ヨコハマ買い出し紀行
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『ヨコハマ買い出し紀行』(よこはまかいだしきこう)は「月刊アフタヌーン」(講談社)に連載されていた芦奈野ひとし作の漫画作品。単行本は全14巻。
目次 |
[編集] 概要
第1作は同誌1994年4月号に読み切りとして掲載(いわゆる第0話)、作者にとってはこの作品がデビュー作でもある。本作品が同年春のアフタヌーン四季賞で四季賞を受賞する。続いて9月号に続編が掲載され、好評を得たことから同年12月号からは連載となり、2006年4月号まで掲載。全140話。物語全体を通して、穏やかな独特の世界を描いていく。
本編の連載終了後、2006年7月号に、書き下ろしとして、同一の世界を舞台としたものと思われる(時代は連載終了時点から数十年以上後と推測される)短編『峠』が掲載された。
また、ラジオドラマが椎名へきるのラジオ番組で放送され(後にドラマCD化)、二度OVA版が制作されている。
2007年には第38回星雲賞(コミック部門)を受賞した[1]。
注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。
[編集] あらすじ
「お祭りのようだった世の中」がゆっくりと落ち着き、「夕凪の時代」と呼ばれた近未来の日本(主に三浦半島を中心とした関東地方)を舞台に、「ロボットの人」である主人公アルファとその周囲の人々の織りなす「てろてろ」とした時間を描いた作品。
作中の社会状況は、明言はされていないが、断片的な記述を総合すると、地球温暖化が進んで海面上昇が続き、物資は欠乏(米や醤油など生活必需品も入手困難)、治安は現在よりも悪化(来客への応対時や配達時に護身のため拳銃を携帯)、人口が激減したことなどが示されている。総じて、人類の文明社会が徐々に衰退し滅びに向かっていることが示唆されている。しかし、その世界に悲壮感はなく、人々はむしろ平穏に満ちた日々を暮らしている。また、詳しくは語られない正体不明の存在も多く、そのまま作中の日常世界に組み込まれている。これらの不思議については作中で真相が明かされることはなく、どう解釈するかは読者に任されている。
なお原作終了後に刊行された小説版(香月照葉 著)では、「夕凪の時代」の後に人口はさらに減少を続け、ほぼ滅亡状態となった「人の夜」を迎えた、としている。
各話は、登場人物の私的な日常を軸に展開し、また「ロボットの人」たちが周囲から、「ロボットって事は個性のひとつ」として受け入れられて生活している様子をとらえている。
[編集] 登場人物
- 初瀬野アルファ(はつせの あるふぁ)
- 声:椎名へきる
- 主人公。若い女性の姿をしたロボット。髪は緑色。瞳はあずき色。三浦半島にある「西の岬」で喫茶店「カフェ・アルファ」を営む。名前は、開発当時まだ珍しかったアルファ型ロボットから定着したもの。機種名はA7M2型(量産試作機)。オーナーの帰りを何年も待ち続けているが、アルファ自身は、老いることなく何年も帰りを待ち続けられるので、「私はロボットでよかった」と思っている。オーナーからもらった拳銃(H&K P7)と特殊なカメラを宝物にしている。酒に酔うと、人の知らない踊りを踊ったり屋外にさ迷い出て徘徊したりするが、本人はよく覚えていない。肉、鶏卵、牛乳など、動物性たんぱく質を体内で処理できず、体調不良(めまいや悪寒)を起こしてしまうが、ミルク入り缶コーヒー程度は平気であり、飲めるぎりぎりのラインは「カフェオレ」だという。趣味は月琴を弾くことと、魚をあしらった小物の収集・制作。ミカンやコーヒーや砂糖が好物のようで、特に砂糖に関しては自らマニアと言っており、黒糖をもらって食べたときは、あまりのうまさに感涙する。
- 鷹津ココネ(たかつ ここね)
- 声:中川亜紀子
