造血幹細胞移植
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造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく、英Hematopoietic stem cell transplantation)とは、正常な血液を作ることが困難となる疾患(白血病、再生不良性貧血など)の患者に対して、提供者(ドナー)の造血幹細胞を移植して正常な血液を作ることができるようにする治療である。
白血球の血液型といわれるHLA型が一定以上一致しないと移植が不可能なため、移植可能な造血幹細胞を見つけるために、さまざまな試みがなされている。ABO式の血液型は一致しなくても移植は可能であるので、他人の細胞を移植した場合、ABO式の血液型が変わることがある。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] 種類
- 骨髄移植(BMT)
- 正常な自己の骨髄またはHLA型が適合する他人の骨髄を移植する。骨髄穿刺によって摘出する。
- 末梢血幹細胞移植(PBSCT)
- 主に自己の末梢血幹細胞を移植する。末梢血幹細胞は化学療法による骨髄抑制からの回復期やG-CSF投与後に著しく増加するので、化学療法後やG-CSF後に検体を採取し、細胞分離装置を用いて、末梢血幹細胞を抽出する。
- 臍帯血移植(CBT)
- 臍帯血を移植する。ドナーの負担がほとんど無い、移植可能なHLA型の範囲が広いのが特徴。
2008年現在、造血幹細胞のみを抽出することは一般的ではないので、上記ソースは造血幹細胞を含む液体という扱いとなる。
[編集] 造血幹細胞移植の意義
放射線治療や抗がん剤の投与は投与量や線量を増加させていくと最大耐容量(MTD)を超えた時点でなんらかの毒性のためそれ以上の増量が不可能となる。多くの抗がん剤において、規定因子は骨髄抑制である。造血幹細胞移植とは抗腫瘍効果を高めるため骨髄のMTDを超えた大量の抗がん剤、全身放射線照射を用いた強力な治療を(移植前処置)を行って、患者骨髄とともに悪性腫瘍の壊滅を行いその後、造血幹細胞を輸注することで、造血能を補うという治療法である。
固形臓器移植と造血幹細胞移植の大きな違いの一つとしては臓器移植ではドナーの正常な臓器を移植することで臓器機能の回復をすることを目標としているのに対して、造血幹細胞移植の一般的な目標は骨髄のMTDを上回る大量の抗がん剤や放射線照射による治療を可能とすることである。ドナー免疫に由来する抗腫瘍効果得ることである。例外としては再生不良性貧血における造血幹細胞移植はドナーの造血細胞による、造血能回復を狙うという観点から固形臓器移植に近い。もう一つの違いとしては、固形臓器移植では患者の免疫が維持されるのに対して、造血幹細胞移植では免疫系もドナー細胞に置換される。合併症も固形臓器移植なら拒絶反応となるが造血幹細胞移植ではGVHDとなる。造血幹細胞では多くの場合は免疫寛容がおこり、長期的には免疫抑制剤の投与を完全に中止することができる。免疫抑制剤の投与の目的は固形臓器移植では拒絶反応の防止、造血幹細胞移植ではGVHDの予防となる。
[編集] 方法
方法は各種造血幹細胞移植によって若干異なるため、最もオーソドックスな同種骨髄移植を前提に概説する。
[編集] 造血幹細胞の摂取
まずは患者とHLAが一致するドナーを検索する。ドナーの健康状態が良好ならば、全身麻酔下で骨髄穿刺を行う。この後の処理は血液型の一致、HLAの一致の度合いによって若干異なる。
[編集] 移植前処置
骨髄抑制を無視して投与されるため用量規定因子が骨髄以外となることに注意が必要である。たとえば、シクロホスファミドでは心毒性、ブスルファンでは肝毒性、放射線では肺毒性が用量規定因子となる。アルキル化剤や白金製剤は濃度を高めると抗腫瘍効果の増大が非常に高いが、代謝拮抗薬はある程度の濃度を達成すると抗腫瘍効果が一定となってくる。そのため、骨髄移植ではCY-TBI療法が選択されることが多い。
CY60mg/kg/dayにてday-3,-2に投与し、TBIを2Gy×2,day-7,-6,-5で行うことが多い。残念ながら抗がん剤や放射線が無効、または予備能が低く治療に耐えられない患者の場合は造血幹細胞移植の適応はない。
小児の難治性固形癌に対する造血幹細胞移植ではHiMECといわれる前処置が行われることが多い。
[編集] 急性GVHDの予防
急性GVHDの予防として免疫抑制剤が投与される。標準的な予防法としてはCsA-短期MTX併用療法が多いが、その治療法は多種多様である。CsAはday-1から3mg/kg/dayにて投与を開始してday50から週に5%の割合で減量し、GVHDの発症がなければ、移植後半年程度で投与を中止するのが一般的である。短期MTX投与に関してはday1,3,6,11に投与される。これはHLAのマッチの程度によって投与量が変わってくる。原法ではday1では体表面積あたり15mgであり、それ以外は10mgである。
[編集] 幹細胞輸注
骨髄液が凍結されているか否かによって若干方法は異なるが、基本は変わらない。赤血球ABO型適合、または副不適合の場合はクロスマッチテストを行い、陰性であることを確認する。陽性の場合は赤血球除去処理を行う必要がある。コルチゾンを100mgを前投与してから輸注を開始する。赤血球型不適合移植の場合はハプトグロビン4,000単位の予防投与を行ってもよい。ただし、輸注赤血球量が10~20ml程度ならハプトグロビンは不要であるといわれている。
[編集] 幹細胞の生着
