波動スピーカー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

波動スピーカー(はどうスピーカー)は、エムズシステムが製造販売しているスピーカーである。[1]

目次

[編集] 概要

1つの円筒形の筐体[2]の両端にフルレンジのスピーカーユニット[3]が取り付けられている。通常はスピーカー本体を専用のスピーカースタンドの上に置くが、特に決まった置き方は無い。床に直接置く事や、フックまたはネットなどで室内の天井に吊るす事も可能である。スピーカーの分類としては無指向性スピーカーに該当する。そのため、スピーカーの向きを気にせずに任意の場所に設置する事が可能である。

通常、スピーカーユニットを単体で鳴らしたとき、その前面と背面に同じ周波数で逆位相の音波を放出する。このため、回折により前面と背面の音波が混じり合うと、干渉して互いに打ち消し合う。この効果は特に音の周波数が低いほど著しくなるため、結果として低音はほとんど再生されなくなる。このため、スピーカーユニットを単独で鳴らすだけではまともな音の再生は困難であり、豊かな低音を再生するためには、それなりの容量を持ったエンクロージャーにスピーカーユニットを取り付けるなど、何らかの工夫が必要である。

エムズシステムの説明によると[4]、波動スピーカーの場合、円筒型の筐体の両端に取り付けられたスピーカーユニットの背面が、筐体の内部で向き合っており、それぞれのユニットの背面から発せられる背圧がぶつかりあうと均衡状態(ゼロバランス状態)になるとされる。つまり、背圧が相殺されたのと同じような状態になるということである。さらに筐体内部にある吸音材の働きで干渉波が大きく低減され、こうした背圧の処理方法により、ユニット前面からでる音は背圧の影響を受けずに空気中に広がっていくとされる。

しかし、もしこのゼロバランス状態が周波数に依存しない効果であるとすれば、スピーカーのコーン紙をピストンに置き換えたとき、わずかな力でいくらでも筐体内の空気を圧縮できることになってしまう。これはエネルギー保存の法則に反するから、ゼロバランス状態は周波数に依存することは明らかである。さて、音の波長が筐体内の音管のサイズよりも大きいときにもゼロバランス状態になると仮定すると、やはりエネルギー保存の法則に反するから、物理学的にはゼロバランス状態は筐体の空洞の最低共鳴周波数fo以下では起こらないと考えられる。

また、左右のユニットの背面から放出された音波は、それらが筐体の内部でぶつかったとしても、音は必ず互いをすり抜ける性質があるので、結局はもう一方のユニットの背面に達して背圧になってしまう。物理学で一般的に考えれば、背圧が(ほぼ)ゼロになるのは筐体内に定常波が生じたときである。さらに、ステレオ音源を再生する場合、左右のユニットから発せられる音波は同じではない。均衡が成立するためには左右のユニット後面の音波が同じである事が必要である。これについては、エムズシステムはそれを独自の方法で均衡化させているとしている。[5] [6] [7]

通常のスピーカーの場合、筐体の共振は原音にない共鳴音の発生につがなるため、筐体が共鳴しにくく設計されている。しかし、波動スピーカーは筐体の共振を積極的に活用し、本来であれば筐体の両端から一直線に発せられる音が、筐体の共振により様々な方向へと広がる音に変わるとされる。これは、管楽器や弦楽器、打楽器などの発音の原理に通じるものだが、通常は筐体の共振周波数は原音の周波数と無関係なため、原音に含まれていない共鳴音が発生する場合もありえる。

筐体の側面または両ユニットの下部にサウンドホールと呼ばれる穴が1つ空いていて、これがバスレフの役目を果たし、低音を増強している。そのため波動スピーカーをバスレフ型スピーカーの一種として捉えることもできる。

波動スピーカーは大きく分けて以下の3種類に分類できる。[8]

  • MS1001シリーズ(標準型)
・MS1001
・MS1001-M(メープル)
・MS1001-P(ピアノ)※MS1001-PW(ピアノホワイト)とMS1001-PB(ピアノブラック)の2種類がある。
・MS1001-J(ジャパン)
・MS1001-L(レザー)※生産中止であるが、在庫品は販売されている。
・MS1001-LB(レザーブラック)※現在は製造販売されていない。
・MS-1001-LR(レザーレッド)※現在は製造販売されていない。
・MS1001-CWH(ホワイトオーク)※プロ・アクティブ限定販売。MS1001-Mに着脱可能のホワイトオーク色カバーを装着。
・MS1201-SM(ステージマスター)※ギタルラ社が販売するギター/リュート用波動スピーカー。MS1001-Mにアンプを内蔵させマイクを接続したもの。楽器用に特化されているが、音楽鑑賞用スピーカーとしても使用可能。
  • MS0801シリーズ(MS1001シリーズより一回り小型の波動スピーカー)
・MS0801
・MS0801-W(ウォルナット)
・MS0801-L(レザー)
・MS0801-M(メープル)
・MS0801-CWH(ホワイトオーク)※プロ・アクティブ限定販売。MS0801に着脱可能のホワイトオーク色カバーを装着。
  • MS-dt08(通称「シュエット!」)シリーズ(アンプ内蔵型。MS0801よりもさらに小型。)
・MS-dt08(白革仕様)
・MS-dt08(黒革仕様)
・MS-dt08(赤革仕様)
・MS-dt08(パールピンク仕様)※通称「OTTOMIST」(音ミスト)

