枕投げ
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枕投げ(まくらなげ)は、複数人で枕を投げ合う遊戯である。複数の参加者と、適当な広さの場所、十分な数の枕があれば実行できる。また、チームを組んで行うこともある。移動教室や修学旅行などの学校の宿泊行事で、しばしば教師の目を盗んで行われる。枕合戦とも呼ぶが、これはピローファイト(枕叩き)を意味する場合もある。
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[編集] 歴史
枕投げの歴史は、現在のところ、ほとんど分かっていないと言わざるを得ない。「枕投げ」という言葉そのものも、多くの国語辞典にはなお未記載の語であり[1]、文献上の初出例も明らかでない。
物を投げ合う習俗そのものは古くから存在した。中世の「飛礫(つぶて)打ち」もそのひとつで、祭礼などのハレの行事や、一揆や打ち壊しにあたっての「石打(いしうち)」などが記録に残る。遊戯的なものとして、2組に分かれて石を投げあう「石合戦」もあった[2]。
また、雪玉を投げ合う「雪打ち」と称する習俗も、すでに中世の資料に見られる(『御湯殿上日記』の文明年間の記事など)。これが、明治時代以降の資料では「雪投げ」「雪合戦」と称され、今日でも子どもの遊びとして盛んに行われている。
しかしながら、投げる道具として枕が選ばれたのは、それほど古いことではないと考えられる。枕は日本でも古くから用いられていたが、近代以前のものには台が付いており、投げ合うことに適したものではなかった。近代になって輸入・生産された西洋型の枕であれば、これを投げ合うことが可能である。したがって、枕を投げ合う習慣は、早くとも明治維新を遡らないものとみて差し支えない。
枕投げが修学旅行と関係が深いことを考えても、その起源は、修学旅行の実施された明治時代よりは新しい風俗と推定されるが、それがいつ頃かは、決定的な資料がない。旧制高校の慣習には、きわめて乱暴なものが多かったことから、合宿時などには枕投げが行われたとしてもおかしくはない。しかし、実際に枕投げがなされたかどうかを語る資料は現れていない。
第二次世界大戦後は、そもそも修学旅行の余裕すらない時期が続いたが、団塊の世代が修学旅行の時期を迎える1950年代末から1960年代には、すでに枕投げが人気を博していた模様である。西鉄観光バスが2004年、現在の団塊世代向けに修学旅行を再現する旅行を企画したところ、再現の要望が一番強かったのが旅館での枕投げだったという[3]。
1960年代から1970年代には、枕投げは、修学旅行中に行う遊戯として定着をみていたものらしく、「枕投げ」の語が児童の卒業文集等にも登場している。戦後教育が定着し、行事の場で児童・生徒の自由度が広がるとともに、枕投げの習慣が全国に広がったことは十分考え得る。しかし、普及の要因などについて確定的なことは明らかでない。
1980年代以降、漫画やアニメーション(とりわけ「学園もの」の分野)で、学校生活の風物詩の描写としてしばしば枕投げが現れるようになる。このころにはすでに、子供の間だけで流行するサブカルチャーの地位を脱して、一般に認知される風俗となっていたと考えられる。
枕投げは、現在、日本全国にわたって、ほとんどの児童・生徒が経験する遊戯でありながら、これまでにほとんど歴史的な研究対象にならなかったものであり、今後の研究成果が待たれている。
[編集] ルール
修学旅行等で児童・生徒が行う枕投げは、ごく簡単なルールから成り立っている。基本的には、2人以上が複数のチームに分かれて枕を投げ合うことがすべてである。参加者が相手方のメンバーを目がけて枕を投げ、かつまた、相手方から飛んできた枕をかわしたり、受け止めたり、投げ返したりすることで遊戯が成立する。当然ながら、単に枕を相手に投げても、それが投げ返されなければ、枕投げが成立したことにはならない。
