氷 (X-ファイルのエピソード)

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X-ファイル』のエピソード
話数シーズン1
第8話
監督デヴィッド・ナッター
脚本ジェームズ・ウォン
グレン・モーガン
作品番号1X08
初放送日1993年11月5日
エピソード前次回
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機械の中のゴースト
次回 →
宇宙
X-ファイル シーズン1
X-ファイルのエピソード一覧

」(原題:Ice)は『X-ファイル』のシーズン1第8話で、1993年11月5日にFOXが初めて放送した。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

レギュラー[編集]

ゲスト[編集]

ストーリー[編集]

アラスカ州ノーススロープ郡アイシー岬にある研究施設で、地球物理学者たちが殺し合い、残った一人も自殺してしまった。モルダーとスカリーは怪事件を調査するべく、ホッジ博士らとともにその研究施設に急行した。そこには科学者たちの死体が残されていた。死体を調べている最中、モルダーとベアーはに襲われた。スカリーは犬の皮膚に小さな黒いこぶがあることに気づくが、それを腺ペストの発症によるものだと判断した。また、スカリーは犬の皮膚の下で何かが動いているのも見つけた。犬にかまれたベアーは体調を崩し、犬と同じような黒いこぶができた。スカリーは科学者たちの死体を解剖するが、黒いこぶは見つからなかった。

マーフィー博士は隕石の衝突によってできたと思われる氷のサンプルを施設内で発見した。それを分析したところ、その氷は25万年前にできたものだと分かった。ベアーが施設から離れるべきだと強く主張する一方、モルダーたちは病原菌を外の世界に持ち出してしまう可能性があると慎重な姿勢をとった。念のためにベアーの便を検査しようとしたところ、ベアーはモルダーに襲い掛かった。何かがベアーの皮膚の下を動いていた。それに気づいたホッジ博士はベアーの首の後ろから幼虫らしきものを摘出するが、その瞬間、ベアーは死んでしまった。天候の悪化とパイロットの死のために、一行は施設から離れられなくなってしまった。

ベアーから摘出された幼虫らしきものはジャーに入れられた。もう一度科学者たちの死体を調べたところ、もう一匹幼虫らしきものが見つかった。モルダーはその虫が地球外生命体であると考え、生きたまま持ち帰ろうとするが、スカリーは感染拡大を防ぐために殺してしまうべきだと主張した。一行は他に感染者がいないかどうか調べるために、お互いの体をチェックした。そのとき、モルダーは犬の黒いこぶが消えていることに気が付く。モルダーは時間が経つとこぶが消えてしまうのではないかという仮説をスカリーに伝えた。その後、モルダーはマーフィー博士が冷凍庫の中でのどを切られて死んでいるのを見つける。スカリーらはモルダーが虫に寄生されマーフィー博士を殺してしまったと思い込み、モルダーを倉庫に閉じ込めてしまった。

虫を調べていたスカリーは、2匹の虫が一緒にいるとお互いを殺してしまうことに気が付く。試しに、1匹の虫を感染した犬の体内に入れると、犬は回復した。スカリーが反対するにも拘らず、ホッジ博士とダ・シルヴァ博士は虫をモルダーの体内に入れようとする。まさにその時、ホッジ博士はダ・シルヴァ博士の皮膚の下で虫が動いていることに気が付く。ホッジ博士とモルダーは抵抗するダ・シルヴァ博士を押さえつけ、虫を体内に入れることに成功する。

ようやく、救助隊が施設に到着した。検疫の結果ダ・シルヴァ博士は隔離され、モルダーたちは帰宅の途に就くことができた。モルダーは虫をさらに調べるべく施設に戻ろうとしたが、施設は政府によって破壊されてしまう[2][3]

製作[編集]

脚本執筆[編集]

グレン・モーガンはグリーンランドの氷の中から25万年前の人間が発見されたという『サイエンス・ニュース』の記事から本エピソードの着想を得た[4]。地球外生命体の攻撃で壊滅した遠隔地の研究施設という舞台設定は、ジョン・W・キャンベルのSF小説『影が行く』や映画『遊星よりの物体X』(1951年)、『遊星からの物体X』(1982年)と似ている[5][6]クリス・カーターはこの3作品が本エピソードに大きな影響を与えたことを認めている[4]。(この3作品においては、登場人物たちは最後までお互いを信用することができなかった。しかし、本エピソードにおいては、最終的にモルダーとスカリーは信頼を取り戻している。)カーターはモルダーとスカリーが敵対したことによって、シリーズの初期に2人の新しい一面を見ることができたと高く評価している[7]

なお、遠隔地で正体不明の生物に襲われるという設定はシーズン1第20話「」など後続のエピソードでも使われた[8]

撮影[編集]

