著作物

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著作物(ちょさくぶつ)とは、著作権の対象となる知的財産である。国際条約及び各国法における定義およびその内容については、以下で詳述する。

日本法における著作物[編集]

著作物の定義[編集]

著作物とは、日本の著作権法の定義によれば、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸学術美術又は音楽の範囲に属するもの」2条1項1号)である。要件を分解すれば、次の通りである。

  1. 「思想又は感情」
  2. 「創作的」
  3. 「表現したもの」
  4. 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

そのため、表現ではない事実や事件やデータ[1]や思想(アイディア)そのものや感情そのもの、創作の加わっていない模倣品[1]、範囲外の工業製品[1]などは著作物とはならない(江差追分事件)ほか、短い表現・ありふれた表現[1][2]・選択の幅が狭い表現などは創作性が認められない傾向にある。

旧著作権法における著作物の定義[編集]

元々、「著作物」という語はベルヌ条約のフランス語原文における「Oeuvre」や英語の「Work」に相当するものであり、旧著作権法を起草した水野錬太郎は著書「著作権法要義」において、「著作物トハ[...]有形ト無形トヲ問ハズ吾人ノ精神的努力ニヨリテ得タル一切ノ製作物ヲ云フ」と解説していた[3]。旧著作権法では、著作物のうち「文芸学術の著作物」(Oeuvre littéraire)と「美術の著作物」(Oeuvre artistique)に対して著作者の複製権専有を規定することで、それらの著作物のみが著作権の目的物となるようにしていた。

新聞紙法における著作物の定義[編集]

新聞紙法の第一条において、定義を示さずに「著作物」という語が使われているが、新聞紙法における著作物の意味は、思索考量によって案出された著述だけでなく、時事その他に関する報道も含んでいる (信用毀損及新聞紙法違反ノ件(明治四十四年二月九日大審院判決))。

著作物の例示[編集]

著作権法10条は、つぎのようなものを著作物として例示列挙している。例示列挙であって、限定列挙ではないから、著作物が例示されたものに限られるわけではない。

  • 言語の著作物(10条1項1号) 小説、脚本、論文、講演その他。
    • ただし、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は、著作物に該当しない(10条2項)。
  • 音楽の著作物(10条1項2号)
  • 舞踊又は無言劇の著作物(10条1項3号)。
  • 美術の著作物(10条1項4号)
    • 美術の著作物は、絵画、版画、彫刻その他。美術工芸品を含む(2条2項)。なお、応用美術(量産品)については意匠法で守られており、高裁判決において、美術鑑賞の対象となりうる審美性を備えていない限り著作物には該当しないとされている[4]。また、漫画のキャラクターにおいては、キャラクターの絵は著作物となるものの、キャラクター自体は「漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない」とされている[5]
  • 建築の著作物(10条1項5号)
  • 図形の著作物(10条1項6号)- 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他。
  • 映画の著作物(10条1項7号)。- 映画の著作物には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む(2条3項)。映画、ビデオグラム、テレビジョン、テレビゲーム、コンピュータなどの画面表示が挙げられる。
  • 写真の著作物(10条1項8号)。写真の製作方法に類似する方法を用いて表現される著作物を含む(2条4項)。
  • プログラムの著作物(10条1項9号)-「プログラム」とは、電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう(2条1項10号の2)。ただし、プログラムに対する著作権上の保護は、これを作成するために用いる次のものに及ばない(10条3項)。
    1. プログラム言語 - 「プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系」をいう。ただし、特定のコンパイラなどは著作物である。
    2. 規約 - 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束」をいう。プロトコルインターフェースなどが挙げられる。
    3. 解法 - プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法」をいう。アルゴリズムなどが挙げられる。ただし、アルゴリズムを記述した文書は言語あるいは図形の著作物になる可能性がある。

二次的著作物[編集]

二次的著作物とは、著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう(2条1項11号)。二次的著作物に対する著作権法の保護は、原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(11条)。二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、著作者財産権で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を有する(28条)。

