若手アニメーター育成プロジェクト

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若手アニメーター育成プロジェクト(わかてアニメーターいくせいプロジェクト)[1]は、文化庁より委託を受けた団体(後述)が実施する、日本におけるアニメーターの人材育成事業である。開始初年度は「PROJECT A」(プロジェクト・エー)、2011年以降は「アニメミライ」の通称を用いている。

委託事業者は初年度から2013年度までは一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が、2014年度より社団法人日本動画協会が行っている。

事業の目的とその経緯[編集]

文化芸術振興基本法第7条に基づき閣議決定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第2次基本方針)」(2007年2010年)により実施された「若手クリエイター創作支援事業」への申請数が少なかったため、文化庁は、2010年度以降は、広くメディア芸術[2]人材の育成支援をする方向に転換することとした。若手アニメーター育成プロジェクトは、その際に新規制定された人材育成事業の1つである[3]

背景として、有能なアニメーター、特に有能な原画マンが育ちにくくなっている日本アニメーション業界の厳しい現状がある。すなわち、制作本数の増加、デジタル化に伴うスケジュールの悪化、過度の海外委託といった要因により、先輩から後輩への指導というOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)を行う余裕や機会が制作現場から失われ、アニメ人気によりアニメーターを志望する若者は多いにもかかわらず、彼らを有能な人材に育てることができず、いわば若手アニメーターの使い捨てのような常況に陥っているのである。

また、若手アニメーターの低収入・長時間労働[4]も、磨けば有能なアニメーターになったであろう人材の喪失に拍車をかけている。

そのため、アニメーター人材の枯渇・高齢化は深刻な問題となっており、それが更に制作現場を苦しい状況に追い詰めており、このままではアニメーション制作自体がままならなくなる危機がある[5]

その対策として、商業用オリジナルアニメーションを十分な予算と余裕を持ったスケジュールで実際に制作し、将来を嘱望される若手アニメーターに対して作画監督などによる適切なOJT及びJAniCAによるOff-JTが行われることにより、次世代を担うアニメーターの育成を行い、更に事業遂行によって得られる知見により育成方法論の確立を計ろうと立案された事業である。

また、アニメ制作会社のいわゆる「脱下請化」、一線級監督によるオリジナル作品制作機会の創設、コンプライアンスによる制作工程の正常化・円滑化、アニメ制作に関わるモデル契約書策定やその運用プロセスの確立、スケジュール悪化問題への対処のための意識改革といった目的も有している。

こうして有能なアニメーターを少しでも多く育てあげることにより、世界に誇る日本のアニメーション文化の向上と発展に資することが本事業の最終目的である。

事業の概要[編集]

制作会社の応募資格は「原則として日本国内に本拠があり、商業アニメーションに関する十分な制作実績およびアニメーター育成に対する意欲を有する法人等」とされた。

育成の対象となるアニメーターは、事業の趣旨に則り、以下の者に限定された。

  • 3年以内程度の原画マン経験を有しており、中堅以上への成長を志す若手アニメーター(原画マンとして十分な技能を有するアニメーターへと成長させる)
  • 1年未満程度の動画マン経験を有する新人アニメーター(動画マンとして十分な技能を有するアニメーターへと成長させる)

これ以外にも若手アニメーターの定義として以下の2つが提示されており、実質的な限定条件となっている。

  • 原画マン経験6ヶ月~3年以内程度で、かつ応募時30歳以下であるアニメーター
  • 原画マン経験6ヶ月未満だが、育成担当の作画監督の強い推薦があり、かつ応募時27歳以下であるアニメーター

