遅延ポテンシャル

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電磁気学における遅延ポテンシャル(ちえんぽてんしゃる、: retarded potentials)は、真空におけるポテンシャル形式のマックスウェル方程式英語版の解の一つで、与えられた電荷分布と電流分布によって作られる電磁場を表す。

概要[編集]

概要[編集]

遅延ポテンシャル[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10][11][12][13] [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21] [22][23]は、真空におけるポテンシャル形式のマックスウェル方程式英語版(後述の式(1-2-4))の解の一つで、以下の式(1-1-1)で与えられる。本節では、必要に応じたいくつかの数学的補足[24] [25] [26] [27] [28] [29] [30] [31] [32] [33]をしながら、遅延ポテンシャルについて論じる。


\mathbf{A}_{ret}(\mathbf{r},t) =
\dfrac{\mu_0}{4\pi} \int \dfrac{\boldsymbol{i}(\mathbf{s},{t}_{ret})}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|} \mathrm{d} \mathbf{s}
 (1-1-1a)

\varphi_{ret}(\mathbf{r},t) =
 \dfrac{1}{4\pi \epsilon_0} \int \dfrac{\rho(\mathbf{s},{t}_{ret})}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|} \mathrm{d} \mathbf{s}
 (1-1-1b)

ここで、ds は、微小体積要素を表す。また、tretは、遅滞時間を表し、以下の式で与えられる。

{t}_{ret}\ \stackrel{\text{def}}{=}\ t - \frac{|\mathbf{r} - \mathbf{s}|}{c}\,\! (1-1-2)

電磁場は、光速c で伝播する。光速は有限な速度である。従って、過去に発生した原因(電流、電荷分布)と、それに起因して未来に起こる結果(電磁波の観測)との間には、時間遅れが生じる。遅滞時間は、この時間遅れを表現している。

ジェフィメンコ方程式との関係[編集]

遅延ポテンシャルに対して、

\mathbf{B}=rot\mathbf{A}(1-1-3a)
\mathbf{E}=-\frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t}-grad[\phi] (1-1-3b)

とすると、ジェフィメンコ方程式[14],[8],[7],[13],[14]即ち

\mathbf{B}(\mathbf{r}, t) 
= \frac{\mu_0}{4 \pi} 
{\int}_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}} 
\left(
\frac{
\boldsymbol{i}(\mathbf{s}, {t}_{ret})}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|^3} 
+ \frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|^2 c}\frac{\partial 
\boldsymbol{i}(\mathbf{s}, {t}_{ret})}{\partial t} 
\right) \times (\mathbf{r}-\mathbf{s}) \mathrm{d}^3 \mathbf{s} (1-1-4a)
\mathbf{E}(\mathbf{r}, t) = 
\frac{1}{4 \pi \epsilon_0} 
{\int}_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}  
\left( 
\left( 
\left(
\frac{\rho(\mathbf{s}, {t}_{ret})}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|^3} 
+ \frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|^2 c}
\frac{\partial \rho(\mathbf{s}, {t}_{ret})}{\partial t}
\right)
(\mathbf{r}-\mathbf{s}) 
\right)
- \frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}| c^2}\frac{\partial \boldsymbol{i}(\mathbf{s}, {t}_{ret})}{\partial t} 
\right) 
\mathrm{d}^3 \mathbf{s} (1-1-4b)

が導出される。式(0-1-4a), (0-1-4b)は、共に、通常の意味のマックスウェル方程式(式(1-2-1),(1-2-2))の解になっている(詳細は、Wikipediaの項目ジェフィメンコ方程式を参照のこと)。ここで、\mathbb{R}^{n}(あるいは、HTML表記のRnは、n次元実数ベクトル空間を意味する。

議論の出発点[編集]

議論の出発点は、以下のマックスウェルの方程式

[M1] div \mathbf{B}=0 (1-2-1a)
[M2] rot \mathbf{E}+\frac{\partial\mathbf{B}}{\partial t}=0 (1-2-1b)
[M3] rot \mathbf{H}-\frac{\partial\mathbf{D}}{\partial t}=\boldsymbol{i} (1-2-1c)
[M4] div \mathbf{D}=\rho (1-2-1d)

であり、真空中について検討しているため、以下の構造方程式が考え併せられる。

[SE1]  \mathbf{B} = {\mu_0} \mathbf{H}  (1-2-2a)
[SE2]  \mathbf{D} = {\epsilon_0} \mathbf{B}  (1-2-2b)

ここで、iは、与えられた電流密度を表すベクトル場 ρは、電荷密度を表すスカラー場、B, E, H, Dは、 それぞれ、磁束密度、電場、磁場、電束密度を表すベクトル場であり、 μ0は、真空の透磁率を表す実定数、 ε0は、真空の誘電率を表す実定数である。

マックスウェルの方程式に対し、ローレンツゲージ [34] [35]

\operatorname{div}A + \frac{1}{c}\frac{\partial\varphi}{\partial t}=0 (1-2-3)

を課すことで、以下のポテンシャル形式のマックスウェル方程式が得られる。

\Box \mathbf{A}= - {\mu_0} \mathbf{i} (1-2-4a)
\Box \varphi = - \dfrac{\rho}{\epsilon_0} (1-2-4b)

上記のポテンシャル形式のマックスウェル方程式は、φ(r, t ) 、A(r, t )それぞれについて、独立に解くことが出来る。ここで、φ(r, t ) は電位A(r, t ) は磁気ベクトルポテンシャルを意味し、(勝手に)与えられた電荷分布をρ(r, t ) 、(勝手に)与えられた電流密度i(r, t )とする。さらに、 \Box は、 ダランベール演算子、即ち、

\Box =-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial{t}^{2}}+ {\nabla}^{2} (1-2-5)

を表す[注釈 1]c光速を表す。

遅延ポテンシャル(1-1-3)は、上記の偏微分方程式を、以下の仮定の下で解いた厳密解である。

  • 電荷密度ρ(r, t )と、 電流密度 i(r, t )とが、r, t のみの関数である(自分自身の作り出す電場や磁場の影響を受けない)。
  • 前記の電流密度と、電荷密度以外に、電場、磁場を生み出すものが存在しない。
  • 電荷密度、電流密度は、無限の過去では、0に収束する。
  • 電荷密度、電流密度は、無限遠では0に収束する。
  • 電荷密度、電流密度は、自由空間に配置されている(境界のない時空間を仮定している)。
  • 時空因果律が成り立つ。

1番目以外の仮定以外は物理学的にもっともらしい仮定だが、1番目の仮定は近似的である。即ち、仮に真空中であってもベルシェ効果等の自己相互作用が無視できないケースでは、適用ができないことを意味し、さらに、物質が介在するような一般的な場合には、電流密度の存在が新たな電流密度(例えば、磁化電流や渦電流等)を発生させたり、電荷密度の存在が、あらたな電荷密度(分極電荷)を発生させるといった効果があり得るため、適用に注意を要する。この意味で、遅延ポテンシャルは数学的に厳密解であるのと同時に、物理学的には近似解としての性格を持つ。

