生活保護問題
生活保護問題(せいかつほごもんだい)とは、日本の生活保護制度を巡る諸問題のことである。
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[編集] 「水際作戦」問題
生活保護行政における「水際作戦」とは、一部地方自治体で採られた、保護申請の受付窓口である福祉事務所において保護申請の受け取りを拒否することで、生活保護の受給を窓口という「水際」で阻止する方策をいう[1]。保護請求権を行使する具体的な方法である保護の申請は権利として保障されており(後述)、このような方策の多くは不適法なものであるが、生活保護扶助費用の1/4および現業員の給与は自治体予算から支出されるため、生活保護受給者の増加が財政の大きな負担となっていること[2]や、生活保護費の不正受給問題(後述)が背景に存在するといわれている。
2007年7月10日には、北九州市において生活保護受給者が「就職した」と市職員に虚偽報告を強いられ生活保護を打ち切られた結果、「おにぎり食べたい」と書き残して孤独死した事案が発覚、大きな問題となった。この問題の根底には1967~1987年まで、20年もの長きに渡って市長をしていた谷伍平が生活保護の不正受給の一掃を掲げ、生活保護の「適正化」を推し進めた事が背景にあるといわれる(なお、谷はこの事件が発覚する約半月前に死去している)。
北九州市で行われていた、保護開始・廃止件数の事実上の数値目標を各福祉事務所に課すこの手法は全国に報道され、マスコミの多くは市の施策を批判した[3]。2006年11月30日放送「報道ステーション」で北九州市の「水際作戦」が報じられると、同市は「公平・公正さに欠ける」と抗議した[4]。
同年2月に実施された市長選挙で、これまでの市の生活保護行政を批判した北橋健治が前市長の後継者を破って当選した。北橋市政の下で、第三者による検証委員会が設置され、市の保護行政の検証が進められた。公開された「北九州市生活保護行政検証委員会」の議事録によれば、数値目標は暴力団の不正受給を防ぐための目標だったが、数値目標が一人歩きし、不必要な人間に生活保護を出し、本当に必要な人に生活保護を出さなくなったのではないかなどと検証されている[5]。
また、2007年3月4日放送のテレビ朝日系『サンデープロジェクト』でも数値目標についてある窓口での文書を入手し、その文章について福祉職員が匿名で「面接主査課長、福祉事務所長の人事考課が下がるから必死に断らなくてはいけない」「『申請書ください』『ハイそうですか』と渡す人は無能な職員とみなされ出世できなくなる。上司に指導される」などと証言した。北九州市はテレビ朝日の取材に対して「文章の数字は見込みであり目標ではない。職員の人事考課に影響することはない」と答えたが、北橋市長は役所の対応に問題があったことを認めた。
その他の自治体においても、担当職員から「もう来ないと一筆書け」と言われたり、乗車券や電車賃高速バス料金を渡されて他の自治体に行くよう指示されるケースがあり[6]、2007年12月14日には兵庫県加古川市において、心筋梗塞で働けなくなった30代男性の生活保護申請者の申請取下げ書を偽造していた事件が発覚した[7]。また大阪府貝塚市でも2007年に複数の違法行為が発覚した[8]。札幌市白石区でも1987年に“保護受給申請をさせず相談に留める”同様の対応が行なわれていたことが確認されている[9]。2010年8月15日、さいたま市北区で、76歳の男性が熱中症で死亡した。電気代を2000年から払えず、電気を止められていた。病を持つ息子との二人暮しであったが、十数年前に生活保護の申請をしたが却下され、父親の年金だけで暮らしていたことが明らかになった[10]。
また、水俣病患者の迅速な救済のため、厚生労働省が2010年以降、一時金などを支給するようになったが、この一時金について、厚生労働省は「収入である」と判断し、一時金支給を受けている被害者が生活保護の支給を受けられなくなっているケースが多発している。こうした世帯は、熊本・鹿児島両県で100世帯を超える数で存在しているという。かえって生活苦が増したとの被害者からの声が相次いでおり、有識者からは「実情に合わない制度である」として問題視する意見が多い。熊本県などは制度の見直しを要望しているものの、厚生労働省は「原則通りの運用であり、変更予定は無い」としている[11]。2011年には、この影響で生活保護が受けられなくなった患者から、訴訟が起こされている[12]。
