酸化チタン(IV)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
酸化チタン(IV)
{{{画像alt1}}}
識別情報
CAS登録番号 13463-67-7
KEGG C13409
RTECS番号 XR2775000
特性
化学式 TiO2
モル質量 79.87 g/mol
外観 白色固体
密度 構造により異なる
融点

1870 °C

沸点

2972 °C

熱化学
標準生成熱 ΔfHo -944.7 kJ mol-1(rutile)[1]
標準モルエントロピー So 50.33 J mol-1K-1(rutile)
標準定圧モル比熱, Cpo 55.02 J mol-1K-1(rutile)
危険性
引火点 不燃性
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

酸化チタン(IV)(さんかチタン よん、: titanium(IV) oxide)は組成式 TiO2、式量79.9の無機化合物チタン酸化物で、二酸化チタン(: titanium dioxide)や、単に酸化チタン(: titanium oxide)、およびチタニア(: titania)とも呼ばれる。

天然には金紅石(正方晶系)、鋭錐石(正方晶系)、板チタン石(斜方晶系)の主成分として産出する無色の固体で光電効果を持つ金属酸化物。屈折率ダイヤモンドよりも高い。

構造[編集]

結晶構造にはアナターゼ型(正方晶)、ルチル型(正方晶、図参照)、ブルッカイト型(斜方晶)がある。アナターゼ型の酸化チタン(IV)を900 °C以上に加熱すると、ルチル型に転移する。また、ブルッカイトを650 °C以上に加熱すると、やはりルチル型に転移する。ルチル型は最安定構造であるため、一度ルチルに転移すると低温に戻してもルチル型を維持する。

化学的性質[編集]

酸化チタン(IV)は、フッ化水素酸、熱濃硫酸および溶融アルカリ塩に溶解するが、それ以外の酸、アルカリ、水および有機溶剤には溶解しない。

アナターゼ型のバンドギャップは3.2 eVであり、387 nm(紫外線)より短波長の光を吸収すると価電子帯電子伝導帯に励起され、自由電子と正孔を生成する。通常、自由電子と正孔は直ちに再結合し、熱に変わる。しかし、この正孔の酸化力は非常に強いため、これら自由電子と正孔が例えばと反応すると活性酸素種が生成される。

活性酸素種の生成は二酸化チタンへの超音波照射によっても引き起こすことができる。2008年に、二酸化チタン存在下での超音波照射の酸化力(ヒドロキシルラジカルの生成力)を、サリチル酸の酸化によるサリチル酸誘導体2,3-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)および2,5-ジヒドロキシ安息香酸 (2,5-DHBA)の生成によって評価した研究が行われた。その結果、酸化チタンと[[酸化アルミニウム]]の存在は超音波照射でのDHBA生成を促進させ、また、酸化チタンのヒドロキシルラジカルの生成力が酸化アルミニウムより優位に大きいことが明らかとなった[2]

600 °C以上では水素ガスにより部分的に還元され、青色のチタン(III)の混ざった酸化物を生成する。ただし酸素に触れると速やかに酸化チタン(IV)に戻る。従って、酸化チタン(IV)に担持した貴金属触媒を高温で水素還元すると、SMSI (Strong Metal Support Interaction) を発生しやすい。900℃以上の水素中で還元した場合は、濃青色の不定比組成の酸化チタンTiOx(x=1.85~1.94)を生成する[3]。常温常圧で酸素に触れても安定である。この組成では斜方晶系の結晶構造をもち、熱電変換能を示す[4][5]

用途[編集]

顔料・着色料[編集]

白色の塗料絵具釉薬、化合繊用途などの顔料として使われる。塗料の顔料には触媒としての活性の低く熱安定性等に優れるルチル型が用いられ、チタン白チタニウムホワイト(: titanium white)と呼ばれる。絵具として他の色と混ぜて使った場合、日光に長期間さらされると光触媒の作用によって脱色したり、絵具が割れてしまったりする場合がある[6][7][8][9]。また、人体への影響が小さいと考えられているため、食品医薬品化粧品着色料食品添加物)として利用されている。

光触媒[編集]

アナターゼ型とルチル型が用いられるが、アナターゼ型の方がバンドギャップが大きく一般的に光触媒としての活性が高い。

化学物質や微生物などの分解[編集]

387 nmより短波長の光を受けると、などに反応したときに種々の活性酸素種を生成する性質がある。活性酸素種は一般に非常に強い酸化力をもち、化学薬品や細菌などに対して分解作用を示す。