比較的大規模なイベント等で行われる枕投げでは、独自のルールが設定されることもある。たとえば、2001年に兵庫県有馬温泉・岡山県湯原温泉・広島県宮浜温泉で順次開催された「温泉旅館まくら投げ世界選手権」[4]においては、あたかも砲丸投げのように、投擲エリアから着地エリアに向けて枕を投げ、飛距離を競うことを目的とした。しかしながら、これは遊戯というよりは競技であり、一般にいわゆる枕投げの概念とは必ずしも相容れない。
また、米ニューヨークなどの「ピローファイト」[5]の催しが「枕投げ」として紹介されることがあるが、これは、枕で互いに相手を打擲する遊戯ないし一種の格闘であり、一般的に考えられている枕投げとは異質である。中国湖南省長沙市での「枕頭大戦」[6]は、相手に枕を投げたり、相手を枕で打ったりするもので、日本の修学旅行での枕投げと似る部分もあるが、イベントとして戸外で盛大に行われる点が異なっている。
修学旅行等で行われる一般的な形式の枕投げに関しては、公式大会が開催された実績もなく、また、遊戯を普及発展させようとする全国的な統括団体も存在しない。したがって、これまでに公式なルールが制定されたことはない。
一般の球技では、得点を入れるための条件をルールとして設定し、その得点の多少によって勝敗を決する。ところが、枕投げにおいては、得点・勝敗といった、スポーツならば基本的な概念すら曖昧である。スポーツマンシップに則るといった基本姿勢もなく、たまに卑怯な行為があったとしても、それに関する罵詈雑言が応酬されるのみで、遊戯自体は続行されることが多い。
遊戯の開始・終了時間についても、ルールとして定められることはほとんどない。参加者に継続意思があり、かつ外的環境が許せば、原理的には何時間でも継続することが可能である(「展開」の「終了」を参照)。
このような曖昧なルールによって進行する遊戯であるため、投げ合いを開始してしばらくすると、もはや枕投げとは別種の騒乱と呼ぶべき状況になることも往々にしてある。それだけに、参加者個人に応分の自制が求められる遊戯であるといえる。
[編集] ローカルルール
修学旅行の児童・生徒が旅館やホテル等で行う枕投げでは、人数や部屋の状況などに応じて、新たに特別のルールを追加する必要が生じることがある。それが定着して、そのクラス・学年などに特有のローカルルールとなることもある。
たとえば、割り当てられた部屋が比較的狭い場合、自分の布団の上で膝立ちをすることを基本とし、膝行で移動するように定められることがある。この場合、布団の外に歩いて出ることは禁じられる。枕は陣地(自分の布団)から手が届く物のみを拾って投げ合うことになる。
このルールでは、投げた枕がどの陣地からも遠い地点に着地した場合、参加者の一人が静かに立ち上がり、忍びやかに早歩きで回収する。回収者を狙って枕を投げてはならないのが暗黙の了解であるが、稀に流れ弾が当たったり、興奮した参加者が回収者を標的にしたりすることがある。その際、本人が抗議を申し立て「今のはノーカン(ノーカウント)」と宣言する。
洋間のベッドルームでも同様のローカルルールが用いられることがある。自分の陣地(ベッド)のことを「島」と称する向きもある。
ドッジボールを模倣して、「3回以上当たったらしばらく枕を投げてはいけない」などとするローカルルールもまま見受けられる。このようにルール上スポーツの影響を受けることはあるものの、枕投げは根本的には遊戯であって、スポーツと区別されることは前節で述べたとおりである。
その他、ペナルティを設けるかどうか、投げる物に枕以外を含めてよいかどうかについても、ローカルルールによって定められることがある。
[編集] 遊戯の条件
枕投げを行うために必要な基本条件は、
- 遊戯時間が確保されること
- 枕投げを行うのに十分な広さの場所があること
- 一定数以上の参加者が集まっていること
- 遊具としての枕が確保されていること
以上の4点である。その他、参加者が心おきなく遊戯を楽しむためには、部屋の構造として歓声が室外へ漏れにくいようになっていること、破損しやすいものが室内に少ないことなども期待される。
以下、主要な条件について詳しく述べる。
[編集] 時間
