電気窃盗

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

電気窃盗(でんきせっとう)とは、電気を目的物とした窃盗のこと。盗電(とうでん)ともいう。電気の様態が他の財物とは大きく異なるため、過去にその犯罪の成否をめぐって激しい論争が繰り広げられた。

概要[編集]

窃盗罪は、窃盗の目的物が「」すなわち「有体物で」あることを想定している。しかし、電気は窃盗罪が想定する「有体物」ではなく、法的に無体物という分類となり、電気窃盗は、窃盗のなかで特殊な様態である。

日本の電気窃盗の法的歴史[編集]

日本では、まず判例によって電気に対する窃盗が認められ、その後条文上で明記されるという流れをたどった。

1880年(明治13年)に太政官布告で発表された旧刑法は「物ではない電気」の窃盗を想定していなかった。そのため、電力会社に電気代を支払わずに勝手に電力を使用する行為について、それが窃盗にあたるかどうかについて論争された。

1901年に、後に東京電燈に吸収される横浜共同電灯会社が、契約に定められた以上の電力を使用したとして利用者を告訴した。一審で有罪判決を受けた被告は控訴したが、その際に「電気は有体物ではない」と主張した[1]

旧刑法において窃盗は「具体的な財物をかすめ取る行為」と規定されていたが、この主張によって、「そもそも電気とは物か、物にあらざるか」という当時最先端の科学命題が法廷で争われることとなった。控訴審では、証人として呼ばれた東京帝国大学物理学教授・田中舘愛橘エーテル理論に基いて「電気はエーテルの振動現象であり、物質ではない」と証言したために被告に無罪の判決が下された。

このままでは事業に致命的な影響を受けてしまうことを懸念し、原告は直ちに上告した。大審院(現最高裁判所)はこの問題をどう取り扱うかに苦慮したが、最終的に電気は、接触すると感電して痺れるから存在する事が分かり、電流計電圧計電力計により管理出来るため、可動性と管理可能性を持っているとされ、窃盗罪が成立すると判断して1903年に被告に逆転有罪の判決を下した[2]

その後、1907年(明治40年)に施行された刑法は、245条に「この章(第36章 窃盗及び強盗)の罪については、電気は、財物とみなす」(口語化表現)と明確な規定が置かれ、電気の窃盗は犯罪行為であるとする方法で立法的解決がはかられた。

法的な問題点[編集]

この刑法245条によって、電気窃盗に関してはそれが窃盗にあたるということが明らかとなった。しかし、他の無体物は窃盗の対象になるのかならないのか、という問題が残された。

学説には、「有体物説」と「管理可能性説」の2つがある。 有体物説は「刑法245条の規定は限定的な規定であり、電気についてのみ刑法は有体物と考えると宣言したにとどまる。他の無体物は窃盗の目的物とはならない」とする。 管理可能性説は「刑法245条の規定は、注意的で例示的な規定であり、管理可能である限り、無体物も窃盗の対象となる」とする。なお、刑罰意義論(応報刑説と教育刑説)同様、万人を納得させる理論は未だ提示されていない。

近年における電気窃盗事例[編集]

1990年代半ばごろから、携帯電話など、こまめな充電を要する携帯機器の急速な発展と普及にともない、公共の場などで業務用に設置しているコンセントを勝手に利用して充電を行う行為が多発している。列車・バスの座席に設置しているコンセントのように乗客が自由に利用することを前提としているのであれば盗電にはならないが、鉄道駅・病院・学校・列車の車内などに設置されている業務用のコンセントは乗客が利用するためのものではなく、これらを携帯機器の充電に利用した場合は盗電となる。

こうした電気窃盗行為は、設置されているコンセントの本来の使用目的である、清掃機器や照明機器の電源など機器の円滑な作動を阻害して、業務に支障をきたしかねない。また、金銭的な被害も発生する。1回の窃盗では、小さな被害金額であっても、駅のような多数の人が行き交う場所の多くのコンセントでこのような窃盗行為が頻繁に行われると、大きな被害金額となりえる。また、消費電力の超過による電気事故の危険性もある。そのため、施設によってはコンセント部分に絶縁テープや警告文を書いた貼り紙などを貼って使用出来ないようにしたり、窃盗できそうな場所に設置されているコンセントを配線から外し、跡をメクラ蓋で封じて使用不可能にするなどの対策を講じる施設も出てきている。

また、このような近年の窃盗事例を鑑み、近年はコンセント部分に取り付け可能な盗電防止用のカバーを開発して販売する企業も出現している。[3]

各国における盗電事例[編集]

インドにおいては盗電は深刻な問題である。総発電量の30~40%が消え、電力料金の回収率は40%以下であるという。こういった盗電事例はフィリピン[4]中国[5]ネパール[6]パキスタン[7]など発展途上国に止まらず、オランダ[8]などでも電力会社を悩ませている。また、頻繁に停電があるところでは停電中に私設架線を勝手に設置するケースまで聞かれるが、この中にはいい加減な架線がショートして火を吹いたり、接続作業中に感電する事故も後を絶たない。停電中には正規の架線が金属泥棒に遭うケースもあり、地域内の電力事情悪化を招いている。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 下記『思い違いの科学史』より
  2. ^ 大判明治36・5・21刑録9・874
  3. ^ 大隅機設株式会社:屋外コンセント盗電防止カバー”. 2013年6月13日閲覧。
  4. ^ 海上保安人材育成プロジェクト、コラム:紹介 職場のご近所”. 国際協力機構業務調査員 大町敏行. 2007年9月22日閲覧。
  5. ^ 北京立法严惩窃电贼 偷电罚金最高可达电费5倍”. 中国新聞網、2003年09月01日14:00. 2007年9月22日閲覧。
  6. ^ 開発関連記事、2004年7月16~22日(英字週間新聞ネパリー・タイムズ)”. 国際協力機構・デスク ネパール. 2007年9月22日閲覧。
  7. ^ 円借款事業事後モニタリング報告書、パキスタン「ビンカシム火力発電所6号機増設事業」、有効性・インパクト(3)財務的内部収益率‐マイナスとなる主な原因”. 国際協力銀行. 2007年9月22日閲覧。
  8. ^ オランダクライムストッパーズの概況 通報内容の転送先”. 財団法人 社会安全研究財団. 2007年9月22日閲覧。

参考文献[編集]

「概要」項「日本における電気窃盗の法的歴史」

  • 『思い違いの科学史』「電気はモノではない」青木国夫 著、2002年、朝日文庫 ISBN 4-02-261368-8

関連項目[編集]