セットのデザインを担当したグレアム・マーレイは『遊星からの物体X』を監督したジョン・カーペンターの作品のセットのデザインも担当したことがある人物である[9][10]。制作費の都合で、本エピソードは1か所でまとめて撮影されたが、それでも予算をオーバーしてしまった[4]。本エピソードは少ないキャストとなるべく簡素な屋内セットを用いて、モルソンカナダのビール会社)の醸造所跡で撮影された。屋外のシーンは、北極圏の景観と近い自然環境を有するバンクーバーデルタ・エア公園で撮影された[9]。カーターは「「氷」の舞台は北極にしたかったが、シーズン1製作時の状況ではそれを叶えることができなかったのでアラスカ州を舞台とした」と述べている[11]

当初、製作会社は蛇にラテックス・スーツを着用させることで虫に見立てようとしたが、その試みは失敗した。その代わりにミールワームが使われることになった[12]。宿主の皮膚の下を虫が這いずるシーンは偽の皮膚の下に虫を入れてそれをワイヤーで引っ張って撮影した[7]。虫がジャーの中を泳いでいるシーンと犬の耳から体内へ入っていくシーンはCGが使用された[7]。虫のシーンは通常であればFOXからカットを命じられるほどの長さになったが、本エピソードにおいてはカットの要請はなかった。

本エピソードは『X-ファイル』でメーキャップ・アーティストのチーフを務めるトビー・リンダラにとって、最初の大仕事となった[13]

なお、デヴィッド・ドゥカヴニーの飼い犬であったブルーの親犬が本エピソードに登場している[14]

シリーズにおける位置づけ[編集]

本エピソードはシリーズ全体を通して展開される「ミソロジー」とは直接的に関係しない。しかし、本エピソードは「シーズン2でより多く言及されるようになったエイリアンと政府の陰謀の一端」であるとされている[15]。また、モルダーとスカリーの関係(お互いの信頼に基づく自発的な信頼関係)はホッジ博士とダ・シルヴァ博士の関係(自分たち以外の他者に対する不信によって生じた連携関係)と対照をなしているとの指摘がある[16]

モーガンとウォンがよく扱う主題が本エピソードでも登場している。それは、アイデンティティーの二面性と人格に対する懐疑である。レスリー・ジョーンズはこの主題を2人が担当した他のエピソードにも見出している。それは以下のようなものである[17]

  • シーズン1第3話「スクィーズに登場するユジーン・ヴィクター・トゥームス

→人間の肝臓を好んで食す一方で、その動物性を見事にコントロールしていた。

  • シーズン2第3話「血液」に登場する住人たち

→電気製品と殺虫剤のために狂ってしまったが、もともとは正気だった。

  • シーズン2第14話「呪文」に登場する保護者たち

→悪魔崇拝教にはまり、本物の悪魔にも振り回されたが、反省している人もいた。

科学的見地から[編集]

メリーランド大学カレッジパーク校で生物学を研究するアン・シモンは著書『Monsters, Mutants and Missing Links: The Real Science Behind the X-Files』で本エピソードについて論じており、シモンは「「氷」に登場するような寄生虫は血液脳関門の影響を受けない視床下部に寄生する。」と述べている[18]

評価[編集]

1993年11月5日、FOXは本エピソードを初めてアメリカで放映し、1000万人の視聴者(620万世帯)を獲得した[19][20]

本エピソードは批評家から高く評価された。マット・ヒューウィッツクリス・ノールズは本エピソードを「始まって間もない『X-ファイル』というシリーズにとってマイルストーンとなったエピソードだ」と評している[21]。『エンターテインメント・ウィークリー』は本エピソードにA-評価を下し、「緊張感のある、テンポのいい作品だ」としている[6]。『A.V.クラブ』のキース・フィップスは本エピソードにA評価を下し、「キャスト陣は何かにとりつかれたような見事な演技を披露している。」「シーズン1が生み出した素晴らしい1時間だ。」と述べている。[22]

また、『X-ファイル』の製作に携わった人々も、本エピソードを絶賛している。クリス・カーターは「脚本を担当したモーガンとウォン、そして監督のデヴィッド・ナッターの3人は、このエピソードを通して自分の能力の高さを世に知らしめた。本当に一所懸命に働いてくれたよ。そして、優れた俳優たちもいた。」と述べている[23]。デヴィッド・ナッターは「本当にすばらしかったのは、このエピソードを通してパラノイアの持つ大きな意味を視聴者に提示できたことだ。キャストのアンサンブルも実にいいものだった。僕たちは登場人物の本能的な感情(怒り、恐怖、無理解)を取り上げた。そうした感情がモルダーとスカリーの間に絆を作り出した。これがとても重要なことなんだ。視聴者の身近にある感情が渦巻く地獄への恐怖こそ『氷』のカギとなるものだ。」と語っている[24]。ダナ・スカリーを演じたジリアン・アンダーソンは本エピソードを強く印象に残ったエピソードとし、「数多くの恐怖と妄想が展開されていた。共演者にも恵まれてよかった。」と述べている[24]