- アルファの妹分であり、同じく若い女性の姿をしたロボット。アルファ型ロボットの1人。機種名はA7M3型(量産型)。髪は淡い紫色。瞳は濃い緑色。ムサシノ運送で「おてもと便」係として働いており、カメラの配達を通じてアルファと出会う。かつては人間っぽく振る舞おうと心がけていたが、アルファと出会ってからは、「あまり気楽になろうとしない」ことで気楽になる、という生き方を見つける。他方、ロボットである自分のルーツを探し求めて情報収集をしている。「ココネ」という名前は、研修所で自分でつけたものらしい。アルファと違い、動物性たんぱく質も摂取できる。行きつけのオープンカフェ「かんぱち辻の茶」のマスターから片思いされているらしい。その他にも、比較的「都会」であるムサシノの国では、ココネに好感を寄せる友人や同僚も多い。あまり自分をさらけ出さないカタさがあり、そこをネタに同僚のシバちゃんからからかわれている。
- おじさん
- 声:寺島幹夫⇒飯塚昭三
- カフェ・アルファの近所でガソリンスタンドを営む老人。カフェ・アルファの常連客。アルファのよき話し相手である。アルファの愛用バイク(スクーター)のガソリン代の代わりに、カフェ・アルファでコーヒーを飲んでいる(いわば物々交換)。子海石先生の後輩である。畑を持っており、スイカが大豊作だったときは近隣にお裾分けしてまわった。後にスタンドを無人化し、自らは畑仕事に専念する。自ら漁に出る描写などはないが、おじさんの話す言葉は、典型的な浜言葉に秦野弁や江戸弁が混じった、この地方(特に漁港周辺)に独特のものである。
- タカヒロ(たかひろ)
- 声:陶山章央⇒豊永利行
- おじさんと一緒に住む少年(孫とも思えるが両者の間柄は明言されていない)。カフェ・アルファによく足を運ぶ。ひところはアルファに、近所の気になるお姉さん的に淡い恋心を抱いていた節もある。内燃機関関係に興味を持ち、110話以後、エンジンの都・浜松(現実の日本においても自動車やバイクのメーカーが集中している)に働きに出る。その後、真月とのあいだにサエッタが生まれる。
- 真月(まつき)
- 声:長沢美樹
- タカヒロの幼馴染の少女。人々からはマッキと呼ばれている(イタリアの航空機メーカー・マッキ社が名前の由来と思われる)。老夫婦(親か祖父母とも思えるが間柄は明言されていない)と暮らしていたが、後にココネの勤めるムサシノ運送で5年間働いて退社し、タカヒロの住む浜松へ行く。
- その後、タカヒロとの間にサエッタを生む。
- サエッタ(さえった)
- 真月とタカヒロとの間の娘。138話に登場。「サエッタ」はタカヒロが命名した(マッキ社製の戦闘機と同名)。ゴチャッとした林が好きなお転婆だが、性格は落ち着いている。マッキとともに三浦半島に帰省したとき、入り江で(かつての母親と同様に)ミサゴに出会う。
- 子海石先生(こうみいし せんせい)
- 声:杉田郁子
- 初老の女性医師。雷に打たれたアルファを治した。おじさんの先輩。かつてはロボット開発にも携わっていたらしい。「子海石アルファ」というロボットを預かっていた時期があるという。若い頃はおじさんとつるんでオートバイで方々を「歩いて見て回って」いたようである。自らデザインした、古代の漢字に似た図形(篆書体の「子」に酷似)を、自身のトレードマークとしている。このトレードマークを描いたペンダントを身に付けており、それが自分の「目と足」だという。後にそのペンダントを、未来を見続けるであろうアルファに託す。(姓の由来は、横須賀市久留和の子産石と思われる)。
- ミサゴ(みさご)
- 小網代の入り江(小網代湾)に棲む謎の女性。常に全裸。言葉を話さない。超人的な身体能力で、水面を走ったりする。魚や昆虫を取っては生で食べている。ほぼ野生動物のような生活をしている。子どもの前にしか姿を見せない。雨で凍えたタカヒロを救ったことがある。アヤセやアルファのオーナーも、子どものころにミサゴを目撃したが、当時の姿は今と変わらない(不老である)。ほとんど人前に姿を現わさないため、周辺住人からは半ば伝説扱いされている。(名前の由来と生態は猛禽類のミサゴからと思われる。またこの名は、子海石先生が大学時代に操縦した水上飛行艇と同名だが、関連性は不明)。
- また、子海石アルファが服を嫌っていたという共通点から、ミサゴはA7M1型(またはA7型よりも前の型)のロボットである可能性もある。ただし、少なくとも一般人がロボットを知る以前にすでに入り江に住んでいたため、真実は不明。
