異性化糖

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異性化糖(いせいかとう、high-fructose corn syrup、HFCS)とは、デンプン酵素又はにより加水分解して得られた主としてぶどう糖からなる糖液を酵素又はアルカリにより異性化した果糖又はぶどう糖を主成分とするをいう[1]。デンプンはぶどう糖から構成されているが、ぶどう糖をより甘味の強い果糖に異性化させることによって甘味をより強めることができる。トウモロコシジャガイモ、あるいはサツマイモなどのデンプンを酵素で糖化させた後、含まれるブドウ糖の一部を別の酵素で果糖に異性化させたものである。

分類[編集]

異性化糖製品は日本農林規格 (JAS) で以下のように制定されている。

ブドウ糖果糖液糖
果糖含有率(糖のうちの果糖の割合)が 50% 未満のもの。
果糖ブドウ糖液糖
果糖含有率が 50% 以上 90% 未満のもの。
高果糖液糖
果糖含有率が 90% 以上のもの。
砂糖混合異性化液糖
上記の液糖に 10% 以上の砂糖を加えたもの(その液糖がブドウ糖果糖液糖なら砂糖混合ブドウ糖果糖液糖)。

生成方法[編集]

デンプンから異性化糖を生成するには、3回の酵素反応と精製、濃縮が必要である。一方、砂糖はビートサトウキビから抽出精製して作られる。

  1. 液化 — デンプンに加水分解酵素である α-アミラーゼを加え、95 ℃ 程度に加熱する。これにより高分子のデンプンはある程度小さく分解される。
  2. 糖化 — 液化終了後に 55 ℃ 程度まで冷却し、グルコアミラーゼを加える。この反応で、糖はさらに細かく分解され、ブドウ糖になる。
  3. 異性化 — 60 ℃ で異性化酵素のグルコースイソメラーゼを加え、約半分のブドウ糖を果糖に変化させる。異性化糖の名称はこの反応(ブドウ糖が果糖に異性化する反応)に由来している。
  4. 精製・濃縮 — 異性化後、液糖をろ過機やイオン交換装置で精製し、水分を蒸発させて濃縮することにより、果糖分 42% のブドウ糖果糖液糖が得られる。さらに、クロマトグラフィーによって果糖純度を高めることができ、この技術で果糖分 55% の果糖ブドウ糖液糖や果糖分 95% の高果糖液糖などを作ることができる。

甘味度[編集]

糖と甘味料の相対的な甘さ

砂糖の甘味度(甘みの強さ)を 100 とすると、ブドウ糖の甘味度は 65–80、果糖は 120–170 で、甘味度の強さは 果糖 > 砂糖 > ブドウ糖 の順である。そのため、果糖分 42% のブドウ糖果糖液糖の甘味度は 70–90、果糖分 55% の果糖ブドウ糖液糖は 100–120 である。ただし、果糖は高温では砂糖の 60% の甘味度しかなく、40 ℃ 以下でないと砂糖よりも甘くならないので、異性化糖の甘さは温度によって大きく左右される。

特性[編集]

  • 砂糖より甘みが口中に残りにくく、低温下で甘味度を増すので、清涼飲料冷菓などに多く使われている。また、異性化糖は価格も安い(果糖分 55% の果糖ブドウ糖液糖は砂糖の7割程度)ので、他に缶詰パンみりん調味料などにも使われている。
  • 低温での利用に向いている半面で、熱に弱く、加熱すると着色してしまう(このときメイラード反応が起きる)。
  • 粘性が少ないため、取り扱いやすく、タンクローリー等により大量に運送したり、タンクに保存・貯蔵したりすることが容易である。
  • 液状のため、固形化や粉末化するのが難しく、一般消費者向けにはほとんど販売されていない(果糖ブドウ糖液糖はガムシロップとして市販されている)。
  • 砂糖よりもカロリーが低く、時折ダイエット商品にも利用されている。

各国の事情[編集]

異性化糖は主に工業国において生産される。普及の割合には、各国の農業政策と密接な関係がある。なお、補助金制度等は現在の農業自由化の流れの中で変化しつつある。

日本[編集]

日本においては、国内で余剰気味のサツマイモ等などを原料とした糖類を作る技術が求められ、農林水産省および通商産業省管轄下の研究所で競って研究が進められた結果、1960年代後半から70年代にかけて技術が確立された。現在の製法は通産省工業技術院(現産業技術総合研究所)の高崎義幸博士らのグループにおいて開発されたものである(特公昭41-7431)。日本においては普及は急速ではなかったものの、清涼飲料水において普及が進み、今では砂糖類の需要の4分の1程度となっている[1]。また、日本においてもデンプン源として主に使われるのは今はトウモロコシであるが、農業振興のため、一定量の国内産デンプンの引き取り義務がある。
日本の市場規模は、年間800億円-1,000億円。10社(日本スターチ・糖化工業会)が9割のシェアを握る構造となっている[2]

アメリカ[編集]

アメリカ合衆国ではコーンスターチ(トウモロコシから作られたデンプン、低コスト生産のため殺虫能力を添加した遺伝子組み換えトウモロコシが主に使用される)を原料に使っているため HFCS (high-fructose corn syrup) と呼ばれている。通商産業省工業技術院(現産業技術総合研究所)は、1966年に再実施権付きの独占実施契約を、コーンスターチの5大メーカーの一であったStandard Brands Inc.(現Nabisco)と締結している。この契約は国有特許の輸出第一号になったものである。FDAの審査を経た後、開発された直後の1970年代に急速に受け入れられ、今では糖類の需要の半分近くを占め、世界の生産量、消費量の7割を占めており、直接ないし清涼飲料水の形で周辺国へ輸出もしている。これにはキューバ革命によってキューバからの砂糖の輸入が途絶え価格が高騰したこと、液糖を使う素地が元々あったことが考えられる。普及に伴い、肥満の原因としてやり玉に挙げられることが多くなり、大きな論争の種となっている。

欧州連合[編集]

欧州連合 (EU) 砂糖規制法規においてはイソグルコース (isoglucose) と呼ばれ、製糖業の保護のために生産割り当てが行われている。その結果、EU諸国における異性化糖の占める割合は多くて 5% 以下で、あまり普及していない。食品表記上では、ブドウ糖果糖液糖に相当するGlucose-Fructose Syrup(GFS)が使われる。果糖ブドウ糖液糖等に相当するFructose-Glucose Syrup(FGS)の表記も規定されているがEU圏内では殆ど生産されていない。

引用[編集]

  1. ^ 砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律
  2. ^ 甘味料販売で価格カルテルか。公取委、10社立ち入り(47NEWS.2012年1月31日)2012年2月3日

関連項目[編集]

外部リンク[編集]