また、東日本大震災の被災者が、義援金を受け取ったことにより、生活保護が打ち切られた事例があり、該当者による訴訟が起こされている[13]。
他にも、最後の頼みとして相談に来た相談者に、「稼働能力がある(まだ、年齢が若い)」[14]、「扶養義務者がいる」[15]、「ホームレスである」[16]」、「現住居の家賃が高すぎる」[17]、来所者が女性ならば「水商売に身を投じても働くべし」などを理由に窓口で申請自体を断念させているという事例が多いとされている。
[編集] 法的な問題
生活保護法は保護を請求する権利(保護請求権)を無差別平等主義を保障している。また、行政手続法第7条では「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならない」と定められている[18]。
したがって、保護請求権を行使する具体的な方法である保護の申請は権利として保障されている。つまり、保護申請があれば福祉事務所は無条件に受理してすみやかに保護の要否についての審査を開始するというのが生活保護法の根本原則である。
そして、生活保護の申請は要式行為(定められた形式で行うことが成立要件である行為)ではない。つまり、保護申請に「形式上の要件」はなく、申請の意思表示が行われれば、それが所定の申請用紙ではなく独自用紙によるものであろうと、口頭によるものであろうと、それだけで申請行為は成立する。従って、申請者が福祉事務所に対して申請意思を表示すればその瞬間に福祉事務所は原則14日以内に保護を開始するか却下するかの決定を行う義務を負うことになる。
福祉事務所においては、通常生活相談に来た人に対し、失業中の場合は雇用保険の失業等給付を受給できないか、60歳以上の場合は年金を受給できないか、病気、ケガなどで障害を負った場合は障害年金を受給できないかなどの、他法優先の制度の趣旨説明の他に就労の可不可、扶養義務者の扶養義務などについて説明を行う。福祉事務所は必ず申請を受けて審査しなければならず、申請自体を拒むことは違法で、認可・却下の判断以外は許されない。にもかかわらず、一旦申請されてしまうと多くの場合、保護を開始しなければならないことから、違法に申請を拒否しているとの主張を、全国生活と健康を守る会連合会[19]や日本弁護士連合会[20]などが行っている。
[編集] 政治・行政の背景
福祉事務所がこのような対応を行う背景として、昭和56年11月17日厚生省社会局保護課長・監査指導課長通知 社保第123号「生活保護の適正実施の推進について」、いわゆる「123号通知」の存在が指摘されている[21]。ただし、議員などが同席したり弁護士やPSW(精神保健福祉士)などが同席すると申請書の交付が比較的容易になされる傾向にある。申請書の交付の遅延による申請の遅れにつき、審査請求において初回相談日を申請日とみなすと判断された事例もある。その他、最近は、昔のように隣近所、地域の人達が食料やお金を援助するなどの助け合いがなくなった(特に最近では「共倒れ」を避けたいのが最大の理由だと言われている)。親族でさえも(困窮や持ち家などの財産を死後に奪う目的で)援助を断る人が多くなったため行政の負担が多くなったと2009年1月16日付け日本経済新聞朝刊の生活保護の特集記事で指摘している。
また、山谷、あいりん地区などの日雇労働者は本来は生活保護を受けられるはずなのに受けさせないのは全員に生活保護を実施すると財源がパンクするから実施しないのではないかと田中康夫はラジオ番組の『BATTLE TALK RADIO アクセス』などで指摘している。
なお、この問題に対して日本司法支援センター(法テラス)は、2007年4月から生活保護申請時に弁護士が同行する事業を始めると発表した。
[編集] 生活保護制度見直し問題