- なお、人は子供時代にしかミサゴに会えない。それはミサゴが、子供好きで大人に会おうとしない上に、人間(の子供)が成長するという概念がミサゴにはないからである。
- アヤセ(あやせ)
- 声:森川智之
- 放浪の旅を続ける青年。ミナミトビカマスという架空の魚を鷹匠のように操って漁をする。それに加えてアルバイトで収入を得ているらしい。数年ごとに故郷(カフェ・アルファの近辺)に戻ってくるが、そのときにタカヒロ、アルファ、マッキと出会う。かつてミサゴに出会った1人。初瀬野先生とも面識があるらしい。各地を歩きながら、人型キノコなどさまざまな謎を個人的に調査しているようだ。カマスに子供ができたころは、マッキを弟子に取りたいと考えていた。話す言葉がおじさんによく似ており、アルファがそれを指摘する。
- シバちゃん(しばちゃん)
- ムサシノ運送で「おてもと便」係として働くココネの同僚女性。ざっくばらんな性格。付き合っている男性がいるようである。後に他の部署へ異動する。ロボットの人ではないようだが、ココネと気が合うらしく、2人はよくつるんで休日や仕事の合間に遊んだりだべったりしている。
- 丸子マルコ(まるこ まるこ)
- 多摩川のほとり丸子にアトリエを持つ女性型ロボット。アルファ型ロボットの1人。機種名はA7M3型(ココネと同じ)。ボーイッシュな風貌。髪は赤色。瞳は茶色。趣味で油絵を書いている。額縁屋で働いている。営業スマイルを活かして、「額縁屋の看板娘」として顧客の評判はよい。だが私的な人付き合いはうまくないらしく、自らオーナーのもとを離れたロボットであり、苗字も自分で変えた。ココネが気に入っており、しばしば遊びに誘うが、遠まわしに断わられ続けている。ナイとは旧知の仲。ココネとナイがアルファと親しくなったことに嫉妬して、マルコはカフェ・アルファまで皮肉と批判を言いにくる。しかしそれがきっかけで、アルファと本音でぶつかり合えるよい関係となった。姓および名の由来は、川崎市中原区に実在する地名、丸子と思われる。
- ナイ(ない)
- 声:内藤玲
- 珍しい男性型ロボット。アルファ型ロボットの1人。厚木空港(厚木海軍飛行場を指すと思われる)でノースアメリカンのレシプロ練習機T-6テキサンを使用した定期便のパイロットをしている。一人旅をしていたアルファと知り合う。口数少なく、あまり人付き合いを好む性格ではないようだが、丸子マルコとは旧知の仲。写真を取るのが趣味なようで、アルファのものとほぼ同型のカメラを持っており、ときどきマルコに写真(ただしロボット専用のデータであり人間にはその感覚を伝えきれない)を送る。写真の傾向としてマルコ曰く「コントラストが強い」ものだという。浜松でタカヒロと知り合う。
- 子海石アルファ(こうみいし あるふぁ)
- はるか上空を延々と飛び続ける「ターポン」という飛行機に搭乗しているロボット。アルファやココネの直系の「お姉さん」にあたる。ターポン内では「アルファー室長」と呼ばれている。上空から、もう降りることのないであろう地上世界を見つめている。初登場である第26話のサブタイトル「青のM1」から、A7M1型であることがうかがえる。生まれて間もない頃(姿は変わらない)には子海石先生の元におり、最初の頃は服を着ることを嫌った。子海石先生からもらったらしいペンダントをいつも身につけている。
- 初瀬野先生(はつせの・せんせい)
- アルファのオーナー。何年か前にアルファに店を預けて外出したままである。作中では苗字しか出てこず、また趣味で模型飛行機をやっていたらしいなど、断片的な情報だけが示されている。人相、人柄、何の先生なのかといった全貌は、最後まで明かされない。作中では一度帰ってきたようだが、たまたまアルファがヨコハマに買い出しに出かけている最中だったため、メモ1枚残してまた行ってしまった(0話)。出先からカメラをアルファに送った際、ココネにメッセージを託した。第139話に、すでに死去していることを匂わす描写があるが、不明のままである。
[編集] 描写中に見られるその他の要素
- スクーター
- アルファのスクーターはガソリンを燃料とするレシプロエンジンだが、ココネのスクーターは電気式である。この電気式スクーターは電磁気を使うモーターではなく、電気的刺激で収縮する人工筋肉が動力らしい。
