水滸伝 (北方謙三)

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水滸伝
ジャンル 歴史小説
小説
著者 北方謙三
出版社 集英社
掲載誌 小説すばる
レーベル 四六判
文庫
連載期間 1999年10月号 - 2005年7月号
巻数 全15巻+1巻
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水滸伝』(すいこでん)は、1999年から2005年まで5年10か月に亘って『小説すばる』(集英社刊)に連載された北方謙三の歴史小説。ファンなどからは『北方水滸』とも呼ばれる。連載時の挿絵は西のぼるが担当。第9回司馬遼太郎賞を受賞している。

概要[編集]

中国四大奇書の一つとされる『水滸伝』を原典としつつも、全体を再構成し、独自の解釈と創作を加えてあるため、原典とはほぼ別物と見て過言ではない。梁山泊宋江モチーフキューバ島カストロであるとのコメントが象徴するように、全共闘世代である北方の経験や心境を投影した革命戦記としての要素が強く漂う。

先に発表された『楊家将』や『血涙』とは舞台背景に繋がりがあり、北方版北宋サーガの一つともいえる。また公孫勝の致死軍の設定には北方版『三国志』との繋がりも見られ、また続編『楊令伝』の設定には『破軍の星』、『武王の門』などの南北朝シリーズとの繋がりが見られる。さらにこれらの南北朝シリーズは全て作品世界を共有し、『絶海にあらず』とも作品世界を共有しており、一連の北方歴史小説は一つの巨大な世界を成している。 集英社からハードカバーの単行本全19巻と別冊1巻が刊行されており、文庫版も刊行されている(全19巻と別冊1巻)。

2006年10月から2010年6月まで『小説すばる』誌上において続編『楊令伝』が連載された。また『小説すばる』2011年12月号から『楊令伝』の続編となる『岳飛伝』の連載が開始されている。なお本作は『楊令伝』連載終了後に北方が明かした『水滸伝』・『楊令伝』・『岳飛伝』の三部作からなる大水滸伝構想の第一部にあたる。

序盤のあらすじ[編集]

12世紀初頭の北宋末期の中国。皇帝の浪費や官僚の悪政による政治の腐敗が著しく、民の間では怨嗟の声が満ちていた。このような状況を憂いた小役人の宋江は世直しの檄文を書き記し、魯智深たち同志とともに反政府の人脈作りに勤しんでいた。一方、東渓村の保正(庄屋・名主)晁蓋もまた世直しのために盧俊義に塩の密売を行わせるなど独自の活動を行っていた。やがて二人は手を組み、梁山湖に浮かぶ盗賊の山寨を奪取、梁山泊と名づけて本格的な武力闘争へと向かっていく。

原典との相違点[編集]

  • 物語中の時系列の変更やエピソードの省略・創作(例えば原典では百八星集結後のエピソードである田虎との戦いが集結前に発生する)。なお、原典よりも時代背景が10年ほど古くなっている。
  • 没個性化を避けるために登場人物の設定が変更され、より現実的な設定が与えられている。例えば妖術使いの公孫勝は特殊部隊の隊長に変更されている。更に原典では序盤で登場したきり姿を消す元禁軍師範の王進が山に隠棲しながら、やがて梁山泊に参加する好漢たちの師として全般に亘って登場する。
  • 原典では攻め込んだ城郭などから略奪した財物で軍資金を調達していたが、北方版では当時は違法とされていた塩の密売により軍資金を調達している。そのため戦いには塩を巡る情報戦・経済戦としての要素も含まれている。
  • オリジナル設定として、北宋の政府秘密機関・青蓮寺(せいれんじ)が登場する。この組織が梁山泊壊滅のため策動するが、単なる悪役ではなく、彼らも独自の正義感を有している。モチーフはCIA
  • 原典では108人の好漢たちが梁山泊に全員集合するが、北方版では全員集合することなく、中盤から戦死者が出てくる。また、108人が宿星を持つという設定もない(ただし『天魁の星』といった宿星にちなんだ章立てがされており、原則として宿星に対応する好漢の視点が描写されている)。
  • 一部のキャラクターの武器が異なる。例として林冲蛇矛に、索超(まさかり)はに変更され、李逵の板斧は2本から1本になっている(「林冲の武器が原典では蛇矛なのに槍に設定したのはどうしてか」という読者の質問に対して「『槍術』師範だから槍でもいいだろうと思った」と答えている)。
  • 北方版オリジナルキャラクターが多数登場する。その最たる例は、続編『楊令伝』の主人公・楊令である。
  • 原典での宋江宋王朝や皇帝への忠誠心の厚き人として描かれ、梁山泊は最終的に招安を受け入れる事になる。本作では、あくまで王朝自体の打倒や新国家の建設を目指し戦い続ける。主要な登場人物も強烈な反国家思想の持ち主が多い。
  • 登場人物達は原典同様のあだ名を持つが、由来は変更されていることがある。例えば朱貴の旱地忽律というあだ名は船隠しに適した場所を探して水辺を這いまわっていたから、石勇の石将軍というあだ名は集団での行動を好むから、などといった具合である。

登場人物[編集]

梁山泊の各拠点[編集]

梁山泊(りょうざんぱく)
  • 元々は梁山湖に浮かぶ島にある山寨で、王倫を頭領とした賊徒の拠点だった。だが王倫は世直しを唱えながらも付近の村を襲うだけで、反対するものを処罰していたため、内部には不満がくすぶっていた。
  • 天然の要害であると同時に、地方軍の管轄が複数の州にまたがっているため地方軍が連携して対応しづらいこと、そして宋の首都である開封府や重要都市である北京大名府に近い、という利点に目を付けた宋江林冲安道全を潜入させ、高官の賄賂を強奪してきた晁蓋と呼応して王倫を殺害、反乱の拠点として生まれ変わった。
  • 中枢部である聚義庁(しゅうぎちょう)の壁には頭領の晁蓋、そして宋江をはじめとする各部署の責任者の名前を記した札が掲げられる。札には表が黒字、裏は赤字で名前が記され、死亡すると札を裏返して赤い名に変わっていく。
  • 周辺には、林冲が率いる騎馬隊用の牧場や、史進が率いる遊撃隊の拠点となっている九竜寨(くりゅうさい)が設置されている。