マックスウェルの方程式から遅延ポテンシャルを導出[編集]

ポテンシャル形式のマックスウェルの方程式から、遅延ポテンシャルのうち、 特に磁気ベクトルポテンシャルについてを導出する。導出の戦略は下記の通りである。

  • STEP1:ポテンシャル形式のマックスウェル方程式のフーリエ変換
  • STEP2:グリーン関数が従う方程式を導出する。
  • STEP3:Step2で得られた方程式の空間成分に球面座標変換を施し、等方性(球称性)を考慮する。
  • STEP4:グリーン関数を求める。
  • STEP5:解のフーリエ逆変換1
  • STEP6:解のフーリエ逆変換2
  • STEP7:時空因果律に反する解を棄却する。

電位スカラーポテンシャルも同様に導出されるが、これについては、 上記戦略にて同様に導出される[注釈 2]ので、省略する。

本節の議論は、オッペンハイマー[1](特に7章p33以降)川村[2](p151~),砂川[3](特にP254付近)と概ね[注釈 2]同等である。 従って、本筋の部分については、個々の補助定理や個々の結論にいちいち文献指示をつけない。 本記事は、現代工学との整合性に留意し、E-B対応、SI単位系で議論しているが、上記文献の中には別の立場に立っているものもある。しかし単位の換算程度の問題については、特段断わりをいれない。数学的な扱い等に特に留意を要する個所については重要性、難易度に応じ、文献指示、脚注、付録をつけることにする。

STEP1[編集]

本節では、ポテンシャル形式のマックスウェル方程式の両辺の、A, iそれぞれの、時間成分に対し、 それぞれ、(一変数の意味で)フーリエ変換[注釈 3]を施す。本節の結論は、以下の補題1に集約される。

式(2-1-2)の\hat{\mathbf{A}}(x,y,z,\omega), \hat{\boldsymbol{i}}(x,y,z,\omega) は、{\mathbf{A}}(x,y,z,\omega), {\boldsymbol{i}}(x,y,z,\omega)の時間成分に 一変数関数の意味でフーリエ変換を施して得られたものである。 [注釈 3] [注釈 4][注釈 5] 従って、当然、\hat{\mathbf{A}}(x,y,z,\omega), \hat{\boldsymbol{i}}(x,y,z,\omega)それぞれに(一変数の意味でωについて)フーリエ逆変換を施すと、

\mathbf{A}(t,\mathbf{r}) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{\omega=-\infty}^{\omega=\infty} \hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \ \mathrm{d}\omega 
 (2-1-5a)
\boldsymbol{i}(t,\mathbf{r}) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{\omega=-\infty}^{\omega=\infty} \hat{\boldsymbol{i}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \ \mathrm{d}\omega  (2-1-5b)

を得る。式(2-1-5)を、 式(2-1-1)に代入することで、(ダランベールシアンから)時間成分を消去することを考える  

まず、式(2-1-1) の左辺について検討する。 式(2-1-5a)の両辺に、式(2-1-1) の左辺、即ちダランベールシアン

 \Box =-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}+ \nabla^2   (2-1-6)

を作用させると、

\Box \mathbf{A} =\frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty} \left\{
\left (\frac{\omega^2}{c^2}\right )\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t )
+ \nabla^{2}  \hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \right\}\mathrm{d}\omega
   (2-1-7)

を得る。実際、

\begin{align} \Box \mathbf{A}
&= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty} 
-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial{t}^{2}}
\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \ \mathrm{d}\omega
+
\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty}
\nabla^{2} 
\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \ \mathrm{d}\omega \\
&= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty} 
\left (\frac{\omega^2}{c^2}\right )\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \ \mathrm{d}\omega
+
\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty}
\nabla^2 
\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \ \mathrm{d}\omega \\
&= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty} \left\{
\left (\frac{\omega^2}{c^2}\right )\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t )
+
\nabla^2 
\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \right\}\mathrm{d}\omega
\end{align}   (2-1-8)

である。

一方、式(2-1-1)右辺を、 (2-1-5b) の電流密度”i”に作用させると、

-{\mu}_{0} \boldsymbol{i}(\mathbf{r},\omega) = -\frac{{\mu}_{0}}{\sqrt{2\pi}}
\int_{-\infty}^{\infty} \hat{\boldsymbol{i}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t )\ \mathrm{d}\omega  (2-1-9)

を得る。

式(2-1-1),(2-1-7),(2-1-9) より、

 \int_{-\infty}^{\infty} \left\{\left (\frac{\omega^2}{c^2}\right )\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t )
+ \nabla^2 \hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \right\} \mathrm{d}\omega
 = -\mu_0 \int_{-\infty}^{\infty} \hat{\boldsymbol{i}}(\mathbf{r},\omega)\exp(\mathrm{i}\omega t ) \ \mathrm{d}\omega   (2-1-11)

が判る。以上から、ヘルムホルツ方程式 、即ち、式(2-1-3)が、任意の実数ωに対して成り立つことが判る。

STEP2[編集]

一般にヘルムホルツ方程式は、式(2-2-1) [注釈 6] のようなインパルス応答を用いて解くことができる。 このことを示そう。インパルス応答を用いてヘルムホルツ方程式を解くことを、グリーン関数法といい、 以下の式(2-2-1)の、スカラー値関数の解G [注釈 7]のことを、ヘルムホルツ方程式(2-1-3)のグリーン関数という。グリーン関数を用いた微分方程式の解法については、例えば[11]に詳しい。本節の主結果は以下の補題2に集約される。

実際、(2-2-2)の両辺にDを作用させると、「積分と微分の交換可能性」と、「ライプニッツルール」より、

(D[\hat{\mathbf{A}}])(\mathbf{r},\omega) 
= -{\mu}_{0}\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
\left(
D[G(\mathbf{r}-\mathbf{s},\omega)]\cdot \hat{\boldsymbol{i}}(\mathbf{s},\omega) \ +
G(\mathbf{r}-\mathbf{s},\omega)\cdot D[\hat{\boldsymbol{i}}(\mathbf{s},\omega)]
\right)
\ \mathrm{d}\mathbf{s}
  (2-2-3)

である。ここで、

r=(x,y,z)  (2-2-4)

である。

まず、式(2-2-3)の第一項について検討する。

DG(r-s,ω) = δ3(r-s)  (2-2-5)

であり、さらに、デルタ関数とのコンボリューションの性質から、

\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
D[G(\mathbf{r}-\mathbf{s},\omega)]\cdot \hat{\boldsymbol{i}}(\mathbf{s},\omega) \ 
\ \mathrm{d}\mathbf{s}= \hat{\boldsymbol{i}}(\mathbf{r},\omega)
  (2-2-6)

である。次にの第一項について検討する。\hat{\boldsymbol{i}} (t,\mathbf{s})は、\mathbf{r}に依存していないので、

 D[\hat{\boldsymbol{i}}(t,\mathbf{s})]=0  (2-2-7)

