耳掻き

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本来の表記は「耳搔き」です。この記事に付けられた題名は記事名の制約から不正確なものとなっています。
竹製耳掻き
金属製耳掻き

耳掻き(みみかき、耳かき)は、の穴を掃除する行為。また、その際に用いる、先端がへら状になった細長い棒状の道具耳掃除耳垢取り耳掘りなどといわれることもある。

耳垢を取るためだけではなく、単にかゆいときなどにも用いられる。

概要[編集]

耳の穴(外耳道)が何らかの理由で痒くなったときなど、人は概ね細いである小指で掻こうとするが、そうした指が入るのは耳たぶ(耳介)の奥までであり、穴の奥にまで指が入ることはない。そのため、細い棒状のものを利用して耳の奥を掻くことが行われる。それに用いられる専用の道具が耳掻きである。

日本における一般的かつ伝統的な耳掻きはを素材にしたものが多く、携帯用など短いものもあるが、13から15cmのものがほとんどである。棒の最大径はおよそ4mmで、前後は多少細く絞られている。さじと呼ばれる先端部は曲げ加工または切削によって形が作られた丸いヘラ状で、おおよそ45度程度に曲げられており、厚さは約1mm程度である。このへら部分の幅も4mm程度となっている。

さじの反対側(後端)には、梵天凡天、ぼんてん)と呼ばれる鳥の羽毛がつけられているか、小さな人形こけしといった飾りがついている。梵天は水鳥の羽毛を糸で束ね、それを接着するなどしたもので、膨らんだときの最大径は35mm程度である。耳掻きの仕上げに、耳に差し込んで軽く拭うなどして用いられる。大抵の製品は耳の穴に入るサイズではないが、一部には比較的奥まで差し込めるようなサイズの小さい梵天を持つものもある。梵天の語の由来は、大元はヒンドゥー教ブラフマー(仏教では守護神の一神である梵天)であるが、後々に色々な(特に丸くて大きな)物が梵天と名付けられるようになった。一説には修験道で棒の先につける大きな御幣のことからなどといわれるが、御幣は形状こそ似ているが材質もまったく異なりふわっとしていない。最も有力な説は、修験者が着用する梵天袈裟(ぼんてんげさ)からとされる。これは耳かきの梵天と同様、綿帽子状のふわっとした房が左右に2つずつ付いており、形状だけでなく材質や肌触りなども近いものがある。したがって、梵天袈裟の形状と似ていることから耳掻きの房もそう呼ばれるようになった、というのが最も有力な説とされる。

飾り物に工夫を凝らしたものが、観光地における土産物として定番となっている。

料理などの際に調味料を合わせるとき、「耳掻き一杯程度」などとして分量の目安として使われることもある。形状・サイズとも全国的に一定であるためである。ただし、これは「ほんの少し」の比喩的表現であり、実際に耳掻きで計量されることは非常に稀である。

歴史[編集]

記録に残っている日本における最初の耳掻きは、(かんざし)に由来するものであるという。これの端をへら状にしたものが出始めたのが耳掻きの始まりで、江戸時代高橋図南という人物により享保年間に発明された。奈良時代前期の遺跡である、平城京長屋王邸跡より木の耳掻きが出土しているが、これは耳掻きではなく留め釘である可能性も指摘されている。

世界的にみても公開されている記録は少なく、とくにヨーロッパにおいては、ローマ時代の遺跡から耳掻きが出土しているが、研究がほとんどないために更に遡ることは困難である。また中国においては、3000年以上前の遺跡、河南省安陽殷墟婦好墓から、精巧な玉(一般に翡翠のこと)の耳かきが2本出土している。

古代人であっても、指が耳の穴に入らない点は現代人と同じなので、何らかの道具を用いていたであろうことは容易に想像できる。しかし、細い木の枝のようなものでも耳は掻けるため、耳掻きという専門の道具ができたのがいつかは不明である。

なお、18世紀程度のヨーロッパにて作製された銀製の耳掻きなどが、骨董品として市場に出ることがある。しかし、コレクションの対象になることはそう多くはない。これら金や銀の耳掻きは古い遺跡から発見されることも稀ではなく、実用品のほか装身具の一つとしての面もあったと考えられている。ただし、金属製のものではない、木製などのものは遺物として残りにくいため、それらについても当てはまるとはいえない。

職業の一環として耳掻きを行うものとして理容室(床屋)が挙げられるが、江戸時代には、耳掻きを専門に行うという職業「耳垢取」があった(山東京伝の『骨董集』に記述が見られるほか、落語にも登場する)。通常は散髪等の付帯サービスとして行われるが、客の要望によっては耳掻きのみを行う理容室も存在する。

