自由貿易協定

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自由貿易協定(じゆうぼうえききょうてい、: Free Trade Agreement[1][2]、FTA)は、2カ国以上の国・地域が関税、輸入割当など貿易制限的な措置を一定の期間内に撤廃・削減することを定めた協定である[3]。関税、非関税障壁をなくすことで締結国・地域の間で自由な貿易を実現し、貿易・投資の拡大を目指すものである[3]。2国間協定が多いが、北米自由貿易協定等の多国間協定もある。

経済連携協定(EPA)は、FTAに加えて、投資、政府調達、知的財産権、人の移動、ビジネス環境整備など広範囲な取り組みを含む協定であり、締約国間の貿易・投資の拡大を目指す協定である[3]

自由貿易協定の規定[編集]

2002年6月末時点で、130以上のスキーム(計画)がGATT/WTO(世界貿易機関)に通報されている。この他に、途上国間のFTAには、WTOの「授権条項(enabling clause、1979年GATT決定)」に基づいたものがある。これは、先進国が途上国に対し、他よりも低率な関税を適用することを認め、途上国間の自由貿易協定締結を容易にすることを認めるものであり、GATT第24条の厳格な要件は適用されない。ただ単に通商上の障壁を取り除くだけでなく、両経済領域での連携強化・協力の促進等をも含めたものは、経済連携協定(EPA)と呼ばれている。

FTAとEPAの違い[編集]

FTAは「自由貿易協定」と呼ばれ、特定の国や地域とのあいだでかかる関税や企業への規制を取り払い、物やサービスの流通を自由に行えるようにする取り決めのこと[4]

EPAは「経済連携協定」と呼ばれ、物流のみならず、人の移動、知的財産権の保護、投資、競争政策など様々な協力や幅広い分野での連携で、両国または地域間での親密な関係強化を目指す協定[4][5]。通商政策の基本ともいわれる[5]

地域間の貿易のルールづくりに関しては、過去WTOを通した多国間交渉の形が取られていたが、多国間交渉を1つ1つこなすには多くの時間と労力が取られるため、WTOを補う地域間の新しい国際ルールとして、FTAやEPAが注目されている[4]

日本は東南アジアインドとの経済の連携協定を進めてきたように、FTAだけでなくEPAの締結を求めている[6]。その理由は、関税撤廃だけでなく、投資やサービス面でも、幅広い効果が生まれることを期待していることによる[6]

メリットとデメリット[編集]

自由貿易協定には、経済的利益のみならず、政治的利益が期待される。

経済的メリットとしては、自由貿易の促進拡大により、スケールメリットや、協定国間における投資拡大の効果も期待される[7]。また、地域間における競争促進によって、国内経済の活性化や、地域全体における効率的な産業の再配置が行われ、生産性向上のメリットも期待される。

政治的メリットとしては、協定国間の地域紛争や政治的軋轢の軽減や、地域間の信頼関係の熟成が期待され、また貿易上の問題点や労働力問題なども、各国が個々に対応するよりも協定地域間全体として対応をすることができる。

一方でデメリットも憂慮される。協定推進の立場の国や人々は、地域間における生産や開発の自由競争や合理化を前提にしていることが多く、自国に立地の優位性がない場合、相手国に産業や生産拠点が移転する可能性がある。このため、国内で競争力があまり強くない産業や生産品目が打撃を受けたり[8]、国内消費者が求める生産品の品質を満たせない製品が市場に氾濫するなど、生産者にとっても消費者にとってもデメリットが生じる可能性が存在する。国外から入ってきた製品が独特のニーズに応えられるかどうかは未知数であり、他の自由貿易協定(FTA)地域で起きたメリットと同じことが、また別の国家間で結ばれたFTAにおいても起こるとは限らず、むしろ国民が望まない方向へ経済的にも政治的にも進む可能性もある。

自由貿易地域の一覧[編集]

現在の自由貿易地域

主な多国間協定[編集]

東・東南アジア地域におけるFTA締結の動き[編集]

東・東南アジア地域では授権条項に基づくバンコク協定などを除き、FTA締結の動きは遅れた。ASEAN諸国は、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を1992年に締結し、段階的な貿易自由化を行い始めた。ASEAN域内での関税非関税障壁(NTB)の引き下げを行い、貿易の自由化、それに伴う経済の活性化、発展を目的とするものである。しかし、東アジア諸国がFTA締結に取組始めるのは、1990年代末以降である。また、中国や台湾はそれぞれ、2001年、2002年までWTOにも加盟しておらず、WTO加盟国とのFTA締結はできない状況にあった。