高分子電解質ポリアクリル酸(PAA)で化学修飾すると酸化チタンナノ粒子を中性pHで溶液中(例えば、浄水施設の浄水槽)に懸濁させることができる[10]。また、酸化チタンと異なり、PAAは酵素抗体といったタンパク質と容易に結合させることができ、この結合を介して、酸化チタンの有害物質分解にタンパク質の機能を連携させることができる。このため、汚染水の処理をはじめ、医療や公衆衛生でのこの技術の利用が期待されている。

抗菌素材[編集]

病院などで、壁や床が酸化チタンでコーティングされている。このコーティングにブラックライト(紫外線ランプ)を照らすだけで殺菌処理することができる[11]

水処理技術[編集]

17β-エストラジオール(E2)は河川や浄水処理水中での汚染が問題視されている環境ホルモンの一つであるが[注釈 1]、酸化チタンはE2を分解することができる。ポリアクリル酸(PAA)で修飾して中性pHで溶液中に懸濁するようにした酸化チタンも分解活性を持ち、E2で汚染された水に懸濁することでE2を分解除去することができる。

2007年に、抗E2抗体を、PAAのカルボン酸とこの抗体のアミノ基の間の共有結合を介して、PAAで修飾した酸化チタン(PAA-TiO2)ナノ粒子上に固定する技術が開発された[10]抗E2抗体固定化酸化チタン: anti-E2-antibody-immobilized TiO2: E2Ab-PAA-TiO2)ナノ粒子は、100nm未満の粒径で、中性pHで溶液中に懸濁することができる。このナノ粒子上の抗E2抗体は環境中からE2を認識して結合し、酸化チタンに引き寄せるため、E2Ab-PAA-TiO2ナノ粒子のE2分解効率はただのPAA-TiO2ナノ粒子よりも高い。

がん治療[編集]

PAA修飾酸化チタン(: PAA-modified TiO2:PAA-TiO2)ナノ粒子にがん細胞特異的な抗体を固定してがん細胞に集積するようにし、そこに外部からエネルギーを与えることで局所的に活性酸素種を生じさせ、がん細胞のみを死滅させる研究がおこなわれている。がん細胞を特異的に認識する抗EGFR抗体(la)を修飾したPAA-TiO2(PAA-TiO2/la)をがん細胞(Hela細胞)に添加し、わずか1J/cm2のUV照射を行うとHela細胞が特異的に死滅することが確認されている[12]。PAA-TiO2/laが最もラジカルを多量に生じさせるUV照射量は3J/cm2である[11]

酸化チタンの活性化に超音波を使用する方法も研究されている。肝細胞を認識するB型肝炎ウイルス由来のpre-S1/ S2タンパク質をアミノカップリング法で表面に固定した酸化チタンナノ粒子は肝細胞に特異的に取り込まれる。この性質を利用し、TiO2/ pre-S1/S2タンパク質(肝細胞を認識するタンパク質のモデル)をHepG2がん細胞(ヒト肝癌由来細胞株)に取り込ませ、超音波を照射するとHepG2がん細胞を特異的に損傷させることができることが2010年に報告された[13]。0.4 W/cm2の超音波照射強度で顕著な細胞損傷が観察された。この方法は二酸化チタン/超音波照射法 (: ultrasound irradiation(US/TiO2) method)と名付けられており、従来の光線力学的治療(PDT)[注釈 2]を用いた手法に代わるがん治療法(超音波力学的治療: sonodynamic therapy)として期待されている。

2012年に報告された更なる研究で、HepG2がん細胞へのTiO2/pre-S1/S2タンパク質の取り込みには6時間かかり、取り込んだ細胞に1 MHzの超音波を照射(0.1 W/cm2、30秒)すると細胞損傷および死滅が起こることが実証された[14]。すなわち、アポトーシスがUS/TiO2法処理の6時間後に観察され、生存能力のある細胞濃度は96時間でコントロールの46%にまで低下した。また、HepG2細胞を移植したマウスの腫瘍にTiO2/pre-S1/S2(0.1 mg)を直接注入し、1 MHzの超音波照射を1.0 W/cm2で60秒間施す実験も行われた。超音波照射も酸化チタンの注入もされていないコントロール群のマウスと超音波照射だけ施されたマウスでは腫瘍体積の増加が多く見られたが、US/TiO2法を試みたマウスでは体積の増加が抑えられており、腫瘍の増殖に対する阻害効果が観察された[14]