である。

以上から、式(2-2-2)の、\hat{\mathbf{A}}は、

D\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)= -\mu_0\hat{\boldsymbol{i}}(\mathbf{r},\omega)
  (2-2-8)

を充す。即ち、式 (2-1-3)のヘルムホルツ方程式を満たすことが判る。  

STEP3[編集]

本節では、前節のインパルス応答の式(式(2-2-1))に、球面座標変換を施し、さらに、空間の球対称性を考慮することで、式(2-2-1)を常微分方程式に帰着する。 本節では、ラプラシアンの球面座標変換は既知の事実としているため、実際に やっていることは、本記事微分作用素の球面座標変換の式(S3-2-1) の意味での”Φ関係”を適用したに過ぎないのだが 抽象的な座標変換では、途端に議論の道筋が見えにくくなることが多いため、本記事では、本過程を敢えて一つのステップに切り出すこととした。微分作用素の座標変換の例は例えば、 [25] [28] [29] [30] [31] [32] 等の文献を参照のこと

本節の主結果は、以下の補題3に纏められる。

ラプラシアン\Delta=\nabla^2)に対し、球面座標変換を 施したものを、({\Phi}^{*}\Delta)と書くと、


({\Phi}^{*}\Delta) =\frac{\partial^2}{\partial r^2}
+\frac{2}{r}\frac{\partial}{\partial r}
+\frac{1}{r^2}\frac{\partial^2}{\partial \theta^2}
+\frac{1}{r^2}\operatorname{cot}\theta \frac{\partial}{\partial \theta}
+\frac{1}{r^2\sin^2{\theta}}\frac{\partial^2}{\partial \rho^2}
  (2-3-3)

となる。従って、式(2-1-4)のDに対して球面座標変換を施したものを、Lと書くと、


L=
({\Phi}^{*}\Delta) + \left (\frac{\omega^2}{c^2}\right )
=\frac{\partial^2}{\partial r^2}
+\frac{2}{r}\frac{\partial}{\partial r}
+\frac{1}{r^2}\frac{\partial^2}{\partial \theta^2}
+\frac{1}{r^2}\operatorname{cot}\theta \frac{\partial}{\partial \theta}
+\frac{1}{r^2\sin^2{\theta}}\frac{\partial^2}{\partial \rho^2}
+\left (\frac{\omega^2}{c^2}\right )
  (2-3-4)

である。上記の微分作用素Lは、
G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)に対し、付録微分作用素の球面座標変換の式(S3-2-1) の意味での\Phi 関係、即ち、


L[G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)]=
(\Delta[G]) (\Phi(r,\theta,\rho),\omega)  (2-3-5)

を充たすように作用するため、上記のヘルムホルツ方程式は、


(\Delta[G])(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
+{k}^{2}G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
={\delta}^{3}(\mathbf{r})  (2-3-6)

と変形される。

一方、位置\mathbf{s}における電流素片の影響は球対称、すなわち試験電荷(試験電流)の位置\mathbf{r}と、電流素片との距離|\mathbf{r}-\mathbf{s}|のみに依存するため、Gの、θ方向、\rho方向の偏微分は、いずれも0であらねばならない。従って、


L[
G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
]=
\frac{\partial^2 [
G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
]}{\partial r^2}
+\frac{2}{r}\frac{\partial [
G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
]}{\partial r}
  (2-3-7)

が成り立つ。

さらに、積の微分の公式を考慮すると[28]

L[
G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
]=
\frac{1}{r}\frac{\partial^{2} 
[
r\cdot G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
]}{\partial r^{2}}
  (2-3-8)


が得られる。ここで、”\cdot”は、スカラー倍を意味する。即ち、  r\cdot G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)は、 スカラーrによるベクトルAのスカラー倍を意味する。

従って、球対称性を考慮した場合


\frac{1}{r}\frac{\partial^{2} 
[r\cdot (G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega))]}{\partial r^{2}}
+{k}^{2}\cdot G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
={\delta}^{3}(\mathbf{r})  (2-3-9)

が得られる。

STEP4[編集]

前節で導出した、式(2-3-3)の常微分方程式を解く。

(1)常微分方程式の部
まず、r≠0で式(2-3-3)を解く

u(r):=r・G(Φ(r,0,0),ω)  (2-4-7)

と置き、(1)式に代入すると、r≠0において、

\frac{d^{2}u}{dr^{2}}(r)=-{k}^{2}u(r)   (2-4-8)

が得られる。この常微分方程式は、変数分離型なので、定数(スカラー)a,bを用いて、

u(r)= a\frac{\exp(ikr)}{-4\pi}+ b\frac{\exp(-ikr)}{-4\pi}   (2-4-9)

と表される。u(r)の定義より、

G(\Phi(r,0,0),\omega)=a\frac{\exp(ikr)}{-4\pi r}+b\frac{\exp(-ikr)}{-4\pi r}   (2-4-10)

であるが、さらに、Gは、球対称性を持つため、θ,ρに依存せず、従って、任意のr,θ,ρ,ωに対して、

G(\Phi(r,\theta,\rho),\omega)
= a\frac{\exp(ikr)}{-4\pi r}+
b\frac{\exp(-ikr)}{ -4\pi r}
  (2-4-11)

が、r≠0において、球対称性を考慮したヘルムホルツ方程式の解だと判る。

(2)グリン関数の部
次に、式(2-4-11)が、r=0において、式(2-3-3)の解となるような条件が、式(2-4-3)で与えられることを示す。

まず、Gadvについて考える。

Gadvの両辺にラプラシアンを作用させることを考える。

\frac{\partial[{G}_{adv}]}{\partial x}=
\frac{-1}{4\pi r}\left(\frac{\partial[\exp(ikr)]}{\partial x }\right)+
\exp(ikr)\frac{\partial}{\partial x} \left[ \frac{-1}{4\pi r}\right]

=\frac{-ikx\exp(ikr)}{4\pi {r}^{2}}+
\exp(ikr)\frac{\partial}{\partial x} \left[\frac{-1}{4\pi r}\right]
  (2-4-12)


従って、


\frac{{\partial}^{2} {G}_{adv}}{{\partial}^{2} x}
= \frac{\partial}{\partial x}\left[
\frac{-ikx\exp(ikr)}{4\pi {r}^{2}}
\right]+
\frac{\partial}{\partial x}\left[
\exp(ikr)\frac{\partial}{\partial x}\left[
 \frac{1}{-4\pi r}
\right]\right]
=
\frac{-{i}^{2}{k}^{2}{x}^{2}\exp(ikr)}{4\pi {r}^{3}}+
\frac{ik\exp(ikr) }{4\pi {r}^{2}}+
\frac{-ik{x}^{2}\exp(ikr)}{-4\pi {r}^{3}}+
\frac{2ik{x}^{2}\exp(ikr)}{-4\pi {r}^{4}}+
\exp(ikr)\frac{{\partial}^{2}}{\partial{ x}^{2}} \left[\frac{-1}{4\pi r}\right]
=
\frac{{k}^{2}{x}^{2}\exp(ikr) }{4\pi {r}^{3}}+
\exp(ikr)\frac{{\partial}^{2}}{\partial{x}^{2}}\left[\frac{1}{4\pi r}\right]
-\frac{ ik\exp(ikr) }{4\pi {r}^{2}}
+\frac{3ik{x}^{2}\exp(ikr) }{4\pi {r}^{3}}
  (2-4-13)


