機動戦闘車

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機動戦闘車
9 機動戦闘車(MCV Maneuver Combat Vehicle) 10.jpg
基礎データ
全長 8.45m
全幅 2.98m
全高 2.87m
重量 約26t
乗員数 4名
装甲・武装
主武装 52口径105mmライフル砲
副武装 12.7mm重機関銃M2
74式車載7.62mm機関銃
機動力
速度 100km/h以上
エンジン 直列4気筒4ストローク水冷ターボチャージドディーゼル
570ps/2,100rpm
データの出典 平成23年度日本の防衛 コラム「<解説>機動戦闘車の開発について」、 陸上自衛隊公式Flickrページ
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機動戦闘車(きどうせんとうしゃ、英語: Maneuver Combat Vehicle, MCV)は、防衛省が開発中の装輪装甲車

概要[編集]

開発では将来装輪戦闘車両の研究試作や、10式戦車の開発技術・成果を活用するとされている。 2007年(平成19年)度に開発が開始され、2015年に開発を完了し、2016年(平成28年)度での部隊配備を予定している[1]2013年(平成25年)10月9日に防衛省技術研究本部・陸上装備研究所(神奈川県相模原市)において、実車(機動戦闘車1号車)が初めて報道陣向けに公開された[2]

機動戦闘車は積極的に戦闘に参加する点で、「戦闘車」に分類される装輪装甲車である[3]。この種の車両に期待されるのは、路上での高機動力や軽量さを活かした緊急展開任務であり、普通科(歩兵)に対する火力支援任務である。

この車両は戦車に該当しないが、大口径の主砲を砲塔に備える姿から、俗に装輪戦車と呼ばれることもある。確かに戦車が担っていた任務を一部代替すると目されている。そのために機動戦闘車はまるで戦車のように直接的な火力支援や対戦車戦闘をできることを目標にされている。特筆すべきはその火力が74式戦車と同等であることと、装輪車両の弱点である命中精度の低さ[4]を高度な射撃管制と能動的な揺動抑制(アクティブ・サスペンション)によって克服が目指されている点である。しかし履帯(クローラー)を有しないため戦場機動力に劣り、重量に制限があるため同世代の主力戦車に準ずる火力や装甲を与えることは困難である。それゆえ機動戦闘車は戦車を完全に代替するものではなく、10式戦車と平行して配備される見通しである。

海外の性能類似車両との比較
機動戦闘車 日本の旗 09式装輪突撃車中国語版[5] 中華人民共和国の旗 AMX-10RC フランスの旗 機動砲システム アメリカ合衆国の旗 チェンタウロ イタリアの旗 ルーイカット 南アフリカ共和国の旗
画像 Maneuver Combat Vehicle 08.jpg AMX-10-RC.JPG MobileGS.jpg Blindo centauro deserto.jpg Rooikat wheeled tank.jpg
全長[6] 8.45m 6.24m 6.95m 7.40m 8.20m
全幅 2.98m 3.00m 2.95m 2.72m 3.05m 2.90m
全高 2.87m 2.60m 2.64m 2.73m 2.80m
重量 約26t 17t 18.77t 26t 28.8t
最高速度 100km/h 100km/h 85km/h 100km/h 108km/h 120km/h
乗員数 4名 4名 4名 3名 4名 4名
主武装 52口径 105mm
ライフル砲
105mm
ライフル砲
48口径 105mm
ライフル砲
51口径 105mm
ライフル砲
52口径 105mm
ライフル砲
52口径 105mm
ライフル砲
副武装 12.7mm重機関銃M2×1
7.62mm機関銃×1
12.7mm重機関銃×1
7.62mm機関銃×1
12.7mm重機関銃×1
7.62mm機関銃×1
12.7mm重機関銃×1
7.62mm機関銃×1
7.62mm機関銃×2 7.62mm機関銃×2

開発経緯[編集]

機動戦闘車は2004年の防衛計画の大綱を基準とし、新規に陸上自衛隊が装備するべき車輌として模索された。2007年、26億円の開発費が充てられ、本格的に開発が開始された。また、この時点では総開発費用173億円、試験終了を2015年と予定した[7]

