制限行為能力者

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被保佐人 から転送)

制限行為能力者(せいげんこういのうりょくしゃ)とは、単独では完全に有効な法律行為をすることができない者(行為能力のない者)のことをいう。具体的には、未成年者成年被後見人被保佐人民法第17条第1項の審判(同意権付与の審判)を受けた被補助人を指す(制限行為能力者については民法20条第1項で定義されているが、これには代理権付与の審判のみを受け同意権付与の審判を受けていない被補助人は含まれていない点に注意を要する)。

  • 民法について以下では、条数のみ記載する。

目次

[編集] 制度概要

私的自治の原則の下では有効な法律行為をなすためには意思能力が必要とされる。しかし、法律行為時に意思能力を欠いていたことを理由として法律行為の無効を主張するには、その法律行為がなされた時点において自らに意思能力が無かったことを証明しなければならなくなるが、これは容易ではないため意思能力が十分でない社会的弱者の保護を図ることができない。また、意思能力がなかったことを証明された場合には当該法律行為は無効となるので相手方に不測の損害を与えるおそれもある。

そこで、民法は意思能力の有無が個別に判断されることから生じる不都合を回避し、意思能力が不十分と考えられる者を保護するため、予め年齢や各審判の有無という形式的基準により制限行為能力者を定め(民法20条)、未成年者、成年被後見人、被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人に類型化し、それぞれの一定の法律行為につき単に制限行為能力者であることを理由として取り消すことができることとして、意思能力の証明の問題から解放することにより、これらの者の保護を図ることとした。

従来、日本における同種の法律用語としては、無能力者又は行為無能力者という用語が用いられていた。しかし、「無能力」という言葉はあまり良いイメージではないので、2000年4月の成年後見制度の新設の際に「制限能力者」と表現が改められた。さらに民法の口語化を主な目的とする民法の一部改正法の施行により、2005年4月から更に冒頭に掲げた表現に改められている。また、この民法の改正に合わせて「任意後見契約に関する法律」が施行され、任意後見人の制度が発足した。同時に、「後見登記等に関する法律」により、後見、補佐及び補助に関する登記、任意後見契約に関する登記がされることとなった。

なお、身分行為には制限行為能力制度の適用はない。

[編集] 制限行為能力者とその法律行為

[編集] 未成年者

民法は「年齢二十歳をもって、成年とする。」と規定しており(民法第4条)、この反対解釈から民法上の未成年者とは20歳に達しない者をいう。ただし、未成年者が婚姻をした場合は、20歳に満たない場合でも成年に達したものとみなされる(第753条 - 成年擬制)。

未成年者は制限行為能力者であり(民法第20条)、未成年者の財産行為には原則として法定代理人の同意を要することになる(第5条第1項本文)。未成年者の法定代理人は、通常は親である(親権者)が、親権者と利益が相反する行為については家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならない(第826条)。親権者になり得る者がいない場合は、未成年後見人が選任される(第839条第840条)。

前述のように未成年者が法律行為をするには、原則として、その法定代理人の同意を得なければならない(第5条第1項本文)。法定代理人の同意が必要な行為で未成年者が法定代理人の同意を得ずに単独で行った法律行為については取消すことができる(第5条第2項)。

ただし、単に利益を得たり、義務を免れる法律行為については法定代理人の同意を得なくともよい(第5条第1項但書)。また、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産についてはその目的の範囲内において処分する場合や、目的を定めないで処分を許した財産を処分するときには未成年者は自由に処分しうる(第5条第3項)。さらに、一種または数種の営業を許された未成年者はその営業に関しては成年者と同一の行為能力を有するので、許可された営業の範囲で営業を行う場合には法定代理人の同意は不要である(第6条第1項)。以上の法定代理人の同意が不要な行為については未成年者が法定代理人の同意なく単独でなしたことを理由として取り消すことはできない。

未成年者が他人に損害を加えた場合において、事故の行為の責任を弁識するに足る知能を備えていない時は、その行為について賠償責任を負わない(第712条)が、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は賠償責任を負う(第714条)。

[編集] 成年被後見人

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者として、後見開始の審判を受けた者のことをいう(7条8条)。成年後見制度を導入する前の「禁治産者」に相当する。