厚生労働省の生活保護見直し検討会議(座長は樋口美雄慶應義塾大商学部教授)は、近年問題になっている生活保護費不正受給、生活保護を受けている家庭より所得が低く貧窮している家庭の増加などを考慮し、生活保護費のうち、主に生活扶助の食料費などを減額していく見通しを明らかにしたが、政府の方針としては、当面の間、見送りとなった。
[編集] 加算制度廃止問題
一定年齢以下の子供のいる、母子家庭に認められていた母子加算制度が、2005年度から段階的に縮小され2009年4月に全廃された[22]。それにより、子の教育に支障が出ているとの声が一部母子家庭から挙がっている[22]。ただ、生活保護費の現金支給によって教育を考えるのか、奨学金制度の拡充といった面において教育制度を考えるのか議論はあるが、将来を担う子供達にまでしわ寄せが来るのは問題である。2004年に宇都宮市でおきた、生活保護家庭の子の衰弱死問題も生活保護を受けている両親が改造車やコスプレ衣装に保護費を使っていたことが知られており、子の体内からセロハンテープが検出された[23]。現金支給が教育問題を全て解決する訳ではない。また子どもへの負担は一人親家庭・両親健全家庭のどちらでも存在するが、子どもがいる両親健全家庭には加算されていないため、離婚(または偽装離婚)を助長する可能性もある。
厚生労働省は母子加算の打ち切りの代替措置として、母親に対する就業支援を実施している[22]。ちなみに、2009年4月に母子加算打ち切りとなった約5万世帯の内、約3万世帯が病気などによる就業困難世帯である[22]。
打ち切りに対し、日本全国で日本国憲法第25条の生存権の侵害を根拠とした行政訴訟が提起されている[22]。2008年12月25日広島県内の32人が広島市などに決定取り消しを求めた訴訟の判決が広島地裁であり、請求はすべて退けられ、原告控訴となった[24]。尚、将来的には障害者加算も廃止の方向であり、検討が必要とされる。[要出典]既に高齢者加算は廃止されている。
一方でこの問題に関して報道で取り上げられた加算対象の受給者の生活水準が一般的な勤労者世帯を上回っているのではないかとインターネット上を中心に指摘されている。例を挙げれば対象者が「母子加算があれば母子2人で月1回回転寿司で40皿分食べる生活が維持できた」、「水族館のために沖縄旅行に行きたがり、母子加算があれば行けた」など主張していることがあげられる。[25]
母子加算廃止の根拠とされた社会保障審議会の答申は廃止を提案したものではないとする報道がある。また、同じく廃止の根拠とされた統計についてサンプル数が少なかったことなどを指摘されて、厚生労働省が問題があることを認めたとの報道がある。[26]
[編集] リバースモーゲッジ
生活保護受給者が持ち家を所有している場合に、受給者の子などの親族が生存している時には援助する余裕があるにもかかわらず援助を断りながら、受給者が死亡すると受給者の持ち家を相続してしまうような状況が発生することに対する批判が存在しており、リバースモーゲッジの導入を求める声が生活保護の実務を担当する地方自治体からあり[27]、この制度の導入にはなお慎重な姿勢が求められつつも、高齢者の親を持つ子が相続を狙って財産保全のために生活保護を利用している事に批判がある[27][28]。
上記のような批判をうけ、2007年4月から都道府県社会福祉協議会を実施主体とする[29]「要保護世帯向け長期生活支援資金」制度が創設(2009年10月には「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」と名称変更[29])されており、この資金の利用が可能な居住用不動産を有する高齢者世帯等については、本貸付金の利用を生活保護に優先させ、貸付の利用中は生活保護の適用を行わないこととされた。[30]
[編集] ワーキングプアと保護水準を巡る議論
バブル崩壊後の「失われた10年」「ロストジェネレーション」に代表される長期不況のため、社会の低所得層の収入水準が低下し、また生活保護の支給額が上昇したため、また、最低賃金が低いことから低所得層と生活保護受給者においては所得額が接近した。そのため、生活保護を受けている方が働くよりも収入が増える場合も多く(ワーキングプア)、これに反発する声もある[31]。