島嶼部に対する侵略事態やゲリラ特殊部隊による攻撃などの多様な事態に対処するため、優れた空輸性および路上機動性等の機動展開力、敵装甲戦闘車両などを撃破可能な火力を有する機動戦闘車を開発する計画である[8]。陸上自衛隊の戦闘部隊が装備し、普通科部隊に対する前進掩護および建物への突入支援などを担う。

陸上自衛隊の現有装備である74式戦車および89式装甲戦闘車は、被空輸性や路上機動性が不足するため、戦闘地域へ迅速に展開することができない。一方、87式偵察警戒車軽装甲機動車などの装輪装甲車では、軽戦車など(周辺国では中国人民解放軍05式水陸両用突撃車中国語版03式空挺歩兵戦闘車ロシア連邦軍スプルートSD 空挺戦車など)を撃破する火力や目標発見後速やかに射撃する能力が不足するため、普通科部隊への火力支援が困難である。ほかの代替手段については、アメリカなどにおいて同様の戦闘車両を装備しているが、いずれも要求性能(小型、現有弾薬の適合性、拡張性等)を満たすものはない。また、将来装輪戦闘車両の研究成果を反映する可能性を考慮すると諸外国からの導入は非効率であることから、本装備の開発が決定された。

仕様[編集]

構造[編集]

本車は車体上部に砲塔を有する装輪式の戦闘車両である。

ミシュラン社製のタイヤを使用した車輪、片側4輪ずつが車体底面のサスペンションを介して車体を支持する。サスペンションは直立に配された油圧シリンダーおよびダブルウィッシュボーンによって構成され、全輪独立懸架方式が採用されている。動力は車体底面の中央にドライブシャフトを通し、このシャフトからディファレンシャルギアを介して各輪へ動力を伝達する。操舵は前方2軸が旋回して行われる。車体底面に配された緩衝機構および駆動系統には装甲が施されておらず、車体底面形状も地雷またはIEDに抗する設計を採用したものではない。このため底面からの攻撃に対する脆弱性を危惧する評価がある[9]

車体は防弾鋼板を溶接によって組み合わせている。車体要部には中空式の増加装甲が取り付けられる。車体前方左側には出力570hpのディーゼルエンジン、補器類、オートマチック変速機を一体化したパワーパックが収容される。機関から排出されるガスは車体左側に設けられた排気孔から排気される、この後方のルーバーはラジエーター用のもので、パワーパック上面には吸気口が設けられている。車体前方右側、パワーパックと併置して操縦席が配されている。操縦はパワーステアリングつきのハンドルで行われる。また、高速走行時には操縦ハッチ上部に風防を付ける。車体中央部にはターレットおよび砲塔を備えた戦闘室がある。この戦闘室には車長、砲手装填手が搭乗する。車体後部は弾薬庫兼多目的スペースとなっている。車体後面には乗降も可能な弾薬搭載用のドアが設けられている[10]

砲塔は前部が楔形形状を持つ鋭角的な形状を採用し、また、要部には中空式の増加装甲を取り付けている[11]。砲塔は国産の52口径105mmライフル砲および7.62mm同軸機銃を備える。砲塔上部には12.7mm重機関銃M2を搭載する。砲塔両側面には4連装発煙弾発射機がそれぞれ装備される。後方から見て、砲塔中央におかれた砲の右側前方に砲手、その後ろに車長が位置する。砲を挟んで左側には装填手が位置する。砲塔後部は砲弾ラックである。砲塔に自動装填装置は採用されず、人力装填のみとなっているが、これは砲塔設計時のレイアウトや重量との兼ね合いから装填装置の搭載が断念されている[12]。砲塔前面の左右にはレーザー検知器が装備されているが、これは全周に対する警戒能力はなく、検知域は前方180度と側方の一部のみである。後方から見て砲塔上部中央の右側には、車長用の全周視察装置つきハッチが設けられている。この前方に大きなフードのついた砲手用サイトが装備される。中央部にはGPS、左側に装填手用ハッチ、この前方には全周旋回サイトが置かれる。また、砲塔後部に起倒式のタレス社製環境センサーが置かれる[13]

