降水過程

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降水過程(こうすいかてい、precipitation process)とは、大気からが生成されて、それが降るまでのメカニズムのこと。海洋湖沼陸地などから蒸発した水蒸気が大気中に含まれて、それがとなり、雲の中の水滴氷晶が成長して、などの形で降水が起こるまでの、一連の過程を指す。また、この過程の中にはとして地上の天候に現れるものも含まれる。

降水過程は大きく分けて2段階ある。また、降水過程における水の状態(固体液体か)によっても、大きく分けて2種類、細かく分けると3種類の成因がある。

降水過程解明の歴史[編集]

現在も通用している降水過程のメカニズムが解明されたのは、20世紀初頭のことである。ベルシェロン・フィンデセンの説(Bergeron Findeisen process)または氷晶説などと呼ばれており、現在で言う「冷たい雨」の雨粒の形成メカニズムを明らかにした。

ドイツ地球物理学者気象学者アルフレート・ヴェーゲナーは、が0℃以下であっても凍らない過冷却の状態が存在すること(過冷却現象自体はそれ以前に同じくドイツのガブリエル・ファーレンハイトが発見していた)、氷晶の周囲よりも水滴の周囲のほうが飽和水蒸気圧が高いこと、氷晶は空気中の水蒸気を引き寄せること、といった説を1911年に発表した。

これを証明したのがスウェーデンの気象学者トール・ベルシェロンである。彼は、に包まれたモミで、気温0度以下のときは木々に霧氷ができて木々の間だけは霧が晴れ、氷気温0度以上のときは木々の間にも霧が入り込む事を発見した。これは、気温0度以下のときに木々の間に入り込む霧は過冷却で、飽和水蒸気圧の差によって霧が蒸発して霧氷の成長に使われ、そのせいで森だけ霧が晴れたからだと考え、1933年に雲の中の水滴や氷晶(雲粒)の形成に関する説を発表した。そして、ドイツの物理学者フィンデセン(Findeisen)はこの説を改良して、雨粒への成長過程を説明した。

その後、氷晶にならずに成長する雨粒があることが分かり、これまでの説を「冷たい雨」、氷晶にならない雨を「暖かい雨」、として区別するようになった。「暖かい雨」のメカニズムを最初に論文で発表したのは、アメリカのウッドコック (Woodcock) である。彼は海上の空気には海塩粒子(サイズが大きいエアロゾル)が存在すると考え、これを観測して、他の研究者との共同研究も助けとなって、雨粒の成長との関係を明らかにした。

降水過程[編集]

凝結過程[編集]

湧き上がる雲。この中では雲粒が成長している。
ライミング

雲のもととなる水蒸気がどんどんと凝結していき雲粒となる過程を凝結過程(ぎょうけつかてい、condensation process)または拡散過程(かくさんかてい、spreading process)という。簡単に言えば、雲ができる過程である。

一般的に雲は、冷やされるか、水蒸気が供給されて、過飽和に達した(飽和水蒸気量以上の水蒸気が含まれた)空気の中にできる。ただ、雲ができるためには、空気の中に雲核凝結核昇華核)がなければいけない。これがなければ、過飽和に達しても水蒸気は凝結せず、雲もできない。地球の多くの地域の大気には少なからず雲核が含まれており、過飽和度1%くらいで雲ができる。

雲核とは、エアロゾルと呼ばれる微粒子のことである。吸湿性のあるエアロゾルは凝結核の役割を果たし、その表面に水滴が凝結する。また、同様に昇華核の役割を果たし、その表面に氷晶が昇華するエアロゾルも存在するが、このエアロゾルに関しては吸湿性はあまり関係がない。こういったエアロゾルは、地域や高度によって濃度に差があるが、地球の大気に広く浮遊している。

