現代ポートフォリオ理論

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現代ポートフォリオ理論(げんだいポートフォリオりろん、: Modern portfolio theory、以下 MPT)は、合理的な投資家分散投資を行い、自身のポートフォリオを最適化し、また、自身のリスク資産をどう価格設定するかを決める理論である。MPTの基本概念はマーコウィッツの分散投資、効率的フロンティア、資本資産価格モデル(capital asset pricing model、以下CAPM)、アルファベータ、資本市場線、証券市場線から成る。

MPTモデルは資産の収益をランダムな変数に、ポートフォリオを複数の資産の集合とみなしモデル化する。つまり、ポートフォリオの収益は複数の資産の収益の加重平均である。ポートフォリオの収益はランダムな変数であり、結果として期待値分散を持つ。このモデルでリスクはポートフォリオの収益の標準偏差である。

リスクと収益[編集]

MPTは投資家はリスク回避的ということを仮定している。つまり、二つの資産が与えられた時、同じ収益が得られると期待されるならば、投資家はリスクの少ないほうを選ぶということである。このように、もしより高い収益を得ようとするならば代わりにリスクを負わなければならない。リスクと収益のトレードオフの関係は投資家個々人の期待効用関数の形状によって異なる。MPTの仮定が示すことは、もし第二のポートフォリオが存在しそれが現状よりよい効用が得られるならば、合理的な投資家はそれを選ぶということである。

平均と分散[編集]

投資家のリスクないし収益の関係は二次効用関数で示されるという仮定がある。この仮定の効果は期待収益率とボラティリティ(それぞれ、平均値と標準偏差で記述される)が投資家にとって重要であるということである。投資家は収益の分布歪度尖度といった他の特徴には無関心である。

MPTは歴史的パラメーターであるボラティリティをリスクの代理変数として使用する一方、収益は将来の期待を表す。これは効率性仮説及び、ブラック-ショールズ方程式といったファイナンスの昔からの知見に基づいている。

ポスト現代ポートフォリオ理論英語版(PMPT)という特筆すべきポートフォリオ理論の最近の革新は投資家のリスクの代理変数として標準偏差に全面的に信頼を寄せている。

MPTの概念をまとめると以下のとおりになる。

  • ポートフォリオの収益は複数の資産の収益からの加重平均で構成される。
  • ポートフォリオの分散は複数の資産それぞれの共分散から構成される。ボラティリティは資産構成の変化により変化する。
数学的表現
  • 一般的に
    • 期待収益率:r を収益率として
       \operatorname{E}(r_p) = \sum_i w_i \operatorname{E}(r_i) \quad
    • ポートフォリオの分散:
       \sigma_p^2 = \sum_i \sum_j w_i w_j \sigma_{ij} = \sum_i \sum_j w_i w_j \sigma_i \sigma_j \rho_{ij}
    • ポートフォリオのボラティリティ:
        \sigma_p = \sqrt {\sigma_p^2}
  • 2つの資産からなるポートフォリオの場合:
    • ポートフォリオの収益:
       \operatorname{E}(r_p) = w_A \operatorname{E}(r_A) + (1 - w_A) \operatorname{E}(r_B) = w_A \operatorname{E}(r_A) + 
w_B \operatorname{E}(r_B)
    • ポートフォリオの分散:
       \sigma_p^2  = w_A^2 \sigma_A^2  + w_B^2 \sigma_B^2 + 2w_Aw_B  \rho_{AB} \sigma_{A} \sigma_{B}
  • 3つの資産からなるポートフォリオの場合の分散:
    \begin{align}& w_A^2 \sigma_A^2  + w_B^2 \sigma_B^2 + w_C^2 \sigma_C^2 + 
2w_Aw_B \rho_{AB} \sigma_{A} \sigma_{B}  + 
2w_Aw_C \rho_{AC} \sigma_{A} \sigma_{C} +
 2w_B w_C \rho_{BC} \sigma_{B} \sigma_{C} \\
&= \left(\begin{matrix}w_A\sigma_A & w_B\sigma_B & w_C\sigma_C\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}1 & \rho_{AB} & \rho_{AC} \\ \rho_{AB} & 1 & \rho_{BC} \\ \rho_{AC} & \rho_{BC} & 1\end{matrix}
\right)
\left(\begin{matrix}w_A\sigma_A \\ w_B\sigma_B \\ w_C\sigma_C\end{matrix}\right)\end{align}