修学旅行などでは、枕投げが行われる時間は、主に夕方や消灯時間の前後など、教師の監視の目がおろそかになる頃である。この時間に自由時間が確保されることが、枕投げにとって絶対に欠かすことのできない条件である。
多くの修学旅行では、夕方は風呂の時間帯となっているので、遊戯中に参加者が抜けたり入ったりして混乱することがある。他にも、夕食などで中断を余儀なくされることもある。また、宿泊施設によっては、この時間はまだ枕が手に入らないということもあり、必ずしも物的条件は良くない。ただ、寝ている者もなく、興奮している者が多いので、最も人員が確保しやすく、枕投げのやりやすい時間帯でもある。
消灯時間の直前は、十分な人数の参加者と枕が最も容易に確保できる時間帯である。また、この時間は枕投げをしていても教師が黙認してくれる場合があり、枕投げをするには最適の時間である。ただ、あまり枕投げに熱中しすぎて、歯磨きや消灯前の点呼、食器の片付け当番などを忘れてしまう者がしばしばあるので、参加者は互いに注意を喚起し合うことが求められる。
消灯時間後は、寝てしまう者がいるので、人員確保が難しくなる場合がある。また、この時刻は教師の目がより一層厳しくなっているので、声や物音を立てないなど細心の注意が必要となる時間帯である。逆に、あまり神経質になりすぎると、「危険を冒すよりは寝た方がよい」との意見が支配的になって、枕投げそのものが始まらないことや、たとえ始まっても、興が乗らないまま自然終了することがある。これらの点から、枕投げをするには難しい時間である。
[編集] 場所
枕投げは、旅館の一室で行われる場合が多い。走り回ったりすることを考慮すれば、遊戯場所はフローリングなどよりは畳が望ましい。その上に布団が敷きつめられていれば、消音や、転倒時の負傷防止の効果があり、いっそう都合がよい。
遊戯を行うための広さについての基準はないが、狭い部屋よりは大広間のほうがより適している。というのも、旅館の枕は比較的大形であり、それを投げ合ったり避けたりするためには、一定以上の広さが必要だからである。宿泊先がホテルであった場合、ベッドなどが邪魔になる上、走り回るなどの空間が確保できないので、枕投げを行なうことは極めて困難になる(その場合でも、あえて枕投げを実施する者は少なくない)。
いわゆる陣地は、特に規定されないことが多い。相手方の至近距離から攻撃してもかまわない。ベッドルームであえて枕投げを行う場合は、それぞれのベッドが陣地になることもある(「ローカルルール」参照)。
[編集] 参加者
枕投げには、十分な参加者がいることが望ましい。理想的には、たとえば、クラスの男子全員、または、女子全員が同室しているといったような状況が望まれる。とはいえ、必要最低限の人数というものは決まっていない。状況が許さない場合、少人数でも遊戯は成立する。たとえば、2人での旅行において、宿泊先で相対して枕投げを行うことも十分可能である。
チームはあらかじめ定めてもよいが、一般には自然発生的に形成される。遊戯中に、しばしば、なし崩し的にチーム同士の吸収合併や分裂、参加者の移動が行われる。隣室等から集まってきた者を随時加えることもできる。場所が許すかぎりにおいて、人数の増加は支障がない。チーム編成が1人対多人数になることもあり得るが、この場合、枕投げの遊戯性が低下し、いじめに変質するおそれもある。
枕投げの成否は、主唱者のリーダーシップに左右される面がある。枕投げを行う時間は、多少とも人員確保が難しい時間帯であるから、主唱者は、参加見込みの者に対し、「風呂を早く出るように」「風呂には入るな」などと指導を徹底することが必要である。また、遊戯中は、脱落者がないほどの白熱した展開に持ち込む力量が要求される。
枕投げに参加したくとも参加が難しい者もいる。病気や怪我をもつ者、とりわけ、激しい運動を避けなければならない者や、本来なら入院が必要な状態の者は、遊戯に参加すべきでないし、周囲も参加させてはならない。他方、単に身体能力が高くない(いわゆる運動音痴)、低年齢または高齢であるなどの理由で、希望者の参加を拒むことは望ましくない。たとえば、何らかの事情で幼児と同室した場合には、枕をやさしく投げてやるなどの配慮をしつつ、全員が楽しく参加できるようにすべきである。