しかし、現在生活保護を受けていない低所得層の多くは、実際には、「稼働能力を活用していても収入が最低生活費を下回る」などの生活保護の開始要件を満たしており、申請すれば生活保護が開始されるにもかかわらず、そうした知識を持っていない為に生活保護の受給を申請するという発想が無いという問題が指摘されている[32]。ちなみに、所得が生活保護支給基準以下となるケースの内、実際に支給を受けている割合は、複数の研究において、いずれも約10~20%となっている[33]。
[編集] 地域格差問題
生活保護の受給の難しさには地域較差があるとされているが、このような差が生じる説明として行政側の対応に原因を求める見方と単に地域に存在する保護対象者や申請者の数の差、または年齢差によって高齢者には積極的に保護する姿勢など、様々な視点で考える見方がある[要出典]。
厚生労働省が発表した平成17年の厚生労働白書によると、富山県の保護率が全国一少なく、保護率の高い北海道や大阪府との差は約十倍であった。このことについて、富山県の単に県内経済と勤勉な県民性に起因するという見方が大勢[要出典]であり、富山県が各種統統計上で生活保護の対象となる家庭が少ないこと示唆されている事実がある。たとえば持家率、住宅延面積、世帯当たりの所得で全国1位の座を保っており[34]、世帯当たりの自動車保有数や共働き率等で上位を占める。
また、生活保護者数の人口比が最も高い大阪市では、人口の約4.47%(約12万人)が生活保護を受給しており、市財政において市税収入6868億円[35]に対し、生活保護費が2443億円である[36]。
[編集] 不正受給問題
詳細は「生活保護の不正受給」を参照
水際作戦に代表されるような不当な生活保護受給権抑制の一方で、元来受給資格要件を満たしていないにも関わらず生活保護を受給する者や生活保護受給者として法定された義務も怠たり不正に生活保護を受給する者も数多い。また、実際に支給されるべき金額以上の保護費を不正に受給した者も存在している。
- 2011年に厚生労働省が、生活保護受給者に対し医療機関の受診状況を調査したところ、2日に1回以上の高頻度で3ヶ月以上にわたり通院する者(頻回通院者)の人数が、全国で1万8,271人にも及ぶことが判明している。また、そのうちの3,874万人については、自治体自らが高頻度通院を半ば勧める「過剰受診」であると指摘されている[37]。
[編集] 所得隠しによる不正受給
所得税の源泉徴収による申告をしない雇用主の下での現金払いによる就労や、友人の名義を借りた不正就労による賃金の受給、オークションや中古リサイクル店などへの売却金、仕送りの受け取り、世帯主ではない未成年受給者(主に高等学校在学生)のアルバイト収入、生命保険解約返戻金や事故などによる賠償金、犯罪被害者給付金、ギャンブルによる配当金、株取引や先物取引、外国為替証拠金取引など、これらは本来、全て収入として福祉事務所に申告するべきものであり、通常はその収入分を減額した金額で保護費が支給される[38]。
不正受給が過失によるものであるなど、再犯の可能性が低いものについては、生活保護法第63条による不正受給金額の返還命令が行われ、悪質な場合は同78条による徴収の実施や同85条に基づく罰則規定及び刑法の詐欺罪の規定が適用されることとなる。また、保護の廃止が検討され、さらには刑法の詐欺罪や所得税法違反(虚偽申告)などが適用される。
[編集] 事例
滝川市では、不正受給していた元暴力団員の夫婦のみならず、介護タクシー会社の役員が、不正受給に関与していたとして逮捕されている[39]。また、大阪府岸和田市では、43歳の男性が、通院交通費として同市から約438万円を受け取り、これを元に、東京都や福岡県の病院へ、新幹線や航空機を利用して遠距離通院していた事実が発覚している[40]。また、高槻市に於いては、市の課長が電算システムを不正操作し、多数の生活保護費を支出させ、その保護費が使途不明となる事件があった[41]。
[編集] 大阪市の事例