- アルファのカメラ
- オーナーがアルファに贈ったもの。アルファはこのカメラを、本来は拳銃用に作られたポーチの中にしまっており、外出時にしばしば携行する。作中、特別に重要なアイテムとしてしばしば登場する。似たカメラをナイも持っているが、アルファのカメラの方が高性能な(ナイによれば「並でない」)仕様であり、一品物であるらしい。このカメラはいわゆるスチル写真をプリントするための銀塩カメラではなく、「ロボットの人」専用の、今で言うデジタルカメラに近いものである(連載時における登場時期は、現実においても民生用デジタルカメラの黎明期だった)。記録媒体は「キャラメルのようなもの」である(「一粒300枚」ほど)。ケーブルの先端を口にくわえた状態で、情景をリアルに記録・再生できる。おじさんによれば、テレビやプリンターに繋げば、(ロボットでない)人間でも単純な画像として一応見ることはできる。ココネによれば、カメラのレンズはアルファたち「ロボットの人」の目に近いものである。なお、作者のインタビューでは、人間の五感を記録する実験がアルファ型のもとにあったことが語られており(例えば聴覚の実験成果は、A2と標記されたレコードである)、このカメラもまた「ロボットの人」と共通の感覚をもつ存在であることが示唆されている。
- 街灯
- 人工の街灯が、かつての市街地や自動車道の名残りとして、上昇した海面から突き出ている。特に「北の町」の街灯の群れは、夕刻になると無数に点灯し、これをアルファはときどき眺めにくる。一部の好事家たちは、この街灯を海上の小船から眺めながら酒を飲む。また、この時代の地上には、街灯そっくりの形をした光る植物があり、かつての主要道に沿って自生している。
- 巨大な柿・栗・ヒマワリ
- 巨大な実が数種登場する(バイオテクノロジーの成果か?)。いずれも大きさは一抱えほど。単行本では、巨大な桃と栗は実を結ぶまでに三年、柿は八年かかるとし、桃については実のついた房も描かれているが、梨については言葉を濁している。栗は、焼くとはじけて飛び、危険である(味はよいらしい)。パワーヒマワリという品種のヒマワリが登場し、5mほど(推定)に成長して巨大な花を付ける。その種は、量は多いがサイズは普通のヒマワリと同じである。
- 人型キノコ、水神さま、巨大直方体
- 人型キノコは、人間の姿をしているが、だるまのように座った格好で動かず、多くは水辺にある(小型のものは顔がなく全体が疑問符「?」に似た形をしている)。水神さまは、人型キノコの1つであり、顔が少年であり、脳波があり、地元の人々から参拝され大切に管理保護されている。巨大直方体は、ある山頂にそびえる、一見するとビルのように大きくて四角い、のっぺりした白い物体である(表面はキノコかコルクのように柔らかい)。
- ターポン
- 高高度を飛行する巨大飛行機。地上にはもう降りることができないらしく、延々と飛び続けている。6年周期で航路を変更する(北半球航路⇔南半球航路)。内部にはクルーたちの部屋のほか、膨大な本を納めた図書室らしき所もある。子海石アルファとほか2名の乗組員が登場する。機内で新茶がとれる。地上と連絡を取り合う描写は一切なく、地上からは見上げるばかり、機内からはただ地上を見下ろすばかりとなっている。乗組員は地上の変化や気象の様子を観測し続けている。
- マックスコーヒー
- 「月刊アフタヌーン」1996年7月号表紙にアルファが登場した際、アルファの横にさり気なく置かれていた缶コーヒー。ちなみに、マックスコーヒーは実際に利根コカ・コーラボトリングが販売している商品であり、千葉県・茨城県を中心に地域の名物コーヒーとして親しまれている。このような「遊び」がさりげなく描かれていることも、当作品の魅力のひとつである。
- ひょうちゃん
- 第40話でアヤセが持っていた陶器製のしょうゆさし。現実世界では、崎陽軒のシウマイの箱の中に封入されており、多種多様な表情が描かれていることからコレクターも多い。
[編集] 作中に登場する地域・地形・風景・街道など
- 小網代湾
