逸失利益

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逸失利益(いっしつりえき、: Lost profit)は、本来得られるべきであるにも拘らず、不法行為債務不履行などで得られなかった利益を指す。得べかりし利益(うべかりしりえき)とも言われる。

逸失利益の算定では果たしてどこまでが本来得られるべきであった利益か、その確定は容易でなく、訴訟などでもよく争点となる。

不法行為の逸失利益[編集]

生命侵害における逸失利益[編集]

生命侵害の場合、基本的には、その人が生命侵害を受けなければ生存したであろうと推定される年齢に達するまでのその人の推定収入から、その人のその間に要する生活費を控除したものが逸失利益となる(大判大正2・10・20民録19輯)[1]

死者が将来受給できたであろう厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金は社会保障的性格が強いことから逸失利益にはあたらない(最判平成12・11・14民集54巻2683頁)[1]

死者が受給権者であった国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金については逸失利益として相続人から請求することができるが、同年金での妻子の加給分は社会保障的性格が強く逸失利益としての性格を持たないとされる(最判平成11・10・22民集53巻1211頁)[1]

活動年齢期については生命表記載の平均余命を参考にすることもできるが、これに限定されるわけではなく「死者の経歴、年齢、職業、健康状態その他諸般の事情を考慮して自由な心証」で認定することができる(最判昭和36・1・24民集15巻35頁)[1]

逸失利益の算定に当たっては将来の昇給の見込みを斟酌することもできる(最判昭和43・8・27民集22巻1704頁)[2]

家事労働に専念する主婦については、平均的労働不能年齢に達するまで、女子の雇用労働者の平均的賃金相当額をあげるものと推定される(最判昭49・7・19民集28巻872頁)[2]

自営企業主の場合、特段の事情のない限り、企業収益中に占める企業主の労務など企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合に応じて算定される(最判昭43・8・2民集22巻1525頁)[2]

身体傷害における逸失利益[編集]

中間利息の控除[編集]

逸失利益については将来の収入を現在受領することになるため利息相当分については控除される(中間利息の控除という)[2]。その計算式としては単式ホフマン式計算法、複式ホフマン式計算法、単式ライプニッツ計算法、複式ライプニッツ式計算法などがある[2]

単式ホフマン式計算法(賠償額X、就労可能年間n年間、収入額A、利率r)[2]

X = \frac{A}{1+nr}

複式ホフマン式計算法(賠償額X、就労可能年間n年間、各年の収入額a、利率r)[2]

X = a\left(\frac{1}{1+r}+\frac{1}{1+2r}+ ...... +\frac{1}{1+nr}\right)

単式ライプニッツ式計算法(複利)(賠償額X、就労可能年間n年間、収入額A、利率r)[2]

X = A\, \frac{1}{(1+r)^n}

複式ライプニッツ式計算法(複利、年収不変)(賠償額X、就労可能年間n年間、各年の収入額a、利率r)[2]

X = a\, \frac{1-(1+r)^{-n}}{r}

複式ライプニッツ式計算法(複利、年収変化)(賠償額X、就労可能年間n年間、各年の収入額a…z、利率r)[2]

X = \frac{a}{1+r}+\frac{b}{(1+r)^n}+ ...... +\frac{z}{(1+r)^n}

逸失利益の例[編集]

事故関連[編集]

交通事故などでは、怪我の治療費や苦痛に対する慰謝料のほか、本来事故が無ければ得られたであろう給与・収入などが逸失利益として損害賠償の対象となる。ただしあくまで予測に基づくものであり、本当にそれだけの利益が事故が無ければ得られたのか、あるいはそれだけしか得られなかったのか(事故が無ければもっと利益を得られたのではないか)につき、立証は困難であり、各個人の事情などをどれだけ考慮するか、どのように利益額に反映させるかは難しい問題である。

例えば20歳の大学生、サラリーマン、フリーター、芸能人、をそれぞれ死亡させたとして逸失利益が異なるのか、またある人物が特に勤勉であり、ある人物が特に怠け者であった場合どうか、など。

また、専業主婦など金銭による収入を得ていないものの場合、その仕事の評価をどうするかも問題となる。

障害者に関しては成年で定職に就いていない場合は逸失利益は0と認定されるのが一般的。ただし未成年に関しては裁判所でも判断が分かれる。

特許権関連[編集]

 他社による特許権侵害による、自社製品の売上減少などが考えられる。

著作権関連[編集]

例えば日本では未公開・もしくは公開前の映画が、海外盗撮され、インターネットで流された場合、日本で公開されたとき、動員数が減ると考えられる。この減少分が、インターネットで流されさえしなければ映画館が得られたはずの逸失利益である。しかし、その具体的な額の算定には困難が残る。つまり、例えばインターネットで100万人がその盗撮された映画を見たとして、ではインターネットで流されなければ100万人が映画館に行ったのかという問題である。現実的には、100万人が行くことはないと考えられるが、何人分減少してしまったか、その算出は難しい。インターネットへの流出による宣伝効果なども考慮に入れていくと、場合によってはむしろ増加することも考えられるのである。

同様のことは、書籍や音楽、各種のソフトウェアなどの著作権侵害についても言える。

運賃関連[編集]

自動改札機が普及してからは、非常に困難になったが、かつてはキセル乗車が頻繁に行なわれていた。キセルをされた区間の運賃は、キセル乗車が行なわれてさえいなければ、鉄道会社が得られていたはずの利益である。

脱税関連[編集]

納税者による違法な脱税も国や地方自治体から見ると逸失利益となる。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 我妻榮 『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』 日本評論社、2013年、1356頁。
  2. ^ a b c d e f g h i j 我妻榮 『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』 日本評論社、2013年、1357頁。