成年被後見人には成年後見人が付され(第8条)、成年後見人は、成年被後見人の財産に関する法律行為につき成年被後見人の法定代理人としての地位を有する(859条1項)。

成年被後見人は制限行為能力者であるから(民法第20条)、成年被後見人が成年後見人の代理によらず単独で行った法律行為については取消しすることができる(9条本文)。
ただし、成年被後見人の自己決定の尊重の観点から、問題となる法律行為が「日用品の購入その他日常生活に関する行為」である場合は取り消すことができない(9条但書)。

なお、成年被後見人となると、自動的に選挙権被選挙権を失う(公職選挙法11条)。

[編集] 被保佐人

精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者として、保佐開始の審判を受けた者のことをいう(11条12条)。成年後見制度を導入する前の「準禁治産者」に相当するが、準禁治産とは異なり浪費は原因とされていない。

被保佐人には保佐人が付されるが、保佐人は成年後見人と異なり、原則として法定代理人としての地位を有しない。ただし、被保佐人の同意がある場合は、家庭裁判所の審判により、保佐人に対し特定の法律行為について代理権を付与することができる、その場合には代理権の範囲が特定された法定代理人となる(876条の4)。

被保佐人が13条1項に列挙の行為や家庭裁判所により追加された行為をする場合は、保佐人の同意が要求され、同意を得ることなくこれらの法律行為をした場合は、取り消すことが出来る。

  • 保佐人の同意を要する行為(13条1項)
    1. 元本を領収し、又は利用すること。
    2. 借財又は保証をすること。
    3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
    4. 訴訟行為をすること。
    5. 贈与、和解又は仲裁合意をすること。
    6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
    7. 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
    8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
    9. 短期賃貸借の期間を超える賃貸借をすること。

被保佐人の相手方は、一箇月以上の期間を定めて、取り消すことができる行為の保佐人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。その期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとなる(20条4項)。

なお、準禁治産者制度の下では保佐人に取消権や追認権が認められるか見解の対立があったが[1]、平成11年民法改正により保佐人の取消権・追認権が明文で定められることとなった(取消権につき120条1項、追認権につき122条)。

[編集] 同意権付与の審判を受けた被補助人

被補助人とは精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者として、補助開始の審判を受けた者のことをいう(第15条1項)。被補助人には補助人が付されるが、本人には一定程度の判断能力があることに鑑み、家庭裁判所による補助開始の審判には本人の同意が必要とされる。また、補助開始の審判には必ず併せて17条第1項の審判(同意権付与の審判)あるいは876条の9の審判(代理権付与の審判)の一方又は双方の審判がなされる。

被補助人のうち制限行為能力者とされるのは、補助開始の審判とともに同意権付与の審判を受けた者(同意権付与の審判とともに代理権付与の審判も受けている者を含む)を指し、同意権付与の審判を受けず代理権付与の審判のみを受けている被補助人は制限行為能力者ではない(20条1項の定義参照)。

同意権付与の審判を受けた被補助人は、13条1項に列挙されている行為の一部の法律行為について補助人の同意を要する(17条)。補助人の同意を要するとされた法律行為を被補助人が同意を得ずに行った場合は、当該法律行為を取り消すことが出来る。

なお、代理権付与の審判のみを受けている被補助人については「成年後見制度」の項の「補助」を参照のこと。

[編集] 取り消すことができる行為の取消し・追認

制限行為能力者が単独でなした法律行為は原則として取り消すことができる。ただし、身分行為については本人の意思が尊重されるべきであるから制限行為能力制度の適用はない。

[編集] 取消権者

行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者またはその代理人、承継人もしくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる(120条1項)。

  • 制限行為能力者本人
未成年者、成年被後見人、被保佐人、民法第17条第1項の審判(同意権付与の審判)を受けた被補助人である(20条第1項)。
制限行為能力者本人が取消権者と規定されているから(120条1項)、制限行為能力者本人が保護者の同意なく単独で取り消す場合にも取消しは完全に効力を生じるのであって、取り消すことのできる取消しとなるわけではない[2]
  • 制限行為能力者の代理人
親権者や未成年後見人、成年後見人などである。
  • 制限行為能力者の承継人
  • 同意権者
保佐人や家庭裁判所による同意権付与の審判を受けた補助人などである。