- 作中では、タカヒロやマッキがミサゴにいく度となく出会う「小網代の入り江」として登場する。現実の小網代湾は、特に北岸~湾奥にかけて広がる「小網代の森」が一度人手によって開発された後に自然に還りつつある貴重な里山環境として保全され、保護運動なども展開されている。アカテガニの放仔が行われることでも有名。作中ではこのアカテガニをミサゴが捕食し、さらにタカヒロにプレゼントする描写もある。
- 城ヶ島
- 三浦半島南端に位置する島であり、城ヶ島大橋を通って渡れる。作中では年始のご来光を待つ場所として登場した。
- 荒崎
- 小網代湾の北に位置する岬。荒崎の駐車場の先にある「夕日の丘」は日没のビューポイントとしても有名である。
- 岩堂山
- 三浦市における最高峰。とはいえ標高はわずか80mほど。山頂直下まで、畑とゴミの処分場が迫る、丘と呼ぶ方が適切な場所である。観光地としては魅力に乏しいが、三浦半島南部を一望できるビューポイントでもある。作中においては、何回か登場するが具体的に岩堂山と言及されることはない。
- 野毛町(野毛商店街)
- JR桜木町駅の山側から野毛山にかけての地域。横浜みなとみらい21地区が再開発される以前はこちらの方が賑わっており、ヨコハマ本来の猥雑で活気のある町としての雰囲気は現在も健在である。作中においては第0話(の読み切り)の時点でアルファがコーヒー豆を買い出しに来た「ヨコハマの町」は、野毛山からMM地区へと降りる紅葉坂(もみじ坂)の途中から見たランドマークタワー(の基部が水没した姿)などから、野毛の町であることが明らかにされ(紅葉坂商店街という看板も登場している)、その後もたびたび登場し、最終回ではコーヒー豆を扱う雑貨屋の店員として、転職したらしきマルコが登場している。
- 横浜ランドマークタワー
- みなとみらい地区のシンボルとして1993年に開業した超高層建築物。作中においては、海面上昇によってその基部が水没しているが、構造物自体は健在である。アルファは「てっぺんにいつか行ってみたい」と思っているが、最終回まで登る描写はない。いざ登るとなれば、その道程は岩堂山に登るよりもはるかに困難だろう。なお頂上(?)部には人の生活があるらしき描写も見える。
- 馬堀海岸
- 国道16号沿いの護岸の絵は何度かTVなどのメディアにも登場している。天候次第では東京湾奥部を一望できるロケーションとしても有名。作中においては、過去に子海石先生が、ミサゴと名付けられた水上艇を操縦する様子が描かれており、ここから東京湾最奥部の千葉県船橋市沖合いを目指した。
- ららぽーとスキードームSSAWS(ザウス)
- かつてバブル景気華やかなりし頃に建造され、1993年より千葉県船橋市で営業していた全天候型スキードーム。前記の水上艇ミサゴを操縦するエピソード(28話)において、その特徴のある姿が目的域の近くのランドマーク(冠水遺構の類)として登場する。ただし現実におけるザウスは、同話が1996年に掲載された後、2002年に経営不振で閉鎖され、2003~2004年に施設も解体されてしまった。そのためヨコハマ買い出し紀行は、ザウスが倒産または取り壊されなかった未来を描いた「ifもの」と見なせる。
- 横須賀市街
- 古くは旧帝国海軍の鎮守府がおかれ、現在も米軍や自衛隊の基地、防衛大学校などが置かれる軍都である。作中においてはその市街地はほぼ全域が水没している。また横須賀の地名も残らず「北の町」として登場する。水没した横須賀市街の光を見てアルファが涙を流すエピソードでは、横須賀中央公園が登場した。
- 大崩
- 長者ヶ崎から国道を挟んで山側の崖。作中では「北の大崩れ」として登場する。作中においては、アルファとアヤセ(とカマス)が初めて対面し、またアルファがターポンを初めて見た場所である。子海石先生の姓の由来とされる子産石もすぐ近くにある。
- 道志みち
- 国道413号。アルファが徒歩旅行において歩いた山道であり、この道を通って山中湖畔の三国峠まで至ったと考えられる。道志みちは、宮ヶ瀬ダムによって水没する以前の中津川渓谷と並び、南関東圏におけるドライブおよびツーリングコースとして定番の地域であり、宮ヶ瀬ダム竣工以前はダート(未舗装路)や線形の急な個所も残る山道だった。ダム建設と連動する形で、のちの宮ヶ瀬湖周辺では大規模な道のつけ替えや改修などが進行し、道志みちもこれに前後して舗装の進行や一部の線形改修などが行われて「道が変わってゆく」ことになるのだが、作中において道の付け替えには言及されるが、厚木方面から清川村を経由して道志村を目指す以上は必ず湖畔を通るはずの宮ヶ瀬湖が登場しないなど、「現実にはすでにないはずのものが登場する」ザウスとは逆に「あるべきはずのものが登場しない」宮ヶ瀬湖など、いくつかの疑問を残す形となっている。