生活保護受給の要件を満たしているにも関わらず、自治体の窓口に申請に行くと、他の自治体(日雇い労働者の保護が整備されているとされる大阪市が多い。いわゆる「大阪への片道切符」)に行くことを勧められる事例が、在阪局を中心とした報道で明らかになっている[42]。
大阪市内の34の医療機関に於いて、入院・通院患者の全てが、生活保護の受給者で占められていたことが、同市の実態調査で発覚している。過剰診療などが行われることによって、生活保護の不正請求が多数行われている疑いが指摘されている[43]。
[編集] 中国人による大量不正受給申請事件
また、2010年5月から6月にかけて、大阪市に於いて、中国人48人(いずれも福建省出身の日本人姉妹の親族とされている)が、来日直後に同市に対し生活保護を申請していたことが明らかになっている。生活保護費を狙った貧困ビジネスの可能性も指摘されており、法務省大阪入国管理局は、同市に対し在留資格の再調査を行うよう指示した[44]。これについて同市は、2010年7月22日に、「生活保護受給を目的に入国したと判断できる」として、既に支給されていた26人の生活保護を打ち切り、審査中だった2人についても申請を却下した[45]。
[編集] 課題
悪質な不正受給が跡を絶たない理由には、福祉事務所が積極的な不正追及を行う担保となりうる法令的根拠の整備が乏しいことにも原因があるという指摘がある[要出典]。現状、近隣住民からの苦情や告発があっても刑事告訴にまで発展するケースは稀であり、警察及び検察も積極的に立件に乗り出さなかったという行政側の体制の不備を指摘する声もある。もっとも、悪質な不正受給は、言うまでもなくその行為を行う被保護者に非があることから、より厳格な受給決定手続や啓蒙の必要性が唱えられている[要出典]。
これに関係し、不正受給者には暴力団その他の団体が絡む件も多い。また不正受給を是正しようとするケースワーカーに有形無形の圧力も加えられることもある[要出典]。不正受給の方法が被保護者同士の情報交換やインターネットなどによって広範囲に知れ渡る事例もある。過去に雑誌「裏モノJAPAN」で不正受給の方法についての特集が組まれた。
[編集] 生活保護費ピンはね問題
「生活保護ビジネス」を参照
近年はホームレスに保護を受けさせ、受けた支給金を騙し取るグループの存在が指摘されている[46]。 一部の任意団体などが、路上生活者にアパートを借りさせ生活保護を申請させた上で、生活保護費の多くを「経費」と称してピンはねしていたことが報道されている[47][48]。
これは、住所のない者からの生活保護申請を「受理」しないという、役所の対応(前出のように問題がある)を逆手に取った「ビジネス」であると言える。
[編集] 福祉職員の抱える問題
厚生労働省は平成17年、生活保護現業員(ケースワーカー[49])の配置数不足が増加傾向にあるとした[50]。2000年の配置定数に対する現業員不足数は354人であったが、2004年には1198人になり約3.4倍となっている。
東京都は2004年6月に「生活保護制度改善に向けた提言」の試案を発表し[51]、保護率の増加に現業員の配置が追いついておらず一人当たりの担当世帯数が増加していること、現業員の経験不足や社会福祉主事の資格を持つ担当者の絶対数や質の低下を指摘している。
地方自治体の職員にとって生活保護事務は事務処理の膨大さ(単に訪問業務をこなせば良い訳ではない[52])や前述の北九州市のように申請を簡単に受理すると人事考課が下がる(市は否定)、申請者からの恫喝や脅迫など安全面[53]から敬遠される傾向の高い業務の一つであり、結果的に公務員としても経験が不足している新人職員が配置されることも少なくない。
現業員の配置定数は、1951年に制定された社会福祉事業法(現:社会福祉法)から変更されておらず、その間にも介護保険制度の創設など現業員の業務は増加している。また、生活保護の他法優先の原則によって、現業員には広範な福祉制度に対する高い知識力が求められる。これら現業員の質をいかに高めるかについても大きな課題となっている。
[編集] 雑誌「公的扶助研究」における福祉川柳事件
