膵癌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
| ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
膵癌(すいがん、英Pancreatic cancer)は膵臓から発生した悪性腫瘍。膵臓癌(すいぞうがん)とも呼ぶ。早期発見が非常に困難な上に進行が早く、きわめて予後が悪い。このことから「癌の王様」と言われている。
目次 |
[編集] 分類
膵臓は、膵液を産生する腺房、膵液を運ぶ膵管、および内分泌腺であるランゲルハンス島などからなる。癌はいずれの組織からも発生しうるが、それぞれ全く異なる性質を示す腫瘍となる。
- 浸潤性膵管癌(invasive ductal carcinoma) - 膵癌の約90%を占める代表的な組織型で、通常型膵癌とも呼ばれる。膵管に由来する。
- 膵内分泌腫瘍 - 内分泌腺に由来し、約8割が何らかのホルモンを産生する。通常型膵癌に比べ抗がん剤が効きにくいが進行も緩やかである。
- 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN) - 膵管上皮から発生する腫瘍で、膵管内発育と粘液産生を特徴とする。一般に悪性度が低く経過観察が可能であるが、悪性化の所見があるものは手術治療の対象となる。
- 粘液性嚢胞腫瘍(MCT) - 粘液を有する大型・多房性の嚢胞性病変で、中年女性に好発する。悪性度が高く、通常型膵癌に準じた治療が行われる。
- 腺房細胞癌 - 腺房に由来する比較的稀な腫瘍である。
- そのほか稀な組織型 - Solid-pseudopapillary carcinoma、未分化癌、漿液性嚢胞腺癌(きわめて稀)、転移性膵癌など。
[編集] 疫学
[編集] 統計
厚生労働省による人口動態調査によると2004年の日本における死亡数は22,260人で、男性11,933人、女性10,327人である。癌の死因別では男女とも第5位で、年々増加傾向にある。
[編集] 危険因子
以下のものがあげられるが明らかな因子は不明
[編集] 症状
腹痛、体重減少、黄疸、耐糖能異常などが主な症状であるが、初期には無症状のことが多い。進行癌になると背部痛、腹痛、下痢が出現するが、これは癌が膵臓にとどまらず周囲に広がったことを示す。膵頭部(膵臓の右側)の癌では皮膚や尿の黄染で発症することもあるが、これは腫瘍が総胆管を閉塞して黄疸が出現するためである。 一方、膵内分泌腫瘍は種々のホルモン(インスリン、ガストリン等)を分泌し、低血糖や消化管潰瘍などの特徴的な症状を呈する。
[編集] 検査
[編集] 血液検査
- 腫瘍マーカー:以下の値が高値を示すことで指標として用いられる。
- 血中ホルモン:膵内分泌腫瘍で高値を示す。
[編集] 画像検査
以下の画像検査を行うことで評価を行う。
- 一般に検診にても用いられる。典型的な膵管癌は境界不明瞭で不整形の低エコー域として描出される。膵頭部の癌では主膵管や胆管の拡張も認められる。
- 低吸収で辺縁不整な像を呈する。膵管癌は血流に乏しいため造影CTでは造影されない。いっぽう膵内分泌腫瘍は血流に富むため造影CTで強く造影される。遠隔転移・周囲への浸潤像の評価も行える。
- 胆管・膵管を描出するMRCP画像では膵管の狭窄や途絶を評価できる。
- FDG-PET
- 癌に一致して異常集積が見られる。
- ERCP(endoscopic retrograde cholangio-pancreatography)
- 内視鏡で胆管と膵管を直接造影する方法。膵管癌では膵管の不規則な狭窄や途絶が見られ細胞診が施行できる。
[編集] 病期分類
進行度により、手術、全身化学療法、放射線療法、あるいはこれらの組み合わせが行われる。進行度は治療の観点から以下の3段階に分けられる。
- 切除可能:癌が膵臓周囲に限局しており、重要な血管への浸潤や遠隔転移がない段階。膵癌取扱い規約によるStageIVa以下の膵癌で、腹腔動脈(膵頭部癌)や上腸間膜動脈に浸潤がないものが該当する。手術による切除が第一選択の治療法である。
- 局所進行:癌が膵臓周囲に限局しているものの、重要な血管への浸潤や後腹膜への広範囲な進展によって根治切除不能とみなされる段階。化学放射線療法もしくは全身化学療法が行われている。
- 遠隔転移あり:癌が膵臓周囲を超えて全身へ広がっている段階。肝臓への転移もしくは腹膜播種によるものが多い。この段階ではたとえ目に見える癌をすべて切除したとしても早期に再発するため、膵切除による治療上の利点はないと考えられている。全身化学療法が第一選択の治療法である。
2008年現在、長期生存が得られているのは根治切除が行われた患者のさらに一部のみという状況であり、さらなる抗癌治療の開発が待たれる。