[編集] 遊具
枕投げのために必要な用具は、ほぼ枕のみである。まれに、それ以外の遊具が用いられる場合もある。以下、それぞれの場合について述べる。
[編集] 枕
枕投げの枕に求められる条件は、飛距離が出やすく、適度な重量感があり、的中したときに派手な音がすることである。これらの点において最も優れている枕は蕎麦殻枕である。人によっては、長野県飯田市の蕎麦殻を使った枕を特に推奨するが、これは同市が信州蕎麦の名産地であるからという以上の意味はない。実際上は、枕の使用感が蕎麦の産地によって左右されることはほとんどないといってよい。
蕎麦殻の枕を使用する場合、参加者の中に蕎麦に対するアレルギー体質の者が存在する場合もあるので、注意が必要である。また、枕の種類にかかわらず、遊戯中には埃の発生量が尋常でないことから、アレルギーはなくとも、粘膜系が弱く鼻炎などにかかりやすい者は、自主的にその場を離れることが勧められる。
蕎麦殻の枕に次いで適しているのは、短く切ったストロー状のプラスチック(ポリエチレン)を入れたパイプ枕である。一方、パンヤ綿・羽毛・低反発ウレタンなどを中綿にした軽いものは、使用に不適とまでは言えないが、力一杯投げても飛距離を出し難いことや、相手に当たった場合の威力が弱いことから、あまり好まれない。また、年代物の箱枕、中国風の陶製の枕などは、そもそも調達が難しい上、材質が硬いために相手が負傷したり、障子が破れたりするといった事故の危険性が高く、枕投げには適さない。
枕の数は、参加者と同じだけの数が確保されることが望ましい。通常、枕は各部屋に布団とともに人数分が準備されているので、同室者だけで遊戯を行う場合には問題が生じにくい。ただし、他の部屋の者が多人数で遊びに来ている時に突然遊戯が始まるような場合、枕と参加者の数が整合せず、遊戯の円滑な進行に支障を来すこともある。
外泊中に行う枕投げの場合、旅館到着時にすでに参加者が枕を確保していることはまれである。大抵の旅館では、寝具の用意は、客が別室で夕食をとるか、または風呂に入る時間帯になされるので、それまで待たなければならないことが多い。もっとも、旅館によっては布団を敷く作業を宿泊者自身に行わせる場合があり、その場合は、入室時にすぐに押入れを開けて人数分の枕を得ることができる。
[編集] 他の遊具
枕以外に遊具、とりわけ投げられるものがその場にあるかどうかは、実際に枕投げが行われるかどうかを左右する重要な要因である。林間学校では、ドッジボールやバスケットボールなどが入手可能なので、場合によっては、就寝前などにはこれらを用いた遊戯が行われ、枕投げに至らないこともある。臨海学校においてビーチボールなどが入手できる場合も同様である。
座布団は、大抵の旅館に常備されているが、枕の代わりに投げるということは少ない。これは、枕投げを行う時間帯には、すでに座布団が1箇所に片付けられ、寝具の用意が調っていることによる。ただし、参加者がエキサイトしたり、チームの人数が劣勢であったりする場合には、部屋の隅の座布団があえて使用されることがある。使用法としては、
などの場合がある。
とはいえ、座布団を連続して投げた場合、通常では考えられない状態で室内に散乱するので、教師などの監督者が巡回してきた場合、容易に見つかり、何らかの処罰を受けるリスクが高まる。また、特にブーメラン式に投げられた座布団は、軌道が不確定なので、調度・障子・襖(ふすま)などを大きく破損したり、参加者または傍観者を負傷させたりする事態にもつながりかねない。したがって、遊戯の進行が順調で、参加者の判断力が確かであるうちは、座布団を枕の代替物にすることは避けることが賢明である。
畳んだ敷き布団等を前面に掲げて突撃する強者もいるが、もはやそれは別の遊戯である。攻撃が成功した場合、簀巻きへの派生技へと移行することもある。白熱しすぎて、敷き布団・掛け布団・シーツなどを投げたり、振り回したりする者も稀にいる。このような行為は、末期的であって、前述の座布団の場合と同等またはそれ以上の被害を引き起こす可能性があるので、十分注意すべきである。