ドナー細胞の生着は好中球の回復から判断することが一般的である。好中球数500/μlを2~3点連続して超えた場合、その第一点を生着日と判断することが多い。厳密にはキメリズム解析を行い、ドナー由来であるかを確認した方が正確であるが、骨髄非破壊的なミニ移植以外では移植一ヶ月以内に増加してきた好中球はドナー由来と考えて問題はない。移植後に一度も生着しなかった場合一次性生着不全、いったん生着したものの造血能が失われた場合は二次性生着不全という。生着までの日数は幹細胞のソース、ドナーと患者の関係、G-CSF投与の有無、メソトレキセートの投与量などにも依存する。中央値は21日前後と言われている(臍帯血の場合は30日前後)。よってday21に好中球回復の兆候がなければ、骨髄穿刺を行い骨髄系前駆細胞の有無を確認する。前駆細胞が認められなければ、day28に再度、骨髄穿刺し、それどもみとめなけらば再移植の準備をする。
生着時、過剰な炎症性サイトカインの産出により、発熱、皮疹、肺水腫といったGVHD様の症状が認められ、生着症候群といわれる。治療はプレドニゾロン1mg/kgである。
[編集] 急性GVHDの診断と治療
急性GVHDとは定義上は移植後100日以内に発症するGVHDとされている。移植片中の成熟T細胞が関与すると考えられている。骨髄破壊的な移植を行った場合は移植後2~3週間後に好発し、60日以内の発症の場合が多い。しかし、骨髄非破壊的なミニ移植の場合は60日以降の発症も珍しくない。主な障害臓器は皮膚、消化管、肝臓である。初発症状としては皮膚症状、皮疹が最も多く、消化管症状としては下痢が多い。緑色の水様下痢が特徴的だが血性下痢となることも多い。重症度は皮疹の広がり、下痢の量、ビリルビン値の上昇により、重症度は決定される。少なくとも一つの臓器障害が48時間以上持続し、他の原因疾患が否定されたとき急性GVHDと診断をすることができる。予防のため、免疫抑制剤の投与を通常は受けているが、それでも一定の確率で発症する。
グレードⅡ以上の急性GVHDが認められた場合はメチルプレドニゾロン1.0mg/Kg/dayの投与を開始する。速やかに改善が認められた場合は1週間、1週間以内に改善が認められた場合は2週間、同容量で治療を続け、その後0.2mg/Kg/dayずつ減量していく。投与量が0.4mg/Kg/day以下になったら0.1mg/Kg/dayずつ減量していく。無効な場合はステロイドパルス療法やATGといったその他の免疫抑制剤の投与を検討する。重要な鑑別として血栓性微小血管症(TMA)があげられる。
急性GVHDにはGVL効果があり、発症すると逆に再発率は低下するといわれている。但し、GVHD予防法によってある程度の長期無病生存が期待できる疾患においてはGVHDをあえて誘導するような治療は行うべきではないとされている。
[編集] 慢性GVHDと治療
移植後100日以降に発症したGVHDを慢性GVHDという。発症時期によって区別されているが、急性GVHDとは異なる病態が考えられている。急性GVHDと比較してより多くの臓器を障害を受けること、しばしば自己免疫疾患に類似した病態となるのが特徴である。ステロイド反応性の肝障害や間質性肺炎、皮膚のこわばりなどが典型的である。急性GVHDは移植片中の成熟T細胞が関与するのに対して、慢性GVHDは移植された造血幹細胞から分化、成熟したT細胞が関与すると考えられている。
限局した軽い症状のみの慢性GVHDはステロイド外用などの局所療法で対応可能であるが、多くの臓器に障害が生じている場合や単一臓器でも重篤な障害を有する場合は全身的免疫抑制療法の適応となる。
慢性GVHDにもGVL効果はあるといわれている。また慢性GVHDになったからといってステロイドや免疫抑制剤を一生続けなければいけないとは限らない。 しかし、ステロイドが効果的であったとしても長期間の服薬が必要である。
[編集] 造血幹細胞移植における感染症マネジメント
日本においては感染症対策として無菌室で管理されることが多い。移植前処置開始前後から生着が確認されるまで無菌室で行われることが多い。感染症は前処置開始後、急性GVHD治療後、慢性GVHD発症後など時期によって原因病原体、患者の全身状態が異なるため、特殊な感染症対策が必要と考えられている。
傾向としては早期は単純ヘルペスウイルス感染症、カリニ肺炎、その後はサイトメガロウイルス感染症、アスペルギルス感染症が多い傾向はある。
[編集] 患者の満足
造血幹細胞移植は画期的な治療法であるが、基本的には大量化学療法となるため、長期生存者のQOLは概して低い傾向がある。近年はQOLも含めて治療効果判定がされる傾向にある。
[編集] ドナーについて
提供者(ドナー)の造血幹細胞提供手術については様々なリスクや負担があり、その面からの検討や議論も必要である。
[編集] 造血幹細胞移植の今後の展望
2007年現在、特に熱心に行われているのが急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫に対してである。現在は、造血幹細胞のソースを増やし、移植が必要な患者にどれだけ治療を受けさせることができるのかが焦点となっている。近年は、GVL効果をねらったT細胞の分離なども可能となり、患者の病態に合わせて、移植する細胞を決定していくという細胞治療として発展していく可能性がある。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献・サイト
- 標準血液病学 ISBN 4260109782
- カラーテキスト血液病学 ISBN 9784498125384
- がん診療レジデントマニュアル ISBN 9784260003100
- 造血幹細胞移植とは
- 移植片対宿主病(GVHD) の分類と診断