また理容室とは別に、2005年7月26日に厚生労働省医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈についての通知によって、耳垢の除去が医療行為として該当しなくなったことから、東京、大阪、名古屋などの大都市圏を中心に耳掻き専門の店舗が増えつつある。超小型のカメラで自分の耳の中を見ながら耳掻きをしてくれる店もあれば、若い女性が膝枕をしてくれる店もあるなど、顧客の需要に応じ様々なタイプの店舗が存在する。また、エステティックサロンにおける「イヤーエステ」などと呼ばれるコースの中には、大抵の場合耳掻きが含まれる。他にも、風俗店などで、追加料金を払うと耳掻きを行うサービスをしているところもある。価格は店によって差があり、耳掻きだけを行う店舗は比較的安く(10分あたり1000円程度が標準的である)、エステティックサロンや風俗店では全体的に価格は高くなる。技術は施術者によってまちまちで、顧客と施術者の相性もかなり影響する。また、これらの店舗では事故を避けるために耳かきを深くまで入れない傾向があるため、耳かきを「し慣れて」いる人間には物足りなく感じることもある。

東南アジア諸国では現在でも耳掻きを専門とする職業が見られ、例えば中国インドでは公園や大通りなどで営業している。ただし、他人に用いた器具を流用するため衛生面での問題がある。また、旅行者などには高額の費用を請求するなど、トラブルの原因となることもあり、衛生当局や地元の人間により注意が促される場合がある。

耳掻きの方法[編集]

耳掻きは一般に耳の穴が痒いときに行われる。また、特段に痒みを覚えなくとも、耳垢(耳糞)を取るための日常の手入れとして耳掻きを行う者も多い。しかし耳掻きを過剰に行った結果、外耳道炎症を起こすこともあるので注意が必要である。医学的にみれば、正常な耳垢には雑菌の繁殖を抑え、皮膚を保護する効能があり、一般的にはそう頻繁な耳掻き(耳垢取り)は必要ではないと考えられている。

耳掻きは鉛筆を持つときと同様に握り、耳の穴に差し込んで耳をかく。耳垢を取る目的の際には、穴の皮膚にヘラが当たらないように差込み、その後に皮膚にへら状の先端を当て、奥から耳垢をかきだすように引き上げる。腕ごと動かすよりも、指の動きまたは手首にて調節したほうが作業が行いやすい。先端を皮膚にあてたまま奥に差し込むと、耳垢が穴の奥に押しやられる場合がある。

例外として、耳に水が入った場合には、対処法としての耳掻きは効果をなさない場合が多い。この場合、綿棒こより状にした細いティッシュペーパーを耳に差し込んで水を吸わせる、耳に消毒用アルコールを入れて流れ出しやすくするなどの方法を取ることが望ましい。

耳掻きのいろいろ[編集]

耳掻きそのものの形状は変わらないが、異なる素材によって作られることもある。竹のほか、木(ツゲが多い)やプラスチック、金属(ステンレス、18チタンなど)、象牙鼈甲クジラヒゲ、動物のなどが用いられる。竹や木にはニスで塗装されたものもある。使用しないときの安全性向上や携帯する際の利便性向上のためにキャップが付けられているものや、専用の容器に納められたものなどもある。紙軸の綿棒の片側がへら状になっているものも市販されている。

また、近年においては、先端がへら型ではないものも市場に多く出るようになってきており、以下に代表的なものを紹介する(タイプ別は商品の説明によるものなどで、正式なものではない)。

円盤型
ステンレスなど金属製のもので、先端に数枚の円盤が軸に直角に取り付けられているもの。この円盤の円周によって外耳道の皮膚をこすって耳垢を取る。大工が、の頭を耳掻き代わりに使っていたことにヒントを得て作られたと言われている。
スパイラル型(コイル型)
細い針金コイル状に巻き、その隙間によって耳垢を取る。軸の外周にコイルを備えたものや、先端にコイルのみを備えたものなどがある。上記の円盤のバリエーションとして、ネジのようになっているスパイラル型もある。
ののじ(ループ式)
細い針金をループ状にし、そのループのサイズを変えたものを2個または3個備えたもの(ループが1つのものもある)。ループは曲がったへらのようになっている。
シリコンチップ
上記の円盤型とスパイラル型の折衷タイプのようなもので、先端がシリコンチップにて作製されている。