[編集] 展開
[編集] 開始
枕投げが開始されるためには、上記の条件が満たされることに加えて、その契機が必要である。それは、主唱者の開始宣言が契機になる場合と、誰かが突然枕を投げたことが契機となって始まる場合などである。
前者の場合は、主唱者を中心に、事前に枕投げを行うことが合意されており、同室者の全員が目的意識を共有しているのが普通である。遊戯開始前に、すでにグループに分かれて待機していることも多く、開始後はきわめて順調に展開する。
後者の場合は、最初の一撃を行う者の行動がきわめて重要になる。同室者たちが、雑談やゲーム・漫画など他のことに熱中している場合、唐突に枕を投げたとしても、相手に軽くあしらわれて終わってしまうこともある。また、相手を激怒させ、喧嘩に発展し、遊びどころではなくなることもある。同室者の誰もが、暗黙のうちに枕投げへの期待感をふくらませている時に、誰かがその雰囲気を機敏に察知して、最初の一撃を行うことが求められる。一撃が絶妙であった場合、何かが爆発したように遊戯が開始し、白熱する。
[編集] 遊戯中
遊戯中は、参加者全員が、互いに、敵側の者もしくは周囲の不特定の者に向かって枕を投げ、かつまた、敵側もしくは周囲から飛んできた枕をかわしたり、受け止めたり、投げ返したりする行為が延々続くことになる。この限りでは、遊戯はきわめて単調に推移するといえる。しかしながら、こうした単純な身体行為の繰り返しによって、参加者は、かえって興奮の度を加えてゆく。その結果、思わぬ事故が出来することにもつながる(「事故」参照)。
枕投げの行為自体は単調であるため、それを傍観するだけでは、興奮する要素は特にない。枕投げが「参加してこそ意義がある」と考えられる理由もここにある。したがって、遊戯では全員参加が原則とされる場合が一般的である。集団によっては、傍観したい者がその意思を尊重されることもあるが、周囲の騒乱によって寝ることもできず、茶碗で茶を飲もうとしても埃が大量に入り込むなどの結果となり、傍観するメリットはほとんどない。結局、周囲から「一生の記念だから」などと勧奨されて遊戯に参加することが多い。
遊戯が白熱してくれば、集団の秩序はほとんど崩壊する。敵味方の区別もしばしば曖昧となり、枕投げでは禁忌であるはずの歓声を上げる行為なども、得てして歯止めが無くなる。当初、「枕投げは幼稚である」「早く寝る必要がある」などとして傍観を決め込んでいた者が、かえって異常に発憤し、狂態の限りを尽くすということもまれではない。
[編集] 終了
枕投げの終了については、明確な条件はない。参加者が飽きることで起こる自然脱落、外部からの遊戯の停止命令、遊びの範囲からの逸脱による負傷や器物損壊などのために終了することが多い。
参加者の飽きによる終了は最も普通に観察される。飽きる理由としては、参加者の疲れや眠気、遊戯内容の単調化、参加者数の減少などが挙げられる。
外部からの停止命令としては、典型的なものは教師など監督者による注意である。教師以外でも、団体での共同宿泊では、団体の監督者が枕投げの参加者に終了を命ずることがある。注意に至る状況としては、
- 参加者の騒乱が常軌を逸し、他人に迷惑を掛けた場合
- 遊戯が深夜に及び、翌日の睡眠不足と団体行動への支障が予想される場合
- 遊戯中に喧嘩が起きたり負傷者が出たりするなど問題が発生した場合
などが主なものである。
以上のような問題が発生しやすいことから、学校における修学旅行では、明示的にではないが枕投げが禁止されていることがある。教師は、就寝時刻以降、各部屋を巡回して、枕投げその他の遊戯にふける者がいないかどうか確認し、適宜注意を行う。枕投げの参加者は、教師からの呼出しや注意を恐れているので、他室の者などから教師に密告されることを非常に忌み嫌う。また、教師の側としても、密告した者とされた者との間の人間関係などにも気を配る必要が生じ、ただでさえ煩雑な旅行中の仕事が増えるので、密告を受けるような事態はできれば避けたいところである。全員が真面目に枕投げをしないで寝るか、全員が共犯関係にあって枕投げの事実を表に出さないような状態であれば、教師は手がかからない。
