赤外線

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赤外線(せきがいせん)は、可視光線の赤色より波長が長く(周波数が低い)、電波より波長の短い電磁波のことである。ヒトの目では見ることができないである。分光学などの分野で IR (infrared) と略称される。

目次

[編集] 赤外線の種類

赤外線は赤色光よりも波長が長く、ミリ波長の電波よりも波長の短い電磁波全般を指し、波長ではおよそ 0.7μm - 1mm (=1000μm) に分布する。

さらに、波長によって、近赤外線中赤外線遠赤外線に分けられる。それぞれの波長区分は学会によって若干異なり、下記の区分はその一例である(例えば天文学では10μmくらいまでが中赤外線として扱われることが多い)。

[編集] 近赤外線

近赤外線は波長がおよそ0.7 - 2.5μmの電磁波で、赤色の可視光線に近い波長を持つ。性質も可視光線に近い特性を持つため「見えない光」として、赤外線カメラ赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている。

[編集] 中赤外線

中赤外線は、波長がおよそ2.5 - 4μmの電磁波で、近赤外線の一部として分類されることもある。赤外分光の分野では、単に赤外と言うとこの領域を指すことが多い。1300 - 650 cm−1 の領域は指紋領域と呼ばれ、物質固有の吸収スペクトルが現れるため、化学物質の同定に用いられる。

[編集] 遠赤外線

遠赤外線は、波長がおよそ4 - 1000μmの電磁波で、電波に近い性質も持つ。赤外線は物体からは必ず放射されていて、この現象を黒体放射と呼ぶ。高い温度の物体ほど赤外線を強く放射し、放射のピークの波長は温度に反比例する。室温20℃の物体が放射する赤外線のピーク波長は10μm程度である。熱線とも呼ばれる。

[編集] 特性

赤外線は大気に吸収され、その一部が地上に届く。

地球放射の一部と太陽放射(0.8micron以下。幅が狭いため正確に表現できていない)のスペクトル。青い部分の上下幅が広いところが大気の窓。横軸(Wavelength)が波長、縦軸(Transmittance)が放射の透過率を表す。

水は遠赤外線よりも近赤外線を強く吸収するが、いずれの波長も数mm以上は透過しない[1]。「遠赤外線は体の内部まで浸透し内側から温める」と言われることがあるが、間違いである[2]

水に対する吸光度は中赤外線および遠赤外線において高く、したがって生体組織(特に、水分を多く含んだ組織)に対しては浅い部分でその多くが吸収される[3]。このような波長のレーザである炭酸ガスレーザ(λ=10.6μm)やEr:YAGレーザ(λ=2.94μm)は生体組織の切開や蒸散(いずれも凝固に比べ高いエネルギー密度や位置選択性が要求される)に利用されている。

[編集] 発見

1800年イギリスウィリアム・ハーシェルにより赤外線放射が発見された。彼は太陽光をプリズムに透過させ、可視光スペクトルの赤色光を越えた位置に温度計を置く実験を行った。この実験で温度計の温度は上昇し、このことから彼は、赤色光の先にも目に見えない光が存在すると結論づけた。この発見に刺激され、翌1801年にはドイツヨハン・ヴィルヘルム・リッターにより紫外線も発見されている。

1850年にはイタリアマセドニオ・メローニが、赤外線には反射、屈折、偏光、干渉、回折がみられ、その性質は可視光と同じであることを実験によって示した。

[編集] 用途

[編集] 熱源機器

カーボンヒーター。ピーク波長は遠赤外線領域で、輻射の大部分が赤外線である。

遠赤外線(熱線)の輻射は対象物に熱を与える効果があり、暖房や調理器具などとして利用されている。多くの暖房器具は輻射を利用しているが、暖房効果における輻射の比率には大小がある。主に輻射による暖房器具として、こたつ電気ストーブなどがある。燃焼を使う器具は温度が高いため可視光の比率が多いが、温度の低い触媒燃焼を利用する器具もある。輻射を利用した調理器具としては電気オーブンやオーブントースターが挙げられる。また塗装の行程で塗装面に熱を与えて硬化させる場合には輻射を利用した専用のヒーターが用いられる。

浄水器や燃費改善剤など、遠赤外線の効果を謳う商品の中には、科学的に実証されていない疑似科学にすぎない商品もある。


[編集] 近赤外線カメラ

近赤外線に感光する赤外線フィルムイメージセンサなどを用いることで、肉眼で見える像とは異なる映像を撮影することができる。例えば、波長が長いため可視光に比べて散乱しにくい性質を利用して、煙や薄い布などを透過して向こう側の物体を撮影するために用いることができる。この特長を悪用して水着を透かす盗撮行為が横行したため、赤外線に透けない素材の使用を売りにした水着も販売されている。赤外線フィルムや大半の撮像素子はモノクロカメラと同様の構造で異なる波長に対応していないので、通常は近赤外線カメラから得られる画像はモノクロ画像である。

