橘木・大竹論争

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橘木・大竹論争(たちばなき・おおたけ ろんそう)は、当時京都大学教授だった橘木俊詔大阪大学教授の大竹文雄の間の論文のやり取りの総称[1][2]

概要[編集]

橘木の論を否定する論文を大竹が出し、両者のあいだでやり取りが行なわれた[3][4]。この論争はマスコミで取り上げられジャーナリズム的には注目された[5]

まず橘木が1998年の著書『日本の経済格差』で、ジニ係数を用い日本において世帯単位の所得格差、貧富の格差が増大しており「一億総中流社会」は崩れていると論じた。それ自体は反響を呼んだものの、大竹はジニ係数の上昇は、もっぱら人口構成の変化(高齢化、単身者世帯の増加)による見かけの上の現象によるところが大きく、このデータだけでは貧富の格差が拡大していると結論づけることはできない、と論じた。 後者の指摘を含めた大竹の見解は後に2005年の著書『日本の不平等』にまとめられた[1]。橘木(2006)では、ジニ係数の解釈について大竹の指摘を是とした上で、「高齢貧困者」の増加という論点を提起する「反論」を行った[3][4]。 なお2006年1月19日内閣府は「経済的格差の動向」と題する資料を発表し、大竹の見解に沿う形で、ジニ係数の増大に見られる所得格差の拡大は高齢化、世帯規模の縮小などによって「見かけ上拡大」したものだ、とし経済学的な論争という見解は示していない[6]

関連文献[編集]

(出版順)

  • 橘木俊詔(1998年)『日本の経済格差—所得と資産から考える—』岩波新書
  • 大竹文雄(2005年)『日本の不平等 —格差社会の幻想と未来—』日本経済新聞社
  • 橘木俊詔(2006年)『格差社会—何が問題なのか—』岩波新書

出典・脚注[編集]

  1. ^ a b 大阪市立大学大学院経済学研究科 (2010-03-30). “あとがき” (PDF). 経済格差と経済学 —異端・都市下層・アジアの視点から— 研究成果報告. 大阪市立大学大学院経済学研究科. http://www.econ.osaka-cu.ac.jp/CREI/seika_report_atogaki.pdf 2012年1月30日閲覧。 
  2. ^ 「橘木俊詔(肯定)・大竹文雄(否定)論争」と敷衍されることもある。鷺 (2007年7月15日). “今週の本棚・新刊:『ルポ 正社員になりたい 娘・息子の悲惨な職場』=小林美希・著”. 毎日新聞(東京朝刊): p. 12. "日本の社会の経済格差は拡大しているか否か、についての橘木俊詔(肯定)・大竹文雄(否定)論争の方向を一変させたのが..."  - 毎索にて閲覧
  3. ^ a b 宇仁宏幸(2007)は、「橘木・大竹論争」の語は用いていないが、両者のやり取りが「いわゆる格差論争」の一部を成すものであることを前提として議論を展開している。また、橘木(2006)について大竹の指摘を「基本的に認めた上で、次のように反論している」として論点を整理している。宇仁宏幸. “経済理論学会第55回大会共通論題報告 日本における賃金格差拡大とその要因” (PDF). 一橋大学経済研究所. 2012年8月5日閲覧。
  4. ^ a b 論争の当事者の一方である大竹も、富岡淳との連名の報告において、橘木の問題提起から「論争」が始まったとする認識を示している。大竹文雄; 富岡淳. “不平等の認識と再分配政策” (PDF). 科学研究費補助金特定領域「経済制度の実証分析と設計」総括班. 2012年8月5日閲覧。 “橘木(1998)が日本の所得格差が高まっていることを一般向けに紹介したことが格差論争 の始まりだったと言える.”
  5. ^ 高橋伸彰 (2006年10月29日). “(書評)格差社会・橘木俊詔著 日本の貧困研究・橘木俊詔、浦川邦夫著”. 朝日新聞(朝刊): p. 12. "格差をめぐる論争が再燃している。経済学の分野で新しい火種を作ったのは労働経済学者の大竹文雄氏だ。...評者が、橘木氏の議論に共感を覚えるのは、格差論争の地平を貧困にまで広げた点だ。..."  - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
  6. ^ 前市岡楽正 (2006). “経済格差 -橘木・大竹両教授の論点” (PDF). KISER Research Oaoer (関西社会経済研究所) (1): 16. http://www.kiser.or.jp/ja/project/pdf/191_Pdf.pdf 2011年11月13日閲覧。. 

外部リンク[編集]