行列の定値性

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行列の定値性(ぎょうれつのていちせい、: Definiteness)とは、次の二次形式の値の範囲により決まる対称行列(またはエルミート行列)の区分のこと。なお、対称行列(またはエルミート行列)ではない行列には適用されない。

定義[編集]

A をN×Nの対称行列(またはエルミート行列)とし、任意のベクトルx(ただしx≠0)に対して行列の二次形式が

\langle x, Ax \rangle = x^T A x > 0 ならば正定値 (英語: positive definite) または正値
\langle x, Ax \rangle = x^T A x \ge 0 ならば半正定値 (英語: positive semidefinite) または非負値 (英語: non-negative definite)
\langle x, Ax \rangle = x^T A x < 0 ならば負定値 (英語: negative definite)
\langle x, Ax \rangle = x^T A x \le 0 ならば半負定値 (英語: negative semidefinite) または非正値
上記のいずれでもなく正にも負にもなる場合を不定値 (英語: indefinite)

という。

なお、エルミート行列の場合は x*Ax の値に関しての判定となる。ここで*は随伴作用素

表記法[編集]

行列 A の定値性を次の記号を用いて表現することがある。

定値性の表記法
定値性 正定値 半正定値 負定値 半負定値
表記法 A > 0 A ≧ 0 A < 0 A ≦ 0

性質[編集]

固有値との関係[編集]

行列の定値性は固有値の符合と関係している。「すべての固有値の符合」がわかれば定値性がわかり、 逆に定値性がわかれば「すべての固有値の符合」が正なのか負なのか正負混じっているのかなどがわかる。

  1. 対称(エルミート)行列 A のすべての固有値λが正値  λ > 0 ⇔ 行列 A は正定値行列
  2. 対称(エルミート)行列 A のすべての固有値λが負値  λ < 0 ⇔ 行列 A は負定値行列

(証明)行列 A の固有値をλ、固有ベクトルを e とする。 固有値と固有ベクトルの関係から Ae = λe なので eTAe = eTλe = λ||e||2 。すべての固有値に対してこれが正あるいは負が成り立つので、すべての固有値の符合は定値性により決まる。 一方、任意のベクトルx(x≠0)は固有ベクトルを用いてx=Σcieiと書け、 xTAx = Σλi||ciei||2 よって、すべての固有値の符合が正か負かにより定値性が決まる。

逆行列との関係[編集]

  1. 対称(エルミート)行列 A が正定値なら 行列 A は正則で 逆行列 A-1 も正定値。
  2. 対称(エルミート)行列 A が負定値なら 行列 A は正則で 逆行列 A-1 も負定値。

行列式との関係[編集]

  1. 対称(エルミート)行列 A が正定値なら det( A) > 0

(証明) det(A) = Πλi

半正定値行列[編集]

  • 半正定値行列には半正定値の平方根行列が1つだけ存在する。
  • 行列 A = X X* , X∈Mm x n(RまたはC) は常に半正定値行列。この形の行列は共分散行列と呼ばれることがある。

(証明) 行列 A の固有値をλとすると Ay = X X* y = λy よって、y*Ay = y* X X* y = (X* y)* X* y = ||X* y||2 ≧ 0

幾何的解釈[編集]

ベクトル x とベクトル A x のなす角をθとすると

xTA x = ||xT|| ||A x|| cosθ

正負はcosθの値によって決まることがわかる。 また、この角度θは、行列 A によりベクトル x がどのくらい回転するのかをあらわしており、 -π/2 < θ < π/2 の範囲なら正定値となる。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

詳細は、

を参照のこと。