同様に、


\frac{{\partial}^{2} {G}_{adv}}{{\partial}^{2} y}
=
\frac{{k}^{2}{y}^{2}\exp(ikr) }{4\pi {r}^{3}}+
\exp(ikr)\frac{{\partial}^{2}}{\partial{y}^{2}}\left[\frac{-1}{4\pi r}\right]
-\frac{ ik\exp(ikr) }{4\pi {r}^{2}}
+\frac{3ik{y}^{2}\exp(ikr) }{4\pi {r}^{3}}
  (2-4-14)

\frac{{\partial}^{2} {G}_{adv}}{{\partial}^{2} z}
=
\frac{{k}^{2}{z}^{2}\exp(ikr) }{4\pi {r}^{3}}+
\exp(ikr)\frac{{\partial}^{2}}{\partial{z}^{2}}\left[\frac{-1}{4\pi r}\right]
-\frac{ ik\exp(ikr) }{4\pi {r}^{2}}
+\frac{3ik{z}^{2}\exp(ikr) }{4\pi {r}^{3}}
  (2-4-15)


以上から、


\Delta [{G}_{adv}]=
{k}^{2}
\exp(ikr) \frac{({x}^{2}+{y}^{2}+{z}^{2})}{4\pi {r}^{3}}+
\frac{1}{4\pi }\exp(ikr) \Delta [ \frac{1}{r}]+

\frac{-1}{4\pi }3ik\exp(ikr) \frac{1}{{r}^{2}}
+3ik\exp(ikr) \frac{{x}^{2}+{y}^{2}+{z}^{2}}{{r}^{3}}{{r}^{3}}

=-{k}^{2}\exp(ikr) \frac{-1}{4\pi r}+
\exp(ikr) \Delta [ \frac{-1}{4\pi r }]
=-{k}^{2}{G}_{adv}+\Delta [ \frac{-1}{4\pi r }]
  (2-4-16)

以上から、

D[{G}_{adv}]=\exp(ikr) \Delta [ \frac{-1}{4\pi r }]   (2-4-17a)

同様に、

D[{G}_{ret}]=\exp(-ikr) \Delta [ \frac{-1}{4\pi r }]   (2-4-17b)

となる。

ここで、ティラックのデルタの体積積分(補足参照)より、

\Delta\left[\frac{-1}{4\pi r }\right]=\delta(r)  (2-4-18)

であり、さらに、

 exp(ikr)\delta(r) = 
\begin{cases}
0exp(ikr) & \text{if } r\neq 0\\
\infty exp(ik0) & \text{if } r = 0 .
\end{cases}= \begin{cases}
0 & \text{if } r\neq 0\\
\infty  & \text{if } r = 0 .
\end{cases}
=\delta(r)
  (2-4-19a)
exp(-ikr)δ(r) =δ(r)  (2-4-19b)

である。従って、式(2-4-2)の左辺にDを作用させると、

DGadv3(r)   (2-4-20a)
DGret3(r)  (2-4-20b)
D[G]=aD[Gadv]+ bD[Gret]=(a+b)δ3(r) (2-4-20c)

であることから、式(2-4-3)の係数条件が満たされれば、式(2-4-2)のGは、r=0においても、球対称性を考慮したヘルムホルツ方程式の解であることが判った。

充分性については、常微分方程式の解の一意性より自明であろう。

STEP5[編集]


\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega) 
=-\mu_0\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
G(\mathbf{r}-\mathbf{s})
\cdot \hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega) \ \mathrm{d}\mathbf{s}
  (2-5-7)

に、STEP4の式(2-4-2)で得られたGを代入し、一般解を求めることを考える。

式(2-5-7)に、式式(2-4-2)で得られたGを代入すると、


\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega)

=-\mu_0\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
a{G}_{adv}
(\mathbf{r}-\mathbf{s})
\cdot \hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega) +
b{G}_{ret}
(\mathbf{r}-\mathbf{s})
\cdot \hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega) 
\ \mathrm{d}\mathbf{s}
  (2-5-8)
 
=-a\mu_0\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
{G}_{adv}
(\mathbf{r}-\mathbf{s})
\cdot \hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega) 
\ \mathrm{d}\mathbf{s}+
b\mu_0\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
{G}_{ret}
(\mathbf{r}-\mathbf{s})
\cdot \hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega) 
\ \mathrm{d}\mathbf{s}
  (2-5-9)

となる。従って、式(2-5-1)、式(2-5-2)のように \hat{\mathbf{A}}_{adv},\hat{\mathbf{A}}_{ret}を定めると、


\hat{\mathbf{A}}(\mathbf{s},\omega) 
=
a\hat{\mathbf{A}}_{adv}(\mathbf{s},\omega) 
+
b\hat{\mathbf{A}}_{ret}(\mathbf{s},\omega) 
(2-5-10)

が判る。即ち、式(2-5-5)が示された。

また、式(2-5-3),式(2-5-4)の定義式の意味する ところは、{\mathbf{A}}_{adv},{\mathbf{A}}_{ret}は、 \hat{\mathbf{A}}_{adv},\hat{\mathbf{A}}_{ret} にフーリエ逆変換を施し、時間域に戻したものという意味であるため、 STEP1の式(2-1-3)の逆を辿れば、式(2-5-6)を得る。


STEP6[編集]

式(2-6-2)を示す。式(2-5-2)のGretに、式(2-4-5)を代入すると、


\hat{\mathbf{A}}_{ret}(\mathbf{s},\omega) 
= -{\mu}_{0}\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
\frac{-\exp(-ik|\mathbf{r}-\mathbf{s}|)
\cdot\hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega)}
{4\pi|\mathbf{\mathbf{r}-\mathbf{s}}|}
 \ \mathrm{d}\mathbf{s}
  (2-6-5)

式(2-6-5)の、\hat{\mathbf{A}}_{ret}にフーリエ逆変換をすると、


{\mathbf{A}}_{ret}(\mathbf{t,\mathbf{r}}) =
\frac{{\mu}_{0}}{\sqrt{2\pi}}
\int_{\omega=-\infty}^{\omega=\infty}
\left(
\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
\frac{\exp(- ik|\mathbf{r}-\mathbf{s}|)
\cdot\hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega)}{4\pi |\mathbf{\mathbf{r}-\mathbf{s}}|}
 \ \mathrm{d}\mathbf{s}\right)\exp(i\omega t)\ d\omega
  (2-6-6a)

