比内鶏

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

比内鶏(ひないどり)は、秋田県北部の米代川流域を中心に、古くから飼育されてきた家禽天然記念物として指定されている。また一般に食用として流通している品種を比内地鶏という。

概要[編集]

日本各地の地鶏は、「東南アジア中国などの近隣諸国から渡ってきたが、自然交配して形成されていった」と考えられているが、1951年に出版された書籍では比内鶏は江戸時代に秋田県北部の地鶏に軍鶏を交配した鶏種とされている[1]。実際に比内鶏が軍鶏に近い種であることは岡田ほか(1984)[2]遺伝子解析による調査でも裏付けられた。

原種比内鶏の体の特徴は、首が長く鶏冠は小さい。明治以降、外国産鶏種が輸入されたことで飼育数は激減し昭和初期には絶滅寸前の状態にまでなった。野鶏に近く、品種改良もされていない貴重な存在であるため、1942年昭和17年)7月21日には、国の天然記念物に指定された。比内鶏は肉質がヤマドリに似て、風味がよいが、ほかのと比べると成長が遅いわりに繁殖率が悪く、病気にもかかりやすく、周囲の音など環境にも敏感なこと[3]から、商品として販売するには難しかった。、1972年からは、「秋田県声良鶏・比内鶏・金八鶏保存会」が中心となり比内鶏の維持・保存を行っているが、生育数の減少から原種比内鶏集団の遺伝的多様性は減少している[4]。また、遺伝子解析の結果は日本国内の他の鶏種(声鶏、蜀鶏、薩摩鶏、矮鶏)とは品種改良による系統差より小さく、日本鶏では有意な品種内分化はまだ生じていないとする研究がある[5]

比内地鶏[編集]

薩摩地鶏名古屋コーチンと並んで、日本三大地鶏に数えられる。

原種比内鶏は「成長が遅い」「体が小さい」「耐病性に劣る」などの理由で生産性が低く生産者に敬遠されていた。そこで秋田県畜産試験場は1973年から比内鶏を県の特産物とするため品種改良を行い、比内鶏の特長を引き継ぎながら食味を維持しつつ生産性を向上させるために、比内鶏の選抜優良種「秋田比内鶏」のオスと、ロードアイランドレッド種のメスを選抜し諸問題を解消した比内地鶏を作出した。比内地鶏は雄の比内鶏と雌のロードアイランドレッドを掛け合わせた一代雑種(F1)を品種として固定した品種である。

優良な肉質を維持するためには、種だけで無く飼育方法[6]、飼料管理[7][8]も重要である。

作出から10数年経過した現在も飼育特性向上の為の研究が行われている[9][10][11]

比内地鶏ブランド[編集]

全国の比内地鶏を販売している飲食店で「比内鶏」と表示した看板を掲げているのが見られるが、実際は天然記念物の比内鶏(原種)は市場に出回っておらず、品種改良で生み出された一代雑種「比内地鶏」のことを指している[12][13]

平成19年秋田県大館市の比内地鶏飼育業者が表示基準を満たさない比内地鶏の鶏卵生産用廃鶏を比内地鶏とした偽装表示を長年行っていたことが発覚し[14][15]、より厳格な比内地鶏ブランド認証制度になった[12]

  • 秋田県の認証する比内地鶏規定要旨。(平成20年度から適用)
    • 雄の比内鶏と雌のロード種の交配で作出された一代交雑種
    • 28日齢以降で平飼いか放し飼いで飼育
    • 28日齢以降で1平方メートル5羽以下で飼育
    • 雌はふ化日から150日間以上、雄は100日間以上飼育

肉質[編集]

「歯ごたえはあるが加熱しても固くなり過ぎず、肉の味が濃い」、「濃厚な脂の旨み」など、比内鶏の特長を色濃く受け継いでいる。

とくに、同じく秋田県北部が発祥のきりたんぽ鍋との組み合わせは相性がよく、きりたんぽ鍋セットを販売する業者のほとんどは比内地鶏の肉と比内地鶏のがらスープを同梱している。

備考[編集]

比内地方の黒土を主とした土壌は、その性質から鶏を美味に育てるのに非常に適しており、同じ種の鶏でも比内地方で育てると美味になるという。

かつては比内地鶏のことを食用であるにも関わらず『比内鶏』とメディアで表記されたことがあったが、フジテレビ系列の番組『トリビアの泉』で『比内鶏を食べると逮捕される』というトリビアが放送され、その影響で『比内鶏』と表記されていたものはすべて『比内地鶏』と表記されるようになった。

