津波警報

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日本気象庁が発表する津波の情報
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津波警報(つなみけいほう)とは、地震の発生により気象庁から発表される津波に関する警報の一種。津波の予想される高さが1m超3m以下の場合(発表基準)において、予想される津波の高さ「3m」として発表される[1](ただし、M8を超える巨大地震の場合には正確な地震規模がわかるまで数値ではなく「高い」と表現される[1])。

概説[編集]

気象業務法[編集]

気象業務法(昭和27年6月2日法律第165号、以下本節では単に「法」)は「気象庁は、政令の定めるところにより、気象、地象、津波、高潮、波浪及び洪水についての一般の利用に適合する予報及び警報をしなければならない」(法13条1項)とし、「気象庁は、前二項の予報及び警報をする場合は、自ら予報事項及び警報事項の周知の措置を執る外、報道機関の協力を求めて、これを公衆に周知させるように努めなければならない」(法13条3項)とする。

津波警報の発表と解除について気象庁は直ちに警察庁国土交通省海上保安庁都道府県東日本電信電話株式会社西日本電信電話株式会社又は日本放送協会の機関に通知しなければならない(法15条1項)。気象庁から通知を受けた警察庁、都道府県、東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の機関は、直ちにその通知された事項を関係市町村長に通知するように努めなければならないとする(法15条2項)。津波警報について通知を受けた市町村長(公衆及び所在の官公署に対する周知)、国土交通省(航行中の航空機に対する周知)、海上保安庁(航海中及び入港中の船舶に対する周知)、日本放送協会(放送による周知)は法による周知義務を負っている(法15条3項〜6項)。

混乱防止の観点から気象庁以外の者が津波の警報を出すことを原則として禁じている(法23条)。ただし例外規定が設けられており、政令により「津波に関する気象庁の警報事項を適時に受けることができない辺すうの地の市町村の長が津波警報をする場合及び災害により津波に関する気象庁の警報事項を適時に受けることができなくなった地の市町村の長が津波警報をする場合」については例外的に市町村長が津波の警報を出すことを認めている(法施行令8条)。なお、法23条の規定に違反して独断で津波の警報を出した者は最高50万円の罰金に処せられる(法46条6号)。

内容[編集]

津波警報は予想される津波の高さが1m超3m以下である場合において予想される津波の高さ「3m」として発表される[1](なお、M8を超える巨大地震の場合には正確な地震の規模がわかるまで「高い」と表現される[1])。予想される津波の高さが3mを超える場合においては大津波警報が発表される[1](数値で発表される場合、5m、10m、10m超に区分されるが、M8を超える巨大地震の場合には正確な地震の規模がわかるまで「巨大」と表記される[1])。一方、予想される津波の高さが1m以下であるときは津波注意報が発表される[1]

大津波警報・津波警報・津波注意報[1]
発表基準 予想される津波の高さ
数値での発表 巨大地震(M8超)
大津波警報 10m<予想高さ 10m超 巨大
5m<予想高さ≦10m 10m
3m<予想高さ≦5m 5m
津波警報 1m<予想高さ≦3m 3m 高い
津波注意報 0.2m≦予想高さ≦1m 1m (表記しない)

以上の津波注意報・津波警報・大津波警報の区分は2013年3月7日改正されたもので[1]、以前は津波警報は「津波警報(津波)」と「津波警報(大津波)」に区分されており「大津波警報」の名称は2013年3月7日の改正で正式採用されることとなったものである[2]。2013年3月7日改正前は津波警報での予想される津波の高さは「1m」と「2m」に区分されていたが、東北地方太平洋沖地震後の改善の議論を経て「3m」という形に集約されることとなった(歴史も参照)。

発表までの流れ[編集]

津波による災害の発生が予想される場合には地震発生後約3分で津波警報・注意報の発表をする[1]。また、「津波到達予想時刻・予想される津波の高さに関する情報」として、津波予報区ごとの津波の到達予想時刻と高さを発表する。同時に「各地の満潮時刻・津波の到達予想時刻に関する情報」として、地点ごとに津波の到達予想時刻と満潮時刻の情報を発表する。さらに津波が観測された場合には、「津波観測に関する情報」として、実際の到達時刻と津波の高さを発表する。