オフセット印刷[編集]

光を照射すると導電化する性質を利用し、オフセット印刷の感光体として用いられている。感光波長が紫外域のため、明室処理が可能である。酸化亜鉛を利用した従来のものよりも耐久性が高く、解像度も高い。

触媒担体[編集]

固体触媒の担体として用いられる場合がある。

日焼け止め[編集]

400 nmよりも短波長の光を強く吸収する一方で、可視光吸収は無いため日焼け止め(サンスクリーン剤)にも使われる[15]

色素増感太陽電池[編集]

色素増感太陽電池の開発において、増感色素を担持させて可視光線~赤外線を取り込む電極材料として注目されている。

製造[編集]

イルメナイト鉱石(FeTiO3

工業的生産では原料にルチル鉱石またはイルメナイト鉱石(FeTiO3)が用いられている。主な製造法には塩素法: chlorine method(気相法: gas phase method)と硫酸法: sulfuric acid method(液相法: liquid‐phase method)の二種類があり、欧米では塩素法、日本では硫酸法が主流である。

塩素法は原料(ルチル鉱石)をコークス塩素と反応させ、一度ガス状の四塩化チタンにする。ガス状の四塩化チタンを冷却して液状にした後、高温で酸素と反応させ、塩素ガスを分離することによって酸化チタンを得る。

硫酸法は原料(イルメナイト鉱石)を濃硫酸に溶解させ、不純物である鉄分を硫酸鉄(FeSO4)として分離し、一度オキシ硫酸チタン(TiOSO4)にする。これを加水分解するとオキシ水酸化チタン(TiO(OH)2)となり沈殿する。この沈殿物を洗浄・乾燥し、焼成することによって酸化チタンを得る[16]

日本では石原産業堺化学工業テイカチタン工業富士チタン工業などが製造している。

アナターゼ型酸化チタンの2007年の日本国内生産量は39,071トンである。ルチル型酸化チタンの2007年の日本国内生産量は206,905トンである[17]

発がん性[編集]

世界保健機関は「発がん性の可能性がある」と指摘している。特に粉塵に関しては、疎水性の微粒子が肺に与える影響が懸念されている。IARC は、発がん性に関してグループ3(ヒトに対する発癌性が分類できない)に分類していたが、2006年にグループ2B(人に対して発がん性がある可能性があるもの)に変更している[18]。妊娠中のマウスに皮下注射された酸化チタン(IV)ナノ粒子が、胎児の未発達な血液脳関門や精巣関門を通過して脳や精巣に到達し、機能低下を引き起こしたという報告もある[19]

注釈[編集]

  1. ^ 17β-エストラジオール(E2)は魚類体内においてエストロゲン(女性ホルモン)として振る舞う。また、魚類は鰓や皮膚で常に直接水と接触しているため、環境水中のエストロゲンやエストロゲン様物質の影響を受けやすい。このため、環境水に溶け込んだE2に魚類が被爆するといわゆる内分泌かく乱が起こりやすく、オスの魚類生物のメス化を引き起こす。E2が原因と考えられている水圏環境汚染の事例はいくつか報告されている。例えば、1980年代前半にイギリスの下水処理場放流先河川から雌雄同体化したコイ科ローチが頻繁に見つかり、下水処理水に含まれるE2などの天然エストロゲンなどの化学物質が主な原因と考えられた。日本で平成10年から4年間行われた、全国109水系の一級河川でのエストロゲン汚染の実態把握調査では、E2濃度は最高27ng/L検出され、E2が検出された水系は全体の72%だった。(出典:田中宏明; 山下尚之 (2005). "し尿に由来する河川のエストロゲン汚染と魚類の雌性化". J. Natl. Inst. Public Health 54 (1): 22–28。http://www.niph.go.jp/journal/data/54-1/200554010005.pdf)
  2. ^ 光線力学療法( (: photodynamic therapy:PDT)とは、光照射による活性酸素種(: reactive oxygen species:ROS)の生成現象を利用するがん治療法の一つであり、新しい技術としてよく研究されている。典型的なPDTはポルフィリンIXのような光反応性のROS合成物質及びそれを活性化させる何か、典型的にはレーザー、を組み合わせた治療法である。PDTは、細胞の損傷もしくは死滅を引き起こすROSが生成されることにより効果を発揮する。しかし、レーザー照射範囲が限られるために、PDTの医療利用は皮膚がんの場合に制限されている。出典: Baozhong Zhao; Yu-Ying He (2010). " Recent advances in the prevention and treatment of skin cancer using photodynamic therapy". NIHPA Author Manuscripts 10 (11): 1797–1809。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3030451/