二竜山(にりゅうざん)

  • 梁山泊の東、青州に位置する拠点。当初は山賊の根城だったが、周辺の村を荒らし回っていた賊を魯智深楊志が討伐し、楊志を頭領に担ぎ上げて宋に反旗を翻す。その直後に梁山泊と合流、重要拠点の一つとなる。
  • 隣接した場所には、以前から晁蓋の同志として闇塩の道に関わっていた燕順達が根城とする清風山(せいふうざん)と、反政府の志を抱く李忠達が篭る桃花山(とうかざん)があった。秦明が総隊長に着任後、清風山と桃花山は二竜山に組み込まれ、三山とその周辺を併せて二竜山と総称するようになる。
  • 募兵の入口であり、梁山泊入りを希望する者は二竜山を訪れ、選別と調練を経てから各軍へと配属される。後に解珍が配属されてからは物品の生産拠点にもなっていく。

双頭山(そうとうざん)

  • 梁山泊の北に位置する拠点で、春風山(しゅんぷうざん)と秋風山(しゅうふうざん)の2つの山と中間に位置する山寨で構成されている。官軍を離脱した朱仝雷横が旗揚げした。北への闇塩の道とそれに関わる柴進の屋敷が近いため、闇塩関連で公孫勝率いる致死軍(ちしぐん)や、劉唐率いる飛竜軍(ひりゅうぐん)が滞在することも多い。北と西の募兵やとの貿易も担当している。

流花寨(りゅうかさい)

  • 祝家荘との戦いの後に建設した要塞。梁山泊の西、五丈河の沿岸に位置する。上流には宋の首都たる開封府が存在しており、梁山泊防衛の第一線であると同時に、きたるべき首都攻略の前線基地としての役割も兼ねている。ただし、流花寨が敵の手に落ちれば梁山泊攻略の前線基地となる危険性も孕んでいる。
  • 呉用の肝煎りで建設が進められ、完成後は花栄が総司令官として着任する。宋にとっては喉元に刃を突きつけられたも同然であり、完成直後から官軍の猛攻を受ける。


エピソード[編集]

  • 集英社の雑誌『BJ魂』に漫画版が連載されていたことがある(作画は井上紀良)。
  • 死亡したら名札が赤い字に変化するというアイディアを考えたとき、最初は気に入っていたが、後半で戦死者が続出すると裏返すのが辛くなり、何故こんなアイディアを考えたのか後悔したという。
  • 晁蓋と108人には原典同様に綽名がついているが、当初はわかりやすい綽名だけ使おうと考えていたため、綽名が無いまま戦死した者もいた。しかし読者から綽名をつけて欲しいという要望が多かったため、結局全員につけられた(そのため物語後半の登場人物紹介は急激に綽名が増えている)。これら上記の詳細は別巻『替天行道』で語られている。

登場人物ネタバレ[編集]

  • 百八星には中盤から戦死者が続出するが、童威楽和のように原典通り生き残る者もいれば、逆に史進や白勝のように原典で死亡したキャラクターが生き残るケースもある。
  • 各章のタイトルは百八星の宿星にちなんでいる(天魁の星、地傑の星など)が、章タイトルに宿星が使われたキャラクターから戦死する。逆に言えば、タイトルに使われていない者はまだ死なないというわけである。
  • 当初の構想では阮小五が呉用に代わる梁山泊全軍の軍師として活躍するはずだったが、戦死してしまった。作者自身「書いているうちにそうなった」と予想外だったらしく、その代役に宣賛を充てることになった。
  • 鄭天寿は作中での無意味な死に様から「水滸伝一の犬死」と編集者に言われた。作者は無駄死にではなかったという旨のコメントをしている。

やつら[編集]

  • 『岳飛伝』単行本刊行と前後して開設された『北方謙三 大水滸シリーズ』公式サイトにて不定期連載されている短編シリーズ(2012年11月時点で第5回)。著者と既に死亡した登場人物が語り合い、彼らの問いに著者が答える。
  • 第1回 林冲
  • 第2回 魯達(魯智深)
  • 第3回 楽和
  • 第4回 丁得孫
  • 第5回 凌振

書籍情報[編集]

単行本全19巻と別巻、文庫版全19巻と別巻が刊行されている(下記の情報は文庫版)。文庫版は単行本の内容に加筆修正が施されている。

  • 北方謙三の『水滸伝』ノート (NHK出版 生活人新書300) 2009年9月 ISBN 978-4140883006

ラジオ朗読番組[編集]

2011年4月より、九州朝日放送スバルプランニングの製作により、毎週月-金曜6:00-6:10に朗読番組「ミヤリサン製薬プレゼンツ 北方謙三 水滸伝」と題してKBCラジオにて放送されている。協賛・提供ミヤリサン製薬(ただしCMは放送されない)。

ネット局[編集]

  • KBCラジオ 毎週月-金曜6:00-6:10 拡大版(1週間のあらすじをまとめたもの)毎週日曜原則22:00-22:30
  • STVラジオ 毎週月-金曜5:20-5:30
  • 信越放送 毎週月-金曜18:15-18:25

ただし、以下はスポンサーがつかない局

朗読[編集]

受賞[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]