1993年6月、福祉事務所で生活保護を担当するケースワーカー等で組織する「公的扶助研究全国連絡会」の機関誌「公的扶助研究」が、「第1回福祉川柳大賞」を企画し、福祉職員による福祉川柳を掲載した。その際に「職場外では話題にできない思い を、川柳に託して表ざたにし、成仏させてやろう」という目的が記され、「マスコミ関係者の目に触れぬようご注意ください」という注意が添えてあった。のちにマスコミに発覚し、障害者団体など20の団体が発行元に抗議、批判を受け雑誌は一時休刊、発行団体も事態の総括を余儀なくされた事があった[54][55]。福祉川柳事件ともいう[56]。
朝日新聞天声人語は「これは川柳ではない。五七五で、悪口を言い、不満をぶちまけたもの」としたうえで、「抗議した人は、仕事上の緊張や不満を解消したかったのかも知れないと言いながら『良心的な人たちだと信じていたケースワーカーが、実はこんなことを考えていたとはショック』だと告白している。本音を言うか言わないか、それだけの問題だと考える人もいるかも知れない。しかし、いやな仕事だと思いながら福祉の事業に携わっている人ばかりではないだろう」と記しているが[57]、前節にもあるように福祉職員の厳しい労働環境の問題もあり、こうした朝日新聞の表現は、福祉の現場を配慮しないものとしてさらに批判をうけた[58][59]。
問題になった川柳の例
- 「金がない それがどうした ここくんな」
- 「休みあけ 死んだと聞いて ほくそえむ」
- 「救急車自分で呼べよばかやろう」
- 「ゆくたびにおなじはなしにうなづいて」
- 「死んでやるわかっていてもとんでいき」
- 「暗くてはやってられないこの仕事」
- 「親身面本気じゃあたしゃ身がもたねえ」
[編集] 脚注
- ^ ただしこの言葉は元々軍事特に陸戦においての「内陸持久作戦」の対義語であり福祉内部でのスラングではない。(この点はスポーツ新聞での「A級戦犯」等と同様である。)
- ^ 東京都中野区では900億円の予算のうち100億円が生活保護に関する予算(それを担当する職員、議員、対応に要する経費は除く)となっている。
- ^ 一方、『週刊新潮』は不正受給を強調し、北九州市を支持した。2006年12月28日号「特集 働く者がバカをみる生活保護天国ニッポン」
- ^ *弱者切り捨ての格差拡大「ヤミの北九州方式」とは?
- ^ 北九州市生活保護行政検証委員会中間報告 (PDF)、北九州市生活保護行政検証委員会
- ^ あいりん地区#情勢
- ^ 生活保護:加古川市が勝手に取り下げ書 不支給決める 毎日新聞 2007年12月14日
- ^ 湯浅前掲書、171-172ページ
- ^ 水島宏明『母さんが死んだ―しあわせ幻想の時代に』社会思想社
- ^ “生活保護断られ電気・ガスなし10年 熱中症死の76歳”. 朝日新聞. (2010年8月17日) 2010年8月17日閲覧。
- ^ 水俣病百世帯、生活保護停止…原則通りと厚労省 読売新聞 2011年6月9日
- ^ 水俣病:和解金で生活保護打ち切り 被害者4人が提訴 毎日新聞 2011年9月10日
- ^ 義援金で生活保護打ち切り 仙台市の女性 処分取り消し求める 産経新聞 2011年10月21日
- ^ 「稼働能力がある」だけでは保護しない理由にはならず、「稼働能力があり、それを活用できる場があるにもかかわらず、稼働能力を活用しようとしない」場合にはじめて却下が可能となるものである。つまり、稼働能力を有していても、それを活用できる場がない場合や、求職活動をしていても職が得られない場合は保護の要件を欠けるものではない。
- ^ 生活保護法4条2項は「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする」と規定しているが、この「扶養義務が保護に優先する」とは、保護受給者に対して実際に扶養援助が行われたら収入認定してその援助の金額の分だけ保護費を減額、または保護を廃止するという意味であり、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」とする4条1項とは異なり、扶養自体は保護の前提要件ではない。