自然学 (アリストテレス)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
Aristoteles Louvre.jpg
アリストテレスの著作
論理学:
オルガノン:
範疇論 - 命題論
分析論前書 - 分析論後書
トピカ - 詭弁論駁論
自然学:
自然学 - 天体論
生成消滅論 - 気象論
霊魂論 - 自然学小論集
動物誌
動物部分論 - 動物運動論
動物進行論 - 動物発生論
形而上学:
形而上学
倫理学:
ニコマコス倫理学
大道徳学
エウデモス倫理学
政治学:
政治学 - 経済学
アテナイ人の国制
その他:
弁論術 - 詩学
1837年オックスフォード版の第1ページ

自然学[1] 』(: Φυσικῆς ἀκροάσεως、アルファベット音写:phusikes akroaseos)とは古代ギリシアの哲学者アリストテレスによる自然哲学の研究書である。

ラテン語では「Physica(フィジカ)」あるいは 「Physicae Auscultationes」と表記される。

アリストテレスというのは、「万学の祖」と呼ばれ、様々な領域の研究を行った傑出した哲学者であり、自然学的な研究も数多く残しており、現代の天文学、生物学、気象学 等々等々に相当する領域でも研究業績を残している。この『自然学』はそうした自然学研究群の基礎を構成し、なおかつアリストテレス哲学の中でも重要な位置を占めている[2]

本書は全8巻で構成されており、第1巻から第2巻までは原理についての論述、第3巻では運動と無限なものについて、第4巻では場所、空間、時間について、第5巻から第8巻では運動と変化について考察されている。自然を研究する上でまず一般的な原理に基づきながら徐々に個別な対象を分析している。

目次

各巻概略[編集]

【第1巻】 kinesis(キネーシス、“運動”[3])やmetabole(メタボーレ、変化)が可能であるためにはどのような原理が必要なのか、という問いが立てられる。そしてアリストテレス以前の哲学者たちの説が検討され、eidos(エイドス、形相)、steresis(ステレーシス欠如態、hylee(ヒュレー質料)の3つの原理が運動や変化を説明するのに必要でありかつ十分である、と述べる。

【第2巻】 ここでアリストテレスは自然学の対象と方法を規定する。まず自然物を「運動や静止の原理をそれ自体のうちにもつもの」と定義する。次に「~のphysis」(「 ~のフュシス自然)」)という表現の意味を分析し、それは「~のヒュレー質料)」と「~のエイドス形相)」の2つの意味でありうるとし、エイドスのほうが優先されるべきだ、と述べる。そして、ヒュレーとエイドスからなるものとして自然物を研究するのが自然学だ、とする。

また原因という概念が分析される。原因の中でも基本的なものとして質料因、形相因、目的因、始動因の4つを挙げ(四原因説)、さらに、派生的なそれとして付帯原因、偶然などにも言及し、自然学というのは上記基本的原因のすべてを解明すべきだ、と述べる(なお、目的因を認めないような機械論的考え方には反対する)。

【第3巻、第4巻】 運動の概念と、それに関係する連続無限場所空虚時間等の概念について考察する。

【第5巻】kinesisに関する問題

【第6巻】連続性の問題(ゼノンのパラドックス など)

【第7巻】kinesisに関する問題

【第8巻】kinesisするものは何かによって動かされるという事実から、その何かを動かした何かを遡ってゆけば、不動の動者(全ての運動を引き起こした究極の原因で、それ自身は動かないもの)が存在する、と論証する。

後世における受容・評価[編集]

アリストテレスが本書で展開した世界観は古代ギリシアローマ時代、さらにはラテン語に翻訳されヨーロッパの中世でも学ばれ、学問の基礎づけに用いられ重用された。

16世紀中葉に太陽中心説がコペルニクスによって提唱され、その説が検討に値する学説だと人々に認知されるにつれ、地球中心説に基づいていたアリストテレスの宇宙論に深く結びついていた彼の運動論も少しずつ疑問視されるようになっていった[4]

注釈[編集]

古代ギリシアでもアリストテレス以外にも自然を考察の対象とした哲学者はいた。先行者らの中には機械論的な自然観を唱える者もいた。だが、アリストテレスはそうした自然観の問題点を見据え、それを超えたものを提供する。

アリストテレスは、自然物はそれ自体が運動または静止の原理を内包している、としている。木や石や水などといった自然物の中でも、それ自体によって存在するものと、外部の原因によって存在するものがある、と区別しており、それ自体で存在するものはkinesisと静止の原理を備えている、とした。自然哲学における原理とはkinesis(キネーシス)であるとする。そして実体についてのkinesisとは生成と消滅であり、分量についてのkinesisとは増大と減少、質料についてのkinesisは変質、位置についてのkinesisは移動、とした。そしてkinesisとは、デュナミス(可能的なもの)への発展的な過程だ、とする。

訳書[編集]

  • 『アリストテレス全集』第3巻「自然学」出隆、岩崎共訳、岩波書店
  • 『アリストテレス・自然学』松本厚訳、弘文堂
  • 『アリストテレス哲学入門』出隆、岩波書店

参考文献[編集]

  • 土屋賢二 「自然学」『哲学・ 思想 事典』、1998年

関連文献[編集]

  • 千葉恵(1982)「『自然学』A巻における生成の問題 : 質料概念の形成をめぐって」哲學 75, 19-45, 1982 [1]
  • 千葉恵(1994)「アリストテレス「自然学」II9における目的と必然性」西洋古典學研究 42, 47-56 1994-03[2]
  • 千葉恵(2004)「アリストテレスにおける力と運動 : 可能態、完全現実態そして現実活動態」北海道大学文学研究科紀要 113, 2004-07 [3]

出典・脚注[編集]

  1. ^ 書名は日本語で『物理学』とも訳されることもある
  2. ^ 土屋賢二 「自然学」『哲学・ 思想 事典』、1998年
  3. ^ kinesisは「運動」あるいは「変化」。kinesisをmetaboleと対比して訳すためか、kinesisを日本語では「運動」と訳してしまうことがなかば定番化してしまっているが、英語でもchangeと訳すことがあるように日本語でも「変化」と訳したほうが通常の語感としてはしっくりくる。kinesisは「変化」と訳し、その代わりにmetaboleの訳語のほうを他の語に置き換えるほうが無難とも言えるのである。
  4. ^ 横山雅彦 「運動」『哲学 ・ 思想事典』、1998年