[編集] 事故
[編集] 負傷
遊戯があまりに白熱しているような場合には、しばしば負傷者の出ることがあるため、注意が必要である。参加者の中に眼鏡またはコンタクトレンズなどの着用者がいる場合は、特に注意しなければならない。負傷者が出た場合、当然ながら遊戯続行は困難となる。
軽度の負傷は、鼻血が代表的な例である。枕が顔面を強打した場合、また枕を避ける際に柱などに顔面を打ちつけた場合に起こる。前者の方がより起こりやすく、負傷の状態はより軽度である。後者は起こりにくいが、負傷の状態はより重度になるおそれが高い。枕で負傷した場合をより細かく見れば、枕が固かったとき、枕にファスナーなどの金属がついていたとき、枕が近距離から投げられたとき、枕にスピードが付いていたときなどがある。
鼻血の事故によって遊戯が終了となるかどうかは、鼻血の噴出量、服・枕・布団などへの付着の多少、および負傷を負った人間の精神状態によって変わってくる。鼻血の噴出が少量であれば、遊戯をいったん中断し、負傷者の鼻にティッシュペーパーを詰めた上で再開されることが多く、服や枕・布団などに鼻血が付着した場合は終了となる可能性が高い。
中度の負傷は、突き指が代表的である。枕を近距離で指に受けた場合や、枕を投げる際に壁や柱などに指を強打した場合に発生する。また、床・柱などへの激突による打撲や裂傷、転倒による捻挫なども多く発生する。ただし、突き指や打撲・捻挫などの場合は、負傷者が戦線を離脱した後、遊戯自体は続行するケースが多い。
重度の負傷として、きわめてまれではあるが、壁面や他の人物などへの正面衝突に伴う昏倒が発生する場合がある。遊戯が佳境に差しかかり、参加者がアドレナリンの過剰放出に伴う異常な興奮状態にある場合、このような事故が起こりうる。負傷を受けた参加者は、興奮状態になっているので、往々にして出血したまま遊戯を続行したり、けたたましく笑い転げたりするなど特異な行動を見せることがある。他の参加者がそれによって心理的ショックを受け、遊戯が中断することも多い。
言うまでもないことであるが、負傷が中程度以上、ことに生命の危機にかかわるような場合には、迅速な救護が必要である。中でも、破損した窓ガラスの破片などによる多量の出血、眼鏡・コンタクトレンズの破損などによる眼の負傷、蕎麦殻枕での蕎麦アレルギー、枕や布団の埃による気管支喘息、激突による骨折などが起こった場合は、人命を最優先して速やかに監督者に知らせ、必要に応じて救急医療機関にも通報すべきである。
[編集] 器物損壊
あまりに激しく枕投げを行っていると、枕本体が壊れることがある。蕎麦殻枕やパイプ枕の場合には、粒状の内容物が散乱し、収拾のつかない事態が生じる。室内全体に内容物が飛び散った場合は、清掃のために予想外の時間が必要となり、睡眠時間が少なからず削減されることもある。
さらに深刻な場合として、投げた枕によって障子・襖・行灯などが損壊することがある。こうなると、事の重大さによって、枕投げどころではなくなってしまう。宿泊施設の側から賠償責任を問われ、金銭的な損失を免れない。かといって、損壊した器物を一時しのぎに隠蔽したりすると、発見時に責任をより厳しく問われることとなるので、損壊した者は、ありのままを正直に監督者に申告するのが賢明である。
器物を損壊した場合、枕投げの参加者は、監督者によって以後の旅行中の行動を制限されたり、旅行中または後に反省文を書かされたりするなどの罰を受けることになる。当事者の精神的打撃は量り知れない。また、当事者同士が責任のなすり合いをしたりして、楽しいはずの枕投げがかえって人間関係を壊し、各人に後々までトラウマを残すおそれもある。
参加者は、遺憾な結果を招かないように、枕投げの最中には、常に周囲に気を配る必要がある。これは、熱狂を追求する枕投げという遊戯の本質とは両立しない部分もあり、参加者の悩みの種になる。とはいえ、危険を回避するため、遊戯中に不断に努力することによって、参加者が知らず知らずのうちに社会に配慮することを学んでいる面があることも無視し得ない。