以上のように津波情報伝達においてはかなりの迅速化がされているものの震源が海岸にほど近い地点であった場合は地震発生から1〜2分以内にあるいは発生後揺れが収まらないうちに津波が到達することもあり、今後も警報・注意報の発表が津波到達時刻に間に合わない事例の発生が考えられる(現実に、津波警報等の発表の時点で第1波の到達予想時刻が「すでに到達と推測」となっていたケースは1999年以降でもいくつか存在する)。それゆえに海岸付近の住民は揺れを感じたら津波警報の発表を待つまでもなくすぐに津波の襲来を考えて、安全な高台に避難することが第一優先といえる。気象庁でも「震源が陸地に近いと津波警報が津波の襲来に間に合わないことがあります。「揺れたら避難」を徹底しましょう。」としている[1]

対応[編集]

気象庁では津波警報[3]が発表された場合の「想定される被害」は「標高の低いところでは津波が襲い、浸水被害が発生する。人は津波による流れに巻き込まれる」[1]とし、「とるべき行動」は「沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台や避難ビルなど安全な場所に避難してください。津波警報が解除されるまで安全な場所から離れないでください」[1]としている。 また、中央防災会議の津波避難対策検討ワーキンググループが取りまとめた報告では、津波警報の場合に避難が必要な範囲について「標高の低い場所や沿岸部にいる場合など、自らの置かれた状況によっては、津波警報[4]でも避難する必要がある」と記載されている[5]

放送[編集]

津波警報が発表された場合には緊急警報放送が行われる(放送法施行規則82条)。

大津波警報・津波警報・津波注意報の表示
統一基準採用前後の表示色 大津波警報 津波警報 津波注意報 その他
統一基準採用前の表示 NHK □ 赤白色 赤色 黄色
NNN 紫(桃)色 赤色 黄色
ANN 赤色 橙色 黄色 一部解除された部分を水色で示す
JNN 赤色 紫(桃)色 黄色
TXN 橙色 赤色 黄色 一部解除された部分を水色で示す
FNN 赤色 紫(桃)色 黄色
統一基準採用後の表示[6] NHK及び
民放各局
紫色 赤色 黄色 陸地は灰色 、海は濃い青色 で表す。

NHK[編集]