また、赤外線は目に見えないため、夜間に被写体を近赤外線光源で照らしても被写体に気付かれることなく撮影することができる。夜行性の野生動物を撮影する用途に用いられるほか、防犯用途として相手を刺激せずに撮影することができる。近年の世界的な治安悪化で、近赤外線まで感度分布を持つCCDと赤外線LED照明を使用した監視カメラが、街中の監視カメラや各種料金所ゲートのカメラ、家庭用のドアホンまで幅広く利用されてきている。100m先の物体を照らすことのできる光源も存在する。軍事用の暗視スコープでも、ライトやから放たれるわずかな可視光線のほかに、近赤外線を増幅して明瞭な画像を得ている。

赤外線カメラは可視光を遮断する赤外線フィルタを通して用いる。なお赤外線は可視光と比べてガラスに対する屈折率も小さいため、撮影の際には焦点距離を大きく取る必要があるものもある。そのため、一部のレンズには通常の光で焦点を合わせた後、赤外線でピントを合わせるための目印を付けたものもある。

[編集] 熱映像装置

熱映像装置で撮影した子犬

遠赤外線領域を検知する映像装置を使うと、熱源となる物体や生物が発する遠赤外線を検出して撮影することができる。被写体自身が発光体として認識されるため、外部の光源が一切無い状態でも認識することができる。遠赤外線は近赤外線よりも更に波長が長いため透過性なども大きく、反射面の表面が多少荒れていても反射するが、映像装置としては極めて分解能が低くなり、動画を撮影する場合、可視光のカメラと比較して残像が長く残る。遠赤外線の強度を解析することで温度分布を割り出し表示する映像装置が、サーモグラフィー(熱映像)である。通例、高温の部分を赤い色で、低温の部分を青い色で表示するものが多い。

撮像素子は一次元(直線型)と二次元(面型)があり、一次元の撮像素子は鏡等で走査したり、気象衛星地球観測衛星などの人工衛星に搭載する場合は人工衛星自体が回転したり移動することによって走査する。一般的に二次元の撮像素子よりも一次元の撮像素子の方が高分解能を得られる。

赤外線撮像素子には大きく分けて冷却式の量子型と非冷却式のボロメータ型の2通りがある。

冷却式赤外線カメラ
量子型赤外線撮像素子はCCDイメージセンサCMOSイメージセンサといった固体撮像素子と同様に光子がPN接合に入射した時に生じる電荷を検出することで撮像する。
量子型は熱雑音の影響を受けやすく、撮像素子自体が発する熱を検出してしまうため撮像素子を被写体に比べ十分に低温に保つ必要がある。真空に維持された筐体に収められ極低温に保たれる。用途や要求される水準にもよるが、温度は通常60K~100K(-213℃~-173℃)である。冷却する必要があるので作動に時間がかかる。冷却型撮像素子を用いる赤外線カメラは極低温に冷却装置には通常スターリング冷凍機が用いられる。また、赤外線誘導ミサイル等の場合、圧縮されたガスを膨張させることによってジュール=トムソン効果によって冷却する。この場合、冷媒は使い捨てである。赤外線宇宙望遠鏡の場合は冷却材が喪失した時点で事実上の寿命を迎える物もあり、最近は冷却材の喪失後は他の観測機での観測に切り替えて運用する場合が多い。
量子型は用いる半導体の種類により、赤外線の波長により感度が変わる(波長依存性)。人工のものの場合数十度の差、ピット器官による熱映像視野を持つなどは数度の差。
非冷却式赤外線カメラ
ボロメータ型赤外線撮像素子は赤外線の入射に伴う温度変化を検出することで撮像する。ボロメータ型は強誘電性材料の自発分極を利用したものや、熱電対を利用した物や、トムソン効果を用いたものがあり、ボロメータ熱電対強誘電体などを基板上に形成した撮像素子があり、半導体の製造で培われた微細加工技術を応用して製造される。温度に応じて可逆的に変色する感温液晶マイクロカプセルを塗布した撮像素子による赤外線画像の撮像方法もある。
従来、遠赤外線の撮像を行う赤外線カメラでは撮像素子を冷却する必要あったが、近年は各国で非冷却式赤外線撮像素子の開発が進められている。これらの撮像素子は冷却機を必要としないため小型、軽量化できるが、その反面、素子の熱容量に影響を受けるため、解像度や階調、残像、感度など、画質は冷却型と比較した場合に劣る。
ボロメータ型撮像素子の場合、熱源と背景の赤外線の放射量の差が存在しなければ何も検知することができない。すなわち、背景と熱源の温度差が小さい場合は背景と熱源を見分けることが難しく、温度差が無い場合には原理的に撮影することができない。