=\frac{{\mu}_{0}}{4\pi}
\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
\frac{1}{ |\mathbf{\mathbf{r}-\mathbf{s}}|}
\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}
\int_{\omega=-\infty}^{\omega=\infty}
\exp(i(\omega t - k|\mathbf{r}-\mathbf{s}|))
\cdot\hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega)\ d\omega
\right)
 \ \mathrm{d}\mathbf{s}
  (2-6-6b)

=\frac{{\mu}_{0}}{4\pi}
\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
\frac{1}{|\mathbf{\mathbf{r}-\mathbf{s}}|}
\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}
\int_{\omega=-\infty}^{\omega=\infty}
\exp(i(\omega  \cdot\ (t -\frac{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}{c}))
\cdot\hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega)\ d\omega
\right)
 \ \mathrm{d}\mathbf{s}
  (2-6-6c)

=\frac{{\mu}_{0}}{{4\pi}}
\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
\frac{1}{|\mathbf{\mathbf{r}-\mathbf{s}}|}
\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}
\int_{\omega=-\infty}^{\omega=\infty}
\exp(i(\omega\ \cdot\ {t}_{ret})
\cdot\hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega)\ d\omega
\right)
 \ \mathrm{d}\mathbf{s}
   (2-6-6d)
=\dfrac{\mu_0}{4\pi} {\int}_{\mathbf{s}\in \mathbb{R}^{3}}
 \dfrac{\boldsymbol{i}(\mathbf{s},{t}_{ret})}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|} \mathrm{d} \mathbf{s}   (2-6-6e)

を得る。ここで、(2-6-6a) から(2-6-6b)の式変形では、ωに依存しない項を”∫ dω”の外に括りだしている。 (2-6-6b) から (2-6-6c)の式変形では、 式(2-3-4)、即ち k=ω/cを考慮した。 また、 (2-6-6d)から、 (2-6-6e)の式変形は、(2-1-5b) に、tretを代入したものである。

STEP7[編集]

STEP6で得られた一般解から、ふるまいの悪い解を棄却する。 式(2-6-1) の先進ポテンシャル\hat{\mathbf{A}}_{adv} の物理学的意味を解釈すると、 位置\mathbf{s}の電流素片


{\boldsymbol{i}(\mathbf{s},{t}_{adv})} \mathrm{d} \mathbf{s}
 (2-7-1)

が、位置\mathbf{r}に作り出す ベクトルポテンシャルが、


\dfrac{\boldsymbol{i}(\mathbf{s},{t}_{adv})}
{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|} \mathrm{d} \mathbf{s}
 (2-7-2)

であり、これを全sにわたって積分したものが、位置でrにおけるベクトルポテンシャルで あると解されよう。

同様に、式(2-6-2)の遅延ポテンシャル\hat{\mathbf{A}}_{ret}


{\boldsymbol{i}(\mathbf{s},{t}_{ret})} \mathrm{d} \mathbf{s}
 (2-7-3)

が、位置rに作り出す ベクトルポテンシャルが、


\dfrac{\boldsymbol{i}(\mathbf{s},{t}_{ret})}
{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|} \mathrm{d} \mathbf{s}
 (2-7-4)

であり、これを全sにわたって積分したものが、位置でrにおけるベクトルポテンシャルで あると解されよう。

式(2-7-2),式(2-7-4)いずれの場合にも電流素片の影響が、電流素片の置かれた場所s と、位置(観測点sとの間の距離に逆比例して球対称に広がっていることが判り、非常にもっともらしい。

遅延ポテンシャルにおいては式(2-7-4)のように、観測点の、時刻tにおけるベクトルポテンシャルに 影響を与える電流素片が、観測点の時刻よりも前の時刻のものであるしかも、影響が光速で伝播するとしたときに非常につじつまの合う時間遅れが生じていてさらにもっともらしい。

一方で、式(2-7-2)では、観測点の、時刻tにおけるベクトルポテンシャルに 影響を与える電流素片が、観測点の時刻よりも後(未来)の時刻のものである ことになり、非常に振る舞いが悪い。

大げさに言えば、先進ポテンシャルの影響があるとすると、 観測点rの観測者は、 未来の情報を観測(予測ではなく)出来るということを意味する。 このようなことは、非現実的で、時空因果律の観点からも おかしい。したがって、先進ポテンシャルは棄却すべきである。

以上から、式(2-6-2) のAretのみが生き残るべきであると結論される

数学的補足[編集]

一変数フーリエ変換の一般論[編集]

一変数フーリエ変換 [24]の定義には、(係数のつけ方によって)諸派あるが、以下の式で定義する流儀が恐らく最もスタンダードであろう。変数tについての一変数スカラー値の関数f(t)に対し、

\hat{f}(\omega)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}{\int}_{t=-\infty}^{t=\infty}\ f(t)\exp{(-i\omega t)} \ dt (S1-1)

を、fのフーリエ変換と言う。

この時、

f(u)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}{\int}_{\omega=-\infty}^{\omega=\infty}\ \hat{f}(\omega)\exp{(i\omega u)} \ d\omega  (S1-2)

が成り立つ。これを、フーリエ逆変換という。(尚、厳密に言えば上式はの=は「等しい」という意味ではなく、「至る所等しい」ことを意味する。)

ベクトル場の代数演算と微分作用素[編集]

ベクトル解析[25]の公式のうち、特に、ベクトル場に代数演算を施したものに、微分作用素を作用させた場合に成り立つ公式について、本記事で用い、かつ、あまり本に載っていないものについて、簡潔にまとめる。例えば、藤本[25]P64付近を参照のこと。

(1) <F|∇>について[編集]

以下の記述は、例えば、を参照のこと。 F=(f1,f2,f3)をベクトル場とする。このとき、


\left\langle\ \mathbf{F}\ |\ \nabla \ \right\rangle :=
{f}_{1}{\partial \over \partial {x}_{1}}  +  {f}_{2}{\partial \over \partial {x}_{2}} + {f}_{3}{\partial \over \partial {x}_{3}} 
 (S2-1-1)

と定義する。ここで、∇は、

\nabla := \mathbf{\hat{x}} {\partial \over \partial x}  + \mathbf{\hat{y}} {\partial \over \partial y} + \mathbf{\hat{z}} {\partial \over \partial z}  (S2-1-3)

を意味する。<F|∇>のことを、”F・∇”と書くこともある。

Gを、ベクトル場としたとき、<F|∇>をGに作用させると、

\left\langle\ \mathbf{F}\ |\ \nabla \ \right\rangle \mathbf{G}=
{f}_{1}{\partial{g}_{1} \over \partial {x}_{1}}  +  
{f}_{2}{\partial{g}_{2} \over \partial {x}_{2}} + 
{f}_{3}{\partial{g}_{3} \over \partial {x}_{3}}
=(J[\mathbf{G}])\cdot\mathbf{F}
 (S2-1-4)

が成り立つ。ここで、J[G]は、Gのヤコビ行列(ヤコビアンではない)を意味する。

(2)rot とスカラー倍、ベクトル積[編集]