[編集] 治療
[編集] 手術
癌を含む組織を切除する治療法。膵頭部(膵臓の右側)の癌には膵頭十二指腸切除術(PD)が、膵体部・膵尾部(膵臓の中程から左側)の癌には膵体尾部切除術が行われる。癌が膵全体に及ぶ場合は膵全摘術が行われるが、生涯にわたりインスリン注射が必要になるなど負担が大きい。膵頭十二指腸切除術をはじめとする膵切除術は2008年現在においてもなお侵襲が大きい治療法であるため、手術に伴うリスクと治療効果とのバランスが切除を決定する条件の一つとなる。一般的には、腹腔動脈(膵頭部癌)や上腸間膜動脈に浸潤があるものはリスクに見合った治療効果がないと判断される。ただし現状では切除以外に治癒を見込める治療法がないため、これら血管の再建を伴う切除を行い根治切除を目指している施設もある。
[編集] 全身化学療法
標準治療薬はゲムシタビン(Gemcitabine; 商品名ジェムザール)であるが、その奏効率(腫瘍がある程度小さくなる確率)は10~20%程度である。ゲムシタビンの効果は症状の緩和と生存期間の延長であり、癌を完全に消し去るには至らない。一般的なレジメは1週間おきに計3回投与施行し4週目は休薬というものがほとんどである。
ゲムシタビンを上回る効果を目指し、世界中で新しい化学療法の研究・開発が進められている。
日本国内では、2006年8月に日本発の内服抗癌剤であるS1(商品名TS-1:ティーエスワン)が膵癌に対する適応を取得した。臨床第II相試験では単剤投与において32.2%という高い奏効率を示し、膵癌治療の新たな核となる薬剤として期待されている。また、2005年の米国臨床腫瘍学会でゲムシタビンと分子標的治療薬のエルロチニブ(Erlotinib; 商品名タルセバ)の併用によってわずか(生存期間中央値にすると約2週間)ながら全生存期間を延長するという報告がされた。その差が統計学的に有意であっても臨床的な評価としては不十分であったため、標準治療としてのコンセンサスを得るには至っていない。さらに、同じく2005年に欧州癌会議にてゲムシタビンとカペシタビンの併用療法が全生存期間を延長する、という発表がなされている。いずれも膵癌に対する新しい標準治療としての地位を確保するには至っておらず、今後もゲムシタビンとの併用療法を中心とした新しい治療の開発が期待される。
[編集] 放射線療法
放射線を照射し癌細胞を破壊する方法。他臓器への転移はないが動脈浸潤などのため切除不能な場合(局所進行膵癌)に、化学療法(主に5-FU)と組み合わせて化学放射線療法として行われる。局所進行膵癌に対する治療法は2008年現在でもコンセンサスが得られておらず、化学放射線療法と化学療法単独の治療とが並立している。2006年の米国臨床腫瘍学会では、5-FUとシスプラチンによる放射線化学療法に比べゲムシタビン単独による化学療法が優るという結果が報告された。一方で2008年の米国臨床腫瘍学会では、ゲムシタビン単独療法に比べゲムシタビンと放射線照射の併用療法が有意に生存期間を延長するとの報告がなされている。
また、開腹手術を行い病巣付近に集中的に放射線を照射する方法(術中照射)も行われることがある。日本において比較試験が行われているが、2008年6月の時点では結果は発表されておらず、その治療意義は確立されていない。
[編集] 免疫療法
免疫療法は種々の方法で免疫系を賦活化させ、癌の進行を抑える治療法である。腫瘍特異的な抗原に対する細胞傷害性T細胞を誘導する方法などが試みられている。副作用が比較的軽微であるのが特徴で、他の抗癌療法との併用も行われている。2008年現在では未だ開発途中の治療法であり、一部の施設で臨床試験として行われている程度である。また民間において独自に活性化自己リンパ球移入療法を行っている施設もあるが、治療効果におけるエビデンスが乏しいため一般には推奨されていない。
[編集] 支持療法
支持療法とは癌による諸症状を緩和するために行われる治療法である。痛みの緩和、消化器症状の緩和、栄養状態の改善、腹水のコントロール、精神的苦痛のケアなど、その範囲は多岐にわたる。症状コントロールにより抗癌治療の継続を可能にし、有効な抗癌治療がなくなった後でもQOLを保ち命を全うすることを可能とする。膵癌においてはほぼすべての患者が癌により死亡するため、特に重要と考えられている。
[編集] 漢方治療
2008年3月にアメリカのニュース番組で、膵臓癌患者にある種のカエル(シナヒキガエル)の毒を成分とした漢方薬を投与したところ、癌が小さくなり患者の苦痛が大変やわらいだことが報道された。
[編集] 予後
膵癌は治療がもっとも困難な癌の一つである。治癒切除が行われた場合でも約9割が再発を来し死亡する。遠隔転移がある場合の予後は4~6ヶ月(中央値)である。

