現代やくざ 人斬り与太

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現代やくざ 人斬り与太
監督 深作欣二
脚本 石松愛弘
深作欣二
出演者 菅原文太
音楽 津島利章
撮影 仲沢半次郎
編集 田中修
制作会社 東映東京
製作会社 東映
公開 日本の旗 1972年5月6日
上映時間 92分
製作国 日本の旗 日本
前作 現代やくざ 血桜三兄弟
次作 人斬り与太 狂犬三兄弟
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現代やくざ 人斬り与太』(げんだいやくざ ひときりよた)は、1972年5月6日に公開された日本映画菅原文太主演、深作欣二監督。「現代やくざシリーズ」第6作で、同シリーズ最終作。及び、「人斬り与太シリーズ」第1作[1][2]

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

製作[編集]

深作欣二監督は「『軍旗はためく下に』の反動でしょうか、むやみに悪い奴を主人公にした映画を撮りたくなったのです。幸い菅原文太に『現代やくざ』という主演路線があったので、実現出来た企画でした。『軍旗~』の時は正直いって、いわゆる『良心作』志向があった。しかし僕に一番似つかわしい仕事は、むしろ『非良心作』なんじゃないかと思い始めたんですね。目からうろこが落ちたような思いで取り組んだ作品です」と述べている[3]

脚本・演出[編集]

クランクイン前に深作は菅原のチンピラものという題材には心惹かれたが[4]石松愛弘の書いてきた準備稿のチンピラ像が温和しすぎるのが気に入らず、何とか直しをしたいと考えているとき、あさま山荘事件が起きた[4]。テレビの前に釘付けになった深作は、これをそのままやくざの世界に持ち込むわけにはいかないが、「緊迫感」だけは映画のタッチとして生かしたいと思い立ち、ホンの仕上げを行った[4]

キャスティング[編集]

渚まゆみは本作のプロデューサー・吉田達が、渚といつか仕事を一緒にしたいと考えていて、深作に「大映でデビューしたけど今はあまり売れてない。けど作さんの好みじゃない?」と写真を見せたら深作が「おぉいいじゃん」となり、渋谷東映の脇に在った喫茶店「こじまや」で3人で会った。吉田が先に渚の資料を送っていたが、それに処女と書かれてあり、渚が吉田に「私、オッパイ乳輪は真っ黒けで大丈夫なの?」と心配したが、深作は全然気にしない人で、渚も深作にすっかり乗せられて撮影はスムーズに運んだ」と話している[5]。深作もかなり渚に惚れ込み、次作『人斬り与太 狂犬三兄弟』でも渚は続投し、渚も出演が決まり喜んでいたという[5]

菅原文太は4年後の1976年に川本三郎との対談で「『人斬り与太』の渚まゆみとか、『組長の首』のひし美ゆり子とかはもう希少価値です。こないだ『組長最後の日』の松原智恵子も、ぼくは何で彼女を娼婦にしなかったんだと言いたい。なかなか女優が娼婦をやってくれない。みなさん避けて。それはやっぱりテレビなんだろうなと思う。いまはなかなか映画だけじゃメシが食えないもんだから、どうしてもテレビ兼業せにゃいかん。それは非常に不愉快な話なんだけど、視聴率とか茶の間とかスポンサーとか、そういうことで女優さん自身がどうしてもお嬢さん風に飾らないとメシが食えない。東映でぼくなんかの映画でこの人、と希望しても10人の内、8人ぐらいに断られますね。向うも本心はやりたい人もいるだろうけど、年に1本か2本の映画のためにテレビの方の基盤を、生活の基盤をそれで無くすわけにはいかない。だからあまり強要も出来ないんですよ。男はその辺、カッコつけなくてもいいけど、女はいまひどいですね」 川本「ここのとこ東映の映画で『テキヤの石松』に檀ふみとか、『ルンペン大将』も坂口良子とか、今までの東映のヒロインとは異質な、テレビのかわいい子チャンタレントを起用していますね」 菅原「映画そのものがテレビに迎合してるんじゃないですか。結局そうしないと女優さんが出てくれない。作り方そのものもそういう風にして出てもらうようにする。まあ辛うじて日活ロマンポルノの女優さんたちがその辺の孤塁を守ってるんだけど、しかし彼女たちもテレビに出たがっていますね。ぼくも日活にも時々貸してくれって声をかけるけど、なかなか貸してくれないんですよ。『組長最後の日』もぼくは宮下順子を希望してたんですが、結局駄目でした。彼女は唯一の日活の星なんでしょうから」などと述べていた[6]

