貿易における重力モデル

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国際経済学での貿易における重力モデルは、社会科学における他の重力モデルと同様である。貿易の重力モデルは、経済規模(通常はGDPを用いる)と輸出国と輸入国の間の距離に基づいて、相互の貿易量を予測する。このモデルは、1962年に、ヤン・ティンバーゲンが最初に用いた。2国 (i, j) 間の貿易のための基本的な理論モデルは次の形をとる。

F_{ij} = G \frac{M_i M_j}{D_{ij}}

ここで、Fij は貿易量、M はそれぞれの国の経済規模、D は距離、G は定数である。対数を用いると、この等式は線形に変換できる。基本モデルは、次の等式で表せる(ここでα = ln G である)。

ln Fij = α + β ln(GDP1) + β ln(GDP2) - β ln D + ε

重力モデルには、しばしば、所得水準や一人当たりGDP、物価水準、言語関係、関税国境を接するか否か、植民地の経緯(一方が他方を植民地にしたことがあるか否か)といったものを反映する変数εを含める。重力モデルはまた、貿易に関する条約や同盟関係の影響を評価するために、国際関係論でも用いられてきた。そして、貿易協定やNAFTAWTOのような組織の有効性が検定されてきた。

理論的正当化とこれまでの研究[編集]

重力モデルは実証的には成功を収めているが、理論的な正当化は論議がなされている。重力モデルは明らかに貿易を地理的観点から捉える見解と関係があるが、別の理論的正当化も提案されてきた。

重力モデルは、国際貿易のパターンを推定する。重力モデルの基本形は地理や空間と大いに関係のある要因から成っているが、同時に重力モデルは貿易の純粋な経済理論に基づく仮説の検定にも使われてきた。そうした理論の1つでは、貿易は相対的生産要素の豊富さによると考えられている。よく知られた相対的生産要素の豊富さに基づくモデルは、ヘクシャー=オーリン=ヴァネク・モデル (the Heckscher-Ohlin-Vanek model) である。この理論では、貿易パターンは、相対的生産要素の優位に基づくと考えられている。ある生産要素が相対的に豊富な国は、その生産要素を多く生産に要する財の生産を行うと予想される。一般的に受容されている貿易理論ではあるが、比較優位は、実証的問題を抱えている。実際の貿易パターンを検討すると、比較優位理論 (comparative advantage theories) に合致しない数多くの結果に出会う。承知のように、レオンチェフ (Wassily Leontief) は、最も資本豊富な国である米国が実際には労働集約的産業の財をより多く輸出していることを発見した。生産要素賦存に関する比較優位に基づけば、別の事態が起こっているはずなのである。レオンチェフの発見と経済理論との不一致を埋めるために、別の貿易理論も提案されてきた。この問題は、レオンチェフの逆説 (the Leontief paradox) として知られてきた。

リンダー (Staffan Linder) によって初めて提案された代替的な理論は、貿易パターンは、国の間の財への集計された選好によって決定されると予測している。同じような選好を持った国々は、同じような産業を発展させる。同じような需要を持っているので、これらの国々は差別化されているが同じような財を互いに貿易で交換するだろう。例えば、ドイツと米国は共に自動車への高い選好を持った工業諸国である。両国共に自動車産業を持ち、両国共に自動車の貿易を行う。リンダー仮説 (the Linder hypothesis) の実証的正当性は幾分はっきりしない。複数の研究がリンダー効果 (the Linder effect) の有意な影響を見出している一方で、より弱い結果を見出している研究もある。また、リンダーは自分の理論のフォーマルなモデルを提示した訳では決してなく、様々な研究が様々な方法でリンダー仮説を検定しているのである。

ヘルプマン (Elhanan Helpman) とクルーグマン (Paul Krugman) は、比較優位の理論の背後にある理論は重力モデルの関係を予測しないと主張した。重力モデルを用いて、所得が似た水準の国の間ではより多く貿易がなされることが示されてきた。ヘルプマンとクルーグマンは、このことを、それらの国々の類似性から差別化された財が貿易されているという証拠だと見なした。これは、ヘクシャー=オーリン・モデルの現実世界への有効性に疑義を差し挟むものである。この点において、フランクル (Frankel) は、ヘルプマン=クルーグマンがリンダーの提案とは異なったものを提示していると見ている。しかし、フランクルは、ヘルプマン=クルーグマンがリンダーの通常の解釈と異なっているといったのであって、リンダーは明確なモデルを作っていないので、ヘルプマン=クルーグマンとリンダーの関連は完全に無視すべきものではない。デアドルフ (Alan Deardorff) は、見かけとは違って、基本的な重力モデルが、リンダー仮説やヘルプマン=クルーグマン仮説と同様にヘクシャー=オーリン・モデルから導きだせる可能性を指摘している。デアドルフは、重力モデル方程式 (the gravity model equation) をいくつもの理論と結びつけることができる点を考慮すると、理論の実証的妥当性を評価するために重力モデルを用いることはできないと結論付けている。

経済理論と実証結果を橋渡しする問題に加えて、差別化された財の結果としてではなく「相互ダンピング」(reciprocal dumping) によって産業内貿易を説明しようとする経済学者もいる。これらのモデルでは、国々は、同質財に関して不完全競争、分断された市場 (segmented markets) に直面しているとされる。同質財に関して不完全競争、分断された市場は、産業内貿易をもたらす。不完全競争下では、企業は自分の市場を外国に広げ、特化も起こっていないので十分に差別化されておらず比較優位もない財を貿易しようとする。この貿易モデルは、貿易が国の規模に依存することを予測するので、重力モデルと整合的である。

相互ダンピングモデル (the reciprocal dumping model) は、実証的テストもされてきた。そして、特化や差別化された財のモデルは重力方程式を完全に説明するものではないということを示唆している。フェーンストラ=マークセン=ローズ (Feenstra, Markusen, and Rose 2001) は、差別化された財と同質財に関しての別々の重力方程式において「国内市場効果」(home market effect) の存在を主張することで相互ダンピングの証拠を提示した。国内市場効果は、差別化された財に関しては重力推定式で関係が見られたが、同質財に関しては逆の関係が見られた。フェーンストラ=マークセン=ローズは、この結果は、同質財に関して役割を果たしている相互ダンピングの理論的予測と合致すると見ている。

重力モデルを用いた過去の研究は、基本的な重力方程式に加えて様々な変数の影響を評価しようとしてきた。その中でも、物価水準為替レートは重力モデルにおいて有意な結果を示している。物価水準に関する実証結果によれば、物価水準の効果は、被説明変数が何であるかに応じて変わる。例えば、もし輸出が被説明変数であれば、輸入国側の相対的に高い物価水準は、その国との貿易を増やすと考えられる (Bergstrand 1985; Summary 1989)。

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