緊急警報放送
  • 日本放送協会(NHK)は気象業務法により津波警報の周知義務を負っている(気象業務法15条6項)。
  • NHKでは津波警報の発表と同時に、全ての放送に割り込む緊急警報放送を実施。国際放送NHKワールドを含む全波で津波関連のニュース速報、報道番組に切り替わる。
  • 緊急警報放送の放送中、画面では全画面の日本地図で大津波警報、津波警報、津波注意報が発表されている津波予報区が表示される。この画面では出されている津波に関する警報・注意報の区分に応じて色分けされ、2011年夏期以降、大津波警報を紫色、津波警報を赤色、津波注意報を黄色、地図背景を灰色、海を濃い青色としている。なお、この統一基準の策定以前、1993年7月12日に発生した「北海道南西沖地震」においては「大津波警報」も「津波警報」と同じ赤色の表示となっており区分けも無かった(但し、22時21分ころから緊急警報放送が行われた22時24分47秒まで札幌局から伝えた道内関係の関連情報では文字で大津波警報の表示を行った)が、その後、大津波警報と津波警報の色が分けられ、2011年の統一基準策定までは津波予報区ごとに海岸を黄色(注意報)、赤色(警報)、赤白色の二重線(大津波警報)に色分けして点滅させ警報・注意報発表の旨を伝えていた。
  • 大地震等の発生の場合でスタジオから各地の震度等の地震に関する情報が放送されており、その間に気象庁から津波警報が発表されたときには即時に緊急警報放送が実施されるとともに緊急警報放送の上記画面に切り替わる。
津波警報に関する情報伝達
  • 緊急警報放送終了後、アナウンサーが「(大津波警報・)津波警報・津波注意報が発表されました。(大津波警報・)津波警報が発表されているのは次の沿岸です……、津波注意報が発表されているのは次の沿岸です…」と述べて、津波に関する警報・注意報の区分ごとに発表されている津波予報区が伝えられる。
  • 緊急警報放送終了後、画面では津波に関する警報・注意報が発表されている津波予報区を示した全画面の日本地図のほか、津波に関する警報・注意報が発表されている各地方ごとの詳細地図もあわせて放送される(この画面の地図では前記の色分けがなされているほか、各津波予報区ごとに予想される津波の高さが表示されている)。また、これらの日本地図が表示される際には、在留外国人向けに副音声(教育テレビ、NHKワールド・プレミアムを除く。ただし、NHKワールド・プレミアムでも状況により行う場合がある)及びラジオ第2放送で英語中国語韓国・朝鮮語ポルトガル語(英語以外は2007年12月から)による津波報道放送をしている旨、「Tsunami Warning(最近は「TSUNAMI」の文字のみ)」の表示(赤地に白抜文字)と「Subchannel or Radio2」の表示(白抜文字)が画面上に出される。
  • 副音声及びラジオ第2放送では、緊急警報放送の直後、まず、日本語で津波警報(あるいは大津波警報)が出された旨が2度伝えられ、それに続いて「NHKでは津波警報(大津波警報)についての緊急ニュースを英語を中心に、中国語、韓国・朝鮮語、ポルトガル語でお伝えします」とアナウンスが入る。そして、各言語で津波警報(あるいは大津波警報)の発表が各言語で伝えられ、その後、津波警報(あるいは大津波警報)や津波注意報の発表されている津波予報区が各言語ごとに繰り返し放送される。
  • 東日本大震災発生を契機に「東日本大震災を思い出すこと!」・「命を守るため、一刻も早く逃げること!」・「皆さんにお伝えします!今すぐ可能な限り高い所へ逃げること!」・「近くに高台がなければ、高いビルの上か海岸から遠く離れた所へ逃げること!」・「決して立ち止まったり、引き返したりしないこと!」・「津波は、予想の高さを越えることがあります!斜面を駆け上がり、内陸深くまで流れ込みます!何度も押し寄せ、急に高くなります!今すぐ行動すること!逃げること!」など、語気強く、時には強い命令口調による避難呼びかけが行われる[7]
画面表示
  • 「津波到達予想」 - この画面では上部に「津波到達予想」と表示され(背景は灰色)、津波に関する警報・注意報の区分(大津波警報・津波警報・津波注意報)ごとに、津波に関する警報・注意報が発表されている津波予報区、その津波予報区での津波到達予想が示される[8]。津波の第1波が10分以内に到達する(気象庁の発表文では「ただちに津波来襲と予測」)と予測された場合には、「すぐ来る」などの短い表現で視聴者に危機を伝える。
  • 「観測された津波」 - この画面では上部に「観測された津波」と表示され(背景は黄色)、津波が観測された場合には観測地点、観測時刻、津波の高さが示される[9]
  • 「沖合で津波」 - この画面では上部に「沖合で津波」と表示され(背景は青色)、津波を観測した沖合の観測点が示される[10]
  • 字幕スーパー
    • 画面上の字幕スーパー等は全画面の日本地図による津波に関する警報・注意報の表示が一旦終わった後に入ることになる。国際放送NHKワールド・プレミアムでは逆U字画面のみが表示され、画面上の字幕スーパーおよび発表域の地図テロップは一切表示しない[11](ニュースセンター側で出される発表域の地図テロップはそのまま表示される。また、逆U字画面スペースの画面上に「この時間は予定を変更して津波関連のニュースをお伝えしています」のテロップが関連ニュースが終わるまでの間、常時表示されたり、「このニュースは日本時間○:○○で終了します」のテロップが表示されることがある)。
    • 字幕スーパーの情報は次の通り。
      • 地震の発生時刻、発生場所、規模等の情報
      • 大津波警報、津波警報、津波注意報の出されている津波予報区の情報
      • 各地の震度の情報(震度3以上の地域)
  • 東日本大震災発生を契機に、津波警報や大津波警報が出された際には一刻も早い避難を呼びかける観点から部分的な赤の背景色の枠に「津波!避難!」とテロップ表示される様になった。また、2013年3月7日正午の津波警報の発表方法の大幅変更に伴い、NHKでも変更に合わせ画面変更を行った[12]。具体的には「見て、聞いて、すぐ分かる」表現の実現を念頭に、情報の配色を見やすいようにする他、子供や在留外国人[13]にも判りやすくするため、「すぐ にげて!」などのひらがなのテロップ表示も行う。

