絵解

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「地獄絵」を衣に繍り流行り歌を歌う地獄太夫(15世紀の人物)。月岡芳年新形三十六怪撰』(1890年)。

絵解絵解き(えとき)は、変相図を含む説話画等の仏教絵画を物語る行為、およびそれを行う日本の職能芸能である[1][2][3][4]。当初は僧職にある者が行ったとされるが、間もなく巷間芸能化大道芸化した[1][2][3][4]

女性の「絵解」を絵解比丘尼絵解き比丘尼(えときびくに)、あるいは歌比丘尼(うたびくに)、勧進比丘尼(かんじんびくに)、熊野比丘尼(くまのびくに)等と呼ぶ[5][6]

歴史[編集]

古代・中世[編集]

熊野比丘尼が「絵解」をしながら配った熊野牛王符(熊野本宮大社)。
「歌比丘尼」たちが演奏した楽器、びんざさら

そもそも仏教の教義をイラストレーションとして表現する「変相図」は、中国の法顕(337年 - 422年)が師子国(スリランカ)で行われていた造形物を「変現」と呼んだのが最初であり、東南アジアを通じて日本に伝えられ、日本で独自の展開をすることになる[1][7]。「絵解」が対象とする説話画は、曼荼羅涅槃図八相図、個別の寺社にまつわる祖師・高僧伝、寺社縁起、参詣曼荼羅を絵画や絵巻物掛幅にしたものであった[1][2][3][4]。とくに俗化以降は、地獄絵図(地獄変相)を多く取りあげた[2]

平安時代中期10世紀醍醐天皇の第四皇子・重明親王(906年 - 954年)が書いた日記『吏部王記』にある、931年の項目で、貞観寺真言宗、現在の京都市伏見区)で『釈迦八相絵』の「絵解」が行われたのが、確認できるもっとも古い記録であり、醍醐寺の『醍醐雑事記』にも引用されている[3]

平安時代末期(12世紀)から鎌倉時代(12世紀 - 14世紀)にかけて、「絵解」は芸能として成立し、地獄絵図を琵琶の演奏とともに語った[2][4]

中世(12世紀 - 16世紀)期になると、熊野権現の勧進を目的として諸地域をめぐり歩く「熊野比丘尼」が登場する[8][9]。小脇に抱えた大型の文箱から取り出した絵巻物による地獄絵図・極楽絵図の「絵解」をしながら、熊野牛王符と酢貝(アワビの酢漬け)を配り、歌念仏や『浄土和讃』、世間で流行した俚謡(民謡)や小歌を歌いながら、物乞いをした[8][9][10]。当初は尼僧であると思われていたが、遊女としての側面も備え始める[8][9]。「勧進比丘尼」とも呼ばれ、また、「絵解」をする者をとくに「絵解比丘尼」といい、これらは熊野信仰による「熊野比丘尼」の一種と考えられていた[5][6]

室町時代(14世紀 - 16世紀)、俗人の「絵解」が登場し[4]、15世紀末の1494年(明応3年)に編纂された『三十二番職人歌合』の冒頭には、「いやしき身なる者」として、千秋万歳法師とともに「絵解」として紹介され、描かれている[11]

近世[編集]

江戸時代(17世紀 - 19世紀)には、「絵解」はついには宗教というよりも、明らかに大道芸となった[2]

かつて「熊野比丘尼」「勧進比丘尼」であると考えられていた者たちは零落し、「歌比丘尼」と呼ばれ、びんざさらを伴奏に小歌を歌う芸能者であり、盛り場で売春を行う街娼となっていた[12]山伏を夫に持ち、江戸浅草に「比丘尼屋」を開く者もいた[12]。1688年(貞享5年・元禄元年)に完成する『色道大鏡』には、「熊野比丘尼」との遊び方が指南されてあり「遊宴の名匠、比丘尼の棟梁」として、

の4か所・8人の名を挙げている[13]

天和年間(1681年 - 1684年)には、尼僧の衣裳を着た遊女である浮世比丘尼(うきよびくに)が現れ[14]井原西鶴は、1682年(天和2年)に上梓した『好色一代男』に、「この所も売り子、浮世比丘尼のあつまり」(「ここも、売り子や浮世比丘尼のたむろする場所である」の意)とさっそく登場させている[14]元禄年間(1688年 - 1703年)には、伊勢寺の勧進であると称して、尼僧の衣裳をまとって諸地域を漂白する遊女である伊勢比丘尼(いせびくに)が現れる[15][16]。18世紀の人形浄瑠璃国性爺後日合戦』で、近松門左衛門は「の帽子の伊勢比丘尼」(「サテンの帽子をかぶった伊勢比丘尼」の意)というフレーズで登場させている[16]

1780年代(天明年間)以降には、これら売春婦としての「比丘尼」は廃れていったとされる[12]。一方、1847年(弘化4年)に成立した本居内遠による当時の制度考証書『賤者考』には「勧進比丘尼巫女お寮」の項があり、「勧進比丘尼」を賤者として挙げている[17]

絵解きに使われた絵画[編集]

「絵解」が対象とする説話画の例である。

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d 絵解き世界大百科事典 第2版コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 絵解きデジタル大辞泉、コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  3. ^ a b c d 絵解き百科事典マイペディア、コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  4. ^ a b c d e 絵解き大辞林 第三版、コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  5. ^ a b 絵解き比丘尼デジタル大辞泉、コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  6. ^ a b 絵解き比丘尼大辞林 第三版、コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  7. ^ 世界大百科事典 第2版『変相図』 - コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  8. ^ a b c デジタル大辞泉『熊野比丘尼』 - コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  9. ^ a b c 大辞林 第三版『熊野比丘尼』 - コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  10. ^ 有精堂、p.10.
  11. ^ 小山田ほか、p.142.
  12. ^ a b c 世界大百科事典 第2版『歌比丘尼』 - コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  13. ^ 藤本、p.463-465.
  14. ^ a b デジタル大辞泉『浮世比丘尼』 - コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  15. ^ デジタル大辞泉『伊勢比丘尼』 - コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  16. ^ a b 大辞林 第三版『伊勢比丘尼』 - コトバンク、2012年8月31日閲覧。
  17. ^ 林、p.69.

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]