F,Gを、ベクトル場、fを、スカラー値関数とする。このとき、以下が成り立つ。

rot[f\mathbf{F}]=grad[f]\times\mathbf{F}+f\cdot rot[\mathbf{F}]  (S2-2-1)

rot[\mathbf{F}\times\mathbf{G}]=
\left\langle\ \mathbf{G}\ |\ \nabla \ \right\rangle \mathbf{F}
-\left\langle\ \mathbf{F}\ |\ \nabla \ \right\rangle \mathbf{G}
+\mathbf{F}div[\mathbf{G}]
-\mathbf{G}div[\mathbf{F}]
 (S2-2-2)

(3)div とスカラー倍、ベクトル積[編集]

F,Gを、ベクトル場、fを、スカラー値関数とする。このとき、


{div}
\left[
f\mathbf{F}
\right]
=\left\langle 
\mathbf{F}|grad[f]
\right\rangle+
f{div}[\mathbf{F}]
 (S2-3-1)

ラプラシアンについて[編集]

ラプラシアン

\Delta={\nabla}^{2}
=\frac{{\partial}^{2}}{\partial {x}^{2}}+
\frac{{\partial}^{2}}{\partial {y}^{2}}+
\frac{{\partial}^{2}}{\partial {z}^{2}}
(S2-4-1)

は、スカラー作用素なので、スカラー場に作用できるが、 ベクトル場の各成分関数に対して作用すると考えることにより、 ベクトル場にも作用できる。

ラプラシアンが、スカラー場fに作用する際には、以下の等式が成立する

\Delta[f]=div[grad[f]](S2-4-2)

ラプラシアンが、ベクトル場Xに作用する際には、以下の等式が成立する。

\Delta[X]=grad[div[X]]-rot[rot[X]](S2-4-3)

上式の詳細な導出過程は、例えば、 [12] を参照のこと。

球面座標変換について[編集]

微分作用素の座標変換の使用例は例えば、 [25],[28][30][31][32]等の文献を参照のこと。

球面座標変換の概要[編集]

球面座標変換とは,以下の(S3-1-1)で定まる

\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix} 
=\Phi(r,\theta,\rho)= \begin{pmatrix}r\sin\theta\cos\rho\\r\sin\theta\sin\rho\\r\cos\theta\end{pmatrix}
  (S3-1-2)

r-θ-ρ空間内に定義域を持ち、x-y-z空間に値を取る、多変数ベクトル値関数のことである。

球面座標変換の像空間について考える。Iをr -θ-ρ空間内の、

I=[0,r]×[0,2π]×[0,2π]</math>  (S3-1-4)

で定まる(中身の詰まった)直方体としたとき、前記のΦは、は、r-θ-ρ空間内の直方体Iを、 x-y-z空間内の半径rの(中身の詰まった)球

Ball(r)  (S3-1-4)

に移す変換である。ここで、[0,r]等はみな閉区間を表し、×は、ここでは直積を表すものとする。

微分作用素の球面座標変換[編集]

「x-y-z空間上の微分作用素Dに対しΦによる座標変換を施したもの」をLとしたとき、 Lは、r-θ-ρ空間上の微分作用素で、任意のhに対し以下の式(2-3-2)の関係が満たされる(逆に言えばそうなるようなLを求めることが微分作用素の座標変換である)。

L[h\circ\Phi]=(D[h])\circ\Phi  (S3-2-1)

但し、式S(3-2-1)のhは、「作用されるもの」(x-y-z空間上の関数、ベクトル場等)で、 \circは、合成を表す。以下、本節では、便宜のため式S(3-2-1)のような関係にある LとDのことを、「LとDの間にはΦ関係がある」と言うことにする。

x-y-z空間上の微分作用素Dと、r-θ-ρ空間上の微分作用素Lとの間に式(S3-2-1)の意味でΦ関係があったとする。

このとき、例えば、hが、x-y-z空間上で定義されたスカラー値関数(スカラー場)としたとき、 Lは、x-y-z空間上で定義されたスカラー場h=h(x,y,z)に対しては、 直接的に作用することはできない。しかし、前記hとΦとの合成関数は、「r-θ-ρ上で定義されたスカラー場」であるため、Lは、h\circ\Phi には、作用できる。このとき、式(2-3-2)の左辺と右辺の意味は、それぞれ、

左辺「Lを、h\circ\Phi に作用させたもの」
右辺「『Dをhに作用させることによって得られたD[h]』と、Φを合成したもの」

という意味である。

同様に、例えば、Xが、x-y-z空間上で定義されたベクトル場であったとするとき、x-y-z空間上の微分作用素Dと、r-θ-ρ空間上の微分作用素Lとの間に式(2-3-2)の意味でΦ関係があったとする。即ち、

L[\mathbf{X}\circ\Phi]=(\Delta[\mathbf{X}])\circ\Phi  式(S3-2-1’)

が成り立ったとする。このとき、Lは、x-y-z空間上で定義されたベクトル場X=X (x,y,z)に対しては、直接的に作用することはできない。

しかし、前記XとΦとの合成関数は、「r-θ-ρ上で定義されたベクトル場」であるため、Lは、 Xには、作用できる。 このとき、式(2-3-2’)の左辺と右辺の意味は、それぞれ、

左辺:Lを、\mathbf{X}\circ\Phi に作用させたもの
右辺:『DをXに作用させることによって得られたD[X]』と、Φを合成したもの

という意味である。

分数関数の微分[編集]

首記の件について解説する。必要に応じ、例えば北川[26]p27,P39付近を参照のこと。

分数関数の微分(1)[編集]

分数関数の偏微分と勾配ベクトル場について解説する。\mathbb{R}^{3}上の点 \mathfrak{R}=(x,y,z) \mathbf{r}=({x}_{\mathbf{r}},{y}_{\mathbf{r}},{z}_{\mathbf{r}}), \mathbf{s}=({x}_{\mathbf{s}},{y}_{\mathbf{s}},{z}_{\mathbf{s}}) を考える。

|{\mathfrak{R}}|\neq 0において、


\frac{\partial }{\partial x}
\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}|}\right]
=\frac{\partial }{\partial {x}}
\left[
{
({x}^{2}+{y}^{2}+{z}^{2})
}^{-1/2}
\right]
=\frac{-1}{2}(2{x})
{
({x}^{2}+{y}^{2}+{z}^{2})
}^{-3/2}
=\frac{-x
}{{|\mathfrak{R}|}^{3}}
 (S4-1-1a)

が成り立つ。同様に、


\frac{\partial }{\partial y}
\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}|}\right]
=\frac{-y}{{|\mathfrak{R}|}^{3}}
 (S4-1-1b)

\frac{\partial }{\partial z}
\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}|}\right]
=\frac{-z}{{|\mathfrak{R}|}^{3}}
 (S4-1-1c)

{grad}
\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}|}\right]
=\frac{-\mathfrak{R}}{{|\mathfrak{R}|}^{3}}
 (S4-1-1d)