[編集] 赤外線リモコン

屋外で使う自動車用ドアロック・ワイヤレスリモコンは周囲の明るい光が妨害源となり赤外線通信には不向きであるので電波を利用するものが多いが、強烈な光に晒されることのない屋内で使われる家電製品のワイヤレスリモコンは電磁ノイズの影響を受けない赤外線を利用しているものがほとんどである。

[編集] 赤外線通信

赤外線通信 (D901iS)

近距離赤外線通信規格IrDAの携帯電話への普及により、赤外線通信が一般に認知され、使用されるようになった。電波で通信する方式に比べて、信号が空間的に広がりにくく(回折を起こさず)、障害物があると通信できない欠点はあるものの、それは第三者に傍受されにくいというセキュリティ上の大きな長所でもある。

ザウルスなどの以前の機種では、ASK方式が用いられていた。

[編集] 静脈認証

生体認証の一方式として使用される。皮膚への浸透深度は近赤外線域では数mm(最大6mm)である。短波長側(0.7 - 0.8μm)の近赤外光は静脈認証[4]や医療用の一部の検査装置[5]などに利用される。静脈認証は静脈血内のヘモグロビンが近赤外光を強く吸収する性質を利用している[6]

[編集] 赤外分光法

全ての分子にはある決まった周波数の電磁波を吸収する性質がある。これを赤外線の領域で調べる手法が赤外分光法 (IR法) であり、分子内部における原子の振動状態を通じて物質の構造に関する知見を得ることができる。赤外領域の基準振動がスペクトル分析の基本であるが、吸収が大きすぎるため、近赤外領域にある、吸収の少ない倍音、三倍音を観測することもある。近赤外の分光法は赤外に比べ感度が極めて低く、そのため利用が遅れていたが、分析手法の発達により、非破壊検査・測定に利用されるようになった。

[編集] リモートセンシング衛星

地表や海面の温度を調べるのはもちろんのこと、植生の状況をモニタリングするために近赤外域や中間赤外域(短波長赤外域)が使用される。植生は太陽光の可視域の反射が低く,近赤外域の反射が非常に強いという分光反射特性をもつ。可視赤色域と近赤外域を用いた植生指数が多数提唱されている。

[編集] 赤外線天文学

赤外線で星や銀河等を観測することにより、他の波長の電磁波ではわからない現象を調べることができる。例えば我々の銀河系中心方向には視線方向に、可視光を吸収してしまう星間物質があるため可視光線では観測できないが赤外線を検出することにより、銀河中心付近の星の分布などを調べることができる。

[編集] 音の伝送

のワイヤレス伝送を行う場合に、電波を使わずパルス変調した赤外線を光源から発信し、受光器で受信して復調する機器がいくつか存在する。家庭用ではヘッドフォンで使用され、業務用ではカラオケマイクロフォン同時通訳を聞く際のレシーバに使用されている。

電波と異なり壁を透過しないので外部との混信や盗聴の心配がすくなく、マルチチャンネル化も容易で利便性が高いが、一方で送受信器の間に大きな物体があるなど赤外線が届かない条件もしばしば起きるため、使用場所の形状によっては送受信器のうち固定器側について数を増やしたり、人や物に遮られない高所に設置するなどの検討が必要になる。また移動器側も衣服のポケットに入れたり、手で握るなど赤外線を遮らないよう注意する必要がある。受信機に太陽光などの強力な熱線が当たると受信センサーの赤外線が飽和して伝送が不調になる場合もある。

[編集] 熱紋

熱紋とは熱源から放射される赤外線の固有の波長分布や形状を指し、熱紋をデータベースと照合することにより熱源を同定することができる。

[編集] 出典

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  1. ^ 赤外線の話 - 図5 膜厚が異なる水膜の赤外吸収スペクトル
  2. ^ 社団法人遠赤外線協会「遠赤外線とは?・遠赤外線技術」
  3. ^ 日本生体医工学会監修「MEの基礎知識と安全管理 改訂第5版」p51
  4. ^ マイクロソフト Enterprise Web「IT先進企業 日立製作所」
  5. ^ 近赤外線トポグラフィによる脳機能計測 (PDF)(一例)
  6. ^ 実用化が進む生体認証技術 (PDF) - 静脈認証技術とその適用事例(沖電気)

[編集] 関連項目

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