出典[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982).
  2. ^ Nobuaki Shimizu; Chiaki Ogino; Mahmoud Farshbaf Dadjour; Kazuaki Ninomiya; Kazumichi Sakiyama (2008). "Sonocatalytic facilitation of hydroxyl radical generation in the presence of TiO2". Ultrasonics Sonochemistry 15 (6): 988–994. 
  3. ^ I. Tsuyumoto, H. Uchikawa (2000). "New Orthorhombic Titanium Oxide, TiO1.94". Journal of Materials Science Letters 19 (23): 2075. doi:10.1023/A:1026733617500. 
  4. ^ I. Tsuyumoto, T. Hosono, M. Murata (2006). "Thermoelectric power in nonstoichiometric orthorhombic titanium oxides". Journal of the American Ceramic Society 89 (7): 2301. doi:10.1111/j.1551-2916.2006.00979.x. 
  5. ^ 新しい不定比酸化チタンを利用した熱電変換素子の開発”. 日産科学振興財団研究報告書. 2009年2月1日閲覧。
  6. ^ http://nanonet.mext.go.jp/modules/news/article.php?a_id=690
  7. ^ http://www.nipponpaint.co.jp/r&d/tc14/k1.pdf
  8. ^ http://www.kanagawa-iri.go.jp/kitri/kouhou/kenkyu_houkoku/H19/12houkoku.pdf
  9. ^ http://www.photocatalysis.com/sekininsya/sekininsha_koushuu/3-5.suishitu-jouka-gijutu_.pdf
  10. ^ a b Chiaki Ogino; Koki Kanehira; Ryosuke Sasai; Shuji Sonezaki; Nobuaki Shimizu (2007). "Recognition and effective degradation of 17β-estradiol by anti-estradiol-antibody-immobilized TiO2 nanoparticles". Journal of Bioscience and Bioengineering 104 (4): 339–342. 
  11. ^ a b 荻野千秋 (2014). "二酸化チタン粒子の生物学的応用 無機ナノ粒子への外部刺激による活性酸素生成の生物学的利用". In 日本農芸化学会. 化学と生物 KAGAKU TO SEIBUTSU 53 (1): 9–11. 
  12. ^ Kazusa Matsui; Miki Karasaki; Maiko Segawa; Sang Youn Hwang; Tsutomu Tanaka; Chiaki Ogino; Akihiko Kondo (2010). "Biofunctional TiO2 nanoparticle-mediated photokilling of cancer cells using UV irradiation". MedChemComm 1 (3): 209–211. 
  13. ^ Chiaki Ogino; Naonori Shibata; Ryosuke Sasai; Keiko Takaki; Yusuke Miyachi; Shun-ichi Kuroda; Kazuaki Ninomiya; Nobuaki Shimizu (2010). "Construction of protein-modified TiO2 nanoparticles for use with ultrasound irradiation in a novel cell injuring method". Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 20 (17): 5320–5325. 
  14. ^ a b Kazuaki Ninomiya; Chiaki Ogino; Shuhei Oshima; Shiro Sonoke; Shun-ichi Kuroda; Nobuaki Shimizu (2012). "Targeted sonodynamic therapy using protein-modified TiO2 nanoparticles". Ultrasonics Sonochemistry 19 (3): 607–614. 
  15. ^ 日焼け止め成分(サンスクリーン剤)の有効成分一覧”. 薬辞苑、オフィスミックス(大阪). 2009年2月1日閲覧。
  16. ^ チタン鉱
  17. ^ 経済産業省生産動態統計調査 (Microsoft Excelファイル)”. 経済産業省. 2009年2月1日閲覧。
  18. ^ TITANIUM DIOXIDE (PDF)” (英語). 国際がん研究機関(IARC) (2006年2月27日). 2014年8月6日閲覧。
  19. ^ Ken Takeda et al. (2011). "ナノマテリアルの次世代健康影響―妊娠期曝露の子に及ぼす影響". YAKUGAKU ZASSHI (日本薬学会) 131 (2): 229–236. 

参照文献[編集]

関連項目[編集]