谷山・志村の定理
谷山・志村の定理(たにやま・しむらのていり、Taniyama-Shimura theorem; モジュラー性定理(Modularity theorem)ともいう)とは、「すべての楕円曲線はモジュラーである」という数学の定理である。これは、「ある楕円方程式のE系列は、どれかの保型形式のM系列である」とも言える。提出された時点では、未証明の予想にすぎなかったので、「谷山・志村予想」と呼ばれた。フェルマーの最終定理の証明とも関連する。
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意味 [編集]
谷山・志村定理(または谷山・志村予想)の意味は、「楕円曲線論」と「保型形式論」という異なる二つの分野で用いられる特殊な概念が同種のものである、ということである。この二つの分野のそれぞれの概念はまったく別のものだと思われていたため、予想が提出された当時では、これはとても衝撃的なことだった。
二つの分野の別の概念が同種のものだとすれば、そこには何らかの深遠な真実がひそんでいることになる。それゆえ、この予想は、通常の定理のように一つの分野だけの問題ではなくて、数学における広範な真実を告げる重大な問題だと理解された。たとえ証明はまだなされていないとしても、その重要性は普通の定理を上回った。そして、その解決(つまり証明)が、是非とも達成すべき目標とされた。
経緯 [編集]
谷山・志村予想は、1955年9月に日光の国際シンポジウムで谷山豊が提出した、いくつかの「問題」を原型とする。それらの問題が互いに関連しているらしいことは谷山も気付いていたが、実は同じ命題の言い換えであることが後に判明した。谷山自身は若くして自殺したため、最終的な形は谷山の盟友である志村五郎によって定式化され、長らく「谷山・志村予想」と呼ばれていた。
内容的に「ゼータの統一」というテーマを扱う豪快な予想であり、数論の中心に位置するものの一つと目されるまでにいたったが、攻略自体は絶望視されていた。1984年秋、この予想からフェルマーの最終定理が出るというアイディアがゲルハルト・フライにより提示され、セールによる定式化を経て(フライ・セールのイプシロン予想)、1986年夏にケン・リベットによって証明されたことにより俄然注目を集めたが、アンドリュー・ワイルズを除いては、まともに挑もうとする数学者は依然として現れなかった。
アンドリュー・ワイルズ(Andrew Wiles、プリンストン大学教授)により、この予想はまず半安定な場合について解決された(1993~1995年)。ワイルズが1993年に発表した証明には一箇所致命的なギャップが存在したため、その修正に当ってはワイルズの元教え子であったリチャード・テイラーも貢献した。1994年9月、ワイルズはギャップを回避することに成功し、修正された証明は翌1995年に2編の論文として出版された。このことにより、ワイルズは谷山・志村予想の系であるフェルマー予想をも解決した。
一般の場合についてはリチャード・テイラー(Richard Taylor, ハーバード大学教授)、ブライアン・コンラッド(Brian Conrad, ミシガン大学教授)、フレッド・ダイアモンド(Fred Diamond, ブランダイス大学教授)、クリストフ・ブレイユ(Christophe Breuil, IHES長期研究員)の4人による共著論文On the modularity of elliptic curves over Qにより肯定的に解決された。
呼称に関する議論 [編集]
ヨーロッパの数学界にこの予想を最初に持ち込んだのが当時の数学界の権威であったアンドレ・ヴェイユであったため欧米ではこの予想の呼称は「谷山=志村=ヴェイユ予想」「谷山=ヴェイユ予想」「ヴェイユ予想」と呼ばれることもある。しかし、数学者のサージ・ラングは谷山・志村予想の調査、研究を進めた上で、ヴェイユはこの予想には何の貢献もしていないことを明らかにした[1][2]。ちなみに普通ヴェイユ予想といえば非特異代数多様体上の合同ゼータ関数に関する予想のことをさす。
また志村は『記憶の切絵図』(筑摩書房、2008年)のなかで「有理数体上の楕円曲線はモジュラー関数で一意化される」という命題を「私の予想」と呼んでおり、谷山が1955年に提案した問題とは無関係だとしている。
志村は
- 私はこの問題に関する限り谷山と議論したことはない。
- 私は私流の理論をひとりで構築していたから、彼のこの言明には全く重きをおいていなかった。
- 私は谷山と共著の本があるが、それは全く無関係である。
- これについて何か言ったり書いたりしようとする人は、これだけのことを知って私の仕事をしらべた上での事にしていただきたい。
と述べている[3]。
証明の歴史 [編集]
導手 (conductor) について
- 平方因子を持たない場合 ワイルズ 1995
- Andrew Wiles (May 1995). “Modular elliptic curves and Fermat's Last Theorem (モジュラー楕円曲線とフェルマーの最終定理)”. Annals of Mathematics 141 (3): pp. 443-551.
- Richard Taylor and Andrew Wiles (May 1995). “Ring-theoretic properties of certain Hecke algebras (ある種のヘッケ環の理論的性質)”. Annals of Mathematics 141 (3): pp. 553-572.
- 27で割れない場合 リチャード・テイラー他 1999
- Conrad, B.; Diamond, F.; Taylor, R. (1999). “Modularity of Certain Potentially Barsotti-Tate Galois Representations” (PDF). J. Amer. Math. Soc. 12: pp. 521-567.
- 一般の場合
出典 [編集]
参考文献 [編集]
- 足立恒雄 『フェルマーの大定理が解けた! オイラーからワイルズの証明まで』 講談社〈ブルーバックス〉、1995年6月20日。ISBN 4-06-257074-2。
- 志村五郎 『記憶の切繪図』 筑摩書房、2008年6月。ISBN 978-4-480-86069-9。
- Lang, Serge (1995). “Some history of the Shimura-Taniyama conjecture” (PDF). Notices of the American Mathematical Society (AMS) 42 (11): pp. 1301-1307.