遊戯中に、非常ベルやその他のスイッチ類に枕が当たることもある。それによってベルなど鳴り出すといった事態が発生すると、宿泊施設全体が騒然として、枕投げの続行が困難になる上、監督者によって上述のような罰を受ける結果に終わるおそれが高い。これを防ぐためには、枕投げ開始の前に予めスイッチ類の場所を確認しておくことが望ましい。
[編集] 意義
枕投げという遊戯にどのような意義があるかについては、これまでほとんど論じられたことがない。教育現場では、枕投げを積極的に教育に取り入れているという実践報告はほぼ皆無といってよい現状である。枕投げと同様、投擲を要素とする実技のうち、ボール投げについては、スポーツないし体育の立場からすでに膨大な研究・実践報告がある。ボール以外でも、たとえばタイヤ投げについては四海久富の研究がある[7]。また、修学旅行との関連でいえば、スノーケリングを取り入れた実践報告なども存在する[8]。しかしながら、枕投げについての報告は目下のところ見出しがたい。こうしたことから、教育関係者の間において、枕投げの意義はほとんど見出されていないと判断せざるをえない。それどころか、集団行動を維持する上では害になると考えられている節もある。
遊戯の当事者である児童・生徒は、枕投げに夢中になっている以上は、なにがしかの意義を感じていることが推測される。枕投げが世代を超えて一定の広がりを見せ、また、全国的にも広がっていることを考えれば、常識的には、「単純におもしろい」「スリルがあって楽しい」などの意義が当事者間で共有されているものとみられる。しかしながら、現状では、枕投げの当事者に対する客観的な聞き取り調査等も実施されておらず、当事者の意識にどのような傾向がみられるかについては不明である。かつて枕投げを経験した成人についても、やはり信頼に足る調査は行われていない。
ある者は枕投げを外泊の楽しみの最たるものとして枕投げに興じれば、ある者は宿泊施設という日ごろ親しんだ遊具の無い環境では枕投げしかする事が無いという消極的な理由で枕投げに興じる。しかし積極的と消極的という差はあれど、枕投げに興じる者は多い。そして積極的と消極的という差は関係なく、遊戯は白熱し充実する。
結局のところ、枕投げは、公的に意義が付与されているとは言い難く、当事者自身の意識もなお不明な部分が多い。児童・生徒の間では広く秘かに支持され、世代と地域を超えた遊戯であることはほぼ確実であるが、遊戯の意義付けを含め、包括的研究についてはなお後考に待たなければならない。
[編集] 脚注
- ^ 『三省堂国語辞典』では、第6版(2008年)に初めて記載された。これが国語辞典としては初出とみられる。
- ^ 網野善彦 「中世の飛礫について」『異形の王権』 平凡社、1986年8月、pp.124-157。ISBN 4-582-28454-X。初出 (1982 November). “中世の飛礫について”. 民衆史研究 23.
- ^ 『読売新聞』西部夕刊 2004年1月22日付「懐かしの修学旅行再現 ガイドは濃紺・白襟 食事はカレー・給食/西鉄観光バス」。なお、枕投げの要望についてバス会社社長は「こればかりはねぇ」とコメントしている。
- ^ ウェブサイト「温泉旅館まくら投げ世界選手権」を参照。
- ^ 「エキサイトニュース」2006年2月21日「NYで枕投げ大会が人気急上昇中!」。
- ^ 「湖南新聞」2007年3月9日「長沙千余女性“枕頭大戦”刷新世界記録」
- ^ 四海 久富 (1992)「体育教材の価値に関する研究(2)―投運動教材(タイヤ投げ)を中心として」『教育学研究紀要(中国四国教育学会)』2-37。
- ^ 宮崎 明世 (2006)「修学旅行におけるスノーケリングの取り組み―2005年度修学旅行の実践から」『筑波大学附属高等学校 研究紀要』47。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 温泉旅館まくら投げ世界選手権 - 飛距離競争