関連項目[編集]

  • 宇宙の法則』 - 1995年に放送されたSFテレビドラマ。本エピソードの脚本を担当したグレン・モーガンとジェームズ・ウォンがクリエイターを務めている。シーズン1第7話「The Enemy」と本エピソードのプロットが似ているという指摘がある[25]
  • FRINGE/フリンジ』 - 2010年1月14日放送のシーズン2第12話「感染英語版」と本エピソードは同じプロットであるとの指摘がある[26]
  • パンスペルミア説 - 地球上の生命の起源は宇宙からやってきた生物であるとする仮説。


参考文献[編集]

  • Edwards, Ted (1996). X-Files Confidential. Little, Brown and Company. ISBN 0-316-21808-1 
  • Geraghty, Lincoln (2009). American Science Fiction Film and Television (illustrated ed.). Berg Publishers. ISBN 1-84520-795-5 
  • Goldman, Jane (1995). The X-Files Book of the Unexplained Volume I. Harper Prism. ISBN 0-06-168617-4 
  • Gradnitzer, Louisa; Pittson, Todd (1999). X Marks the Spot: On Location with The X-Files. Arsenal Pulp Press. ISBN 1-55152-066-4 
  • Hurwitz, Matt; Knowles, Chris (2008). The Complete X-Files. Insight Editions. ISBN 1-933784-80-6 
  • Jones, Leslie (1996). “Last Night We Had an Omen”. In Lavery, David; Hague, Angela; Cartwright, Marla. Deny All Knowledge: Reading The X-Files. Syracuse University Press. ISBN 0-8156-2717-3 
  • Lovece, Frank (1996). The X-Files Declassified. Citadel Press. ISBN 0-8065-1745-X 
  • Lowry, Brian (1995). The Truth is Out There: The Official Guide to the X-Files. Harper Prism. ISBN 0-06-105330-9 
  • Shearman, Robert; Pearson, Lars (2009). Wanting to Believe: A Critical Guide to The X-Files, Millennium & The Lone Gunmen. Mad Norwegian Press. ISBN 0-9759446-9-X 
  • Simon, Anne (2011). Monsters, Mutants and Missing Links: The Real Science Behind the X-Files (illustrated ed.). Random House. ISBN 1-4481-1694-5 
  • Westfahl, Gary (2005). The Greenwood Encyclopedia of Science Fiction and Fantasy: Themes, Works, and Wonders. 2. Greenwood Publishing Group. ISBN 0-313-32952-4 

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ 『X-ファイル』のアクション監督を務めていた。
  2. ^ Lovece 1996, pp. 63–65
  3. ^ Lowry 1995, pp. 117–118
  4. ^ a b c Goldman 1995, p. 94.
  5. ^ Lowry 1995, pp. 118–119.
  6. ^ a b The Ultimate Episode Guide, Season I”. 2015年9月30日閲覧。
  7. ^ a b c Chris Carter (narrator). Chris Carter Speaks about Season One Episodes: Ice (DVD). The X-Files: The Complete First Season: Fox.
  8. ^ Lowry 1995, pp. 182–183.
  9. ^ a b Gradnitzer & Pittson 1999, p. 37
  10. ^ Edwards 1996, p. 50.
  11. ^ Edwards 1996, p. 115.
  12. ^ Debbie Coe (animal trainer); Toby Lindala (make-up effects). Behind the Truth: Ice (DVD). The X-Files: The Complete First Season: Fox.
  13. ^ Lowry 1995, p. 119.
  14. ^ Lowry 1995, p. 118.
  15. ^ Geraghty 2009, p. 99
  16. ^ Jones 1996, p. 86.
  17. ^ Jones 1996, p. 89.
  18. ^ Simon 2011, pp. 58–59.
  19. ^ Lowry 1995, p. 248.
  20. ^ http://anythingkiss.com/pi_feedback_challenge/Ratings/19930920-19931128_TVRatings.pdf#page=12[リンク切れ]
  21. ^ Hurwitz & Knowles 2008, p. 40.
  22. ^ The X-Files: “Ghost In The Machine” / “Ice” / “Space””. 2015年9月30日閲覧。
  23. ^ Edwards 1996, pp. 48–49.
  24. ^ a b Edwards 1996, pp. 48–49.
  25. ^ The X-Files: "The Walk"/"Oubliette"/"Nisei"”. 2015年9月30日閲覧。
  26. ^ Fringe vs. The X-Files: Which Does Weird Science Better?”. 2015年9月30日閲覧。

外部リンク[編集]