雲核に最初の水滴が凝結、または氷晶が昇華した後、しばらくは、さらにほかの水滴や氷晶が凝結や昇華をし続ける。このとき、その空気の気温と雲粒(はじめて水滴が凝結した時点で、あるいは氷晶が昇華した時点で、これを雲粒という。)の状態によって、異なる成長を遂げる。

気温が0度(氷点、凝固点気圧変化にはほとんど関係なく一定)以上のとき、雲粒はすべて水滴である。このとき、飽和水蒸気圧がどの場所でもほとんど差がない関係で、水滴の成長速度は非常に遅い。このため、水滴がさらに成長するためには、次の併合過程を経る必要がある。併合過程を経ずに空気中を浮遊しているのが雲であり、霧である。

気温が0度以下であっても、0度〜-40度くらいの範囲では、ある条件を満たさなければ水滴は過冷却のままである。ある条件とは、空気や過冷却水滴内に氷晶核が存在することである。氷晶核は4種類存在する。水蒸気がそのまま昇華して氷晶となる昇華核、水滴内に取り込まれて凍結させる非吸湿性の凍結核、凝結核と凍結核の両方の働きを持つ凝結凍結核、水滴に衝突して凍結させる非吸湿性の衝突凝結核、である。

少しでも氷晶があれば、周りに大量の過冷却があっても、あるメカニズムによって氷晶は急速に成長を遂げる。そのメカニズムとは、氷晶のまわりと過冷却水滴のまわりで飽和水蒸気圧に差がある(過冷却水滴の周りのほうが圧が大きい)ことが原因で、過冷却水滴が蒸発しやすくなり、蒸発した水蒸気が氷晶のまわりに昇華してどんどんと成長していくことである。これをライミング(riming)という。この成長時に、氷晶は雪として、独特の形をした結晶を形成していく。

これにより、非常に小さかった雲粒は急速に大きく成長するが、大きくなるにつれて水蒸気の供給が少なくなるので、成長速度も遅くなってくる。しかし、このころには雲粒はある程度の大きさに成長していることが多く、次の併合過程に移る。

併合過程[編集]

氷晶のサンプル。大きさの異なる結晶が同時に存在していることが分かる。

雲粒がさらに集まって成長していく過程を併合過程(へいごうかてい、coalescence process)という。

十分な大きさに成長し、自身を浮遊させている上昇気流の力を上回る重さを得た雲粒は、次第に落下を始める。このとき、大量の雲粒が存在しているが、それぞれの大きさにはばらつきがある。大きな粒は落下が速い。このため、大きな雲粒は落下の際により小さな雲粒に衝突し、水滴ならば1つの大きな水滴に、氷晶ならば過冷却水滴を蒸発させてその水蒸気を昇華させながら、さらに大きく成長していく。

一方、例えば熱帯の海の空気の場合を考えてみる。空気に含まれる水蒸気の量が非常に多く、巨大な凝結核により形成された雲粒が多数ある上、強い上昇気流によって飽和水蒸気量が大きな割合で低下する(=雲粒になる水蒸気の量が格段に多い)。そのため、凝結過程を経た雲粒の大きさが一様に大きくなり、水滴同士の併合が効率よく進む。これにより、熱帯では雲の発生から雨までの時間が短く、暖かい雨であるにも関わらず粒が大きい。

また、上空の風は常に一定とは限らず、強まったりすることがあり、落下していた粒は再上昇する。このとき、はじめは氷晶で、落下の際に融解して水滴となった雲粒は、再上昇の際に再び凍結する。また、上昇・下降に関係なく、気温が0度前後の空気が交互に分布している場合も同様である。これを繰り返すと、粒の表面にさらに凝結・昇華したり、ほかの粒がくっついたりしてさらに大きくなる。これが降るとになる。

ただ、雲粒の大きさがあまりに大きいと、形が崩れて分裂してしまうため、極端に大きな粒はできにくい。水滴は3mmを越えたあたりで分裂しやすくなる。氷晶のうち、雪の結晶も大きくなりすぎると分裂しやすい。一方、同じ氷晶でも、霰、雹、凍雨などは硬いため分裂しにくい。