5.1chホームシアター用システムとして、MS1001シリーズのFC1331(筐体側面にスピーカーユニットを1つ加えたもの)と、MS0801シリーズまたはMS1001シリーズのものを1体、そしてサブウーファーを加えた「ドコデモ」というものがある。また、エムズシステムは波動スピーカーとの相性を考慮した独自の小型アンプ「MS-Amp12」も開発している。

他社のスピーカーと異なり、波動スピーカーは家電量販店オーディオ専門店では販売されていない(一部を除く)。エムズシステム本社、家具などのインテリア用品の販売店、個人代理店、ウェブサイトなどで販売されている。

エムズシステムは、波動スピーカーを用いたCD試聴コンサート「演奏家のいない演奏会」を東京国際フォーラムにて毎月開催している。その演奏会で波動スピーカーの音を体験することが可能。また、各販売店または代理店、エムズシステム本社試聴ルームでも試聴可能である。

[編集] 脚注

  1. ^ 以前同名で呼ばれていた、寺垣武開発のスピーカーについては寺垣スピーカーの項を参照。
  2. ^ 筐体は圧縮紙で出来ている(両端は木材使用)。2008年3月29日放送のBSアサヒ「STYLE BOOK」で波動スピーカーが特集され、同放送で三浦社長は、何故紙を筐体に使用するのかという疑問について説明を行っている。社長(およびナレーター)の説明によると、筐体の製造に関しては、特殊に圧着した紙を数十枚以上重ねる作業が行われている。木を原料とする紙を使用する事により、天然の木材を使用する際に問題となる個体差(木材の種類の違い。その違いからくる音への影響の度合いの差、価格差)や部分差(木材の各部分の密度の違い)を解消できるとの事である。
  3. ^ オーディオベーシック2004年春号の記事によれば、MS1001のスピーカーユニットはフォステクスのFE103Eである。MS1001シリーズの波動スピーカーは全て同じユニットを搭載していると思われる。
  4. ^ 2004年11月21日付エムズシステム社長日記
  5. ^ エムズシステムは、その方法には「波動エネルギー」が関与していると説明している。しかし、その波動エネルギーが具体的に何であるか、それがスピーカーの筐体内部で背圧の均衡化にどのように関与しているのかは不明である。あるいは企業秘密である。「量子論に基づく技術が採用されている」とのことであるが、エムズシステムの公式サイト上では詳述されていない。また、一般に量子論が適用されるのは、原子や分子レベルの世界であり、スピーカーのような大きな部品に直接適用されることはない。そのため、エムズシステムが説明する「波動エネルギー」や波動スピーカーの「波動」を懐疑的に捉える人が少なからず存在する。懐疑派の人たちによれば、エムズシステムが言う「波動(エネルギー)」とはオカルト疑似科学における波動であり、存在しないものを在るかのごとく説明する嘘の方便、または単に大げさな表現である。彼らにとって、波動スピーカーはそういった波動を謳い文句にした商品の一種である。また、波動スピーカーが推定構造や外観以上に高額であることや、疑似科学・オカルトの波動に関連するウェブサイトの一部で販売されていることも彼らの疑念を増幅させる一因となっている。波動スピーカーに興味を抱く者の中には自作を試みる人々が一部ではあるが存在している。
  6. ^ Stereo2004年3月号によると、「研究から導いたある特定の周波数(=波動値)を関与させることで、相殺を可能にしました。」と説明されている。波動エネルギーとはその「特定の周波数」を指すと考える事ができる。なお、円筒の両側に二つのスピーカーユニットを取り付けただけの簡単なモデルの場合、スピーカーの振動板の位置が腹になるような定常波が生じる周波数で、背圧を打ち消す相殺が起こっていると見なすことはできる。
  7. ^ 2005年11月2日「演奏家のいない演奏会」にて行われたエムズシステム三浦社長と京都大学経済研究所浅田彰助教授の対談によると、「波動スピーカー」の「波動」は、「あたかもそれ(波動スピーカーからの音)が楽器の(音の)ように、宇宙に向かって」広がり、「指向性のない」、「そこで演じられたままの(音響)空間が創り出される」様を形容した意味だと説明されている。波動エネルギーを指す言葉だとは言及されていない。
  8. ^ 市販されていないが、他には喜多俊之氏がデザインし、2006年4月イタリアのミラノで開催されたミラノサローネ(家具インテリア展)に出品された「MIURA」、そして龍村仁監督の映画「地球交響曲 ガイアシンフォニー第六番」でPA用スピーカーとして使用されたMS1601がある。

[編集] その他

  • ボサノヴァの神様として知られるジョアン・ジルベルトは、2003年9月の初来日公演終了後、宿泊していたホテルの一室で同公演の録音をMS1001で聞き、それを収録したCDの発表を許可した。後に「ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー」と題され発売されたライヴアルバムの事である。
  • 2008年放送のテレビドラマ「SCANDAL」にて、MS1001-P(PW)が鈴木京香沢村一樹の演じる夫婦の家のリビングに鎮座している。

[編集] 参考文献

  • エムズ サウンド バイブル(M's Sound Bible)
エムズシステム発行の小冊子。

[編集] 外部リンク