民放[編集]

地上波[編集]

民放各局でも津波警報、津波注意報が発表した際には日本地図の海岸部分に津波予報区ごとに色分けして警報・注意報発表の旨を伝える。2011年夏期以降はNHK・民放各局の統一基準により、大津波警報を 紫色、津波警報を 赤色、津波注意報を 黄色、地図背景を 灰色、海を 濃い青色としている[14](色の統一の経緯については津波警報の#歴史も参照)。

なお、先頭レイヤーで放送されるため、本放送の字幕などがこの表示に重なり隠される。この地図表示は特に津波警報、大津波警報発表時はCM中も消されることなく表示されることがある[15]。また、同じ系列局でも津波の可能性が低い地域では表示しない場合がある。避難呼びかけは、NHKに準ずる言い方になる場合がある。

BS[編集]

CS[編集]

CS放送では、チャンネルにより対応が異なっている。

上記以外のチャンネルは原則として左上(チャンネルによっては右上)に津波警報[16]発令中を示すアイコンを表示するのみである。

ただし以下のように、CS放送でも一部のチャンネルでは津波警報を画面表示した例がある。

  • QVCでは、2010年2月のチリ地震による津波の第一波到達時刻と波高及び最大波の到達時刻と波高を「QVC津波情報」として流していた。
  • 東北地方太平洋沖地震では、地上波テレビ局が運営する一部のチャンネル(フジテレビワンツーネクスト等)において、地上波と同様の津波警報の表示が行われた。

歴史[編集]

初期の電報書式[編集]

津波警報のシステムは1952年4月1日より開始された。開始当時、発表に要する時間は数十分であり、警報により伝達される内容も、部外者には分かりにくい電報書式だった。この書式は、予報対象区それぞれに対し、ツナミナシ、ツナミオソレ、ヨワイツナミ、オオツナミ、ツナミカイジョ、を伝達するものであった。このシステムにより伝えられた津波警報の実例は、1983年日本海中部地震のものがある。同地震では地震の発生から14分で大津波警報が発表されたが、一部の沿岸にはそれよりも早く7分後に第一波の津波が到達した。また、緊急時の情報伝達の表現自体も問題となった。具体的には、同地震において「5区(東北地方太平洋沿岸) 大津波」を意図していた“ゴクオオツナミ”との表記が、対象自治体の一部により「極大津波」と誤解された。

速報性の追求[編集]

1985年になると、放送局(主にNHK)が緊急警報放送を行うようになった。これは、津波警報が発表されると緊急警報放送を行うものである。このシステムの下での警報は、1993年に起こった北海道南西沖地震において実施された。しかし同地震では5分で津波警報(大津波)が発表されたものの、奥尻島には津波警報発表とほぼ同時、またはそれよりも早く津波が到達した。さらに、実際の発表時には、津波の高さに関して高をくくり、犠牲になった住民も多数いた。これは、放送局が「気象庁からの予報文をそのまま読むことが規定されていた」ためである[17]。これらの地震津波による被害は甚大で、さらなる時間短縮および予報文の変更が求められた。

これらを踏まえ気象庁は1999年4月1日、独自開発した新しい津波の予報システムを導入した。それは、あらかじめコンピュータで様々な規模の地震をシミュレーションしてデータベース化し保存しておくというものである。データベース化される内容は、津波がどの地域にどれほどの時間でどれくらいの高さで到達するかという計算結果である。そして地震が起きた際には、即座に当該地震の規模・震源の位置を割り出し、上記データベースから当該地震と最も似たパターンの地震を検索し、津波の発生の有無を特定する。そして、当該地震において津波の到達が予測される場合には、修正を加えて発表する、というものである。これにより発表に要する時間は3分程度に短縮された。また、本予報システムの導入に併せ津波予報区[18]が18から66に細分化された。加えて、発表される津波の高さも8つの区分に見直された。一方、放送局から送出される気象庁からの予報文も見直された。具体的には、「場所によっては予報より高い津波が来襲する」とか「津波は1回目よりも2回目以降の方が高くなることがある」など、素早い避難を促す文言が、放送局側によって付け加えるられることとなった。

