陪審定理

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陪審定理(ばいしんていり)とは、多数決による決定の信頼性に関し、コンドルセによって示された定理である。

背景[編集]

社会契約論に於いてルソーは、国家の主権の根拠となる一般意志の概念を提唱した。しかしルソーは、多数決によって得られる意志を「全体意志」として一般意志と区別し、国家にとって絶対の真理となる一般意志を決定する手続きについては明確にしなかった。

そこでコンドルセは、政治思想とは無関係の理論体系である確率論を用いる事で、多数決の信頼性を定量的に見積もろうとした。

簡単な概要[編集]

片方の選択肢が正解である二者択一の問題(○×問題など)について、

  • (仮定1)多数決に参加する人の人数が十分多い
  • (仮定2)各参加者の投票行動は、他の参加者が正解を選ぶ確率に影響を与えない

この二つの条件が揃うとき、

  • (結論1)多数決によって正解が選ばれる確率は100%か0%のどちらかであり、中間は存在しない
  • (結論2)多数決が正解を選ぶ条件は、多数決参加者の平均正解率が1/2を越えている事である

サイコロなどのランダムな選択では、二者択一の正解率はちょうど1/2である。ランダムな選択による意思決定手法は、政治的素養の無い人間でも容易に実行出来る。このため結論2の「参加者の平均正解率が1/2を越えている」という条件は確実に達成可能であり、多数決の驚異的な信頼性をこの定理は結論づけている。

簡単な証明[編集]

仮定1,2により大数の法則が成り立ち、参加者の平均正解率がそのまま、正解の選択肢が得る得票率となる(結論2)。 大数の法則が成り立っているため、得票率を変化させる確率的な揺らぎがなくなり、得票率は固定される(結論1)。

影響と意義[編集]

この定理を記したコンドルセの「多数結論」が発表された当時は、フランス革命など近代民主主義の黎明期であった。政治の素人である一般民衆による多数決の優位性を説いたこの定理に、政治のプロである貴族だけで決定を行うそれまでの政治システムを変える役割をコンドルセは期待した。

しかし革命の間、この定理はほとんど顧みられることが無かった。複雑な社会に対して、単純なモデルしか扱えない数理的手法を適用する事が、認められなかったからである。この定理の評価は、数理社会学の確立まで待たねばならなかった。

その数理社会学は現在、アローの不可能性定理によって「望ましい政治システムなんて不可能」「どの政治システムにも一長一短があるから、比較しない」と考え、現実の政治システムの評価を放棄している。陪審定理は、数理社会学の無力なこの状況を変える可能性がある。決定の信頼性を定量的に評価する陪審定理なら、「一長一短」の収支を定量的に算出し、アローの定理の範疇では出来なかった政治システムの優劣を評価出来るからである。

関連項目[編集]

  • ブースティング - 「信頼性の低い人工知能を沢山集める事で、信頼性の高い人工知能が出来る」という手法は、陪審定理を人工知能に応用したとも言える。
  • 集団的知性
  • 二分型投票 - 「この選択肢は選出が予想される選択肢よりマシか?」の二者択一を選択肢毎に行う事で、多者択一に拡張した多数決方法。
  • アーレンド・レイプハルト - 多数の国で得られる様々な指標を統計処理することにより政治システムの優劣を評価し、「比較民主主義体制論」を確立した人物。

出典[編集]

HARP: コンドルセ『多数決論』の研究 : 陪審定理と啓蒙思想 [1]