これらのほか、通常の耳掻きと同様な先端形状を持つが、透明プラスチックで作られ、柄の部分に内蔵された照明によって、耳の中を照らすことができるものがある。また、照明と同時に簡易なファイバースコープを備え、みずからの耳の穴を視認しながら耳掻きを行えるものもある。電動吸引ポンプにホースでつなげることにより、取った耳垢をその場で吸い込めるものも市販されている。

なお、こうしたへらを備えず、単に耳垢をポンプにて吸引するという装置もあるが、耳鼻科医によって注意がうながされ、実際にもあまり効果的ではなかったため、現在ではあまり用いられない。

裁縫用具のひとつであるゴム通し(紐通し)にも、片側が耳掻きになっているものがある。

耳掻きの代用品として用いられることがあるものは、爪楊枝の頭(丸棒状で段差がつけられているものが使いよい)、木ネジ(危険である)、の頭、マッチ棒ゼムクリップヘアー・ピンなどがあげられる。ボールペンのように、皮膚に色がつくものは、たとえ耳に入るサイズであっても耳掻きの代用としては適さない。シャープペンシルの先端(危険である)などでは、耳をかくことはできても、耳垢をとることはできない。

使用感の違い[編集]

耳垢の性質には個人差があり、乾燥したタイプ(乾型)と湿って粘りがあるもの(湿型)がある。この性質は遺伝による。これらによって耳掻きを行った際の使用感が異なるが、綿棒と比較すると、耳掻きは乾型の耳垢は取り易いが、湿型の耳垢は取りにくいといわれる。

なお、日本人の8割以上の耳垢は、乾燥した耳垢である。ただしこの乾型の耳垢は本来の耳垢ではなく、耳壁の皮膚や外部のであると考えられている。乾型の耳垢の耳は粉耳カサ耳と呼ばれる。湿型の耳垢の人の耳はヤニ耳・アメ耳・ベタ耳・ネチャ耳・ジュル耳・ネコ耳(ネコを含め、哺乳類の多くの耳垢は湿型のため)・べと耳などと呼ばれる(強い臭気を伴う)。

ちなみに、湿型の耳垢の名前が多様化している理由として日本人は乾型耳垢の割合が高く、各地域で乾型耳垢を「耳垢」と呼称し、湿型をそれ以外に言い換えるためであるとされる。

耳鼻科における耳掻き[編集]

耳掻きとは呼ばないが、耳鼻咽喉科においても耳垢取りの処置が行われる。大きくて取りにくい耳垢、自分でやってかえって奥におしこんでしまった耳垢などがある場合は、耳鼻咽喉科にて相談するとよい。内視鏡または顕微鏡下において、耳垢鉗子で取り除いたり、吸引したりという処理が行われる。機械を用いて強い圧力のぬるま湯で洗うなどの耳洗も行われる(耳鼻科により設備の有無、圧力の強弱がある)。

耳掻きによって起こりやすいトラブルは、外耳道炎、耳癤(じせつ:耳の中のおでき)などのほか、誤って鼓膜を傷つけることなどである。これらの際にも、すみやかに耳鼻咽喉科を受診することが推奨される。 なお、難聴にて受診した患者が、じつは耳垢のたまりすぎだったという例が往々にして耳鼻科医によって語られる。医学的にはこれを耳垢栓塞という。 また、耳掻きを過剰に行った結果外耳道の炎症が悪化し、が発生した例もある。[要出典]

火を使った耳掻き[編集]

正確には耳掻きではなく耳垢取りと呼ぶべきものであるが、トルコなどにおいて、紙状の薄いなどを円錐形に丸め、その先端を耳に入れたまま火をつけるという方法がある。火が燃える際に耳内の空気を吸い込むため、それとともに耳垢も吸い出されるとされる。しかし「耳垢」と言われてきた残存物を調べた結果、それは蝋であり、耳垢は取れていないと証明された。温熱が内部に伝わる為、施術後すっきりとした感じを味わえるので、現在では効能を耳垢除去からリラクゼーションと変更して販売されている。なお、こういった製品を用いた際、外耳道に溶けた蝋が滴り落ちて火傷を負ったり、鼓膜に蝋がこびりつくなどの被害が頻出した。

ペットの耳掻き[編集]

一般に耳掻きとはいわれるものの、道具としての耳掻きは用いられず、綿棒とイヤーローションなどによって耳掃除が行われる。下記外部リンク参照。

耳掻きに関する事象[編集]

耳掻きにまつわる作品[編集]

耳掻きの名を持つ生物[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]