資産の数がN に増えていくときは行列で表現することになる。

分散投資[編集]

投資家は完全には相関のない複数の資産を持つことによってポートフォリオのリスクを減らすことが出来る。換言すれば、投資家は分散投資することにより、個々人が曝すリスクを減らすことが出来るということである。分散投資は、リスクを減らすことで同じポートフォリオの収益を可能にさせる。

もし、あるポートフォリオにあるすべての資産が完全な相関関係にある(相関係数が 1)ならば、ポートフォリオのボラティリティ(標準偏差)は、資産それぞれのボラティリティの加重平均と等しくなる。一方、完全に無相関(相関係数が 0)ならばポートフォリオの分散は、個々の資産の投資比率の2乗×個々の資産の分散の2乗の総和になる。個々の資産が負の相関(相関係数 < 0)ならば、ポートフォリオの分散は、無相関のときと比べて、小さくなる。

資本分配線[編集]

資本分配線the capital allocation lineCAL)は以下の数式で表される。

\mathrm{CAL} : E(r_{C}) = r_f + \sigma_C  \frac{E(r_p) - r_f}{\sigma_P}

ここではP はリスク資産のポートフォリオ、f はリスクが少ない資産、CPf の組み合わさったポートフォリオである。

効率的フロンティア[編集]

収益率を固定した時に分散が最小となる実現可能集合の左端の境界を最小分散集合と呼び、その上方の境界線を効率的フロンティアthe Efficiency Frontier)と呼ぶ[1]

この線に沿った組み合わせは最小のリスクを負うことである所与のレベルの収益を得られるポートフォリオを示している。言い換えると、ある一定リスクの見返りに、効率的フロンティア上にあるポートフォリオは可能な限り最善の収益を提供するポートフォリオであるということを示している。数学的に効率的フロンティアは、「最小分散の元でのポートフォリオのセット」であり、「最大収益のポートフォリオ」である。

効率的フロンティアはx 軸に分散をとり、y 軸に収益をとることで図示される。

効率的フロンティアがコンベキシティ(凸性)の形状を持つ理由は、ポートフォリオを構成する資産の保有比率が変化するにつれ、ポートフォリオのリスク-収益の特性が変化するからである(上述したとおり、ポートフォリオのリスクは、各資産の分散、共分散、収益率の非線形の関数である)。

効率的フロンティアより上部の領域は、リスク資産の保有のみでは実現不可能である。一方、効率的フロンティアより下部の領域は、実現可能であるが最善とは言えない。ゆえに、合理的な投資家は、効率的フロンティア上のポートフォリオを保有することになる。

無リスク資産[編集]

無リスク資産(リスクフリー資産、risk-free asset)とはリスクを負うことなく、リスクフリーの収益率英語版が得られる資産のことであり、短期国債証券への投資が代理変数としてよく使用される。無リスク資産は将来にわたる収益の分散はゼロであり、他の資産との相関係数もゼロである。そのため、結果として他のいかなる資産との組み合わせ、もしくはいかなる資産ポートフォリオとのの組み合わせにおいても収益の変化や、リスクの変化もまた線形になる。

無リスク資産として線形的にリスクと収益が変化するので、無リスク資産とポートフォリオの組み合わせは線形になる。この線は、(x , y ) = (0 , r f )(リスク資産保有ゼロの場合)から(x , y ) = (σp , μP )(リスク資産保有100%の場合)までを結ぶ線分となる(空売りを含む場合は線分が直線になる)。

数学的表現[編集]

