硬性憲法

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硬性憲法(こうせいけんぽう)は、憲法に関する論考において改正の困難さで各国の(広義の)憲法を二つに分類した場合に、改正が困難な側に分類される憲法のこと。それ以外の憲法、すなわち改正が容易な側に分類されるものは軟性憲法(なんせいけんぽう)と呼ばれる。分類の基準は論考毎に異なる。

当初は改正の難易とは無関係に、別の視点で憲法に関する論述に用いられていた。

用語について[編集]

用語の歴史[編集]

「硬性」憲法と「軟性」憲法の二種類で憲法を区分しての議論は、ジェームズ・ブライスが創案した [1] [2] 。 ブライスは、歴史的に新しく、他の法の上位となるものを硬性憲法とした [3]

(Other constitutions, most of them belonging to the newer or Statutory class, stand above the other laws of the country which they regulate.)

ブライスは軟性憲法について、適応性を持ち、主な特徴を維持しつつ曲げたり改正することが可能であると、述べている。ブライスはまた、硬性憲法であることが結果として革命や内乱を引き起こすリスクを指摘している[1]。ブライスのこのリスクの議論は、実際に改正が困難であることを前提としている。

その後、アルバート・ヴェン・ダイシー以降、改正規定に着目した用法が広まった [4]

別の表現[編集]

硬性憲法(リジッドな憲法)(英語: rigid constitution)と軟性憲法(フレキシブルな憲法)(英語: flexible constitution)の区別は、エントレンチ英語: entrench)とノン・エントレンチの区別とも言われ、両者にニュアンスの違いはあるが、本質的には同じ事とされている [5] 。現在、憲法に関連した英語の文献について、リジッドと表記されているもの、エントレンチと表記されているもの、いずれも多数見つけることができる。

視点による違い[編集]

アメリカ合衆国憲法についての、視点による論述の違いを例示する。

アメリカ合衆国憲法には多数の修正が存在する。このため、「アメリカ憲法が二〇〇年以上も続いたのは、弾力性がある『生きた憲法』だったからだ」「コモンロー的憲法は生ける憲法である」と述べている文献が存在する[6] 一方で、1905年の論述ではあるが「アメリカ合衆国憲法は、南北戦争によるものを除き1804年以降は変更がなく、実質的には変更不可能で、リジッドである事実に疑問の余地はない」と主張する文献も存在する。[7]

アメリカ合衆国憲法については、その修正方法(従来の規定を残したまま修正内容を修正条項として付け足していく)を考慮して、各論述を読み取る必要がある。

日本における用法[編集]

日本においても、前述のごとく、ある憲法を硬性憲法とするか軟性憲法とするかの区分の基準は一定していない。また、ある憲法の一部に堅固に保護された条項がある場合に、それを分けて論述するかどうかも、一定していない。 日本の義務教育や入試問題においては、対応する教科書の記載が基準となっている。

一般には、その改正にあたり通常の法律の立法手続よりも厳格な手続を必要とする成文憲法が、硬性憲法とされ、それ以外が軟性憲法とされる。 またある論述では、硬性憲法か軟性憲法かの区別は、あくまでもそれぞれの国家における立法手続、法律の改正手続に比べて「形式的に」厳格な手続が要求されるか否かという点で区別される、とされている。

これに対して、「日本国憲法やアメリカ合衆国憲法など(主に成文憲法)は硬性憲法に分類される。一方でイギリスは軟性憲法であるほか、フランスドイツなどヨーロッパ諸国は硬性憲法でも実質的に軟性である。」とする論述がある。

しかし、アメリカ合衆国憲法については前述のように様々な意見が存在する。またドイツ連邦共和国基本法には永久条項が存在し、これについては、他のどの憲法とどのように比較しても硬性憲法と言える。

意義[編集]

憲法の改正を困難にする何らかの規定について、次のような意義が主張されている。

民主主義のもとにある国家においては、与党などは、例えば立法を担う議会の決議要件を充足する勢力を有するなど法律を自らの意向に従って制定する権限を持つのが通常であり、一面では民主主義はそれを正当に要求するものである。ところが、法律によって規律されるレベルを超えた普遍的な価値、根元的な価値に関しては、法律に関する授権を超えた特別な決議要件を必要とするという考え方が硬性憲法という発想につながる。硬性憲法の長所は、時の権力が(一般の法律はともかく)憲法をも自分に都合のいいように書き換えることにより権力を恣意的に行使し、国民の人権を侵害する危険性を低減できる点にある。しかし、改正しにくい結果、時代の変遷に迅速に対応できなくなってしまうという短所も存在する。

脚注[編集]

  1. ^ a b 高見勝利 「硬性憲法と憲法改正の本質」 『国立国会図書館レファレンス』平成17年3月号、2005年、9-11頁。
  2. ^ James Bryce, "Flexible and Rigid Constitution", Studies in History and Jurisprudence. Oxford:Clarendon Press, 1901, pp.124-213.
  3. ^ 井口文男訳 アレッサンドロ・パーチェ 「硬性憲法と軟性憲法」『岡山大学法学会雑誌』第55巻第1号、2005年
  4. ^ 井口文男訳 アレッサンドロ パーチェ 『憲法の硬性と軟性』友信堂、2003年169-181頁
  5. ^ "Wim J. M. Voermans", "The consititutional revision process in the Netherlands", Engineering Constitutional Change : A Comparative Perspective on Europe, Canada and the USA (Routledge Research in Constitutional Law), Xenophon Contiades (ed.), September 9th 2012, p. 269
  6. ^ 大林啓吾「時をかける憲法」『帝京法学』28(1)、帝京大学法学会、2012年、129-130頁
  7. ^ Henry Bournes Higgins, "The Rigid Constitution", The Academy of Political Science, Vol. 20, No. 2, Jun., 1905, p. 203

関連項目[編集]

外部リンク[編集]