この地域において、FTAに最も積極的なのは、シンガポールである。AFTAにおいても、提唱国のタイと並ぶ推進者であった。AFTAだけではなく、域外国とのFTA締結にも熱心であり、2000年11月にニュージーランドとの間でニュージーランド・シンガポール経済連携緊密化協定(ANZSCEP[9])に調印した。その後、日本、EFTA(2002年)、オーストラリア、アメリカ(2003年)、ヨルダン(2004年)、インド、太平洋4カ国(チリ、ニュージーランド、ブルネイ)FTA、韓国、パナマ、カタール(2005年)などとの間で締結済みである。

今日の東アジア経済統合において、ASEANは事実上中核的な位置を占めている。中国や日本、のちに韓国はASEAN諸国全体とのFTA(ASEAN+1FTA)をそれぞれ締結し、それをまとめたものをASEAN+3FTAとして事実上の東アジアFTAを構築するのが既定路線になっている。2002年に日本の小泉首相がASEAN+5構想を提唱し、オーストラリアやニュージーランドも含むべきだと主張したが、これもASEANを中心とする枠組み構築に沿ったものであった。オーストラリア、ニュージーランドはすでにANZCERTA[10]を締結し、このCER[11]とAFTAの間のFTA構想も交渉が行われている。

また、ASEANでは広域FTAの中核となるだけではなく、域内経済統合の深化を模索する動きもある。2003年に、第9回ASEAN首脳会議はASEAN経済共同体と他2分野における共同体の創設を目指す「第二ASEAN共和宣言(バリ・コンコード II)」を採択した[1]。ただし、このASEAN経済共同体はFTA+αとして議論されており、ヨーロッパにおける経済共同体 (EEC) やEC市場統合などと比較できるレベルのものではない。

日本のFTA戦略[編集]

日本は、1999年に韓国と共同研究を皮切りに[要出典]FTAを推進する方針に転換した。しかし、韓国とのFTA交渉は遅れ、その間に日本はシンガポールとの間で交渉を進め、2002年に日本初の経済連携協定日本・シンガポール新時代経済連携協定)が発効されるに至った。その後、ASEAN諸国それぞれとの二国間交渉に乗り出し、またメキシコとも経済連携協定を締結した。2007年4月以降日豪FTAの交渉が始まっているが、農業・酪農に関する関税が撤廃されれば日本産の農作物や乳製品が圧倒されると予想され、北海道などで反発が相次いでいる。

以下は作業中の協定である。

その他FTAの動き[編集]

学者の見解[編集]

経済学者田中秀臣は「貿易自由化規制緩和の効果が実際に現れるのは、長いスパンが必要であり、5-10年で見ないと良し悪しは言えない」と指摘している[12]

ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツは「自由貿易協定は『自由』な貿易協定ではない。実際の貿易協定の批准書は何百ページとある。そんな協定は『自由』貿易協定ではなく『管理』貿易協定である。こうした貿易協定は、ある特定の利益団体が恩恵を受けるために発効されるものであり、特定の団体の利益になるように『管理』されているのが普通である。アメリカであればUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)が、産業界の中でも特別なグループの利益、とりわけ政治的に重要なグループの利益を代弁している」「二国間の貿易協定が発展途上国に多大な犠牲を払わせている。実際に自分が関わったケースでも、二国間の貿易協定で途上国に大変な犠牲を強いることがよくあった」と指摘している[13]

スティグリッツは、アメリカ合衆国財務省IMFの「ワシントン・コンセンサス」が、貿易の自由化・資本の自由化を強制することで、途上国の人々を苦境に陥らせていると指摘している[14]。スティグリッツは「貿易の自由化は経済成長をもたらすとされているが、ひいき目で見てもこの主張を裏づける証拠はない。国際貿易協定が発展途上国を経済成長に導けなかった一因にバランスの欠如がある。先進国には裁量的な関税率が認められる一方で、途上国には平均して4倍の関税率を設けてきた。また、途上国が国内産業への補助金を撤廃させられた一方で、先進国は巨額の農業の補助金が認められてきた」と指摘している[15]。スティグリッツは、独占寡占の弊害を防ぐための競争政策を提案している[16]

ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは、国際貿易に無知な人ほど自由貿易の効力に幻想を抱きがちであると述べており、自由貿易が経済にポジティブに作用するかのような神話がつくられやすい傾向があるが、貿易を専門とする経済学者はそのような仰々しい見解(grandiose view)を自由貿易に抱いているわけではない。また、一般論として、輸出増で増えた分の雇用が輸入増での雇用減によって相殺されてしまうため、自由貿易は雇用創出をもたらさないとしている[17]

法学者楢崎みどりは「自国政府に不信を感じている勢力は、政府が外国政府との間で国家間関係を緊密化する代償として、国内産業を差し出すような条約を結ぶことを恐れている。この立場にとっては、国家主権とはその国の自立・自己決定権を意味し、自国の政府を国家主権の体現者としては相応しくないと見なすこともある。企業対国家の仲裁手続を認めている自由貿易協定が立法権を侵害するという主張は、必要な制度の策定を政府が自粛する可能性を恐れているといえる。自由貿易協定の交渉を行う際には、政府は国内でこれまでの産業保護の政策や立法を変えるための取り組みを始めなければならない」と指摘している[18]

北米自由貿易協定[編集]

経済学者のディーン・ベーカー[19]は、近年[いつ?]の自由貿易協定は一般労働者の労働条件を向上させるものではないと論じる。現実には自由貿易協定は、多くの経済学者が理想として描くものとは大きくかけ離れているとベーカーは述べる。例えば北米自由貿易協定(NAFTA)とその後続協定は、それらの協定がアウトソーシングを容易にするものだったために、労働者の賃金を下げる性格を有する協約だったからである。NAFTAによって米国の鉄鋼所職工や自動車製造労働者が、発展途上国の低賃金労働者との競争にさらされ、その結果米国の製造業労働者の賃金低下を招いた。NAFTAなどの協定は、大企業がその国の民主的プロセスを握りつぶすために使う道具であるとベーカーは論じる。環境保護、安全、健康などについての基準は民主的に選ばれた政権によって規制がかけられる。大企業は、NAFTAその他の協定を利用してそれらの規制を妨害することができる。環太平洋戦略的経済連携協定でも同じことが起こるとベーカーは述べる。米国では、とある特許政策のために、抑制されないほどの独占が数十年間も製薬会社に与えられていた[19]。米国民は、米国以外の先進国(それら先進国では、製薬会社による市場独占をある程度制限している。)での価格の2倍の価格で処方薬剤を購入している。

ジョセフ・E・スティグリッツは「発効から10年以上を経て、NAFTAの失敗は既成事実となっている[20]」「NAFTA成立から10年間で、アメリカ・メキシコ両国間の所得格差は10%以上広がり、メキシコ経済を急成長させるという結果ももたらさなかった。メキシコの10年間の経済成長率は、実質で一人当たりの国民所得で1.8%に過ぎなかった。また、NAFTAはメキシコの貧困を悪化させた一因となった。NAFTAは関税を撤廃させた一方で、非関税障壁が丸ごと存続された[21]」「関税にとらわれ過ぎた結果、メキシコは競争力強化に必要な措置をおろそかにしてしまった[22]」と指摘している。

ポール・クルーグマンは「NAFTA成立を貿易ブロック化に向かう大きな流れの一環と見るのは間違いである。なにが脅威となるかというと、それは時代錯誤の保護主義、狭小で利己的な保護主義であると指摘している[23]。クルーグマンは「貿易によって雇用がどれだけ増えるか、或いは減るかといった問題の立て方そのものが、アメリカ経済の仕組みを誤解している。NAFTAが雇用にどのような影響を与えようと他の経済政策、特に金融政策によって必ず相殺できるという事実が見落とされている[24]」「理論的には、NAFTAはアメリカの非熟練労働者に悪影響を与えることは認めざるをえないが、影響はきわめて小さいと考えるのが妥当である。NAFTAによるアメリカの雇用・環境面のコストは小さいものである[25]」と指摘している。