無リスク資産を含む場合の収益利と標準偏差を数式で表すと以下のようになる。

  • 収益率は無リスク資産の加重平均であり、f を無リスク資産、P をリスク資産とすると、
    収益率 =  w_{f} \operatorname{E}(r_{f}) + w_p \operatorname{E}(r_p) \quad
  • 無リスク資産なので、標準偏差はリスク資産の保有割合×リスク資産の標準偏差となる。
    標準偏差 = \sqrt{ w_{f}^2 \sigma_{f}^2 + w_p^2 \sigma_{p}^2 + 2 w_{f} w_p \sigma_{fp} }
    =  \sqrt{ w_{f}^2 \cdot 0 + w_p^2 \sigma_{p}^2 + 2 w_{f} w_p \cdot 0 }
    =  w_p \sigma_p \quad

ポートフォリオのレバレッジ[編集]

投資家は無リスク資産を借り入れることで、レバレッジを増やしポートフォリオに加算することが出来る。無リスク資産の借り入れにより、効率性フロンティアは上方へシフトすることが可能になる。このようにして、無リスク資産にリスク資産を加えることで、効率的フロンティアを選りすぐれたものに変更することが可能となる。

市場ポートフォリオと資本市場線[編集]

効率的フロンティアは複数のポートフォリオの集合であり、一定の所与のリスクに対し、最適な組み合わせを持つ。無リスク資産を含む場合、無リスクレートから効率的フロンティアへの接線を引いたとき、最大の効用が得られる。無リスク資産の収益率から効率的フロンティアに引いた接線を資本市場線Capital market lineCML)と呼び、その接点を市場ポートフォリオmarket portfolio)と呼ぶ。

CMLを数式で表現すると以下の通りになる。

\mathrm{CML} : E(r_{C}) = r_F + \sigma_C  \frac{E(r_M) - r_F}{\sigma_M}.

資産の価格付け[編集]

合理的な投資家は現有のポートフォリオのリスクと収益の特性を改善できると分かって初めて、投資を見直す。MPTは資産の価格付けという文脈において、正しく価格付けされた資産への要求される収益を導出する。

証券特性線[編集]

証券特性線security characteristic line, SCL)は市場リターンrM と個別証券i の収益率ri との間の関係で表現でき、一般的に以下の数式で表される。

\mathrm{SCL} : r_{i,t} = \alpha_i + \beta\,  r_{M,t} + \epsilon_{i,t} \frac{}{}

CAPM[編集]

資産の収益は今日保有する資産の量に依存する。資産が市場ポートフォリオに加えられる時に支払われるべき価格は市場ポートフォリオのリスク-収益の特性が改善することを保証せねばならない。もし投資家が活用できる無リスクレートと全体として市場のリスクがあるならば、CAPMは市場において、ある資産に対して理論的に要求された収益を導き出すモデルである。

証券市場線[編集]

証券市場線Security market line, SML)のグラフは縦軸に期待収益率を、横軸にベータ[2] を採る。ベータと期待収益率の関係式は以下の通りである。

 \mathrm{SML}: E(r_i) - r_f = \beta_i (E(r_M) - r_f).~

ある資産が、リスクに対して妥当な期待収益を得られるかどうかを確認するには、SMLは有効な道具である。個々の証券はSMLのグラフ上にプロットされる。SMLよりも上の領域にある資産のリスクと収益がプロットされれば割安であり、下の領域ならばその逆である。なぜならば、同じベータでSMLよりも高い収益が出ているならばリスクに見合った以上の収益を得ていることであり、低い収益が出ているならばリスクに見合った収益を得ていないからである。

証券市場線を用いて、市場ポートフォリオと比べて、ある資産が割高か割安の指標を用いることが出来る。

リスクの分解[編集]

リスクは、市場関連リスクであるシステマティックリスクsystematic risk)と証券固有のリスクであるノンシステマティックリスクnonsystematic risk, 固有リスクidiosyncratic risk)とも、個別リスクspecific risk)とも呼ばれる)に分解される[3]

リスクを分解して数式化すると以下の通りになる。

\sigma_i^2 = \beta_i^2  \sigma_M^2 + var(\epsilon_i)

第2項 var(\epsilon_i) である個別リスクは個々の資産に関連したリスクであり、市場とは無関係である為、分散投資で個別リスクを軽減することは可能である。