- 三国峠
- 山梨県南都留郡山中湖村に存在する、富士山および山中湖を一望できる峠。峠の手前にはつづら折れとともに駐車スペースが設けられ、地図によってはパノラマ台として載っている。作中において、アルファはここで焼きトウモロコシの屋台のアルバイトをして路銀を稼いでおり、富士山を望む風景と道の曲がり具合は現実そのままである一方、噴火したかあるいは永久凍土の大幅な縮小によると思われる富士山の変貌ぶりなど、現在と異なる姿も描写されている。
- 大垂水峠
- 甲州街道(国道20号)の峠。神奈川県相模湖町と東京都八王子市の境でもある。眺望などは得られず特に見るべきもののない峠だが、バイクの走り屋にとってここは1980年代には西東京地域の走り屋小僧のメッカ的な存在だった。特に観光地というわけでもなく、また古来の甲州街道はここではなく小仏峠の方を通っていたはずである。作中にこの峠を登場させアルファに徒歩で越えさせたのは、作者のバイク乗りとしての拘りや愛着の表われかもしれない。
- 環状八号線
- 東京都道311号環状八号線。現代では都内有数の渋滞路線として有名だが、作品世界においてそのような描写はない。甲州街道と交差する上高井戸一丁目交差点を環八側はオーバーパスによって抜けるが、作中ではこの高架部分が撤去され、基部のみとなった姿で描写されている。
- 甲州街道
- 国道20号。作中にたびたび登場するココネの行き着けのオープンカフェ「かんぱち辻の茶」は、この甲州街道と環状八号線とが交差する上高井戸一丁目交差点かその付近にあると考えられる。ココネの生活圏と行動範囲も、この周辺を中心としていると考えられる。作中では巨木と化したケヤキ並木が登場するが、現在の甲州街道沿いにもケヤキが植えられているので、それらが巨木となった姿を想像してみるのも楽しいかもしれない。
- 第三京浜道路
- 国道466号。上野毛において環状八号線と接続し、保土ヶ谷インターチェンジへ至る自動車専用道路である。作中ではすでに道路としては供用されておらず、路盤上に軌道を敷設しLRTが運行している様子が描かれている。第7話でココネがカフェ・アルファを目指す際に登場した。おそらく環八から第三京浜線(路面電車?)で保土ヶ谷まで、そこから同僚の車に便乗し横浜横須賀道路で衣笠、以後は下道を徒歩で南下したと推測される。同ルートを法定速度で巡航した場合に上野毛から三崎までの所要時間は2~3時間程度だが、これをすべて下道を使い、およそ準じる経路で移動した場合には、実に半日がかりとなるので、もはや単なる通勤や配送業務の域を越えて立派な小旅行といえる。
- またこの距離を下道で移動したと仮定した場合の距離感や所要時間を知った上で、自ら電動スクーターまで購入したびたびカフェ・アルファを訪れるココネの積極性や、買い出しに出たヨコハマの町からココネの家まで行ってみようと「ふと思い立つ」アルファの発想の飛び具合、またその思いつきを実行してしまうバイク乗りならではの(誉め言葉としての)バカさ加減など、その発想の根底には南関東に居住し最小排気量の原付スクーターからステップアップして次第に行動範囲を広げていったこの地域のバイク乗りたちの生態(すなわち作者本人の実経験)が濃厚に反映されていると言える。
- 関越トンネル
- 関越自動車道が谷川岳を貫く長大なトンネル。作中ではアヤセが徒歩で踏破した。中間地点に、懐中電灯や軽食などを販売する店がある。トンネルを抜けた瞬間にアヤセ(とカマス)が新潟平野と関東平野の空気の匂いの違いを知覚する描写があるが、これなどもバイク乗りまたは自転車乗りに特有の感覚といえる(徒歩では移動速度が遅すぎるため、峠を越した瞬間の温度や湿度・匂いの変化をバイクや自転車ほど顕著には感じ難い)。
- 箱根峠