「この規定によれば、原著作物の著作権者は、結果として、二次的著作物の利用に関して、二次的著作物の著作者と同じ内容の権利を有することになることが明らかである」(キャンディ・キャンディ事件控訴審判決(平成12年3月30日東京高裁判決)。なお原審は、平成11年2月25日東京地裁判決)。

「二次的著作物は、その性質上、ある面からみれば、原著作物の創作性に依拠しそれを引き継ぐ要素(部分)と、二次的著作物の著作者の独自の創作性のみが発揮されている要素(部分)との双方を常に有するものであることは、当然のことというべきであるにもかかわらず、著作権法が上記のように上記両要素(部分)を区別することなく規定しているのは、一つには、上記両者を区別することが現実には困難又は不可能なことが多く、この区別を要求することになれば権利関係が著しく不安定にならざるを得ないこと、一つには、二次的著作物である以上、厳格にいえば、それを形成する要素(部分)で原著作物の創作性に依拠しないものはあり得ないとみることも可能であることから、両者を区別しないで、いずれも原著作物の創作性に依拠しているものとみなすことにしたものと考えるのが合理的である」(同控訴審判決)。

この規定は、必ずしも不合理な結果を生まない。「まず、〔原著作物の著作者〕と〔二次的著作物の著作者〕とは、互いに協力し合う者同士として、当該〔二次的著作物〕の利用につきそれぞれが単独でなし得るところを、事前に契約によって定めることが可能である。明示の契約が成立していない場合であっても、当該〔二次的著作物〕の利用の中には、その性質上、一方が単独で行い得ることが、両者間で黙示的に合意されていると解することの許されるものも存在するであろう。次に、契約によって解決することができない場合であっても、著作権法65条は、共有著作権の行使につき、共有者全員の合意によらなければ行使できないとしつつ(二項)、各共有者は、正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない(三項)とも定めており、この法意は、〔二次的著作物〕の〔原著作物の著作者〕と〔二次的著作物の著作者〕との関係についても当てはまるものというべきであるから、その活用により妥当な解決を求めることも可能であろう。」(同控訴審判決)。

一話完結形式の連載漫画においては、後続の漫画は先行する漫画の二次的著作物として扱われ、「二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当」とされている(「ポパイ」著作権侵害第3事件(最高平成4年(オ)1443号平成9年7月17日判))[5]

データベースの著作物[編集]

データベースとは、論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう(2条1項10号の3)。データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する(12条の2第1項)。しかし、このことは、当該データベースの部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(12条の2第2項)。

編集著作物[編集]

データベース以外の編集物(著作権法上単に「編集物」という)で、その素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する(12条1項)。しかし、このことは、当該編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(12条2項)。

著作権の目的とならない著作物[編集]

以下に該当するものは著作物ではあっても、著作権の目的とならない(13条)。また、著作者人格権の対象にもならないものと解する。これらの著作物の内容は国民の権利や義務を直接形成するものであり、国民に広く周知されるべきものであるため、著作権の対象とすることは妥当ではないからである。

  1. 憲法その他の法令(1号)
  2. 国・地方公共団体の機関・独立行政法人が発する告示、訓令通達その他これらに類するもの(2号)。
  3. 裁判所の判決、決定、命令及び審判、行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの(3号)。
  4. 上記1~3の翻訳物及び編集物(データベースの著作物を除く、著作権法12条1項かっこ書き)で、国若しくは地方公共団体の機関又は独立行政法人が作成するもの(4号)。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 著作権テキスト 初めて学ぶ人のために 文化庁長官官房著作権課 2010年度
  2. ^ 作権法の基本的な枠組みについて(オープンデータ関連) 文化庁 2013年1月24日
  3. ^ 著作権法要義 水野錬太郎 1899年
  4. ^ ○玩具「ファービー」人形のデザインは美術の著作物に該当しないと判断された事例 平成14年7月9日判決宣告 仙台高等裁判所 平成13年 (う) 第177号
  5. ^ a b 「ポパイ」著作権侵害第3事件:東京地昭和59年(ワ)10103号平成2年2月19日判(一部認容)(1)、東京高平成2年(ネ)734号平成4年5月14日判(棄却)(2)、最高平成4年(オ)1443号平成9年7月17日判(上告認容)(3)

関連項目[編集]