こうして、最終的に地上に降り注ぐ。

降水の成因[編集]

暖かい雨[編集]

最初から最後まで液体の状態で降水過程を経て、「暖かい雲」(warm cloud) から「暖かい雨」(warm rain) が降るもの。固体の状態を経ないもの。

例えば熱帯の海の空気の場合を考えてみる。空気に含まれる水蒸気の量が非常に多く、巨大な凝結核により形成された雲粒が多数ある上、強い上昇気流によって飽和水蒸気量が大きな割合で低下する(=空気中の水蒸気のうち、雲粒になって分離される量が格段に多い)。すると、ライミングがなくとも、凝結過程での成長が速くなる。

凝結過程で著しく成長すれば、先述したように一様に大きな雲粒ができる。すると、併合過程での成長も大きい。これは、雲の中における雲粒の大きさ別分布と衝突率の関係による。半径が5μm以下の小さな雲粒はほとんど併合せず、10μm以上の雲粒多数と20μm以上の雲粒少数であれば衝突率は10%、15μm以上の雲粒多数と30μm以上の雲粒少数であれば衝突率は50%、15μm以上の雲粒多数と30μmを大きく超える雲粒少数であれば衝突率はほぼ100%と考えられている。さらに他の研究により、30μm以上の雲粒ができなくても、20μm以上の雲粒同士の衝突により大きな雲粒ができるという報告もあるが、詳しく分かっていない部分もある。

よって、このような条件が整えば、急速に雲粒が成長して大きな雨粒になる。一方、凝結過程での成長が乏しければ、ほとんど成長しない。つまり、大気中の水蒸気量が多かったり、空気の上昇幅が大きければ大粒の雨になりやすいが、逆なら霧雨にもなりやすい。

地表付近で暖かい雲ができて滞留すると、凝結過程・併合過程ともに成長がほとんどないため、雲粒の大きさがほとんど変わらない状態が維持され、霧になる。これが上空で起これば層雲や高層雲といった、消えにくい雲になる。成長初期の積雲も「暖かい雲」であるが、晴天時に出ることが多く、再蒸発しやすいので消えやすい。

冷たい雨[編集]

途中で液体になる場合もあるが、主に固体の状態で降水過程を経て、「冷たい雲」(colu cloud) から「冷たい雨」(cold rain)、氷粒、雪が降るもの。

冷たい雲の場合、凝結過程でも十分に成長し、併合過程でもさらに成長する。ただ、氷晶は併合過程での成長があまり著しくない。

冷たい雨から雲粒が融解せずに降ると、雪となる。これが融解し始め、雪と雨が混じった状態で降ると、完全に融けるとである。

空気中に氷晶核があり、気温が0度以下の場合、雲にはならず、細氷が降ることがある。これにはの有無や湿度なども関係している。

過冷却の水滴からなる霧が、-30度を下回るような低温になると、氷晶核が少なくても凍結が始まり、氷霧となる。また、過冷却の霧は、地上で霧氷を発生させることがある。

過冷却の暖かい雨[編集]

最初から最後まで過冷却の状態で降水過程を経て、過冷却水の雲 (supercooled water cloud) から過冷却の雨 (supercooled rain) が降るもの。過冷却の暖かい雨 (supercooled warm rain)。

非常に稀なケースであるが、空気中に凝結核があっても氷晶核が少なく、気温が0度以下の場合、水蒸気が過冷却の水滴として凝結し、それが併合過程を経て、過冷却の霧になったり、過冷却の雨として降るものがある。これは過冷却の霧や雨の成因の中でもあまり多くないケースである。暖かい雨と冷たい雨の中間的なもので、過冷却は液体なので辛うじて暖かい雲、暖かい雨に含めることもある。

出典[編集]

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