作品の評価[編集]

批評家評[編集]

鈴木一誌は「渚まゆみは菅原に売り飛ばされて、『冴えない男。こんな男に強姦されて売られたのか』と強烈な個性を発揮して猛烈な抵抗を示す。"70年代は菅原文太の時代"と言われるが、暴力を身近に把持し続けた菅原は、女の存在をも身近にしたのではないか。80年代以降、映画は"少女"を含めた"女"へと向かう勢いを増していく。菅原文太が〈女の時代〉へのジャンピングボードになった気がする」などと論じている[7]

影響[編集]

やまさき十三弘兼憲史著『夢工場』の第8話「俊平の兄弟仁義」[8]で主人公である畑俊平の撮影所仲間で装飾部のマー坊が俊平を呼び出し、殴られた女の仇を取るためにその男が出入りしているスナックへ行き、カウンターで酒を飲みながら緊張して待つ二人。カウンターの下で拳銃をセットして準備するマー坊の「ぬかるなよ、兄弟!」に吸いかけのタバコを持ちながら「ん!」と緊張して待つ俊平の心境が「気分は完全に文太の気分!」として『現代やくざ 人斬り与太』のイラストに「殺っちゃるけん、許してつかあさい。文ちゃん最高!!」と描かれたカットがある。本作公開時はまだ『仁義なき戦い』は公開されていないため、菅原はまだ広島弁を喋ったことはない。本作の舞台は神奈川県川崎市である[9]

同時上映[編集]

ポルノギャンブル喜劇 大穴中穴へその穴

脚注[編集]

  1. ^ 人斬り与太 狂犬三兄弟 | 東映ビデオオフィシャルサイト
  2. ^ 「菅原文太 一番星になった男」『キネマ旬報』2015年2月上旬号、キネマ旬報社、22頁。 
  3. ^ 工藤公一「新・世界の映画作画と新作研究10 深作欣二 『深作欣二全自作を語る』 『現代やくざ 人斬り与太』『人斬り与太 狂犬三兄弟』」『キネマ旬報』1992年9月下旬号、キネマ旬報社、110頁。 
  4. ^ a b c 総特集=菅原文太-反骨の肖像- /【追悼】 野良犬のように 文・上野昂志」『現代思想』2015年4月臨時増刊号、青土社、13頁、ISBN 978-4-7917-1298-4 
  5. ^ a b 追悼番組・映画馬鹿一代吉田達の番組再放送致します「ユーストリーム公式番組」Gアクション – 公式YouTubeオーファクトリーエンターテイメント
  6. ^ 総特集=菅原文太-反骨の肖像- /【討議】ヒーローの虚像と実像(1976年)菅原文太+川本三郎」『現代思想』2015年4月臨時増刊号、青土社、46–47頁、ISBN 978-4-7917-1298-4 
  7. ^ 総特集=菅原文太-反骨の肖像- /暴力の使い途 俳優・菅原文太 文・鈴木一誌」『現代思想』2015年4月臨時増刊号、青土社、101頁、ISBN 978-4-7917-1298-4 
  8. ^ 『別冊漫画アクション』1981年2月27日号(4号)
  9. ^ 現代やくざ 人斬り与太”. 日本映画製作者連盟. 2022年11月14日閲覧。

外部リンク[編集]