金取遺跡

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
金取遺跡の位置(岩手県内)
金取遺跡
金取遺跡
遺跡位置

金取遺跡(かねどりいせき)は、岩手県遠野市宮守町(旧上閉伊郡宮守村)に所在し、中期旧石器時代に属するとされる遺跡である。2004年(平成16年)6月1日に遠野市指定史跡に指定されている[1]。2003年(平成15年)7月の報道として、8-9万年前とされる土層から石器が出土し、日本国内最古の旧石器時代遺跡とする見方も出たが[2]、2009年(平成21年)9月に島根県出雲市砂原遺跡で出土した石器が12万年前まで遡るとして、こちらを最古のものとする報道もある[3][4][注釈 1]

概要[編集]

遺跡は北上山地の小盆地に面した中位段丘上に位置している。

1984年(昭和59年)、当時の上閉伊郡宮守村建曽部(たっそべ)の土取り場から、ホルンフェルス[注釈 2]製の石器(チョッピング・ツール)1点が民間研究者によって発見され、1985年(昭和60年)に地域の研究者達によって発掘調査された[6]。1986年(昭和61年)には発掘調査報告書が刊行された[8]

出土遺物と年代[編集]

旧石器は、Ⅱ層、Ⅲ層、Ⅳ層に包含されていた。Ⅲ層の上部から片面調整石器、チョッパー、このほか剥片、砕片、円盤石核、焼けた礫3点など31点の遺物と多量の木炭粒が出土した。第Ⅲ層下層(Ⅲc層)検出炭化物の炭素14年代測定結果では46480(±710)年前という値が得られ[9]南山大学の上峯篤史は、これを日本における中期旧石器時代遺跡の存在の主要な根拠としているが[10]、中期旧石器の存在を疑問視する堤隆(明治大学)などは、層位の年代決定法上の問題などからこれに疑問を呈し[5]、現在も意見が分かれている[7]

Ⅳ層からは、黒い硬質砂岩や粘板岩で作ったハンドアックスのような両面加工石器やチョッパー、青灰色の良質なチャート製の五角形剥片など8点の石器と木炭粒が検出された。Ⅳ層中からは微量の軽石型火山ガラスが検出され、その分析の結果、Ⅳ層は9~8万年前という年代が与えられた。金取Ⅳ文化は火山灰層序学に照らして地質年代を把握できる日本最古の石器群とする意見がある。同志社大学の松藤和人は、この最下層出土の石器は人工品であることは間違いないとする見解を述べている[11]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ この問題に関しては、2000年(平成12年)の旧石器捏造事件の発覚により、前期・中期旧石器時代のものとされていた数多くの遺物石器)と、それらを検出した遺跡の存在が否定され、日本列島では4万年前-3万5千年前の後期旧石器時代の石器を最古と見る説が有力視されているが[5]、本遺跡など、4万年前以前に遡る可能性がある石器を有する遺跡の存在から、列島における前期・中期旧石器時代の存在を主張する説もあり[6]、2020年代の今日も意見が分かれている[7]
  2. ^ 石器岩石がマグマの貫入で熱を受けモザイク状に再結晶した変成岩、ホルンフェルスという石材は、中国山西省の丁村(ディンクン)遺跡で前期旧石器に使われていた。中国では角石と呼ばれる。

出典[編集]

  1. ^ 市民センター文化課 (2022年2月22日). “文化財の保護”. 遠野市. 2022年6月12日閲覧。
  2. ^ 共同通信 (2003年7月6日). “岩手・金取遺跡が国内最古 石器出土層9-8万年前”. 共同通信社. 2022年6月12日閲覧。
  3. ^ 産経新聞 (2009年9月28日). “国内最古の旧石器を出雲で発見 12万年前、これまでより3倍古く”. 産経ニュース. 2022年6月12日閲覧。
  4. ^ 読売新聞 (2009年9月30日). “日本最古、12万年前の石器みつかる”. 読売新聞社. 2022年6月12日閲覧。
  5. ^ a b 堤 2009, pp. 12–15.
  6. ^ a b 松藤 2014, pp. 106–107.
  7. ^ a b 堤 2020b.
  8. ^ 菊池 1986.
  9. ^ 市民センター文化課 (2022年1月25日). “市指定史跡金取遺跡の調査研究”. 遠野市. 2022年6月12日閲覧。
  10. ^ 上峯 2020, pp. 24–25.
  11. ^ 松藤 2014, p. 107.

参考文献[編集]

  • 菊池, 強一 著、宮守村教育委員会 編『金取遺跡』岩手県宮守村、1986年3月。 NCID BB13640232 
  • 松藤, 和人 著「日本列島の旧石器時代」、歴史学研究会・日本史研究会 編『日本史講座第1巻』東京大学出版会、2004年5月。ISBN 4130251015 
  • 松藤, 和人「日本列島の旧石器はどこまで遡る-岩手県金取遺跡第Ⅳ文化層の年代をめぐって-」『考古学に学ぶ(Ⅲ)森浩一先生傘寿記念献呈論集』同志社大学〈同志社大学考古学シリーズⅨ〉、2007年7月10日。 NCID BA82665359 
  • 堤, 隆『ビジュアル版・旧石器時代ガイドブック』新泉社〈シリーズ「遺跡を学ぶ」別冊第2巻〉、2009年8月25日。ISBN 9784787709301 
  • 松藤, 和人『日本列島人類史の起源-「旧石器の狩人」たちの挑戦と葛藤-』雄山閣、2014年5月30日。ISBN 9784639023135NCID BB15709599 
  • 堤, 隆『旧石器時代研究への視座』 1巻、2020年7月7日。doi:10.24484/sitereports.71530https://sitereports.nabunken.go.jp/71530 
  • 堤, 隆『旧石器時代研究への視座 No.2-特集:4万年前以前日本列島に人類はいたのか-』 2巻、2020年11月5日。doi:10.24484/sitereports.86546https://sitereports.nabunken.go.jp/86546 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

座標: 北緯39度23分25.1秒 東経141度20分25.9秒 / 北緯39.390306度 東経141.340528度 / 39.390306; 141.340528