行階段形

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数学線型代数学の分野において、ある行列がガウスの消去法の結果として得られる形状となっているとき、その行列は階段形(かいだんけい、: echelon form)であると言われる。行階段形(row echelon form)とは、行列の行に対してガウスの消去法が作用された場合に得られる階段形であり、同様に列階段形(column echelon form)も定義される。ある行列が列階段形であるための十分条件は、その転置行列が行階段形であることである。したがって、以下では行階段形のみを考慮すれば十分であることが分かる。列階段形に対する同様の性質は、扱う全ての行階段形の行列を転置することで簡単に得られる。

具体的に、行列が行階段形であるとは、次が成立するときを言う:

  • 非ゼロの行(少なくとも一つの成分がゼロでない行)が、ゼロ行よりも上に位置している(ゼロ行が存在するならば、それらは行列の最下部に配置される)。
  • 非ゼロ行の主係数(左から数えて最初にあらわれる非ゼロの数。ピボット英語版とも呼ばれる)が、その行の真上の行の主係数よりも、厳密に右側に位置している。
  • ある列の主係数より下の成分がすべてゼロである(これは上二つの条件を意味するものである)[1]

いくつかの本では、任意の非ゼロ行の主係数は 1 でなければならないとされている[2]

3×5 行列の行階段形の一例を、以下に示す:


\left[ \begin{array}{ccccc}
1 & a_0 & a_1 & a_2 & a_3 \\
0 & 0 & 2 & a_4 & a_5 \\
0 & 0 & 0 & 1 & a_6
\end{array} \right]


行既約階段形[編集]

行列が行既約階段形行標準形とも呼ばれる)であるとは、以下に述べる条件を満たすことを言う。ある行列の行既約階段形は、ガウスの消去法によって算出することが出来る。しかし、行階段形とは異なり、行既約階段形は一意で、その算出方法には依存するものではない。

  • 非ゼロ行は全て、ゼロ行の上に位置される。
  • 非ゼロ行の主係数は常に、その上の行の主係数よりも厳密に右側に位置される。
  • 全ての主係数は 1 であり、それはその列の唯一つの非ゼロの元である[3]

行既約階段形である行列は、行階段形についての全ての条件を満たし、さらに制限されている。

行既約階段形である行列の例を、次に挙げる:


\left[ \begin{array}{ccccc}
1 & 0 & 0 & 0 & b_1 \\
0 & 1 & 0 & 0 & b_2 \\
0 & 0 & 0 & 1 & b_3
\end{array} \right]

ここで、行列の左側は常に単位行列であるという訳ではないことに注意されたい。例えば、次に挙げる行列も行既約階段形である:


\left[ \begin{array}{cccccc}
1 & 0 & 0 & 1/2  & 0 & b_1 \\
0 & 0 & 1 & -1/3 & 0 & b_2 \\
0 & 0 & 0 & 0    & 1 & b_3
\end{array} \right]

整数係数の行列に対するエルミート標準形は、ユークリッド除法を用いてどのような有理数や分母も導入することなく算出される行階段形である。一方、整数係数の行列の行既約階段形は、一般的に非整数の成分を含む。

行階段形への変換[編集]

ガウスの消去法と呼ばれる行基本変形を有限回行うことによって、どのような行列も行階段形へと変換することが出来る。行基本変形はその行列の行空間を保存するため、行階段形の行空間は、もとの行列の行空間と等しいものとなる。

結果として得られる階段形は一意では無い。例えば、行階段形である行列の任意のスカラー倍もまた行階段形である。しかし、全ての行列に対してその行「既約」階段形は一意である。このことは、行既約階段形の非ゼロの行は、もとの行列の行空間に対する唯一つの行既約階段生成集合であることを意味する。

線型方程式系[編集]

線型方程式系が行階段形であるとは、その拡大係数行列が行階段形であることを言う。同様に、線型方程式が行既約階段形あるいは標準形であるとは、その拡大係数行列が行既約階段形であることを言う。

標準形は、線型方程式系の陽的解と見なすことが出来る。実際、系が矛盾系(inconsistent)であるための必要十分条件は、その標準形の一つの方程式が 1 = 0 へと書き下されることを言う。

注釈[編集]

  1. ^ Meyer 2000, p. 44
  2. ^ See, for instance, Larson and Hostetler, Precalculus, 7th edition.
  3. ^ Meyer 2000, p. 48

参考文献[編集]

外部リンク[編集]