これ以外に主だったもので、下記のような契約条件・契約基準が提示された。

  • 制作するアニメーションは、監督が創作の主体であるオリジナル作品に限る。
    • 監督が書いた脚本などであること(制作会社との共著は可)。マンガ原作・過去に制作されたアニメの続編は不可。小説や民話原作は個別に条件あり[6]
    • キャラクターデザインも、既存の挿絵・イラストは不可。アニメーターのオリジナルデザインであること、キャラクターデザイナーはアニメーターであることなどの条件が付された。
  • 民放フォーマット(OP+ED=3分、本編20分30秒、合計23分30秒)、総カット数380カット前後、総動画枚数11,000枚前後(いずれもOP,ED分を含む)で制作すること。
    • テレビシリーズ以上劇場版未満の、出来の良いテレビスペシャル程度を想定しているとされている。
  • 制作は、動画・仕上げを含め日本国内で処理されること。すなわちメイドインジャパンであること。
    • 日本国の税金を使っているからである。事業目的からみても、日本国内で人材が育たないと意味がない。再委託(孫請け)に出す場合も、日本国内の制作会社でなければならない。
  • 事業年度末(通常は募集された年の翌年2月)に予定される試写会までに完成させること。また、個々のスケジュールを厳守すること。
  • 制作したアニメーションの著作権などは、制作会社に帰属する(ただし、ちゃんとプロジェクトを無事完了させることが条件)。
    • パッケージ販売、テレビ放映、ネット配信、グッズ制作許可や続編制作などが、制作会社の判断で行うことができる。ただし、これら商業展開で収入が生じた場合は、制作予算額の半額程度になるまで、その収益のいくらかをJAniCAに上納しなければならないとされている。
    • また、監督、キャラクターデザイナー、作画監督などへの二次配当権を、制作会社と各スタッフ間で別途契約設定することも求めている。
  • JAniCAが行う講座(Off-JT)へのアニメーター参加協力義務。
  • 監督以外の原画工程スタッフの、約3ヶ月間のプロジェクト専念義務。この期間中は、他のアニメ制作に関わってはいけない。
    • 人材育成が目的であるので、兼務してしまっては効果的なOJTが望めない。
    • 監督は、特に第一線級となると数年先までのスケジュールが既に埋まっているなど極めて多忙であることが多いため、専念義務は課せられていない。
  • 原画ギャラへのランク制の導入。
    • 原画マンの報酬は、カット1枚いくらの歩合制であるが、ほとんどの場合、そのカットの難易度に関わらず報酬額は一定である。このプロジェクトでは、カットの難易度に応じてカット単価に3~5段階のランクを設定し報酬額に差を設けることとしている[7]
  • 事務局は制作される作品の内容や事業終了後の展開に関する干渉は、原則として[8]一切行わない。
  • その他、各種調査への協力や報告書などの提出義務が課せられている。

制作予算[編集]

制作会社には、1社当たり総額3,800万円の制作予算が支給される。もし制作実費が3,800万円を超えた場合は、制作会社の持ち出しとなる。

制作予算は、一般的なテレビアニメ1話あたりで1,000万~1,200万円、テレビスペシャルで2,000万~3,000万円とされている[9]ので、それらと比すると潤沢な予算ともいえるが、この制作予算にはアニメ作画制作にかかる予算だけではなく、企画・音響制作・声優のギャラ・広告宣伝などの費用を含んでいることに留意しなければならない。また、予算の一部はその用途が定められている。

作画監督などには、若手アニメーター指導料が別立てで報酬計上されているのが、一般のアニメ制作予算にはない特徴である。これは、本来作画監督と育成指導は別の業務であることと、指導料を別立てにすることにより指導もちゃんとした「業務」であるという意識を明確に持ってもらうためである。

事業の成果[編集]

国の公共事業であるので、事業年度は基本的に1年単位である。事業の性格上、数年にわたって継続する必要性がある事業と文化庁は位置づけている。

PROJECT A(2010年度)[編集]

2010年度の文化庁の予算には、2億1,450万円が計上され、文化庁より事業の委託を受けたJAniCA[10]が制作会社の公募を行い、16社の応募の中から以下の4社の各作品が選定された。作品の概要は個々の記事を参照されたい。