である。従って、式(S4-1-1)それぞれに、 {\mathfrak{R}}=\mathbf{r}-\mathbf{s}を代入すると |\mathbf{r}-\mathbf{s}|\neq 0において、


\frac{\partial }{\partial {x}_{\mathbf{r}}}
\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{
-({x}_{\mathbf{r}}-{x}_{\mathbf{s}})
}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}
 (S4-1-2a)

\frac{\partial }{\partial {y}_{\mathbf{r}}}
\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{
-({y}_{\mathbf{r}}-{y}_{\mathbf{s}})
}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}
 (S4-1-2b)

\frac{\partial }{\partial {z}_{\mathbf{r}}}
\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{
-({z}_{\mathbf{r}}-{z}_{\mathbf{s}})
}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}
 (S4-1-2c)

{grad}_{\mathbf{r}}\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{
-(\mathbf{r}-\mathbf{s})
}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}
 (S4-1-2d)

が得られる。同様に、式(S4-1-1)それぞれに、 {\mathfrak{R}}=\mathbf{s}-\mathbf{r}を代入すると |\mathbf{r}-\mathbf{s}|\neq 0において、


\frac{\partial }{\partial {x}_{\mathbf{s}}}
\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{
({x}_{\mathbf{r}}-{x}_{\mathbf{s}})
}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}
 (S4-1-3a)

\frac{\partial }{\partial {y}_{\mathbf{s}}}
\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{
({y}_{\mathbf{r}}-{y}_{\mathbf{s}})
}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}
 (S4-1-3b)

\frac{\partial }{\partial {z}_{\mathbf{s}}}
\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{
({z}_{\mathbf{r}}-{z}_{\mathbf{s}})
}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}
 (S4-1-3c)

{grad}_{\mathbf{s}}\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{(\mathbf{r}-\mathbf{s})}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}
 (S4-1-3d)

も判る((S4-1-2) と符号が逆転していることに注意)。

分数関数の微分(2)[編集]

\mathbb{R}^{3}上の点 \mathfrak{R}=(x,y,z) \mathbf{r}=({x}_{\mathbf{r}},{y}_{\mathbf{r}},{z}_{\mathbf{r}}), \mathbf{s}=({x}_{\mathbf{s}},{y}_{\mathbf{s}},{z}_{\mathbf{s}}) を考える。

|{\mathfrak{R}}|\neq 0において、


\frac{\partial}{\partial {x}_{\mathbf{r}}}
\left[\frac{1}{
{|\mathfrak{R}|}^{2}
}\right]
=\frac{\partial}{\partial {x}}
\left[
{
({x}^{2}+{y}^{2}+{z}^{2})^{-1}
}
\right]

=(-2{x})
{
({x}^{2}+{y}^{2}+{z}^{2})
}^{-2}
=\frac{-2({x})}{
{|\mathfrak{R}^{2}|}^{4}
} (S4-2-1a)

が成り立つ。同様に、


\frac{\partial }{\partial y}
\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}|^{2}}\right]
=\frac{-2y}{{|\mathfrak{R}|}^{4}}
 (S4-2-1b)

\frac{\partial }{\partial z}
\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}^{2}|}\right]
=\frac{-2z}{{|\mathfrak{R}|}^{4}}
 (S4-2-1c)

grad\left[
\frac{1}{|\mathfrak{R}|}
\right]
=\frac{-2\mathfrak{R}}
{{|\mathfrak{R}|}^{4}}
 (S4-2-1d)

である。従って、式(S4-1-1)それぞれに、 {\mathfrak{R}}=\mathbf{r}-\mathbf{s}を代入すると |\mathbf{r}-\mathbf{s}|\neq 0において、



{grad}_{\mathbf{r}}\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{
-2(\mathbf{r}-\mathbf{s})
}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{4}}
 (S4-2-2)

が得られる。同様に、式(S4-1-1)それぞれに、 {\mathfrak{R}}=\mathbf{s}-\mathbf{r}を代入すると |\mathbf{r}-\mathbf{s}|\neq 0において、


{grad}_{\mathbf{s}}\left[\frac{1}{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}\right]
=\frac{2(\mathbf{r}-\mathbf{s})}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{4}}
 (S4-2-3)

も判る((S4-2-2) と符号が逆転していることに注意)。

分数関数の微分(3)[編集]

本節では、特に本編の式(2-4-18) 即ち、以下の式(S4-3-1)を得るために必要な式変形を解説する。ここでは、|{\mathfrak{R}}|\neq 0での挙動についてのみ扱う。|{\mathfrak{R}}|= 0での挙動を含めた議論は、後述の式(S5-2-5)にて扱う。

\Delta\left[\frac{-1}{4\pi |\mathfrak{R}|}\right]=\delta(|\mathfrak{R}|) (S4-3-1) 

\mathbb{R}^{3}上の点\mathfrak{R}=(x,y,z)を考える。

式(S2-4-2)(以下の式(S4-3-2))及び、式(S4-1-1d) (以下の式(S4-3-3))を考え合わせると、

Δ=div grad (S4-3-2) 
{grad}\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}|}\right]=\frac{-\mathfrak{R}}{{|\mathfrak{R}|}^{3}} (S4-3-3)
\Delta\left[\frac{-1}{|\mathfrak{R}|}\right]=
div\left[\frac{-\mathfrak{R}}{{|\mathfrak{R}|}^{3}}\right]
=\frac{\partial }{\partial {x}}\left[\frac{x}{|\mathfrak{R}|}\right]
+\frac{\partial }{\partial {y}}\left[\frac{y}{|\mathfrak{R}|}\right]
+\frac{\partial }{\partial {z}}\left[\frac{z}{|\mathfrak{R}|}\right]
 (S4-3-4)

が判る。式(S4-3-4)の右辺をさらに計算することを考える。

|{\mathfrak{R}}|\neq 0において、積の微分及び、後述の式(S4-3-6)を考えると、


\frac{\partial }{\partial {x}}
\left[\frac{x}{|\mathfrak{R}|^{3}}\right]
=\frac{1}{|\mathfrak{R}|^{3}}+x\frac{\partial }{\partial {x}}
\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}|^{3}}\right]
=\frac{1}{|\mathfrak{R}|^{3}}-
\frac{3{x}^{2}}{{|\mathfrak{R}|^{5}}} (S4-3-5a)
何となれば、

\frac{\partial }{\partial {x}}
\left[\frac{1}{|\mathfrak{R}|^{3}}\right]
=\frac{\partial }{\partial {x}}
\left[ ({x}^{2}+{y}^{2}+{z}^{2})^{-3/2}\right]
=2x*(-3/2)* ({x}^{2}+{y}^{2}+{z}^{2})^{-5/2}
=\frac{-3x}{|\mathfrak{R}|^{5}}
(S4-3-6)

同様に、

\frac{\partial }{\partial {y}}
\left[\frac{y}{|\mathfrak{R}|^{3}}\right]
=\frac{1}{|\mathfrak{R}|^{3}}-
\frac{3{y}^{2}}{{|\mathfrak{R}|^{5}}}  (S4-3-5b)