前述の1999年の導入時には、地震の規模、震源の位置の割り出しに1、2分はかかるため、これ以上の時間短縮は難しいとされていた。そのなかで、2006年10月2日からは、緊急地震速報の技術を活用することにより最速2分以内に津波警報等を発表することが可能となった(一部の地域のみ)。この運用が行われた6例[19]のいずれにおいても、NHKは地震発生後の報道特別番組への切り替えの前に津波注意報及び津波警報を報じ始めた[20]。さらにそのうちの3例[21]の場合は津波警報・注意報発表と同時に緊急警報放送を実施することができた。

シミュレーションの限界[編集]

2007年11月28日からは、細かな海底地形を考慮するなどして、津波データベースが一層更新されている。それでも、気象庁が使用しているシミュレーションの予測精度には限界がある。その一つの要因が、計算の前提となっている地震として「傾斜角45度の逆断層型」のみが想定されている点である。このため、実際の地震が「横ずれ断層型」であった場合には、予測される津波高さが過大となり、実測される津波は小さくなる。実際、2002年に発生した石垣島近海での地震において、津波高さ予測は2mであったものの、実際には潮位が微小に変化しただけとなった。別の要因として、気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュードの違いを挙げることができる。気象庁マグニチュードがモーメントマグニチュードが小さくなるような地震では、一般に、実測される津波が津波高さ予測よりも小さくなる。

これを受け、2007年7月2日より、津波警報の早期解除を行える運用を開始した。この解除は、地震発生後に予報システムにて津波警報を発した後、地震発生後10から20分程度の間に地震発生メカニズムを解析を進め、津波の第1、2波の監視した結果に応じて判定される。なお横ずれ断層の解析の対象海域が当初は南海・東南海・東海海域のみであったものの、2008年3月27日からは、千島海溝、日本海溝の周辺海域にまで拡大されている。

東北地方太平洋地震後の改善の議論と2013年改正[編集]

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋地震では、実際に観測した津波の高さが、津波警報で予測した津波の高さを大きく上回る事態となった。その原因について気象庁は、「国内のほとんどの広帯域地震計が振り切れたためCMT解を計算できなかったこと[22]」「迅速に地震の規模や震源域の広がりが推定できる手法を開発していたものの東北地方太平洋沖地震の発生に間に合わなかったこと」を挙げている[23]。このことから気象庁は、M8を超える巨大地震と判断できるときには、当該海域で想定される最大マグニチュードの値に基づいて大津波警報や高さ予想を出すと発表した[24]

具体的には、M8に近い規模までの地震については、予想される津波の高さ予測を「細分化されすぎ」ていた8段階から、予測誤差を考慮した防災対応とリンクさせやすい5段階程度に変更し[25]、M8を超える巨大地震と判断できるときには過小評価のおそれがあることから数値として発表するのではなく、定性的な(具体的な高さを明示しない)「巨大な津波のおそれ」と一般的表現としたり、東北地方太平洋沖地震も含め過去の津波被害を引用するなど、津波警報発表地域の住民に災害が具体的にイメージできるような表現とすることを検討していた。また、「津波観測情報」における第一波観測の情報についても、巨大地震になれば最大波は第一波の10倍以上に匹敵するおそれもあるため、避難行動に抑制がかからないような内容で発表することを検討していた[26]

これらの検討を踏まえて2013年3月7日正午をもって従来の津波警報は改正されることとなった[27]

