発行拒否など公権力が行使されている[37]。政府支出も年々増加している一方、全体の受給率は4割にとどまるが、養育費が家計に占める割合が高い貧困母子世帯の受給率が向上しているため、貧困・低所得の母子世帯にとって養育費の状況改善の意味合いは大きいとされている[38]

イギリスでは、1980年代以降多くの生別母子世帯が貧困で社会保障給付に依存して生活していること、また多くの母子世帯が養育費を得ていないことについて、納税者からは父親の責任を問う声が強まった。私的扶養・家族責任と公的扶養・国家責任との境界をめぐる議論が起こった。現在では子と別に暮らしている親(多くが父親)から強制的に養育費を回収するための手段が取られている[39]

養育費確保の行政コストは、国によって大きく異なる。Skinner他(2007)の推計によると、1ユニットの養育費確保にかかった行政コストは、オーストラリアが12%、ニュージーランドが21%、イギリスが68%、アメリカが23%となっている[40]

脚注[編集]

  1. ^ http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-katei/boshi-setai_h23/dl/h23_18.pdf
  2. ^ 公益社団法人家庭問題情報センター 厚生労働省委託事業 養育費確保の推進に関する制度的諸問題―平成23年度養育費の確保に関する制度問題研究会報告― 2013年10月23日閲覧
  3. ^ 弁護士の法律相談集、離婚などの場合の養育費の計算式
  4. ^ 弁護士の法律相談集、離婚などの場合の養育費の計算式
  5. ^ 厚生労働省発表、母子家庭等施策に関する基本方針研究会におけるとりまとめについて、母子家庭及び寡婦等の家庭生活及び職業生活の動向に関する事項
  6. ^ 養育費相談支援センター
  7. ^ 養育費相談支援センターQ&A(よくある質問集)
  8. ^ 裁判所 履行勧告手続等 2013年12月8日閲覧
  9. ^ 公益社団法人家庭問題情報センター 厚生労働省委託事業 養育費確保の推進に関する制度的諸問題―平成23年度養育費の確保に関する制度問題研究会報告― 2013年10月23日閲覧
  10. ^ 労働政策研究・研修機構「なぜ離別父親から養育費を取れないのか。」副主任研究員 周 燕飛2013年8月2日掲載
  11. ^ ahooヘッドライン 東スポ 元妻片山さつき氏が舛添氏の応援“拒否” 2014年1月21日
  12. ^ 「本日の党大会後のぶら下がりを受けた報道にちょっと誤解があるので、私が都知事選の応援について何を申し上げたか、ブログに書きました!」2014年01月19日
  13. ^ 厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課「ひとり親家庭の支援について」P3 2012年10月24日
  14. ^ p107-108 厚生労働白書2012年度版
  15. ^ 厚生労働省 離婚に関する統計 2013年4月14日閲覧
  16. ^ 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 養育費の徴収と母子世帯の経済的自立 周 燕飛 2008年2月8日
  17. ^ 厚生労働省「平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」17養育費の状況2013年4月14日閲覧
  18. ^ 養育費政策にみる国家と家族p98 下夷美幸 勁草書房 2008年
  19. ^ 内閣府 ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム第6回会合 資料6 NPO法人Wink提出資料 2010年4月21日 2013年3月31日閲覧
  20. ^ 「生活保護と日本型ワーキングプア」p97 ミネルヴァ書房 道中隆 2009
  21. ^ 厚生労働省 平成19年度母子家庭の母の就業支援施策の実施状況
  22. ^ 厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課「ひとり親家庭の支援について」P3 2012年10月24日
  23. ^ 第2回家族についての全国調査 (NFRJ03) 第2次報告書「母子世帯の多くがなぜ貧困なのか 」神原 文子2006年4月
  24. ^ 財団法人 家計経済研究所 平成16年度「消費生活に関するパネル調査」について(第12年度分)第4章離婚の要因分析 財団法人家計経済研究所 嘱託研究員福田節也 2005年9月29日
  25. ^ 厚生労働省 平成19年度母子家庭の母の就業支援施策の実施状況 p27
  26. ^ 養育費相談支援センター
  27. ^ [1] 読売新聞 離婚時に養育費合意56%・「親子面会」55% 2013年8月19日06時39分
  28. ^ A Look Backward and Forward at American Proffesional Women and Their Families P29
  29. ^ Child Support and Father-Child Contact: Testing Reciprocal Pathways
  30. ^ 養育費の受給状況 表16-(3)-1、厚生労働省、全国母子世帯等調査結果報告
  31. ^ Trends of Sole-parents and Sole-Parents Recieving Child Maintainance Payments p5、(Table PF1.5.B)、OECD、各国の「シングル・ペアレントが養育費を受け取る割合」
  32. ^ a b CHILD SUPPORT GUIDELINES AND THE SHARED CUSTODY DILEMMA SupportGuidelines.com
  33. ^ Child support, Visitation, Sared Custody and Split Custody
  34. ^ The Stability of Shared Child Physical Placements in Recent Cohorts of Divorced Wisconsin Families
  35. ^ The Role of the Father (p609)
  36. ^ [養育費政策にみる国家と家族 p49 下夷美幸 勁草書房 2008年]
  37. ^ 養育費相談支援センター 養育費確保の推進に関する制度的諸問題 P24-39 2013年8月10日
  38. ^ [養育費政策にみる国家と家族 p161-164 下夷美幸 勁草書房 2008年]
  39. ^ 国立社会保障・人口問題研究所 ブレア政権の子育て支援策の展開と到達点 所道彦 2007年
  40. ^ 労働政策研究・研修機構「なぜ離別父親から養育費を取れないのか。」副主任研究員 周 燕飛2013年8月2日掲載

関連項目[編集]


外部リンク[編集]