\frac{\partial }{\partial {z}}
\left[
\frac{z}{|\mathfrak{R}|^{3}}
\right]
=\frac{1}{|\mathfrak{R}|^{3}}-
\frac{3{z}^{2}}{{|\mathfrak{R}|}^{5}}  (S4-3-5c)

式(S4-3-5a),(S4-3-5b),(S4-3-5c)を足し合わせると、|{\mathfrak{R}}|\neq 0において、

div_{\mathbf{r}}\left[\frac{\mathbf{r}}{{|\mathbf{r}|}^{3}}\right]=
\frac{3}{|\mathfrak{R}|^{3}}-\frac{3{|\mathbf{r}|}^{2}}{{|\mathfrak{R}|}^{5}}=0  (S4-3-6)

が得られた。

超関数の取り扱い[編集]

ディラックのデルタと、重積分[編集]

一般のn変数関数(関数はベクトル値関数であってよい)fの定義域をΩとしたとき、

f(\mathbf{r})={\int}_{\mathbf{s}\in \Omega} f(\mathbf{s}){\delta}^{n}(\mathbf{r}-\mathbf{s})\ {d}^{n}s\ =f*{\delta}^{n}  (S5-1-1)

であることが知られている。ここで、上式の"*"は、合成積(乗算ではない)である。また、δnは、n変数のδ関数である。詳細は、川村[2]P46の式(2.53)を参照のこと。厳密な議論は、例えば、加藤[9]P137付近を参照のこと。

発散微分とディラックのデルタ[編集]

首記の件について述べる。必要に応じ、例えば、川村[2]P51 式(2.69)を参照のこと。

式(S4-3-6)より、 原点(r=0)を除いて

div_{\mathbf{r}}\left[\frac{\mathbf{r}}{{|\mathbf{r}|}^{3}}\right]=\frac{3}{|\mathbf{r}|^{3}}-\frac{3{|\mathbf{r}|}^{2}}{{|\mathbf{r}|}^{5}}=0  (S5-2-1)
である。従って、div_{\mathbf{r}}の体積積分は、原点を含む領域である限り、任意の領域で積分しても同じ値である。従って、

積分が簡単となりそうな、「原点(r=0)を中心とする、半径1の球Ball(1)上での体積積分を考える。ここで、{S}^{2}(1)は、半径1の球

球体Ball(1)に対し、ガウスの発散定理を用いると、

{\int}_{\mathbf{r}\in Ball(1)} div_{\mathbf{r}}\left[\frac{\mathbf{r}}{{|\mathbf{r}|}^{3}}\right]\ d^{3}r 
={\int}_{\mathbf{r}\in {S}^{2}(1)} 
\frac{\mathbf{r}}{
{|\mathbf{r}|}^{3}
}\ d({S}^{2}(1))
=4\pi  (S5-2-2)
となる。

一方で、δ3、即ち3変数のδ関数に対し、以下が成り立つ。

{\int}_{\mathbf{r}\in Ball(1)} {\delta}^{3}(\mathbf{r})\ d^{3}r 
=1 (S5-2-3)

従って、式(S5-2-2)、(S5-2-3)より、

div_{\mathbf{r}}\left[\frac{\mathbf{r}}{{|\mathbf{r}|}^{3}}\right]=
4\pi\delta(\mathbf{r})  (S5-2-4)

であることが判る。以上の議論を平行移動させると、

div_{\mathbf{r}}\left[\frac{\mathbf{r}-\mathbf{s}}{{|\mathbf{r}-\mathbf{s}|}^{3}}\right]=4\pi\delta(\mathbf{r}-\mathbf{s})  (S5-2-5)

であることが判る。

参考文献・脚注等[編集]

脚注[編集]

  1. ^ ダランベール演算子中の∇2は、ラプラシアン、即ち、
    {\nabla}^{2}
=\frac{{\partial}^{2}}{\partial {x}^{2}}+
\frac{{\partial}^{2}}{\partial {y}^{2}}+
\frac{{\partial}^{2}}{\partial {z}^{2}}
    のことであり、∇2のことをΔとも書く。 (つまり、Δ=∇2である)
  2. ^ a b 通常の教科書では、「電位スカラーポテンシャル」について導出し、「磁気ベクトルポテンシャル」については、「同様に」で済ます傾向がある。本当にまったく同様なのだが、敢えて、「磁気ベクトルポテンシャル」について詳細な導出過程を示すこととした。
  3. ^ a b フーリエ変換とは言っても、所詮は一変数tについてのフーリエ変換に過ぎない(多変数のフーリエ変換ではないこと)に注意。詳細は、本記事の補足欄を参照のこと。
  4. ^ 下記のフーリエ変換は、定義通りに計算しただけであり、A (t,x,y,z), i (t,x,y,z)が、ポテンシャル形式のマックスウェルの方程式の解であろうがなかろうが成り立つことに注意されたい。尚、本記事では、変換後の関数は、ω成分を最後に書ことにし、 \hat{\mathbf{A}}(x,y,z,\omega), \hat{\boldsymbol{i}}(x,y,z,\omega) のように書く。
  5. ^ ここで、(r,ω)=(x,y,z,ω)である。
  6. ^ a b 本によっては、本記事の式(2-2-1)の替りに
    D G (\mathbf{r},\omega)= {\delta}^3 \mathbf{r} (2-2-1')
    を用いていることがある。この場合には、当然、式(2-2-2)は、
    \hat{\mathbf{A}}(\mathbf{r},\omega) = 
+{\mu}_{0}\int_{\mathbf{s}\in\mathbb{R}^{3}}
G(\mathbf{r}-\mathbf{s},\omega)
\cdot \hat{\boldsymbol{i}} (\mathbf{s},\omega) \ \mathrm{d}\mathbf{s}
  (2-2-2')
    となるが、その後の計算でも符号の逆転が起こり、主要な個所としてはグリーン関数(2-4-4),(2-4-5)も符号がかわる。
    {G}_{adv}(x,y,z,\omega):=\frac{\exp(ikr)}{4\pi r} (2-4-4')
    {G}_{ret}(x,y,z,\omega):=\frac{\exp(-ikr)}{4\pi r} (2-4-5')
    従って(同じ単位系でかかれた本であっても)本によってグリーン関数の符号が違ったりする。 しかし、最終的な結論においては、当然、どちらの流儀であっても同じ結論になる。
  7. ^ 厳密にいうと、Gは、スカラー値関数ではなく、L^2空間の点というべきであろう。

参考文献[編集]

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  2. ^ a b c d 川村清 (著) :「電磁気学 (岩波基礎物理シリーズ (3))」岩波書店 (1994/5/12) [特にp151~]
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  5. ^ 溝口 正(著);「電磁気学」裳華房 (2001/03)
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    遅延ポテンシャルP214、ジェフィメンコ方程式P222(但しジェフィメンコ方程式の名は出ていない。)
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    遅延ポテンシャルP193、ジェフィメンコ方程式P205
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関連項目[編集]