一般に天然記念物は食用禁止と流布され誤解されがちであるが、実際には禁止されていない。例えば、見島牛は天然記念物であるが、食肉として飼育されている。

比内鶏が交配種の比内地鶏として流通しているのはあくまでも生産性を重視してのことで、 比内鶏が食べられないからと言うわけではない。 もちろん比内鶏を食べても逮捕されるわけではない。

比内とりの市[編集]

1985年(昭和60年)から、毎年1月最終土曜・日曜日に、比内鶏にこだわった祭り比内とりの市道の駅ひない[16]近郊にある大館市比内町の大館市立比内グラウンドで行われる[17]

食用の鳥の霊への感謝を込めた感謝祭、神楽などのほか、長さ15メートルの鉄の棒に比内地鶏を串刺しにして丸焼きにする千羽焼き、比内地鶏を使ったきりたんぽ鍋など比内地鶏を使用した料理などが振る舞われる。

秋田三鶏[編集]

秋田県北部に生息する声良鶏・比内鶏・金八鶏(きんぱどり)を特に秋田三鶏(あきたさんけい)とよび[18]、声良鶏と比内鶏は国の天然記念物に、金八鶏は秋田県の天然記念物に指定される。

また、秋田県大館市には大館市郷土博物館に隣接して秋田三鶏記念館がある[19]

脚注[編集]

  1. ^ 日本鶏の歴史 (1951年)、 著:小穴彪、出版:日本鶏研究社
  2. ^ 日本鶏の品種分化に関する遺伝学的研究 日本家禽学会誌 Vol.21 (1984) No.6 P318-329
  3. ^ “比内地鶏が大量死、米軍機の影響か”. 日テレnews24 (日本テレビ). (2010年6月17日). http://news24.jp/articles/2010/06/17/07161254.html 2012年3月6日閲覧。 
  4. ^ 比内鶏の遺伝的多様性の調査 秋田県農林水産技術センター畜産試験場研究報告 21号, p.57-64(2006-08)
  5. ^ 日本鶏の品種内分化に関する研究 日本家禽学会誌 Vol.26 (1989) No.4 P207-215
  6. ^ 初期発育を重視した安全・安心な秋田比内地鶏の生産 東北農業試験研究発表会における講演論文集 59号, p.121-122(2006-12)
  7. ^ 飼料のアミノ酸および代謝エネルギー水準が比内鶏の生産性におよぼす影響 日本家禽学会誌 31巻,2号, p.93-102(1994-03)
  8. ^ 比内鶏及びブロイラー肉の呈味有効成分の特定ならびに呈味有効成分に及ぼす飼養条件の影響 新潟大学農学部研究報告 50(2), 99-158, 1998-03
  9. ^ 山本敬子ほか、新秋田比内地鶏生産のための基礎鶏の選抜 東北農業研究, 1998 (PDF)
  10. ^ 比内鶏およびロードアイランドレッド種の性能調査 秋田県農林水産技術センター畜産試験場研究報 22号, p.75-80(2008-02)
  11. ^ 比内地鶏生産性向上のためのロード種鶏群の改良 (第1報) 秋田県畜産試験場研究報告 2013
  12. ^ a b 比内地鶏ネット - 認証制度の概要について
  13. ^ 秋田県比内地鶏ブランド認証制度実施要綱 (PDF) 秋田県
  14. ^ “比内地鶏偽装で元社長に懲役4年「ブランド失墜の責任大」”. 47news (共同通信). (2008年12月24日). http://www.47news.jp/CN/200812/CN2008122401000277.html 2012年3月6日閲覧。 
  15. ^ 2011年にも青森県上北郡七戸町のテンマ家禽農場が平成19年から表示偽装を行っていたことが発覚している(“「比内地鶏」偽装出荷の疑い 青森の養鶏場、県も調査”. 47news (朝日新聞). (2011年6月27日). http://www.asahi.com/food/news/TKY201106260357.html 2012年3月6日閲覧。 
  16. ^ 道の駅ひないでは年間を通して比内地鶏の各種料理や土産物を販売している。
  17. ^ 比内とりの市 - 大館市
  18. ^ 声良鶏・(国天)・比内鶏(国天)・金八鶏(県天) - 大館市
  19. ^ 秋田三鶏記念館 - 大館市

参考文献[編集]

  • 『養鶏屋さんが書いた鶏肉の本』松本順一:株式会社三水社
  • 『天然記念物・鳥類篇』内田清之助:創元社

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]