遠い呼び声の彼方へ!

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Es(=S) - E - A
(「海」のモチーフ)

遠い呼び声の彼方へ! 』(: Far calls. coming, far! ) は、武満徹民主音楽協会の委嘱により1980年に作曲した、ヴァイオリン管弦楽のための作品。第29回尾高賞を受賞した。

概要[編集]

タイトルは、ジェイムズ・ジョイスの小説『フィネガンズ・ウェイク』の最後のパラグラフ "Far calls. Coming,far!" からとられている[1]。武満はダブリン市を流れるリフィー河が海に入る光景のイメージから、「ヴァイオリンが調性の海に流れ込んで行く」音楽を構想した[2]。海を表すモチーフ(Es(=S) - E - A)が重要な役割を果たしており、このモチーフは翌年の『ア・ウェイ・ア・ローン』、『海へ』にも用いられている[3]。『武満徹の音楽』の著者ピーター・バートは本作品について、アルバン・ベルクヴァイオリン協奏曲からの影響を指摘している[4]

初演は同年の5月24日に行われた民音現代作曲家音楽祭において、アイダ・カヴァフィアンのヴァイオリン、尾高忠明指揮東京都交響楽団の演奏で行われた。

娘の武満眞樹に献呈。

演奏時間[編集]

約15分。

楽器編成[編集]

独奏ヴァイオリン、フルート3(一番はピッコロ持ち替え)、オーボエ3(3番はイングリュッシュホルン持ち替え)、クラリネット4(3番は小クラリネット、4番はバスクラリネット持ち替え)、2バスーンコントラバスーンホルン4、トランペット3、トロンボーン2、チューバハープ2、チェレスタティンパニ(4個、一人)、打楽器4人(チューブラー・ベルグロッケンシュピールヴィブラフォーン懸垂シンバル3、アンティークシンバル2、ゴング中)、トムトム3、弦5部(16,14,12,10,8)

ショット社のスコアによる。

構成[編集]

曲は海(sea)を表す上行形のモチーフによる音名、Es-E-A(変ホ-ホ-イ)が用いられている。ある低回を経てから、基音をハ(C)にもつ主流へと進んで行く。

録音[編集]

指揮者 独奏者 管弦楽団 レーベル 録音年代 備考
岩城宏之 徳永二男 NHK交響楽団 キングレコード 1983年 尾高賞受賞作品シリーズ。
岩城宏之 徳永二男 NHK交響楽団 キングレコード 1990年 現代日本の音楽シリーズ。
岩城宏之 マイケル・ダウス メルボルン交響楽団 RCAビクター 1990年
若杉弘 堀米ゆず子 東京都交響楽団 DENON 1991年
シャルル・デュトワ 諏訪内晶子 NHK交響楽団 DECCA 2001年
パーヴォ・ヤルヴィ 諏訪内晶子 NHK交響楽団 RCAビクター 2017年

脚注[編集]

  1. ^ 武満徹『夢と数』リブロポート、1987年6月1日、23頁。 
  2. ^ 楢崎洋子『武満徹』音楽之友社、2005年、129頁
  3. ^ 小野光子『武満徹』株式会社ヤマハ・エンタテインメントホールディングス〈日本の音楽家を知るシリーズ〉、2017年6月10日、72-73頁。 
  4. ^ ピーター・バート著、小野光子訳 『武満徹の音楽』、音楽之友社、2006年2月10日、ISBN 4-276-13274-6、230-231頁

参考文献[編集]

  • 武満徹『夢と数』リブロポート、1987年6月1日。 
  • 小野光子『武満徹』株式会社ヤマハ・エンタテイメントホールディングス〈日本の音楽家を知るシリーズ〉、2017年6月10日。 

関連項目[編集]

  • 辻井喬 - 武満の友人で、彼の死去後の2001年に詩集『呼び声の彼方』(思潮社)を謹呈した。
  • 海へ - 「海のモチーフ」を使用した武満の作品。