主砲には排煙器などのデザインにイギリスL7系105mm砲の影響が見られるものの、新規に開発された国産の砲である。砲弾は既存の105mm砲弾を使用する。砲身が1口径延長されており、また、ライフリングに合わせて螺旋状に開口された多孔式マズルブレーキを備える。後方から見てこの砲口付近の左側に砲口照合装置が設置されている。対となるレーザー送受信部は防盾左側上部の開口部に設けられている。この下部に同軸機銃孔が開いている。砲を挟んで右側には砲手用の直接照準眼鏡が装備される。本車は10式戦車から反動の制御技術、FCSなどの技術が流用されており、側面方向に砲を指向しつつ走行と射撃が行える[14]

火力[編集]

105mm砲塔

中距離域において敵装甲戦闘車両の撃破に使用する火器として、朝雲新聞によると105mmを搭載するとされている[15]

本車両の武装に105mm砲を採用したのは、74式戦車の弾薬を転用するためである[16]。平成21年度予算では機動戦闘車用に「91式105mm多目的対戦車りゅう弾(特てん弾)」が購入されており[17]、対戦車攻撃能力を持つことになる。

現代では技術の進歩によって105mm砲用APFSDSの性能は飛躍的に向上しており、ベルギー2002年に開発されたM1060A3は侵徹力が460mmに達している。これは90式戦車で使用されているJM33の原型であるDM33に匹敵する。

装輪車両は一般に戦車よりも軽く、軟体のタイヤで接地しているため、射撃時の安定性において不利である。しかし、機動戦闘車の射撃管制装置や反動抑制機構には同じく三菱重工業が開発した10式戦車の成果が応用されており、2013年10月9日に陸上自衛隊により公開された動画 では走行中に側方へ射撃する場面が捉えられており、機動戦闘車が実際に高い射撃安定性能を有していることがうかがえる。

諸外国における105mm砲を装備した8輪の装輪装甲車として、イタリア陸軍チェンタウロ戦闘偵察車(重量26t)やアメリカ陸軍M1128ストライカーMGS(重量18.77t)など複数存在するが、公開された車両はチェンタウロと同様の通常型の砲塔であり、M1128ストライカーMGSのように砲塔バスケット内の乗員を砲塔リングより下に配置する低姿勢砲塔(Low Profile Turret)ではない。なお、前者は対戦車自走砲戦車駆逐車)、後者は自走歩兵砲としての運用を想定した車両であるが、将来装輪戦闘車両の構想図において記載されていた機動戦闘車と同じ位置付けの車両には「自走対戦車砲」と記述されていた。

防護力[編集]

敵徒歩兵の主な携行火器に抗堪できる防護力を保持するとされている。 平成21年度予算では「84mmRR対戦車りゅう弾(静爆試験用弾頭)」が機動戦闘車の防護試験用に調達されている。

機動力[編集]

機動戦闘車は8つのタイヤで走行し、舗装路面上を長距離にわたって高速で移動できる。その一方で、装輪車両全般に共通する問題として、車輪の特性に起因する不整地走行性能の低さが懸念されている[18]

不整地走行性能の低さ、すなわち路外機動性の低さについては、一連の装輪戦闘車両の開発において「路外を走行する際の車体動揺を抑制する技術」が研究されており[19]、この振動抑制技術の導入によってある程度の路外機動性を有する見通しである。

駆動方式に装輪式を採用した理由として、装軌式に比べて優れた路上機動性を有すること、前述のように一定の路外機動性を実現する目処が立ったこと、比較的構造が簡単なことに加えて将来装輪戦闘車両の研究成果を反映できることから、開発・取得・維持費などを含むライフサイクルコストが低く抑えられることなどが挙げられる。

NHKの報道によると、機動戦闘車の重量は26t以下で最高速度は100km/h以上である。戦略機動性については、航空自衛隊XC-2次期輸送機による空輸を考慮しているという。