参加作品 制作会社
キズナ一撃 アセンション
おぢいさんのランプ テレコム・アニメーションフィルム
万能野菜 ニンニンマン ピーエーワークス
たんすわらし。 Production I.G
  • 2010年
    • 3月25日 - 文化庁により、事業委託者の公募がなされる。
    • 4月28日 - JAniCAが委託先に採択される。
    • 5月10日 - JAniCAより、制作会社の募集がなされる。
    • 6月16日 - JAniCAより、上記制作会社4社が採択されたことが公表される。
    • 7月22日 - プロジェクトの公式ブログ開設。
  • 2011年
    • 2月4日 - プロジェクトの公式サイト開設。
    • 2月10日 - 全4作品の納品が完了する。
    • 2月24日 - 新宿バルト9にて関係者による完成披露試写会が行われる。MCを藤田咲が担当。
    • 3月5日 - 11日 - T・JOY新潟万代(新潟市中央区)、T・ジョイ大泉(東京都練馬区)、新宿バルト9(東京都新宿区)、横浜ブルグ13(横浜市中区)、T・ジョイ京都(京都市南区)、梅田ブルグ7(大阪市北区)、広島バルト11(広島県安芸郡府中町)、T・JOY博多(福岡市博多区)の8つの映画館にて1週間限定上映された。
    • 3月 - MBSテレビアニメシャワー枠にて下記の日程でテレビ放送された。
      • 3月5日 - 26時58分 - 27時28分 万能野菜 ニンニンマン
      • 3月19日 - 26時28分 - 26時58分 おぢいさんのランプ[11]
      • 3月19日 - 26時58分 - 27時28分 キズナ一撃
      • 3月26日 - 26時58分- 27時28分 たんすわらし。
    • 3月26日 - イベントスペースATTIC(札幌市中央区)にて、PROJECT A 札幌自主上映会による1日限定上映が企画されていたが、東北地方太平洋沖地震の影響による文化庁からの自粛申出により、上映会は中止された[12]
    • 5月5日 - BSジャパンにて12時00分~14時00分の間に4作品が一挙放送された[13]
    • 6月26日 - アニマックスにて21時00分 - 23時00分の間に4作品が一挙放送[14]

アニメミライ2012(2011年度)[編集]

2011年度の文化庁の予算には、前年度と同額の2億1,450万円が計上された。公募・選定経緯は前年度と概ね同様。前年度同様に新宿バルト9で公開される他、ニコニコ動画にて専用チャンネル(サイト)を開設して本プロジェクトに関する情報・番組配信、および前年に続いてアニマックスや毎日放送や読売テレビでのテレビ放送された。一連の計画をPRする上で、大のアニメファンとしても知られる歌手の西川貴教を広報大使として起用[2]

参加作品 制作会社
BUTA テレコム・アニメーションフィルム
わすれなぐも Production I.G
しらんぷり 白組
ぷかぷかジュジュ アンサー・スタジオ
  • 2012年3月 - 下記の放送局・日程でテレビ放送(各作品ともリピート放送を2回ずつ予定)。
    • アニマックス
      • 3月5日 - 月曜19時30分 - 20時00分 BUTA
      • 3月12日 - 月曜19時30分 - 20時00分 わすれなぐも
      • 3月19日 - 月曜19時30分 - 20時00分 ぷかぷかジュジュ
      • 3月26日 - 月曜19時30分 - 20時00分 しらんぷり
    • 読売テレビMANPA
      • 3月19日 - しらんぷり
      • 3月26日 - BUTA 
    • MBSテレビ・アニメシャワー枠
      • 3月31日 - わすれなぐも、ぷかぷかジュジュ

アニメミライ2013(2012年度)[編集]

2012年度ではマチ★アソビで行われた公開オーディションで選ばれた公式リポーターが、最新情報やアニメが完成するまでを密着リポートする。また、昨年に引き続き西川貴教が広報大使を務める。

2013年3月2日に、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー。

参加作品 制作会社
龍 -RYO- ゴンゾ
リトル ウィッチ アカデミア トリガー
アルヴ・レズル -機械仕掛けの妖精たち- ZEXCS
デス・ビリヤード マッドハウス
テレビ放送
  • 読売テレビ・MANPA枠
    • 3月18日 - デスビリヤード
    • 3月25日 - 龍 -RYO-
  • 毎日放送
    • 4月1日 - リトル ウィッチ アカデミア、アルヴ・レズル -機械仕掛けの妖精たち-
  • アニマックス(リピート放送あり)
    • 4月5日 - 龍 -RYO-
    • 4月12日 - アルヴ・レズル -機械仕掛けの妖精たち-
    • 4月19日 - デス・ビリヤード
    • 4月26日 - リトル ウィッチ アカデミア

アニメミライ2014(2013年度)[編集]