[編集] 取消しの方法

取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消しは相手方に対する意思表示によってする(123条)。なお、取消権が消滅する場合については後述。

[編集] 取消しの効果

取り消された行為は初めから無効であったものとみなされる(121条本文)。法律行為は行為時に遡って生じなかったものとなる。取り消された行為に基づいて履行された債権債務によって得た利益は不当利得第703条第704条)となるが、民法は制限行為能力者を保護すするため制限行為能力者の返還義務を「その行為によって現に利益を受けている限度」とする(121条但書)。

[編集] 追認

取り消すことができる行為は、120条に規定する者(取消権者)が追認したときは、以後、取り消すことができない(122条本文)。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない(122条但書)。

追認権者は、120条に規定する者(取消権者)である(122条本文)。追認は取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければその効力を生じないので(124条1項)、制限行為能力者本人が追認するには行為能力者となっていなければならないことになる(例えば、未成年者が法定代理人の同意を得ずに行った法律行為を、その未成年者が成年に達した後で自ら追認した場合には有効な追認となる)。また、成年被後見人は行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ追認をすることができない(124条2項)。法定代理人または制限行為能力者の保佐人もしくは補助人は常に追認しうる(124条3項)。

追認の方法については、取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その追認は相手方に対する意思表示によってする(123条)。追認によって当該法律行為の有効が確定して取消権は消滅する(取消すことのできる行為ではなくなる)。

[編集] 法定追認

124条により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について追認権者に次に掲げる事実があったときは追認をしたものとみなされる(125条本文)。これを法定追認という。ただし、異議をとどめたときは追認したものとはみなされない(125条但書)。

  1. 全部または一部の履行
  2. 履行の請求
  3. 更改
  4. 担保の供与
  5. 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡
  6. 強制執行

[編集] 取消権の消滅

取消権者が取消した場合や追認した場合(法定追認を含む)には取消権は消滅する(前者の場合には法律行為が遡って無効となるため取消権は消滅し、後者の場合には法律行為の有効が確定して取消権は消滅する)。このほか取消権の行使には期間が定められており、取消権者が追認をすることができる時から5年間取消権を行使しないとき、当該行為の時から20年を経過したときには消滅する(126条)。なお、取消権の発生原因が同じである場合には、取消権者の一人につき取消し・追認・126条の期間制限などにより取消権が消滅すれば、すべての者の取消権が消滅するものと解されている[3]

[編集] 制限行為能力者の相手方保護

[編集] 相手方の催告権

制限行為能力者の行為は取消されることがあり、そのため、その行為の相手方は不安定な立場に置かれることになる。そこで、次の場合には追認したものとして制限行為能力者の相手方を保護する。

  1. 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者)となった後、その者に対し1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、そのものがその期間内に確答を発しない時は、その行為を追認したものとみなされる(20条第1項)。
  2. 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人保佐人、又は補助人に対し、その権限内の行為について1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、その者がその期間内に確答を発しない時は、その行為を追認したものとみなされる(20条第2項)。

但し、次の場合は、取り消したものとみなされる。

  1. 特別な方式を要する行為については、上記の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しない時は、その行為を取り消したものとみなされる(20条第3項)。
  2. 制限行為能力者の相手方が、被保佐人又は被補助人に対して、その行為について1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内に、その保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができ、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しない時は、その行為を追取り消したものとみなされる(20条第4項)。

取り消されると、初めから無効であったものとみなされ、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度においてのみ、返還しなけばならない(121条)。

[編集] 制限行為能力者の詐術による取消権の否定

制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない(21条)。

[編集] 制限行為能力者と転得者の関係

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[編集] 脚注

  1. ^ 我妻栄著『新訂 民法総則』87頁~88頁、岩波書店、1965年
  2. ^ 我妻栄著『新訂 民法総則』394頁、岩波書店、1965年
  3. ^ 四宮和夫・能見善久著『民法総則 第6版』299頁、弘文堂、2002年

[編集] 関連項目