- 東海道(国道1号)の峠。本編には登場しないが、連載終了後に掲載された短編『峠』において、もはやその存在すら定かではないカフェ・アルファを目指す少女が、この峠を越えて「東国入り」する。その絵の背景には、箱根峠から眺めた二子山の特徴ある稜線の形が忠実に描写されている。
- 黒崎の鼻
- 三浦半島から相模湾に突き出した部分が、その形状から黒崎の鼻と呼ばれている。隆起した岩が侵食されてできた切り立った崖は背の低い植物に覆われ、作中を思わせる風景を見ることができる。
[編集] 「紀行もの」としてのヨコハマ買い出し紀行
本作品は概ね、主人公アルファの暮らす三浦半島周辺を中心とした関東圏を舞台としている。環境が大きく変化した未来を描いていながら、実在する(あるいは実在した)地名や地形・風景・構造物などが随所に登場する。水没した横浜市街中心部を除くと、現在観光地として有名な地域が現れることはめったにないが、地域に密着した文字通りの「紀行もの」とも見なせる。
そしてそのような、現地に行った人でなければまず気付かない、細やかな描写がたっぷり盛り込まれている。その意味で、あっさりした絵柄とは裏腹な、濃厚な情景描写は、過去の漫画には類を見ない魅力を与えている。
[編集] 時間の流れ
この物語は、すべての人物が年月によって移ろいゆく(その内面の変化も含めた)人生という旅を、「見て歩く者」というテーマで表現している。彼らを取り巻く情景をリアリティをもってとらえた描写で語っている。
長期連載された漫画の場合、物語の進行を通じて登場人物の性格付けが変化していくことも少なくないが、この作品の10年を超える連載における「移ろい」では、肉体的にはほぼ変化のない「ロボットの人」を含めて、登場人物の内面の成長と変化までもが描写されている。このことが、単にストーリーの都合による以上の味わいを与えている。
[編集] 現実世界との接点
往々にして「台詞が極度に少ない」「線が少なすぎる」「白すぎる」「ただの雰囲気漫画」などと揶揄されがちな本作だが、こと薄明や薄暮の、ときに濃淡を、ときにざっくりとした線を使い分けた風景描写や、移動にまつわる距離感や時間、あるいはユルユルと過ぎゆく日々の表現などは秀逸である。それらは作者の実体験に基いて描かれているとも見られる。
ちょっとしたできごとや仕草の表現など、一見するとのんびりとした雰囲気の中にあっても、そこに盛り込まれている情報量は意外に多い。読み返すたびに見落としていた描写に気付く読者は多い。似た経験や、共感できる感性を持つ読者には、登場人物の視点とは別の視点から、紀行文としても楽しめる漫画である。
特に現地を知らないファン層の中には、幻想的ともいえる作中の風景描写を、完全な作者の創作とか、遠い異国の風景などととらえる人もいる。事実、初期のファンダムにおいては、それらの風景を北海道や沖縄、あるいは海外などに求める見解が主流だった。しかし単行本で作者が、そのようなファンレターの存在を取り上げて、「ありふれた、そこら中にあるような風景です」と書いている。
作品世界の設定によって水没した横浜や横須賀の市街、馬堀海岸、三崎周辺の海岸線付近の描写なども、実在の風景をベースに描かれている。土地鑑さえあれば現実との連続性とギャップの両面を楽しめる。その意味でも、紀行ものとしての面白さを膨らませている。
[編集] 出版物
[編集] 単行本
- 『ヨコハマ買い出し紀行 1』ISBN 4063210502(1995年8月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 2』ISBN 4063210553(1996年2月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 3』ISBN 4063210618(1996年7月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 4』ISBN 4063210669(1997年3月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 5』ISBN 4063210812(1998年2月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 