  • 従来は「津波警報(津波)」と「津波警報(大津波)」の2種類に区分され[2][1]、気象庁の会見などでの記者発表や説明及び津波警報発表時の気象庁ホームページ「津波警報・注意報、津波情報、津波予報」[28]では「津波の津波警報」や「大津波の津波警報」と発言・記載されていた。しかし、これらの「津波の津波警報」や「大津波の津波警報」などといった呼び方ではかえって聞き手(報道を伝えられる側)に分かりにくくなるため、報道機関では「津波警報(津波)」の場合は単に津波警報、「津波警報(大津波)」の場合は大津波警報と区別して報道されており、一般にも「津波警報(大津波)」は「大津波警報」と呼ばれていた。東北地方太平洋沖地震後の津波警報改善の検討の中で、従来の区分に対しては分かりにくいという指摘があり、2013年3月7日から気象庁も正式名称として「大津波警報」に変更することとなった[2][1]
  • 従来の区分では高いところで2m程度の津波が予測される場合に発表する「津波警報(津波)」(発表される津波の高さ は1m、2m)と高いところで3m程度以上の津波が予測される場合に発表する「津波警報(大津波)」(発表される津波の高さは3m、4m、6m、8m、10m以上)としていたが、高さの区分を8段階から5段階に集約し、マグニチュード8超の巨大地震ので地震規模がすぐに推定できない場合には、正確な地震規模がわかるまで大津波警報の沿岸では「巨大」、津波警報の沿岸では「高い」とし、迅速な避難を促す表現を示すこととなった[1]
  • 津波観測に関する情報について、大津波警報の沿岸で1m、津波警報の沿岸で20cmをそれぞれ超えない場合には、これが最大であるとの誤解を避けるために数値を公表せず「観測中」と発表することとなった[1]
  • 津波観測に関する情報について、海底津波計やGPS波浪計によって沖合の津波の観測データを監視し、これに基づいて沿岸での推定値を発表することとなった[1]

津波警報の種類に応じた避難対象地域の必要性[編集]

気象庁が発表する津波警報には「大津波警報」、「津波警報」の2種類がある一方、市町村から発令される避難指示・避難勧告の対象範囲は、ほとんどが最悪ケースを想定して過去最大の津波による被害想定地域に設定(1段階に限定)されている。この結果、津波警報と避難指示・避難勧告の対応関係に齟齬が生じている。つまり、津波警報が発表された場合も大津波警報が発表された場合も、同じ地域に避難指示・避難勧告が発令されてしまう。このような齟齬が続くと、津波警報に基づく避難指示・避難勧告はオオカミ少年効果をもたらし続ける(津波警報や避難指示・避難勧告の信用が低下する)ことになり、肝心の東南海・南海地震のときに避難をしなかったり避難が遅れたりして、多くの犠牲者を出すという悲劇につながりかねないことから、「大津波警報」、「津波警報」という津波警報の種類に応じた避難対象地域(ゾーニング)の必要性が指摘されている[29]。なお、津波警報-避難勧告間と同様の齟齬は津波注意報(居住区からの避難は不要)の場合にも生じている。

このような「防災情報に対する過剰対応の問題」や「津波警報の種類に応じた避難対象地域の必要性」については東日本大震災以前から政府内でも言及されており[30]、大津波警報・津波警報に対する2段階などの避難対象地域を示したハザードマップ[31][32]を作成し周知するなど[33]、今後解決すべき課題が残っていることが政府の中央防災会議においても指摘されている[34]

過去の事例[編集]

脚注・参考資料など[編集]