まだ扶養義務者に援助を求めていない場合や援助を求めたが断られた場合でも、そのことのみを理由に保護申請を却下することはできない。申請者がまだ扶養義務者に援助要請をしていなくても、要保護状態であれば保護を開始し、保護開始後に福祉事務所が扶養期待可能性に応じて扶養義務者に受給者への援助の可否を照会すればよいものである。この点、1946年制定の旧生活保護法では、「扶養義務者が扶養をなしうる者」は実際に扶養援助がなされていなくても保護の要件を欠くとされていたが、1950年制定の現行生活保護法ではこの欠格条項は撤廃されている。なお、申請者が20歳を超え成年を迎えていると申請者の親族が援助する余裕があっても援助したくないと主張した場合は扶養義務を強制することができない。
- ^ 申請時に住所を有していないことは保護しない理由にならない。厚生労働省は2009年3月、住居がなくても生活保護申請を受け付けるよう自治体に通知している。
- ^ 申請時点で住宅扶助基準額を超える家賃の住宅に居住しているとしても、そのこと自体は申請者の要保護性とは何の関係もなく、保護を開始してから住宅扶助として転宅費を一時扶助して基準額以内の住居に転居させるべきものである。
- ^ 行政手続法は「受理」という概念をそもそも否定しており、申請が行われればその時点で行政庁は審査を開始する義務を負う。
- ^ 「生活保護申請権保障を/全生連が厚労省申し入れ」しんぶん赤旗、2006年10月14日
- ^ 「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」日本弁護士連合会、2006年10月6日
- ^ 「123号通知」自体は、暴力団関係者が絡んだ不正受給を契機として、申請書に添付する関係書類などを定めたものである。
- ^ a b c d e 佐藤章「加算廃止窮する母子――病気で働けぬ生活保護家庭」『朝日新聞』2009年5月13日付朝刊、第13版、第5面。
- ^ NewsZip
- ^ 「生活保護費の加算廃止「不合理といえぬ」 広島地裁判決」『朝日新聞』2008年12月25日。
- ^ 「沖縄旅行」に「月一すし40皿」 生活保護では「贅沢」なのか ジェイ・キャスト2009/10/20 19:10
- ^ 「母子加算:復活の動き活発化 うつで働けず母苦悩」『毎日新聞』2009年6月24日。
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- ^ 大阪市役所ホームページ 大阪市財政の現状 H20年度予算
- ^ 朝日新聞 夕刊 2009年2月19日 大阪市内版:人口比4.47%、12万人速報値、2443億円(21年度予算)
- ^ 生活保護者、公費負担で高頻度通院…厚労省調査 読売新聞 2011年12月31日
- ^ もっとも、申告した収入が正当な労働による収入である場合の必要経費や、事故賠償金の一部を治療費に当てるなど、生活費に用いる資産ではないことが明らかな場合は、その分を収入認定から控除することができる。ただし、その判断は福祉事務所で行うため、あらゆる収入は必ず福祉事務所に届け出なければならない。
- ^ タクシー通院名目で2億円詐取、元組員ら4人再逮捕…北海道・滝川 読売新聞 2008年2月9日
- ^ 生活保護男性が新幹線・飛行機通院、10か月438万受給 読売新聞 2008年2月10日
- ^ 生活保護費で使途不明金 大阪・高槻 産経新聞 2010年6月11日
- ^ あいりん地区#情勢
- ^ 患者全員が生活保護、大阪の34医療機関調査へ 読売新聞 2010年6月24日
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- ^ 1993年6月16日、朝日新聞、天声人語
- ^ 大友信勝『福祉川柳事件の検証』筒井書房 (2004)
- ^ 久田恵『ニッポン貧困最前線―ケースワーカーと呼ばれる人々 』文春文庫
[編集] 関連文献
- 湯浅誠 『あなたにもできる! 本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』 同文舘出版, 2005年8月, ISBN 4495568612