クルーグマンは「アメリカは対ヨーロッパ諸国よりもはるかにカナダ・メキシコとの貿易量が多いが、NAFTAを結んでいるからだけではない。NAFTAが締結される以前からアメリカ・カナダ・メキシコの貿易は非常に盛んであった。むしろ、貿易が盛んだったからこそNAFTAを締結する意味があったと言える。従来から非常に強力な貿易関係があったから、NAFTAを締結するのが必然的だったと言えるわけである[26]」「一般論で言えば、地域貿易協定は、確固たる貿易関係がある場合、非常に大きな意味をなす。例えばNAFTAは、基本的にしっかりした貿易関係があったため、意味があった[27]」と指摘している。

経済学者の八代尚宏は「NAFTAについて、カナダの企業がアメリカの企業に買収されたとか言われているが、NAFTAで最大の利益を得たのはカナダ経済である。それは、カナダが広大なアメリカ市場に対して、輸出を拡大できたからである」と指摘している[28]

スティーヴン・ランズバーグは「NAFTAを批判したロス・ペローは、アメリカの賃金・雇用が低下するという推計を持ち出した。それは、協定によって消費者物価は下がり、手に入る商品の種類が豊富になるという推計である。協定のおかげで、アメリカ人が労働を減らし消費を増やすことができれば、アメリカ人の勝ちなのである」と指摘している[29]

脚注・参考資料[編集]

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  1. ^ 経済連携協定の意義と課題-日本の通商政策は転換したか、「東アジア共同体」結成は間近か-RIETI 法律時報 2005年6月号
  2. ^ 第22回「自由貿易協定(FTA)の効果」RIETI 2014年4月15日
  3. ^ a b c テーマ別 FTA/EPA、WTO FTAの潮流と日本 - ジェトロ
  4. ^ a b c 「EPA/FTAって何?」 外務省 FTA広報動画
  5. ^ a b 「通商政策 知財・人の移動もカバー」 朝日新聞 2010年5月27日
  6. ^ a b 「EPA/FTAのメリットとは?」 外務省 FTA広報動画
  7. ^ WTOと、EPA/FTA等 の推進による国際事業環境の整備 経済産業省
  8. ^ 自由貿易協定 【FTA】 経済/金融用語辞典
  9. ^ : agreement between New Zealand and Singapore on a closer economic partnership
  10. ^ : Australia New Zealand closer economic relations trade agreement
  11. ^ : closer economic relations
  12. ^ 麻木久仁子・田村秀男・田中秀臣 『日本建替論 〔100兆円の余剰資金を動員せよ!〕』 藤原書店、2012年、137頁。
  13. ^ ジョセフ・E・スティグリッツkotoba(コトバ) 2013年6月号
  14. ^ 田中秀臣 『不謹慎な経済学』 講談社〈講談社biz〉、2008年、115-116頁。
  15. ^ ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 徳間書店、2006年、53頁。
  16. ^ 田中秀臣 『不謹慎な経済学』 講談社〈講談社biz〉、2008年、116頁。
  17. ^ Macro Trumps Micro Paul Krugman, New York Times 2012年12月7日
  18. ^ オピニオン 自由貿易協定に対する恐怖Chuo Online : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2014年6月23日
  19. ^ a b Want 'free trade'? Open the medical and drug industry to competition Dean Baker, The Guardian, 11 November 2013
  20. ^ ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 徳間書店、2006年、114頁。
  21. ^ ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 徳間書店、2006年、117-118頁。
  22. ^ ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 徳間書店、2006年、118頁。
  23. ^ ポール・クルーグマン 『良い経済学 悪い経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、206頁。
  24. ^ ポール・クルーグマン 『良い経済学 悪い経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、219頁。
  25. ^ ポール・クルーグマン 『良い経済学 悪い経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、226-227頁。
  26. ^ 国際シンポジウム「グローバル化と地域統合〜空間経済学の視点から」(1)asahi.com 朝日新聞社シンポジウム 2004年12月2日
  27. ^ 国際シンポジウム「グローバル化と地域統合〜空間経済学の視点から」(2)asahi.com 朝日新聞社シンポジウム 2004年12月2日
  28. ^ 新自由主義否定はナンセンス! やっぱり「小泉改革」は日本に必要だった日刊サイゾー 2011年10月29日
  29. ^ スティーヴン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学-日常生活の謎をやさしく解き明かす』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2004年、83頁。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]