深夜プラス1

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深夜プラス1』(しんやプラスワン、英語原題:Midnight Plus One)は、イギリスの作家ギャビン・ライアルが1965年に発表した小説。日本語訳は早川書房から菊池光訳で出版されている。

無実の罪で殺し屋と警察双方に追われる実業家を護送する、フリーランスのエージェントとガンマンのコンビの、タイムリミットに追われての苦闘を描く。命の危機にさらされても自分の生き方を曲げない男たちの姿を、全編にわたり主人公の一人称で描写したハードボイルドな冒険小説である。

酒に弱く、それでいて女性の優しさを引き出さずにいられないガンマン、ハーヴェイ・ロヴェルは『ハヤカワミステリ』の「冒険小説人気キャラクター」部門で1位を獲得した。

物語[編集]

1960年代初頭のヨーロッパ。金持ちのためのビジネス・エージェント(揉事解決人)として生計を立てる「カントン」ことルイス・ケインは、かつて第二次世界大戦中にレジスタンスの地下活動で共に戦い、今はやはり金持ち相手の弁護士になっているアンリ・メルランから連絡を受けた。大富豪の実業家マガンハルトを、フランス西岸のブルターニュから内陸のリヒテンシュタインまで護送して欲しいという。マガンハルトは命を狙われている上に、婦女暴行の冤罪で警察から指名手配され、自動車での隠密移動を余儀なくされているのだった。マガンハルトが無実であるという点を確認したケインは、護衛を兼ねたドライバーの仕事を引き受ける。

ケインは旅の一行として同行するガンマンのハーヴェイ・ロヴェルと落ち合う。だが、アメリカのシークレット・サービス出身でヨーロッパでもナンバー3の腕前、という折紙つきのロヴェルの心に、人を殺す罪悪感とガンマンとしての重圧からアルコールに頼る弱さがあったことを知り、ケインは愕然とする。仕事の間だけは飲まないと約束させたケインは、マガンハルトと秘書のヘレン・ジャーマンを車に乗せ、一路東方に向けて出発する。

翌日、殺し屋の襲撃にあった彼らは、敵の中にヨーロッパでもナンバー1とナンバー2といわれるガンマン、ベルナールとアランがいることを知る。彼らもまたレジスタンスの暴力班であったが、銃を捨てて生きることができず、ついには殺し屋となった経歴の持ち主だった。

車を損傷したケイン一行は警察の網から逃れるために、ケインのかつての恋人、今は伯爵夫人で未亡人となっているジネット・マリスの城館を訪ねる。ここでマガンハルトは、自身が正体不明の敵の罠にかかり、あと36時間以内、すなわち明晩の24時1分過ぎまでにリヒテンシュタインに着かなければ自らの経営する大企業への経営権を喪失し、経済的にも破滅すると明かす。先行きが暗くなる中で、ロヴェルは約束を破り、酒を飲んでしまう。

彼らは翌日ジネットの助けでスイスに入るが、ほんの一瞬の隙を突かれて、スイス警察にマガンハルトが逮捕される。手だてを尽くして彼を釈放させることに成功したケインは、敵の狙いがマガンハルトの死であることを確信し、また相手がこちらの手札を完全に読んでいるのに気づく。裏切り者は誰か、謎を含んだまま物語はクライマックスの銃撃戦へなだれ込んでいく。

日本語訳[編集]

  • 菊池光訳『深夜プラス1』早川書房〈世界ミステリシリーズ〉、1967年
  • 菊池光訳『深夜プラス1』早川書房〈ハヤカワ・ミステリ文庫〉、1976年

タイトル[編集]

原題のMidnight Puls One は主人公の任務のタイムリミットである0時1分を意味する(midnight=0時ちょうど )。

評価[編集]

早川書房の『ミステリマガジン』1991年6月号誌上で行われたアンケートを基に、1991年9月に発行された書籍『ミステリ・ハンドブック』で発表された人気投票の集計結果[1]では、本作がスリラー部門の第1位、他に8つのジャンル(冒険、国際謀略、スパイ小説、ホラーを除いたミステリ作品)を含めた海外ミステリベスト100で第2位の人気を獲得している。翌年の『ミステリマガジン』1992年5月号誌上で行われたアンケートを基に、1992年10月に発行された書籍『冒険・スパイ小説ハンドブック』で発表された人気投票の集計結果[2]では、本作の登場人物であるハーヴェイ・ロヴェルが好きな脇役部門の第1位を獲得し、好きな主人公部門でもルイス・ケインが第5位にランクインしており、作品自体も冒険小説部門における第2位、他に3つのジャンル(海洋冒険小説スパイ小説、謀略・情報小説)を含めた総合ベスト100で第7位の人気を獲得している。

トリビア[編集]

上記の作品から名前を取った店として知られるものに以下のものがある。

オマージュ作品[編集]

  • 深夜ふたたび志水辰夫 内容、冒頭のシーンなど多くの要素がオマージュされている。
  • 交渉人 真下正義』 - 劇中で犯人が出すヒントの中で、本作に言及するシーンがある。
  • 『殺しの烙印』 - 1967年、鈴木清順監督。宍戸錠と真理アンヌ出演。前半のストーリイは本作から大きな影響を受けている。
  • 『MIDNIGHT PLUS ONE』吉村浩二 本作へのスタイリッシュなオマージュで、メロディアスなスムース・ジャズ。
  • 『BAR酔虎伝』酒口風太郎 ミステリに登場する酒をモチーフにした小説で、「深夜プラスもう一杯」の章がある。

脚注[編集]

  1. ^ 『ミステリ・ハンドブック』 早川書房編集部(編)、早川書房ハヤカワ文庫〉、1991年9月30日ISBN 4-15-078501-5
  2. ^ 『冒険・スパイ小説ハンドブック』 早川書房編集部(編)、早川書房ハヤカワ文庫〉、1992年10月31日ISBN 4-15-040674-X
  3. ^ 『オタクのことが面白いほどわかる本』 榎本秋(編)、中経出版、2009年6月5日、第1刷、167-168頁。ISBN 978-4-8061-3358-2

関連項目[編集]

  • モーゼルC96 ケインが使用する銃。作品ではこの銃の特徴がよく活かされている。ケインはかさばるが装弾数の多いこの古典的大型拳銃を古くから愛用しており、ロヴェルにその大げさな装備を揶揄される描写がある。
  • S&W M36 ハーヴェイ・ロヴェルが使用するリヴォルバー拳銃。装弾数は少ないが、大人数を一気に相手にすることはなく、故障が少ないという考え方からロヴェルがチョイスしたもので、無駄な改造を施していないロヴェルの見識にケインは感心する。
  • シトロエン・DS フランス製の前輪駆動大型乗用車でマガンハルトの所有車。ケインたちが(途中まで)使用する。前年型より出力向上されているという描写があり、当時最新であった「DS19」1961年モデルと思われる。銃と同様、作中では車の特徴がよく活かされている。自動車の選択肢は他により平凡堅実なフィアット・2300も示されたが、ケインはシトロエンを選んだ。