6』ISBN 4063210952(1999年2月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 7』ISBN 406321110X(2000年2月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 8』ISBN 4063211207(2001年2月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 9』ISBN 4063211347(2002年3月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 10』ISBN 4063211479(2003年3月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 11』ISBN 4063211592(2004年3月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 12』ISBN 4063211657(2004年11月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 13』ISBN 4063211711(2005年7月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 14』ISBN 4063211762(2006年5月)
[編集] アニメ
vol.1,2はゴンチチ、-Quiet Country Cafe-はChoro Clubがそれぞれ音楽を担当している。
- 『ヨコハマ買い出し紀行 vol.1』(1998年3月・VHSおよびLD)
- 『ヨコハマ買い出し紀行 vol.2』(1998年12月・VHSおよびLD)
- なお、2000年7月に『vol.1』『vol.2』をまとめて収録したDVDが発売されている。
- 『ヨコハマ買い出し紀行-Quiet Country Cafe-#1』(2002年12月・VHSおよびDVD)
- 『ヨコハマ買い出し紀行-Quiet Country Cafe-#2』(2003年3月・VHSおよびDVD)
- こちらは1期とはかなり違う作風で作られている。
[編集] 主題歌
- ヨコハマ買い出し紀行-Quiet Country Cafe-
エンディングテーマ「ふわふら」、song by:アルファ、作詞:山田ひろし、作曲:岩崎琢、Cho:松浦有希、Guitar:笹子重治
[編集] CD
- 『ヨコハマ買い出し紀行』(1996年2月)-FMラジオ番組『HOLY Shine In Naked(Shine in Naked)』内で放送されたラジオドラマなどを収録したドラマCD。2002年10月に廉価版発売。
- 『ヨコハマ買い出し紀行 2』(1997年3月)-ドラマCDの第二弾。2002年10月に廉価版発売。
- 『ヨコハマ買い出し紀行 ベスト・サウンドトラックス』(1998年7月)-1998年OVA版のサウンドトラック。ゴンチチが作詞作曲を担当。2002年10月に廉価版発売。
- 『ヨコハマ買い出し紀行 3』(2002年12月)-ドラマCDの第三弾。新シリーズ。
- 『ヨコハマ買い出し紀行-Quiet Country Cafe-オリジナル・サウンド・トラック』(2003年1月)-2003年OVA版のサウンドトラック。
[編集] その他
- 『ポストカード・ブック ヨコハマ買い出し紀行』ISBN 4063300412(1997年9月)
- 『ヨコハマ買い出し紀行-芦奈野ひとし画集-』ISBN 4063301966(2003年3月)
- 『小説 ヨコハマ買い出し紀行 -見て、歩き、よろこぶ者-』ISBN 4063733262(2008年10月)-香月照葉による小説版。芦奈野ひとしの短篇『峠』を収録。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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