なお、日本国内においては道路交通法の制限により幅2.5mを越える車両は道路管理者へ事前申請する必要がある。北海道で90式戦車が通常の道路を走行している様子はよく見られるが、本州では北海道に比べ幹線道路でも道路の幅が十分ない箇所が多くあり、平時での通行には一定の制限がある。

正面
右面
左面


配備[編集]

平成18年度の政策評価書では配備先が機甲科部隊となっていたが、平成19年度の政策評価書では戦闘部隊に変更された。 導入職種は不明だが、防衛省が公開した「我が国の防衛と予算(案)-平成20年度予算の概要」[20]の中で、『装備化する場合、戦車と併せ、戦車数量(現在の「防衛計画の大綱」では約600両)を超えないことを想定した開発』と書かれている。これは予算の削減を求めている財務省との折衝によっては、機動戦闘車が戦車定数に含まれ、戦車の実数がさらに減る可能性を考慮してのものと考えられる。

平成35年度までに約200両ないし約300両の配備が検討されている[21][22][23]。戦車部隊は本州から撤廃させて741両から300両に半減させ、代わりに道路での走行に優れた機動戦闘車を置き換える方針である[24]26中期防では、99両の調達と機動師団及び機動旅団[25]の即応機動連隊(普通科連隊より改編)[26]などへの配備が計画されている[27]

登場作品[編集]

小説
漫画
第24・25話で機動戦闘車部隊(グレイハウンド隊)が市街地戦を展開する。

脚注[編集]

  1. ^ 柘植「機動戦闘車」34、35頁
  2. ^ 柘植「機動戦闘車」28頁
  3. ^ 4輪程度の装甲車や歩兵戦闘車と区別するために「重装車輪戦闘車」と呼ばれることもある
  4. ^ 重装輪戦闘車は履帯(クローラー)を有しないため主砲の反動を吸収しきず、射撃後に大きな揺動が発生し、次弾以降の命中精度において戦車に大きく劣っているものが多い
  5. ^ 09式装輪歩兵戦闘車の派生型。制式名称などは不明。
  6. ^ 車体長の場合も含まれる
  7. ^ 柘植「機動戦闘車」34、35頁
  8. ^ 防衛省技術研究本部 技術開発官 陸上担当
  9. ^ 柘植「機動戦闘車」32-34頁
  10. ^ 柘植「機動戦闘車」25、26頁
  11. ^ 柘植「機動戦闘車」28、29頁
  12. ^ 柘植「機動戦闘車」25、26頁
  13. ^ 柘植「機動戦闘車」31、32頁
  14. ^ 柘植「機動戦闘車」31、32頁
  15. ^ 朝雲新聞社 ‐2008年3月の朝雲ニュース
  16. ^ 財務省 - 予算執行調査資料(反映状況票) - 陸上自衛隊における弾薬の処分事業
  17. ^ 中央調達に係わる契約情報 - 公共調達の適正化について(平成18年8月25日付財計第2017号)に基づく随意契約等に係る情報の公開(物品役務など)
  18. ^ 車輪は物理的特性として車輪半径を超える段差を乗り越えられず、水田を含む泥濘や砂地などの軟弱な地盤でスタックしやすい。この問題を解決するには無限軌道などと組み合わせる必要があった
  19. ^ 平成14年度 政策評価書 ‐将来装輪戦闘車両 (PDF)
  20. ^ 我が国の防衛と予算(案) ‐平成20年度予算の概要 (PDF)
  21. ^ 防衛省 護衛艦10隻程度増強を検討
  22. ^ 機動戦闘車300両配備 政府、防衛大綱で調整
  23. ^ 防衛大綱:機動戦闘車200両 離島防衛強化へ
  24. ^ “陸自戦車部隊、本州から撤退へ 離島防衛に重点移す”. 朝日新聞. (2013年11月21日). http://www.asahi.com/articles/TKY201311210354.html 2013年11月21日閲覧。 
  25. ^ 7部隊を即応型「機動師団・旅団」に改編へ
  26. ^ 新防衛計画大綱 陸自部隊を大幅改編へ
  27. ^ 中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)について

参考文献[編集]

  • 柘植優介「陸上自衛隊のニューカマー 機動戦闘車のディティール」『PANZER』12月号、2013年。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]