2013年度では、主に3つの変更が行われた。

若手アニメーターの定義の変更
若手(原画)アニメーターは、次の3つを全て満たす必要がある。
  1. 動画職又は原画職として1年以上の作画経験を有すること
  2. 原画職として6ヶ月以上、3年6ヶ月以内程度の作画経験を有すること
  3. 応募時において29歳以内であること
若手アニメーターに関する団体推薦制度の試験導入
アニメミライ参加制作会社以外の若手アニメーターが、所属スタジオの推薦を通じて、事務局に参加希望を出す制度。あくまでアニメミライ参加制作会社が希望した場合に限り、若手アニメーターに連絡を取ることを可能とする。アニメミライ参加制作会社は、参加希望する若手原画アニメーターとの契約を強制されることはない。
中堅原画・若手原画の規定人数の変更
中堅原画枠を3名から2名へ、若手アニメーター枠を5名から6名へとする。
参加作品 制作会社
アルモニ ウルトラスーパーピクチャーズ
大きい1年生と小さな2年生 A-1 Pictures
パロルのみらい島 シンエイ動画
黒の栖-クロノス- スタジオよんどしい

2014年3月1日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズ・角川シネマ新宿ほかにて全国ロードショー。

テレビ放送
  • 読売テレビ・MANPA枠
    • 3月31日 - パロルのみらい島、大きい1年生と小さな2年生
  • 毎日放送
    • 3月31日 - アルモニ、黒の栖-クロノス-
  • アニマックス
    • 6月29日 - 全4作

アニメミライ2015(2014年度)[編集]

2014年度より、委託事業者が日本動画協会に代わったが、事業目的は従来のソレを継承している[15]。同年7月には下記4社による制作作品が発表された[16]

参加作品 制作会社
アキの奏で J.C.STAFF
ロボットかあさん SynergySP
音楽少女 スタジオディーン
クミとチューリップ 手塚プロダクション

脚注[編集]

  1. ^ 文化庁における事業名は、「若手アニメーター等人材育成事業」。
  2. ^ 「映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器を利用した芸術」を指す。(文化芸術振興基本法第9条)
  3. ^ 文化芸術の振興に関する基本的な方針(第2次基本方針)重要事項のフォローアップ (PDF)
  4. ^ 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が2008年に行った実態調査では、例えば原画マンは、1日平均労働時間10.2時間、月平均休日4日(月30日として1ヶ月265.2時間労働していることになる)で平均年収232.5万円、動画マンに至っては、1日平均労働時間10.9時間、月平均休日4.4日(月30日として1ヶ月279.0時間労働していることになる)で平均年収105.9万円と報告されている(若手アニメーター育成プロジェクト募集案内添付資料2 3頁)。
  5. ^ 若手アニメーター育成プロジェクト募集案内 (PDF)
  6. ^ 過去の例では、2010年度事業における『おぢいさんのランプ』が児童文学原作作品、2012年度事業における『アルヴ・レズル -機械仕掛けの妖精たち-』がライトノベル原作作品だった。
  7. ^ ランク制自体は全く新しい制度というわけではなく、『劇場版名探偵コナン』などでは毎回導入されていた方法と紹介されている(若手アニメーター育成プロジェクト募集案内別添資料2 27頁)。
  8. ^ もっとも、応募時に提出した絵コンテ・シナリオから明らかに逸脱した作品を制作しているなど、きわめて例外的場合を除くとされていた。
  9. ^ 若手アニメーター育成プロジェクト募集案内別添資料2 14頁
  10. ^ 実際はJAniCA内に設けられた4つの組織がそれぞれ分掌している。公式サイトの組織図などを参照されたい。
  11. ^ 当初は3月12日 26時58分~27時28分の放送予定であったが、東北地方太平洋沖地震の特別報道番組により、この日のアニメシャワー自体が全て放送休止となった。
  12. ^ PROJECT A 札幌自主上映会
  13. ^ この枠においては、本編以外に個々の作品に携わった新人アニメーターへのインタビューと日本アニメーター・演出協会(JAniCA)代表理事であるヤマサキオサムとアニメーション評論家・氷川竜介の本プロジェクトに関する総括的コメント映像などが付加された。番組ナレーションは藤田咲が担当。
  14. ^ この枠では、本編冒頭にキズナ一撃のキズナ役で声優デビューした安野希世乃が新人アニメーターへのインタビューと現場リポートを行った。
  15. ^ [1] 2014年4月25日 文化庁「平成26年度若手アニメーター等人材育成事業」採択のお知らせ(日本動画協会)
  16. ^ 『アニメミライ2015』制作団体採択結果のお知らせ - 日本動画協会、2014年7月8日

関連項目[編集]

外部サイト[編集]