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 平成25年3月7日から津波警報が変わります、気象庁
  2. ^ a b c 「大津波警報」に名称統一 気象庁が改善案”. 日本経済新聞 (2012年1月31日). 2013年1月9日閲覧。
  3. ^ 予想される津波の高さが1m超3m以下である場合において発表される狭義の津波警報のこと
  4. ^ 予想される津波の高さが1m超3m以下である場合において発表される狭義の津波警報のこと
  5. ^ 中央防災会議 防災対策推進検討会議 津波避難対策検討ワーキンググループ
  6. ^ 2011年5月~7月以降。色指定は「見分けやすい津波警報の配色・色調の策定」(伊藤啓東京大学准教授) http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/color/tsunami/ に基づく
  7. ^ 2012年12月7日三陸沖地震でも使われたが、それは「○○して下さい!」という弱い命令口調だった。
  8. ^ 津波警報が変わりました! - NHK NEWS WEB
  9. ^ 津波警報が変わりました! - NHK NEWS WEB
  10. ^ 津波警報が変わりました! - NHK NEWS WEB
  11. ^ 2011年3月11日発生の東日本大震災の特設ニュース放送時は最初は局内の独自回線を受けて放送していたが、翌12日の8時53分以降は関東地方のデジタル総合テレビの放送映像をそのまま受けて放送したため画面上の字幕スーパーおよび発表域の地図テロップもそのまま表示された。
  12. ^ 「津波警報変更」へのNHKの対応について(PDFファイル) - NHK放送総局長会見資料 2013年2月20日
  13. ^ NHK、津波警報の表示変更へ 分かりやすさ重視 - 47NEWS 2013年2月20日
  14. ^ 津波警報、テレビ各局が色を統一 色覚障害などに配慮(朝日新聞2011年8月18日)
  15. ^ 2010年2月28日の放送時で全ネット局で確認。これは、バンクーバーオリンピックフィギュアスケートエキシビション放送と東京マラソン2010でも行われた。フィギュアスケートの場合、日本人選手の競技時のみ地図はなく、右マスコット表示。BS局はBS1やBS2も含めて全局で表示され、地図表示と上部表示に別れていた。
  16. ^ 一部のチャンネルでは注意報発令中にもアイコンを表示。チャンネルにもよるが、送出マスターから出されるテロップでアイコンを表示するのと、データ放送による文字スーパーでアイコンを表示(主にスカパー!)する2つのパターンがある。スカパー!e2に属するチャンネルではBS放送チャンネル(BSスカパー!など)も含まれる
  17. ^ 瀬棚町(現・せたな町)の工事現場では「3m以上に達する見込み」と放送された報道を「3mくらい」と誤解、避難が遅れた上に10mの大津波が来襲、宿舎が流されて犠牲になった関係者もいる。
  18. ^ 北は北方四島から南は小笠原諸島、西は八重山諸島まで、全国の海岸湾岸を区切った対象地域
  19. ^ 具体的には、能登半島地震(2007年)、新潟県中越沖地震(2007年)、福島県沖の地震(2008年)、沖縄本島近海地震(2010年)、および父島近海の地震(2010年)、東北地方太平洋地震東日本大震災)の余震(宮城県沖および福島県浜通り。2011年)。
  20. ^ それぞれにおいて発表までの時間は、能登半島地震は発生後1分40秒、新潟県中越沖地震は同1分、福島県沖の地震、沖縄本島近海地震、父島近海の地震、東北地方太平洋地震の余震はいずれも同2分であった。
  21. ^ 沖縄本島近海地震、父島近海の地震、東北地方太平洋地震の余震。
  22. ^ 通常15分でCMT解を求め地震の発震機構やモーメントマグニチュードを推定する。
  23. ^ 資料1:東北地方太平洋沖地震による津波被害を踏まえた津波警報の改善の方向性について 論点整理 気象庁
  24. ^ 津波高さ、最大を予想=M8超、巨大地震で方針-気象庁の津波警報勉強会 時事通信
  25. ^ 「0.5, 1, 2, 3, 4, 6, 8, 10m以上」の8段階から、「1m, 2m, 4m, 8m」を境界値とし、「〜1m」、「1〜2m」、「2〜4m」、「4〜8m」、「8m〜」とする区分の「5段階程度」とする。数値の表現は、予想される幅の中央値ではそれより高い津波のおそれがあることが利用者に伝わらないため、高い方の値とする。例えば、2〜4mの区分は4mとする。8m以上は、危機感を伝えるため「10m以上」等の表現として発表することを検討する。
  26. ^ 「東北地方太平洋沖地震による津波被害を踏まえた津波警報の改善の方向性について(中間とりまとめ)」についてのご意見募集 気象庁
  27. ^ 平成25年3月7日から津波警報が変わります、気象庁
  28. ^ 2013年3月7日正午からは「大津波警報・津波警報・注意報、津波情報、津波予報」に改定。
  29. ^ 4県(三重県・和歌山県・徳島県・高知県)共同地震・津波県民意識調査結果報告について、和歌山県、152-153頁。
  30. ^ 防災白書(平成22年版)津波災害対策 実際の避難に有効な津波ハザードマップの公表、内閣府防災担当
  31. ^ 500年間隔地震 津波ハザードマップ(釧路地区中部・東部)、釧路市
  32. ^ 500年間隔地震 津波ハザードマップ(釧路地区西部)、釧路市
  33. ^ 津波ハザードマップの例(防災白書)、内閣府防災担当
  34. ^ 中央防災会議 議事録(平成22年4月21日)、内閣府防災担当、平成22年4月21日、4頁。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

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