皿ばね

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皿ばね

皿ばね (さらばね) とは、中心に穴の開いた円盤状の板を円錐状にし、底のないお皿のような形状にしたばね [1] 。自動車のクラッチに使われるものはダイヤフラムスプリングとも呼ばれる。 英語では、disc spring、coned disc spring、Belleville springなどと呼び[1]、英語名の「ベリビル」は発明者のジュリアン・フランソワ・ベルビル (Julian Francois Belleville) に由来する [2]

特徴[編集]

円錐状の上側内周部分と下側外周部分に荷重を加え、円錐高さを低くする方向にたわませることでばね作用が得られる。主に以下のような特徴を持つ。

  • 小さな取付スペースで大きな荷重を受けることができる[3]
  • 基本的には荷重-変位の特性は3次式の関係にあるが[4]、形状の寸法比を変えることで線形的、累進的、逆進的などの様々なばね特性が得られる[3]。一方、板厚などの製作誤差がばね特性に大きく影響しやすく、特性のばらつきが大きくなる[5]
  • 並列や直列の組み合せによりさらに様々なばね特性が得られ、全体としてのばね高さも変えることができる[4][3]。ただし、組み合わせて使用する場合はばねのずれを生じさせないために内側か外側にガイドが必要となる[5]
  • 摩擦によりばねにヒステリシスが生じる。これにより減衰特性を得ることもできる[3]。一方、摩擦によりガイドやばねの摩耗が生じたり、ヒステリシスを嫌う場合は潤滑材や表面研磨などを要する[6]

締結用の座金やクラッチの加圧バネなどに使用されている[5]

計算式[編集]

アルメン・ラスロの式[編集]

皿ばねの寸法とアルメン・ラスロの式における応力、回転中心位置
皿ばねのアルメン・ラスロの式における変形モデル

皿ばねの荷重-たわみ(縮み)の関係式、および皿ばね板の四隅の応力計算式としては、以下のアルメン・ラスロの近似式がある[5]。皿ばねの外径をde、内径をdi、板厚をt、自由高さをh0(≃H0−t)とし、皿ばね材料のヤング率をE、ポアソン比をνとする。係数を以下のように定義したとき、

\alpha = \frac{d_e}{d_i} \quad , \quad \beta = \frac{h_0}{t}

C_1 = \frac{1}{\pi}\frac{\left( \frac{\alpha-1}{\alpha} \right)^2}{\frac{\alpha+1}{\alpha-1}-\frac{2}{\ln\alpha}}

C_2 = \frac{1}{\pi}\frac{6}{\ln\alpha}\left( \frac{\alpha-1}{\ln\alpha}-1\right)

C_3 = \frac{3}{\pi}\frac{\alpha-1}{\ln\alpha}

荷重Pとたわみδの関係

P = \frac{4E}{1-\nu^2}\frac{h_0^3}{C_1 d_e^2} \delta \left[ \left( \beta-\frac{\delta}{h_0} \right) \left( \beta-\frac{\delta}{2h_0} \right)+1 \right]

接線ばね定数k

k = \frac{dP}{d\delta} = \frac{4E}{1-\nu^2}\frac{h_0^3}{C_1 d_e^2} \left[\beta^2 - 3\beta\frac{\delta}{h_0} +\frac{3}{2}\left(\frac{\delta}{h}\right)^2 +1 \right]

各四隅の応力

\sigma_\mathrm{I} = \frac{4E}{1-\nu^2} \frac{h}{C_1 d_e^2} \delta \left[ -C_2 \left( \beta-\frac{\delta}{2h_0} \right) -C_3 \right]

\sigma_\mathrm{II} = \frac{4E}{1-\nu^2} \frac{h}{C_1 d_e^2} \delta \left[ -C_2 \left( \beta-\frac{\delta}{2h_0} \right) +C_3 \right]

\sigma_\mathrm{III} = \frac{4E}{1-\nu^2} \frac{h}{\alpha C_1 d_e^2} \delta \left[ (2C_3-C_2) \left( \beta-\frac{\delta}{2h_0} \right) +C_3 \right]

\sigma_\mathrm{IV} = \frac{4E}{1-\nu^2} \frac{h}{\alpha C_1 d_e^2} \delta \left[ (2C_3-C_2) \left( \beta-\frac{\delta}{2h_0} \right) -C_3 \right]

円周長が変化しない回転中心の外径do

 d_o = \frac{d_e-d_i}{\ln\alpha}

となる[7]

上記の式は、1936年にゼネラルモーターズ研究員のアルメン (J.O. Almen) とラスロA. László) により発表された[8][9]。式導出の仮定として、

  • 断面形状は変形せず、円周長が変化しない中立点を中心にして回転するようにして皿ばねが変形する。
  • 回転角φは小さいとして、φの高次の項は無視する。
  • 荷重は円周上に一様に負荷され、変形は軸対称とする。

以上を設定している[5]

コーナーRの影響補正[編集]

アルメン・ラスロの式では皿ばね板の四隅にコーナーRはないものとして式が導出されている[5]。実際にコーナーRが付くと荷重支点の移動が発生し、荷重とたわみの関係でアルメン・ラスロの式による計算値と実測値の差が大きくなる。日本ばね工業会などでは次のように補正した荷重-たわみの関係式を導入している[10]

P = \frac{d_e-d_i}{(d_e-d_i)-3R} \frac{4E}{1-\nu^2}\frac{h_0^3}{C_1 d_e^2} \delta \left[ \left( \beta-\frac{\delta}{h_0} \right) \left( \beta-\frac{\delta}{2h_0} \right)+1 \right]

ここで、\frac{d_e-d_i}{(d_e-d_i)-3R}が補正項である。

組み上げによるばね定数の変化[編集]

並列重ね3×直列組み合わせ2
直列組み合わせ6

他のばねと同様、複数の皿ばねを使用することで直列あるいは並列のばね定数を得ることができる。フックの法則#ばねが複数の場合などを参照のこと。皿ばねを同じ向きに重ね合わさると並列ばねの効果を発揮する[11]。この組み合せ方を並列重ねと呼ぶ[11]。皿ばねを互い違いに重ね合わさると直列ばねの効果を発揮する[11]。この組み合せ方を直列組合せと呼ぶ[11]

規格[編集]

日本工業規格

  • JIS B 2706 - 皿ばね

ドイツ工業規格

  • DIN 2092 - Disc springs - Calculation
  • DIN 2093 - Disc springs - Quality specifications - Dimensions

脚注[編集]

  1. ^ a b 『JIS B 0103 ばね用語』 日本工業標準調査会、2012年、8頁。
  2. ^ Shigley, Joseph Edward; Mischke, Charles R.; Brown, Thomas H. (2004), Standard handbook of machine design (3rd ed.), McGraw-Hill Professional, p. 640, ISBN 978-0-07-144164-3, http://books.google.com/books?id=Mafom8J9sqYC&pg=PT150. 
  3. ^ a b c d Handbook p.6
  4. ^ a b ばね p.271
  5. ^ a b c d e f ばね p.272
  6. ^ ばね p.279
  7. ^ ばね p.273
  8. ^ Handbook p.5
  9. ^ Almen1936
  10. ^ ばね p.278
  11. ^ a b c d ばね p.275

参考文献[編集]

関連項目[編集]