一方、第1項\beta_i^2  \sigma_M^2であるシステマティックリスクは、すべての証券に共通のものである為、キャンセルアウトは出来ない。マーケットニュートラル戦略を採用して、ベータを減らすことでリスクを減らすことが出来る。

プロジェクトポートフォリオと他の"非金融"資産へのアプリケーション[編集]

専門家のいくらかは、MPTをプロジェクトや他の資産へ適用している[4]。金融ポートフォリオの範囲を越えてMPTを適用するときは、ポートフォリオの違いによって考慮しなければならないところがある。

  1. 金融ポートフォリオは絶えず可分(divisible)であるが、一方、新しいソフトウェアの開発といったプロジェクトのポートフォリオでは不可分(lumpy)である。例えば、3種類の株式をそれぞれ44%、35%、21%からなるポートフォリオを計算することは出来る一方、あるITポートフォリオへの最適ポジションは単純に計算できないかもしれない。ITプロジェクトは少なくとも全か無か(all or nothing)である為、分割不可能である。ポートフォリオの最適化の方法は、ITといった分割不可能なプロジェクトを考慮に入れなければならない。
  2. 金融ポートフォリオの資産は流動的であるため価格付けは可能であるが、新しいプロジェクトへの投資機会は制限されており、また、サンクコスト(sank cost、埋没費用)を失うことなしに既に着手したプロジェクトを放棄することは出来ない。

MPTや上述のポートフォリオを使う可能性を否定する必要性はない。通常には金融ポートフォリオに適用できない数学的に表現された制約で以ってMPTは最適化を行うことができる。

その上、MPTの最も単純な要素のいくつかは、いかなる種類のポートフォリオに事実上当てはめることが出来る。投資家のリスク許容度を理解するという概念は、様々な種類の分析問題に当てはめることが出来る。しかしながら、MPTはリスクの尺度として、歴史上に発生した分散(histrical variance)を利用しているのでITのように歴史がないものには適用できない。このような場合、MPT投資との境界として、「資本を失うよりもROIの機会が少ない」とか、「投資の半分以上の資金を失う」とかを一般的な観点から用いる。不確実性の観点から予測される損失についてリスクを設定する時、投資家のリスク許容度を理解するという概念は他のいかなる投資のタイプと完全に置換されうる[5]

裁定価格理論との比較[編集]

証券市場線及びCAPMは裁定価格理論Arbirtage Pricing Theory, APT)とよく比較される。裁定価格理論は1976年ステファン・ロス英語版によって考案された。期待収益率をマクロ経済学に関係する様々な要因を説明変数とした線形代数の形でモデリングしている。説明変数としてはGDP物価上昇率為替レート失業率などが挙げられる。APTはCAPMと比べて仮定の制限が少ない。

脚注[編集]

  1. ^ Luenberger[1997](今野・鈴木・枇々木[2002] pp.197-198)
  2. ^ ベータの導出証明はLuenberger[1997](今野・鈴木・枇々木[2002] pp.224-225)に記載されている。
  3. ^ Luenberger[1997](今野・鈴木・枇々木[2002] pp.229-231)
  4. ^ Douglas Hubbard How to Measure Anything: Finding the Value of Intangibles in Business" John Wiley& Sons, 2007
  5. ^ Douglas Hubbard How to Measure Anything: Finding the Value of Intangibles in Business" John Wiley& Sons, 2007

参考文献[編集]

  • Markowitz, Harry M. [1952]. Portfolio Selection, Journal of Finance, 7 (1), 77-91.
  • Sharpe, William F. [1964]. Capital asset prices: A theory of market equilibrium under conditions of risk, Journal of Finance, 19(3), 425-442.
  • Lintner, J. [1965]. The Valuation of Risk Assets and the Selection of Risky Investments in Stock Portfolios and Capital Budgets, The Review of Economics and Statistics, 47 (1), 13-39.
  • Tobin, James [1958]. Liquidity preference as behavior towards risk, The Review of Economic Studies, 25, 65-86.
  • Luenberger, David G [1997] "Investment Science"(今野浩・鈴木貫一・枇々木規雄 邦訳[2002]『金融工学入門』、日本経済新聞社 ISBN 4-532-13229-0

関連項目[編集]

外部リンク[編集]